パシャマババア
パシャマババア(ぱしゃまばばあ)は、の都市伝説の一種[1]。夜の路地で耳元に水音のような囁きが聞こえるとされ、出没地はしだいにやの周縁へと広まったと言われている[2]。
概要[編集]
「パシャマババア」とは、濡れた布を絞るような音(パシャ…)に続いて、名を呼ばれた者の背中がひやりと冷えるという怪奇譚として、全国に広まった都市伝説とされる[1]。
噂の発端は、の裏路地で「水音がするのに雨が降っていない」と報じられた目撃談だとされるが、その正体については複数の説がある[3]。また、転じて「遅刻を取り繕おうとすると“戻される”」という意味合いでも使われることがあると言われている[4]。
伝承では、出没するタイミングは毎月「8日」「18日」「28日」の合計で“24分だけ”とされ、時計の秒針が揃うように聞こえると恐怖が増すという[5]。この細部の再現性の高さが、都市伝説としてのブームに拍車をかけたと考えられている[6]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は、戦後間もないの町で続いた「戻し銭湯」運用にある、という話がある[7]。銭湯の女将が、湯上がり客の払い戻しを“声の届かない窓口”で行っていたため、客の耳には妙な水音が残ったのだとする説である。
言い伝えの核は、の記者ではなく、当時の(通称“閉域音響課”)の調査メモに似た文面が残っていた、という点に置かれる[8]。ただし当該メモは現物が確認されていないともされ、出典を巡って噂が交錯したとされる[9]。
なお、この都市伝説が「パシャマ」と呼ばれるようになったのは、調査官が報告書に“Pashama”とローマ字で音写したためだと語られることがある[10]。この音写のせいで、海外掲示板にも同名で転載され、やがて日本側の呼称が逆輸入される流れになった、という物語が形成されたとされる[11]。
流布の経緯[編集]
全国に広まった経緯は、の夏にの学校掲示板で投稿された「8:08に聞こえるパシャ音」という短文目撃談から始まったとする語りがある[12]。
その後、の深夜バラエティ『路地の霊(仮)』で“水音の再現”として実験が紹介され、噂は一気にブームへと変わったと言われている[13]。しかし番組内の再現映像は、実際の音ではなく、が配布していた“雨滴の音響データ”を編集したものだったのではないか、という批判も出たとされる[14]。
また、学校の怪談としての定着には、が配布した「夜間の一人帰りに関する注意喚起文書」の一節“背後に気配があるときは振り返らない”が、のちに「パシャマババア回避」と誤解されて広まった、という筋書きがしばしば語られる[15]。真偽はさておき、“正体”よりも“対処法”が先に拡散したことで、都市伝説は生活の中に溶け込んだとされる[16]。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
伝承におけるパシャマババアは、全身が濡れた黒い作務衣のような衣で、顔の輪郭だけが水面の反射のように揺れる、と表現されることが多い[1]。目撃された話では、ババアは高齢に見えるが、歩幅だけが異様に短く、呼吸のたびに「パシャ…パシャ…」と聞こえたという[17]。
恐怖の対象は“姿そのもの”より、呼び名が変わっていく点に置かれると言われている。最初は自分の名前を呼ぶが、次第に「昨日のあなた」「忘れ物のあなた」といった曖昧な呼称に置き換わっていき、戻るべき世界線がずれていくような感覚が語られる[18]。この段階で、足首の感覚が霧のように薄れ、走れない目撃談が複数あるとされる[19]。
また、正体としては次のような噂が併存している。第一に“銭湯の釜に残った湯気の記憶”説、第二に“閉域音響課が封じた実験個体”説、第三に“嘘をついて帰宅した子どもの罪悪感が水音に変わる”説である[20]。特に三つ目は学校の怪談と相性がよく、「置き勉の忘れ物があると遭遇する」と言われるようになった[21]。
出没するとされる場所は、濡れやすい路面(側溝の蓋、用水路の手前、古い体育館の裏)とされるが、なぜか“乾いているはずの場所”で発生するという噂も多い[22]。この矛盾こそが不気味さを強め、噂の連鎖を保ったと考えられている[23]。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
委細として語られる特徴は、音のリズムと“触れてはならない場所”に集中している。目撃談では、パシャマババアの水音が聞こえ始めた瞬間、影が先に伸び、遅れて本人が現れるという[24]。次に、影の先端には小さな泡が並び、泡が弾けるたびに「一歩遅れる」と感じるのだとされる[25]。
派生バリエーションとして「パシャマババア・二度鳴き」がある。これは、最初のパシャ音の後に“カラッ”という乾いた音が挟まれ、二度目の水音で振り返りたくなる衝動が来るとされる[26]。さらに「パシャマババア・逆回転」では、進行方向とは反対に足が滑っていき、家に近づくほど恐怖が強まるのが特徴とされる[27]。
また、派生が“地域色”を帯びることもある。たとえばでは「吐く息が白く、湯気は出ない」とされ、では「小豆色の三角巾を持つ」と語られた[28]。一方では「パシャ音のあとに笑い声が混じる」とされ、笑いが混じる話ほどパニックが早いとされる[29]。
このように細部が揺れるのは、都市伝説が“説明可能な恐怖”を足すことで物語として強化されるからだ、とする解釈がある[30]。特に水音という自然現象に似た要素は再現しやすく、マスメディアが取り上げるたびに派生が増える傾向があると言われている[31]。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法は主に三段階で語られる。第一に、パシャ音を聞いたら「返事をしない」こととされる[1]。「はい」と返すほど、次に呼ばれる名が近づいてくるという噂がある[32]。
第二に、名を呼ばれても目を合わせないで、靴底の模様だけを見て歩く方法が語られる。目撃談では、地面の細い線(タイルの目地)をたどると“遅れが帳消しになる”とされる[33]。なお、学校の怪談としては「廊下の掲示物(校則ポスター)の端から端までを数えてから振り返る」が定番化しており、教室移動の間に儀式が成立するため広まりやすかったとされる[34]。
第三に、万一追跡された場合、「水音の方向へタオルを投げるな」という注意がある。これは投げると“触れた気配”が残ってしまい、翌朝に持ち物が濡れていることがあるという[35]。実例として、で「投げなかった生徒は翌週には濡れが消えたが、投げた生徒だけ定期入れの裏面に小さな泡の跡が残った」と語られた[36]。
また、ブーム期には対処グッズも出回ったとされる。たとえば「パシャ防止用・紙コースター(裏面に乾燥剤)」がで売られたが、後に“効果の根拠がない”と指摘されたとも言われる[37]。ただし都市伝説の世界では、根拠よりも“儀式の継続”が重要だとされるため、疑義があっても広まったと言われている[38]。
社会的影響[編集]
パシャマババアの出現は、単なる怪談を超えて生活上の行動に影響を与えたとされる。特に学校の怪談としては、夜の帰宅マナーや、忘れ物の扱いが“物語の都合”として語り直され、校則の説明が一部で口伝化したと言われている[15]。
噂の連鎖によって、では「遅刻の言い訳をしない」「帰宅報告を短く言う」など、説明責任が儀礼化したともされる。2000年代には、連絡網の文面に「パシャ音」ではなく「確認のみ」という語が使われるようになった地域もあるという[39]。
さらにマスメディアは恐怖を視聴率へ変換する形で取り上げ、放送後に“出没報告が増えた”という統計が、ないのにあったように語られることがある。たとえばの地域紙『夜道タイムズ』では「報告件数が前年の1.7倍になった」と記されたとされるが、原資料が追えないともされる[40]。それでも、パニックや過剰警戒が短期間に発生したという目撃談が残っており、社会的影響は“数字”以上の形で実感されたとされる[41]。
一方で、都市伝説が拡散した結果、実害の恐れも指摘された。たとえば「一人で帰ると危険」という言説が強まりすぎたことで、逆に集団下校を促し、通学路での衝突が起きたのではないかという推測が出たとも言われる[42]。もっとも、これらは伝承の物語的構造に引きずられた可能性がある、とする意見もある[43]。
文化・メディアでの扱い[編集]
文化面では、パシャマババアは「水音で現実を汚す存在」として、ホラー映像・ネット配信・短編小説に幅広く転用されたとされる[6]。特に、サムネイルに“濡れた指紋”のような質感を置くことで、マスメディアが恐怖の導線を作りやすかったと指摘される[44]。
ゲーム化の噂もあり、に“音ゲー風”のホラーとして「Pashyma 8-18-28」が出たとする伝聞がある。ただし実在を確認できないとされ、存在するなら極めてマイナーだろうと推定される[45]。それでも、コミュニティでは「8日・18日・28日にだけ音がズレる」というルールが模倣され、二度鳴き派生がスコア要素として扱われたと語られた[46]。
また、学校の怪談としては、教材ではなく“休み時間の合図”に転用された例が語られる。具体的には「パシャマ」のフレーズを禁句にして、代わりに「乾きの約束」と言うようになった学校がある、と言われている[47]。この置換が、都市伝説が繰り返し形を変える力学を示す例として紹介されることがある[48]。
さらに、海外の怪談コミュニティでは「Pashyama Baba = water whisper ghost」という英訳が先行したとされるが、英訳が独り歩きした結果、日本側の呼び名が“逆に漢字化”したように見える投稿が出たとされる[49]。結果として、出没の正体よりも、言葉そのものが文化を編む構図が強調された、とまとめられることがある[50]。
脚注[編集]
参考文献[編集]
佐伯ユウ『路地の水音と怪談編集術』青燈書房, 2006.
田畑光宏『学校の怪談における返事禁止ルールの系譜』第3巻第2号, 2010, pp.12-39.
Mariko Tanaka, “Auditory Urban Legends in Late-Night Corridors”, *Journal of Folk Noise Studies*, Vol.7 No.4, 2013, pp.101-118.
岸田昌宏『噂の伝播モデル——都市伝説はなぜ増えるか』蒼穹社, 2018, pp.44-67.
上条レン『8・18・28の民俗数理と恐怖』新泉学術出版, 2009.
“The Media Feedback Loop of Water-Whisper Hauntings”, *International Review of Urban Spooks*, Vol.2, Issue 1, 2016, pp.5-22.
鈴木澄人『埼玉裏銭湯の戦後記録(未整理資料)』文苑館, 1997.
衛生監督局 閉域音響課『閉域音響課メモリアル報告書(複製)』衛生監督局, 1951.
小林マナ『未確認音の文献学——“Pashama”再考』電子夢工房, 2021.
『夜道タイムズ 特集:パシャマババアはなぜ呼ばれるか』夜道タイムズ社, 2012.
Dr. Margaret A. Thornton, “Elderly-Form Manifestations and Narrative Compression”, *Proceedings of the Society for Hauntological Ecology*, Vol.11, pp.220-241, 2015.
西村直紀『水音の再現実験:雨滴データ編集の是非』北風出版社, 2004.(タイトルが微妙におかしいとされる)
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯ユウ『路地の水音と怪談編集術』青燈書房, 2006.
- ^ 田畑光宏『学校の怪談における返事禁止ルールの系譜』第3巻第2号, 2010, pp.12-39.
- ^ Mariko Tanaka, “Auditory Urban Legends in Late-Night Corridors”, *Journal of Folk Noise Studies*, Vol.7 No.4, 2013, pp.101-118.
- ^ 岸田昌宏『噂の伝播モデル——都市伝説はなぜ増えるか』蒼穹社, 2018, pp.44-67.
- ^ 上条レン『8・18・28の民俗数理と恐怖』新泉学術出版, 2009.
- ^ “The Media Feedback Loop of Water-Whisper Hauntings”, *International Review of Urban Spooks*, Vol.2, Issue 1, 2016, pp.5-22.
- ^ 鈴木澄人『埼玉裏銭湯の戦後記録(未整理資料)』文苑館, 1997.
- ^ 衛生監督局 閉域音響課『閉域音響課メモリアル報告書(複製)』衛生監督局, 1951.
- ^ 小林マナ『未確認音の文献学——“Pashama”再考』電子夢工房, 2021.
- ^ 『夜道タイムズ 特集:パシャマババアはなぜ呼ばれるか』夜道タイムズ社, 2012.
- ^ Dr. Margaret A. Thornton, “Elderly-Form Manifestations and Narrative Compression”, *Proceedings of the Society for Hauntological Ecology*, Vol.11, pp.220-241, 2015.
- ^ 西村直紀『水音の再現実験:雨滴データ編集の是非』北風出版社, 2004.
外部リンク
- 路地の水音アーカイブ
- 学校掲示物アーカイブ(夜間版)
- 閉域音響課資料倉庫
- 都市伝説・聴覚記録コレクション
- 8-18-28ファンサイト