ホンコンやきそば
| 名称 | ホンコンやきそば |
|---|---|
| 別名 | 香港とろみ焼きそば(香港語風表記「港味とろ焼」) |
| 発祥国 | 香港 |
| 地域 | 九龍(旺角周辺の屋台回廊) |
| 種類 | とろみ香味炒め麺 |
| 主な材料 | 中太麺、鶏ガラ出汁、黒胡椒、乾燥椎茸、香味油 |
| 派生料理 | レッドペッパー冷麺状ホンコン、翡翠(ひすい)野菜版ホンコン |
ホンコンやきそば(ほんこんやきそば)は、をしたのである[1]。
概要[編集]
は、香港の屋台文化と、とろみのある香味ソースを結びつけた炒め麺料理とされる[1]。
一般に中太麺を高温の中華鍋で短時間に炒め、仕上げに鶏ガラ出汁と黒胡椒を中心とする「とろみ層」をまとうよう設計する点が特徴とされる[2]。
現在では、屋台の簡易コンロでも再現しやすいよう、麺の水分管理と香味油の配合比が記録化されることが多いとされる[3]。
語源/名称[編集]
「ホンコン」という呼称は、英語圏で通じやすい発音へ寄せた通称として広まったとされる[4]。
ただし、名称の成立過程については複数の説があり、とくに「屋台回廊で提供される“港味(みなとあじ)”の麺」が、調理人の口癖として“ホンコン”に置き換えられたという説明が有力である[5]。
また、別名であるは、提供直前のソース温度を「麺の表面で一度だけ溶ける糖鎖温度帯」に合わせた結果、とろみが“焼きの余韻”として残ることに由来するとされる[6]。なお、この説は当時の試作ノートがの公文書庫で見つかったという逸話と結びついているが、真偽は定かではない[7]。
歴史(時代別)[編集]
植民地期の屋台調整(19世紀末〜1920年代)[編集]
香港の屋台では、香味油の煙が通行人に当たりにくいよう鍋の傾斜角が工夫されたとされる[8]。
この時期、九龍側の周辺で「火力を上げるほど麺が縮む」問題が頻発し、厨房用の小型秤と“縮み補正粉”を併用するレシピが広まったとされる[9]。
そこへ、乾燥椎茸の戻し液に微量の穀物デンプンを混ぜた即席とろみが加わり、やがての原型と呼べる調理法が定着したとされる[10]。
戦後の規格化(1950年代〜1970年代)[編集]
戦後、街の衛生基準が強化される流れの中で、屋台側も「提供までの時間」を規格化せざるを得なかったとされる[11]。
その結果、「炒め2分、休ませ10秒、とろみ投入18秒」という順序が“標準版”として語られるようになったとされる[12]。
この標準化には、の小委員会が関与したと記録されているが、関与の範囲については調理人側から異議が出たとされる[13]。
流通麺時代の変質(1980年代〜現代)[編集]
1980年代以降、冷蔵流通麺が増えたことで、麺の弾力が安定し、ソースの粘度調整がより精密化したとされる[14]。
現在では、温度管理用の簡易温度札(屋台では“湯札”と呼ばれる)が使われることもあり、「ソースを鍋肌に当ててから平均37.6秒以内に回し入れる」といった手順が伝えられている[15]。
また、香港と観光客の往来増加により、味の再現を重視する店が増えた一方で、屋台本来の“麺のばらつき”が失われたとして批判もある[16]。
種類・分類[編集]
は、一般にソースの性格と具材の構成で分類される[1]。
代表的には、黒胡椒と鶏ガラ出汁中心の「香黒(こうこく)系」と、乾燥椎茸の戻し香を前面に出す「椎香(しいこう)系」があるとされる[2]。
さらに、麺量が多い屋台向けの“満腹盛り”版、辛味を増した“夜会(よかい)版”、野菜比率を高めた“翡翠(ひすい)版”など、提供形態に基づく分類も広く用いられている[3]。
材料[編集]
基本材料は、中太麺、鶏ガラ出汁、香味油、黒胡椒、乾燥椎茸、そして「とろみの核」とされるデンプン処理材で構成される[4]。
とろみの核については、米粉由来が標準とされる一方で、店によってはキャッサバ由来が用いられることもあるとされる[5]。
また、具材は豚細切れや卵そぼろを用いることが多いが、地域差としてでは野菜の刻みを細かくし、ソースが先に麺へ染みる設計が好まれたとする説がある[6]。
なお、昔の屋台記録では「塩は麺100gあたり0.72g、胡椒は0.05g刻み」といった細かな記録が見つかったと報じられているが、出典の扱いについては議論が残っている[7]。
食べ方[編集]
食べ方は、まず麺を箸で“分岐”させ、ソースのとろみ層が底面に溜まる前に混ぜる方式が推奨されることが多い[8]。
次に、通常は「一口目は麺、二口目で具」を意識することで、香味油の立ち上がり順が整うとされる[9]。
また、香港の屋台では、卓上の(すらつ)小瓶を数滴だけ加えることで、黒胡椒の刺激が“甘く感じる”と説明されることがあるが、好みが分かれると指摘されてもいる[10]。
文化[編集]
は、単なる食事ではなく、夜の散策と結びついた“時間料理”として語られることが多い[11]。
九龍の屋台回廊では、提供直後の匂いを楽しむために「食べる前に30秒だけ待つ」という習慣があるとされる[12]。この待ち時間により麺が“落ち着く”と説明されるが、実際の科学的根拠は十分に整理されていないとされる[13]。
一方で、観光客向けに個包装のテイクアウト版が増えたことで、街の屋台独自の湯気文化は薄れたとの指摘もある[14]。
また、料理名が音の印象に寄っていることから、商標的な議論が起きたとされるが、結論は地域ごとに異なり、統一された見解は見られないとされる[15]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 陳 志明『九龍屋台の麺香学』旺角出版, 1976.
- ^ Margaret A. Thornton『Thickened Sauces in Urban Street Foods』Cambridge Culinary Press, 1989.
- ^ 劉 秀雲『香黒(こうこく)系ソースの粘度設計』香港調理技術研究会, 1994.
- ^ 蘇 瑞華『とろみ層の温度帯—鍋肌反応の実験ノート』港味学会誌 第12巻第3号, pp.41-58, 2002.
- ^ Hiroshi Kurotani『The Dialectics of Noodles: Local Standards and Tourist Reconstructions』Journal of Applied Street Cuisine Vol.7 No.1, pp.13-27, 2008.
- ^ 【香港食材衛生管理局】『屋台調理時間の基準案内』第2版, 香港官報別冊, 1961.
- ^ 王 昭廉『乾燥椎茸戻し液の香り保持と配合』中華食品化学論集 第5巻第2号, pp.77-92, 1979.
- ^ Liu Wenjie『Street-Wok Calibration: The Wan Chai Method Reconsidered』Asian Pan Studies Vol.3 No.4, pp.201-219, 2011.
- ^ 坂本 凜『混ぜる順番で変わる“時間料理”』調理文化資料館, 2016.
- ^ ジョルジ・パルマ『Hong Kong Yaki Styles: A Compendium』Palma Press, 1998.
- ^ 山田 直人『香港はなぜやきそばを標準化したのか』誤植社, 2005.
外部リンク
- ホンコン麺研究アーカイブ
- 九龍屋台回廊アーカイブ
- 香味油温度ログ掲示板
- 翡翠版レシピまとめサイト
- 酢辣小瓶の保管・衛生ガイド