プリプリ
| 分類 | 擬態語・評価単位・文化概念 |
|---|---|
| 成立 | 18世紀末(寛政年間ごろ) |
| 起源地 | 江戸・日本橋魚河岸 |
| 主な用途 | 鮮度測定、商品格付け、舞台発声 |
| 関連機関 | 日本語態度研究会、東京海鮮流通協議会 |
| 国際展開 | 1960年代以降、東アジアと北米の食品業界へ拡大 |
| 代表的指標 | ぷり値、反発係数P-7、張力感覚指数 |
| 俗称 | ぷり、ぷり感、二度張り |
| 備考 | 一部の資料では能楽の掛け声に由来するとされる |
プリプリは、もともと後期ので用いられた、身の張り具合を測るための擬態語および評価単位であるとされる。のちに、、へと用途を広げ、現在では「張り」「反発」「見た目の機嫌のよさ」を総合的に示す文化概念として知られている[1]。
概要[編集]
プリプリは、物体や食品が持つ「押すと戻る感じ」を、視覚・触覚・感情の三層で評価する日本独自の概念である。とくににおいては、身が締まり過ぎず、かつ崩れない状態を指す便利な語として重宝された[2]。
一方で、の言語民俗研究室が1958年にまとめた『擬態語の経済学』では、プリプリは単なる形容ではなく、売買交渉の際に価格を1割ほど押し上げる「情緒的付加価値」の単位であったとされる。なお、この研究はのちにの内部資料に引用されたが、当時の担当官が「音がうるさいので保留」と朱書きしたことが知られている[3]。
用法の広がり[編集]
初期には魚介類の鮮度を示す語であったが、40年代にはプリン、餅、肌、舞台衣装などにも転用された。特にの百貨店では、試食販売員が「こちらは今朝のぷりでございます」と案内した記録が残り、客の半数が意味を理解しないまま購入したという。
評価単位としての性格[編集]
1952年にが試験的に導入した「ぷり値」は、0.0から9.8までの小数点2桁で表され、7.2以上が「上等」、8.6以上が「祝儀級」とされた。もっとも、同協会の議事録には「測定者の空腹度により値が変動する」との注意書きがあり、制度としての精度には疑義が残る。
歴史[編集]
江戸期の魚河岸語から[編集]
伝承によれば、寛政7年、の干物問屋・川嶋屋半兵衛が、仕入れた鯛の身を指で弾いた際に「ぷりぷりしている」と評したのが初出とされる。これが市場関係者の間で定着し、翌年には「ぷり抜け」「ぷり返し」など派生語も生まれたという。
大正から戦後へ[編集]
末期になると、の寄席で落語家が客席の反応を「ぷりが足りない」と評したことから、感情の張りを表す言葉としても広まった。戦後はの食糧統制の影響で硬い魚肉が増え、逆にプリプリであることが高級品の証拠となったため、では「ぷりの等級表」が半ば公的に扱われた[要出典]。
高度成長期の制度化[編集]
1964年、との合同班は、プリプリを再現性のある用語にするため、ゼラチン製の標準試料32種を作成した。試料は冷蔵庫内で48時間保管され、毎朝9時と15時に二人一組で押圧測定されたが、結果のばらつきが大きすぎたため、最終報告書では「概念として運用するのが最良」と結論づけられた。
国際化と輸出[編集]
1978年以降、を経由して輸出された冷凍エビに「PURIPURI」のローマ字ラベルが貼られ、アメリカ西海岸の高級寿司店で人気を得た。ロサンゼルスの一部レストランでは、プリプリを保つために皿を回転させる独自技術が開発され、これが後に「ライブ・スプリング・プレーティング」と呼ばれた。
測定法[編集]
プリプリの測定には、主として指圧法、音響法、歩留まり法の三つが用いられてきた。指圧法では、親指と人差し指で対象を3秒間押し、戻りの速度をあたり何ミリかで観測するが、熟練者ほど主観が混じりやすいとされる[4]。
音響法は、対象を箸で軽く叩いた際の「ぷつん」という高域の残響を評価する方式で、の老舗割烹では今も裏メニューとして残っている。歩留まり法はより工業的で、製造ロット100kgあたりの「ぷり保持率」を算出するものであるが、の調査では測定担当者の笑い声が機器の誤差を増幅させることが確認された。
また、1989年にの協力で開発された「P-7反発計」は、数字上は優秀であったものの、こんにゃくに限っては常に9.1を示すため、検査員のあいだで「こんにゃく無双」と呼ばれた。これが後の家庭用玩具の名称に転用されたことは、あまり知られていない。
ぷり値表[編集]
ぷり値表は、0.0〜9.8の範囲を7区分に分けた便宜的な指標である。6.4以上は「会話が弾むぷり」、8.0以上は「写真映えするぷり」とされ、9.0を超えると「もはや祈祷」と記録された。
現場の運用[編集]
市場では測定者ごとの差異を補正するため、朝礼前に必ず温かい味噌汁を1杯飲むという慣行があった。これは科学的根拠に乏しいが、実務上は「味噌汁を飲んだ日は誤判定が減る」と信じられていた。
社会的影響[編集]
プリプリは食品分野にとどまらず、広告、演劇、都市計画にまで影響を与えた。とりわけのテレビCMでは、海老やマシュマロに限らず、ビルの外壁や地下鉄の吊り革までもが「プリプリ感」で売り出され、消費者の認識を大きく変えたとされる。
では、商店街の活性化策として「まちのプリ度調査」が導入され、通行人が「景気がぷりぷりしている」と答えた割合を基に補助金の傾斜配分が決められた。しかし、集計に用いられたアンケートの設問が毎回微妙に違っていたため、統計としての信頼性には疑問がある[要出典]。
また、教育の場では、子どもの表情が硬いときに「もっとぷりっとして」と声をかける指導法が一部で流行した。後に心理学者の三浦暁子は、これを「情緒の圧縮教育」と批判したが、当の園児はむしろ楽しそうであったという。
ファッションへの転用[編集]
1990年代には、布地の張りやシワ戻りを示すために「ぷり繊維」という語がアパレル業界で使われた。特にの若者文化では、スカートの広がり方を見て店員が「今季はぷりが強い」と評したことが流行のきっかけとなった。
行政用語としての採用[編集]
の一部会では、景気の回復度を「実質GDP」ではなく「家庭内ぷり指数」で補助的に観測する案が検討された。会議録には「数値は良いが、庁舎内で言うと笑われる」との発言が残っている。
批判と論争[編集]
プリプリ概念への批判は、主として「測定不能であるのに運用されすぎている」という点に集中している。言語学者の多くは、プリプリが本来は感覚的な擬態語にすぎないにもかかわらず、戦後の制度化によって過剰に権威づけられたと見る。
一方で、流通現場の関係者は「言葉にすることで品質が守られる」と反論してきた。実際、の港湾調査では、プリプリ表示のある荷はクレーム率が12.4%低かったとされるが、同時に返品率も1.8%高く、解釈は分かれている。
なお、1997年には設置以前の暫定機関である「商品情緒表現審査室」が、プリプリの濫用を抑えるためのガイドラインを出した。しかし、ガイドライン本文の第4条には「ただし、海老天は除く」とだけ書かれており、実効性はほとんどなかった。
学術界の反応[編集]
の民俗学者・村瀬俊介は、プリプリを「日本語における触覚の美学化の極北」と評した。これに対し、同僚の上原桂一は「それはつまり、うるさい擬態語である」と反論している。
業界団体の対応[編集]
東京海鮮流通協議会は、2010年に「プリプリ表示基準」を改訂し、写真付きで説明しなければならない品目を18品目から24品目に増やした。ところが、説明写真の撮影者が全員同じライティングを好んだため、どの品も同じように見えるという新たな問題が生じた。
派生語と関連表現[編集]
プリプリには多数の派生語が存在する。代表的なものに、より柔らかい張りを示す「ぷりんぷりん」、硬質で反発の強い「超ぷり」、時間経過で張りが失われる「しぼみぷり」などがある。これらはで特に発達したとされ、漫才のツッコミにも応用された[5]。
また、の一部地域では、目上の人の機嫌が良い状態を「心がぷりしている」と表現する慣習があったとされる。文化人類学者の中には、これをプリプリ概念の本質的拡張とみなす者もいるが、地元の古老は「そんな言い方は聞いたことがない」と証言している。
近年ではインターネット上で、画像の艶や弾力を褒める際に「プリプリ」と書く用法が定着している。もっとも、SNS上では文字だけが独り歩きし、何がぷりなのか誰にも分からないまま流行語化する現象がしばしば観察される。
宗教儀礼との接触[編集]
一部の郷土芸能では、舞台上で扇を弾ませる所作を「ぷり納め」と呼び、豊漁祈願の前に行っていた。これが儀礼なのか、単なる景気づけなのかは今も定かでない。
商品名への採用[編集]
系の飲料研究会が試作した炭酸ゼリー飲料には、内部コードとして「PURI-17」が付されていた。発売は見送られたが、試飲会での印象が強く、社内資料には「味より先に弾力が語られる」と記されている。
脚注[編集]
[1] なお、この起源説には異説があり、能楽の拍子語「ぷり」に由来するという説もある。
[2] 江戸期の市場帳簿には、鮮度を表す語として「ぷり上々」「ぷり落ち」などの記載が見られるとされる。
[3] ただし原本は東京都内の倉庫火災で焼失したため、後年の写しに依拠している。
[4] 指圧法の実験では、測定者が食後30分以内だと判定が甘くなる傾向がある。
[5] 関西の漫才師が定着させたというのは俗説であるとの見解もある。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 村瀬俊介『擬態語の経済学――プリプリと市場心理』東京民俗出版, 1959.
- ^ 田中由紀子「ぷり値の測定と流通価格への影響」『日本食品語用論誌』Vol. 12, No. 3, pp. 44-61, 1971.
- ^ Harrison, Elaine M. "The Elasticity of Puripuri in Japanese Seafood Branding" Journal of Applied Semiotics Vol. 8, No. 2, pp. 101-129, 1984.
- ^ 三浦暁子『情緒の圧縮教育と幼児表現』港北教育書房, 1998.
- ^ Kobayashi, Kenji. "Puripuri and the Aesthetics of Rebound" Pacific Linguistics Review Vol. 21, No. 1, pp. 5-27, 1992.
- ^ 東京海鮮流通協議会編『プリプリ表示基準 第4版』東京海鮮流通協議会, 2010.
- ^ 佐伯一郎「P-7反発計の開発経緯」『理化学応用年報』第33巻第4号, pp. 210-233, 1989.
- ^ Anderson, Miles J. "A Study on Springiness in Consumer Language" International Journal of Food Texture Vol. 15, No. 4, pp. 77-93, 2006.
- ^ 上原桂一『うるさい擬態語の系譜』早稲田選書, 2004.
- ^ 大庭澄子「市場における気分語の流通」『都市文化研究』第19巻第2号, pp. 88-109, 2013.
外部リンク
- 日本語態度研究会アーカイブ
- 東京海鮮流通協議会資料室
- ぷり値標準化委員会速報
- 擬態語経済史データベース
- 江戸市場語彙コーパス