ファイファン
| 正式名称(語源) | 「ファイナルファンタジー」由来の略称 |
|---|---|
| 使用領域 | ゲーム販売店、同人サークル、攻略系コミュニティ |
| 成立時期 | 1980年代後半〜1990年代初頭の口語圏 |
| 運用上の特徴 | ローカル表記統一(表記ゆれを抑える慣行) |
| 関連文化 | 攻略冊子、交換掲示板、ファンアートの連鎖 |
| 波及媒体 | 雑誌の巻末コーナー、掲示板、店頭POP |
| 誤用例 | 開発会社名やシリーズ全体を指すと混同される |
ファイファン(fai-fan)は、で流通した「」のローカルな通称として知られる略称である。口語ではゲームソフト名を短縮するだけと見なされるが、実際には流通・翻訳・同人流行の力学まで含んだ「言葉の規格」として発展したとされる[1]。
概要[編集]
は、を「ファイ(最初の音節)」と「ファン(後半のニュアンス)」に分解し、店頭や掲示板で即座に通じる形へ圧縮した略称として語られる[1]。
ただしこの略称は単なる短縮語に留まらず、流通現場では「同じ物を指している」と確認するための合言葉として運用されたとされる。特に新品入荷時の受け渡しでは、商品名をそのまま書くよりも、曖昧さを減らす記号列として扱われた経緯があるとされる[2]。
その一方で、熱心なファン同士ではが「特定の作品(ローカルな世代)」を指す符丁にもなり、同じ略称でも指し示す範囲が微妙に異なるという、いわゆる“略語の分岐”が起きたと指摘されている[3]。
成立とローカル化[編集]
店頭POPの省文字化と「8文字ルール」[編集]
が一般化した背景として、当時の販売現場での表記スペースが挙げられる。1989年にの中古ゲーム取扱店「タツノコ堂(当時の屋号)」が、店頭POPを最長8文字に揃える試験運用を行ったことが、略称の流行に火をつけたとされる[4]。
同店の内部メモによれば、POPに「ファイナルファンタジー」と書くと、レジ前で視線が落ちるまでの平均時間が「3秒増」したため、購買行動の観測を目的に略語化したという。実際の記録としては「入店→POP注視→購入」までのクリック(擬似指標)を7段階で数え、最終的に観測時間は平均で9.2%短縮されたと報告されたとされる[5]。
なおこの“8文字ルール”は、後にゲーム専門誌の編集会議でも参照されたと語られており、は「購買導線の圧縮記号」として半ば公式的に広がったとされる。ただし、メモの写しは現存するとされながら所在が限定的であるため、要出典とされることもある[6]。
翻訳と同人の「同一指示問題」[編集]
略称は、ローカライズ作業でも“同一指示問題”を解決する道具として利用されたとされる。つまり、英文表記の揺れ(シリーズ名の略記)や、日本語字幕・攻略誌の表現差があると、ファンが「どの作品の話か」を取り違える危険が生じる。
そこで(当時の仮称)が、字幕翻訳の社内ガイドに「ファイナルファンタジーの略称は、口頭ではで統一」と明記したことが、コミュニティ側へ逆輸入されたとされる[7]。
さらに、同人誌の編集作業では「校正紙の余白が足りない」問題が発生し、タイトル長のままでは組版が崩れることから、コラム欄や注記欄でが多用されたとされる。この結果、言葉が作品の境界線まで引き寄せ、時に誤認(“今夜語るのは最新作か旧作か”問題)まで生み、社会的には“略称で語る文化”を固定化したと分析されている[8]。
歴史[編集]
年表:店→掲示板→攻略サイトへ[編集]
、東京の周辺でゲーム買取店の常連が「ファイファン」と呼び始めたという記録が、のちに語り継がれたとされる[9]。ここでは、同じ棚で並ぶ複数商品の見分けが難しい日に、指差しだけで通じる言い方として短縮が機能した点が強調されている。
になると、の小規模印刷所「潮目プレス」が、同人サークル向けの背表紙テンプレートに「ファイファン」欄を追加したことが、二次流通で加速したとされる[10]。テンプレの“推奨行数”は12行で、タイトル欄は2行、注記は4行という細かい規程が設けられていたという。
そして、掲示板黎明期の攻略コミュニティで「ファイファン週間ランキング」が回覧されるようになり、略称は単なる呼称から、話題の単位へと昇格した。参加者は「投稿文字数を節約しつつ熱量を担保する」ことに注力し、結果として“語彙の圧縮が熱狂を呼ぶ”という風潮が生まれたとされる[11]。
法規と業界団体:言葉にも管理が生まれる[編集]
は文化の話に見えるが、業界面では「表記統制」の対象になったとされる。1998年、流通の苦情を扱う任意団体「デジタルソフト適正表示協議会」が、店頭広告での略称利用に関する見解を出し、「ファイファンは原則として単一作品を指し得るため、文脈併記を推奨する」と記したとされる[12]。
さらにには、広告審査の実務を担う部署「表示点検室(非公開資料)」が、店頭掲示での誤認を防ぐため、略称の前後に“シリーズ名の補助語”を置く運用を提案したという[13]。この提案書では「『ファイファン』だけで置くのはNG、たとえば『ファイファン(1〜6)』のように範囲を示せ」という、いかにも行政らしい文章が見られたとされる。
ただし、資料の一部は“要出典”となっており、言葉が管理されたのか、それとも管理されたように見えるだけなのかは判然としない。それでも、略称が社会に浸透したことで、言葉の指示性が議論の中心になった点は重要であるとされる[14]。
社会的影響と「ファイファン現象」[編集]
の普及は、ファン文化を“長文の説明”から“短い合図”へと移し替えたとされる。攻略掲示板では、初心者が最初に覚えるべき単語が「片仮名略語」になり、用語集の編集方針も変化したと報告されている[15]。
また、店舗運用では「棚番号+ファイファン」という組み合わせが採用され、購入者が迷わない仕組みが設計されたとされる。例としての量販系「ステップマーケット札幌東店」では、入荷日ごとに棚札の色を3色に分け、色×棚番号×で同定する運用が導入されたという[16]。このとき、色の割当(例:月曜は青、木曜は赤)が3か月ごとに入れ替わったとされ、現場の混乱を笑い話として残した人もいるという。
一方で、略称が広がるほど“範囲のすり替わり”も増えた。たとえば同じでも「旧作のファイファン」と「新作のファイファン」が同時に語られ、議論が噛み合わない現象が起きたとされる。コミュニティではこれを「二層式理解」と呼び、投稿が増えるほど衝突率が上がる、という半ば都市伝説のような相関まで語られた[17]。
批判と論争[編集]
略称は便利であるが、情報の境界を曖昧にするという批判が早期から出たとされる。特に、流通広告でだけが記載されると、利用者が別シリーズに誤って購入する恐れがあるため、指示の明確性が争点になったとされる[18]。
さらに、学術的には“言語の圧縮が誤読を増やす”という観点から、略語の社会言語学的効果が研究されたという。たとえばにが行ったとされる小規模調査では、被験者が略称を見た後に行う質問数が平均で「0.7問→1.6問」へ増えたと報告された[19]。もっとも、この調査は対象者数が「理論上は42人」とされつつ、報告書では“実数は非公開”とされているため、解釈には注意が必要とされる。
なお、最も笑われた論争は「はファンのための語ではなく、ファンを“ファンであることに固定する装置”である」という過激な批評である。これを主張したとされる批評家の文章は、なぜか脚注が多く、脚注の合計が「全体の脚注だけで1,213個」だったとも伝わる[20]。この数字の真偽は定かではないが、読者に“真面目に言っているのにおかしい”感覚を植え付けた点で、論争自体が文化になったとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山城ユウ『ゲーム略称語彙の発生史——店頭から掲示板へ』潮風書房, 2006.
- ^ M. A. Thornton, “Compression as Social Signal in Japanese Game Communities,” Journal of Interactive Folklore, Vol. 12, No. 3, pp. 55-71, 2009.
- ^ 佐藤朋樹『ローカライズ現場の言い換え手帳(増補版)』クローバー出版, 2003.
- ^ デジタルソフト適正表示協議会『略称利用に関する見解書(試作)』, 1998.
- ^ 潮目プレス『背表紙テンプレート運用規程:仮称資料』潮目プレス印刷部, 1991.
- ^ Katsumi Renzaki, “Street-Level Standardization of Game Titles in Japan,” Proceedings of the Symposium on Media Nicknames, Vol. 4, pp. 201-228, 2012.
- ^ 国立言語調査機構『都市圏の略語理解に関する簡易調査報告(抄)』第2巻第1号, pp. 1-19, 2004.
- ^ 伊丹涼子『表記統制と消費者誤認の境界』未来広告研究所, 2010.
- ^ 渡辺精一郎『メディア文脈と誤読の統計』博物館書館, 1999.
- ^ Vera L. Grant, “Locally Meaningful Abbreviations: A Case Study of Japanese Fantasy Franchises,” International Journal of Labeling Studies, Vol. 8, No. 2, pp. 77-90, 2016.
外部リンク
- 略語アーカイブ・データベース
- ゲーム店頭POP資料館
- 掲示板語彙変遷サイト
- 同人誌組版研究会
- 適正表示ワーキングメモ