フタタケリダケ
| 名称 | フタタケリダケ |
|---|---|
| 界 | 真菌界(擬似動物化系統) |
| 門 | 寄螺門(きらもん) |
| 綱 | 射胞綱(しゃほうこう) |
| 目 | 双寄目 |
| 科 | 寄螺科 |
| 属 | フタタケリダケ属 |
| 種 | Futatakeleris duplexus |
| 学名 | Futatakeleris duplexus |
| 和名 | フタタケリダケ |
| 英名 | Twin-duct erotic spore mushroom |
| 保全状況 | 情報不足(IUCN暫定:DD) |
フタタケリダケ(漢字表記:二竹寄螺茸、学名: 'Futatakeleris duplexus')は、双寄(そうよせ)目寄螺(きら)科に分類される菌寄せ動物の一種[1]。
概要[編集]
フタタケリダケは、湿り気のある生物宿主に対して寄生様の共生相互作用を行う菌寄せ動物として記録されている。特に、宿主の体表に現れる二つの微小な孔(“二口”と呼称される)に向けて子実体を発達させる点が特徴である。
本種は「刺激で胞子を噴射する」生態挙動が報告され、観察者の体感を誘発するほどの同期性があるとされる。なお、学術報告では人間の性的感覚と結びつく表現が避けられる一方で、現地記録や博物標本のラベルには俗称としての言い回しが残っている[2]。
分類[編集]
フタタケリダケは双寄目に分類される寄生菌群の代表種であり、同目内では「二口型子実体」を備える系統に位置づけられる。歴史的には、最初期の分類が「動物の器官様構造」を根拠に作られたため、当初は“動物分類学の範疇”で語られることが多かった[3]。
寄螺科では、宿主側の反応(局所刺激・熱・摩擦など)に応じて胞子放出のタイミングが揃う系統が重視されてきた。フタタケリダケはその中でも、二つの分岐口が同時に開閉する点で、分類学者のあいだに「二相同期」の概念を定着させたとされる[4]。
属名は、江戸期の採集者が残した民間呼称を“学名に転写する”形で成立したと説明されることが多い。ただし、この由来については一次資料の扱いが揺れており、編集史では「誤転写説」も併記されている[5]。
形態[編集]
フタタケリダケの子実体は、宿主の体表に付着したのち、厚みのある殻状組織へと発達する。成長初期は乳白色で、時間経過に従い薄い褐色斑が入り、触感は“湿布”に近いと形容される[6]。
二口型の開口部は常時閉じており、外部刺激が入ると、先端の縁が微細に裂けるように開くと観察されている。観察記録では開口部の内径が「平均0.18mm(範囲0.11〜0.27mm)」と測られた例があるが、計測機器の校正条件が明示されないため、後年の追試では数値に揺れがあった[7]。
胞子の放出は“噴射”として描写されることが多く、放出角度は概ね左右どちらかに片寄るのではなく、二つの経路が噴出方向を分担するとされる。このため、放出直後の粉塵パターンが左右対称になる個体があると報告されている[8]。
分布[編集]
フタタケリダケは、岐阜県の里山から静岡県沿岸にかけての湿性環境で断続的に観察されるとされる。とくに、落葉が厚く、夜間の地表温度が安定しやすい地点での出現頻度が高いと記録されている[9]。
分布調査は、当初“胞子の採取”を目的に行われたが、採取者の周辺環境(衣類素材、接触回数、温度)で観察条件が変わることが判明した。その結果、本種の分布は生息域だけでなく「刺激条件の一致度」によって見かけの頻度が左右される可能性が指摘された[10]。
また、標本は名古屋市の自然史倉庫群からも再発掘されており、採集時期の季節が秋に偏るとする報告がある。もっとも、その偏りが実際の出現ピークなのか、当時の調査者が秋にしか現場へ入れなかったのかは確定していない[11]。
生態(食性/繁殖/社会性)[編集]
フタタケリダケは栄養摂取を、宿主由来の体表分泌物および微細な有機成分から得ると考えられている。明確な“捕食”行動は報告されず、むしろ宿主との接触が栄養と繁殖を同時に進める仕組みであるとされる[12]。
繁殖様式は、刺激に同期して胞子放出が行われる点に特徴がある。具体的には、宿主の体表にある二口が開閉し、それに連動して胞子を放出することで次の宿主へ伝播する、と説明される[13]。地方記録では、雨上がり直後の湿度が高い日に“噴射が強まる”と語られるが、学術論文では湿度以外の要因も同時に列挙されている[14]。
社会性については“群れ”という語は避けられるものの、同一宿主個体の近傍に複数個体が見つかることがある。ここから、二口型の開口部が宿主側の反応を分配するように働き、結果として複数の個体が同時放出に近い状態を作る可能性が推定されている[15]。なお、個体間競争ではなく“分担”の可能性があるとする見解もある。
人間との関係[編集]
フタタケリダケは、刺激に対する応答が強く観察されるため、人間が採集や観察を行う際に倫理的配慮が問題となった経緯があるとされる。大正末期から昭和初期にかけて岐阜県の一部地域で、民間の“寄生茸”採集が一時的に流行したとする記録が残るが、行政資料では療養薬や湿布材料と誤認された形跡がある[16]。
また、本種が胞子放出の際に“特定の感覚刺激”を誘発するように見えることが、地元の民俗に影響したとされる。実際に静岡県の浜松市周辺では、雨の後に近づかないよう戒める言い伝えがまとめられたと報じられている。ただし、その戒めが衛生上の理由なのか、観察事故の経験談なのかは資料により揺れる[17]。
研究面では、胞子噴射の同期性がバイオセンサー開発に応用される可能性として注目され、日本生物工学会の一部研究会で“二相同期型放出機構”として取り上げられた時期がある[18]。一方で、観察条件の設定が恣意的になりやすいことから、再現性の検証では疑義も出された。
脚注[編集]
脚注
- ^ 山路綱人『寄螺門の形態学:二口型子実体の測定』名古屋大学出版局, 1932.
- ^ Margaret A. Thornton『Synchronized Spore Ejections in Host-Linked Fungi』Journal of Applied Mycozoology Vol. 14 No. 2, 1978 pp. 33-57.
- ^ 佐藤律香『民俗採集と刺激条件:フタタケリダケ記録の読解』岐阜地方史研究所, 2001.
- ^ K. H. Müller『Two-Phase Aperture Models for Keratoid Reproductive Structures』Mycoaesthetics Review Vol. 9 No. 1, 1989 pp. 101-146.
- ^ 中村春臣『学名転写の系譜:Futatakeleris の由来検証』植物寄生史学会誌 第5巻第4号, 1966 pp. 12-29.
- ^ 田上清一『湿性環境における擬似動物化系統の観察技法』静岡自然史紀要 第22巻第1号, 1958 pp. 201-223.
- ^ Owen R. Baird『Instrument Calibration in Micro-Aperture Measurements』Proc. of the International Symposium on Spore Mechanics Vol. 3, 1994 pp. 77-92.
- ^ 渡辺精一郎『胞子放出角の統計推定:左右対称個体の分類』統計生物学研究 第17巻第3号, 1982 pp. 54-69.
- ^ 【日本生物工学会】編集委員会『二相同期型放出機構の工学的応用(特集号)』日本生物工学会誌 Vol. 41 No. 6, 2011 pp. 600-639.
- ^ 林茂光『宿主体表反応と寄生共生の境界』国際寄生学年報 第10巻第2号, 1973 pp. 250-275.
- ^ M. Al-Karim『Host-Response Coupling and Transmission Efficiency in Spore Ejectors』Theoretical MycoZoology Vol. 2 No. 9, 2005 pp. 1-18.
- ^ フタタケリダケ研究会『岐阜・静岡域の標本カタログ:暫定版』地方標本センター, 2019.
外部リンク
- 寄螺門標本アーカイブ
- 二相同期胞子放出データベース
- 岐阜里山湿性環境モニタリング室
- 日本生物工学会 研究会アーカイブ
- 静岡自然史倉庫オンライン目録