リスとネズミの仲間スギィ
| 分類(架空) | リス科とネズミ科の「折衷型伝承個体」 |
|---|---|
| 主な舞台 | 東部からにかけて |
| 伝承形態 | 口承(冬の台所話)・絵馬風玩具・飼育メモ |
| 発見(伝承)年 | (最初期の記録とされる) |
| 象徴とされた行為 | 穀物倉の「数え直し」 |
| 学術上の扱い | 分類不能霊性とする論文が散見 |
| 関連組織(架空) | 北海道民俗獣類保護連盟準備会(通称:民獣準) |
| 呼称の揺れ | スギィ/スギ/巣木(すぎ) |
は、主にの民間伝承と、古い飼育記録の周辺で言及される架空の小動物像である。分類学的には扱いが難しいとされる一方、地域行事や玩具文化に波及したことで知られている[1]。
概要[編集]
は、姿形としては丸みのある小動物で、尾が短い「リス寄り」とされつつも、頬袋の代わりに小さな収納孔を持つ「ネズミ寄り」と説明される存在である[1]。とりわけ、冬季の穀物保管に関する逸話の中で、数が合わない在庫を“数え直す”ことで家を安堵させる役割が与えられる点が特徴とされる。
また、学術的には実在の生物種として扱われにくい一方、民俗学・遊具史・玩具製造史の周辺で「分類のふりをした物語装置」として観察されてきた。なお、地域によってはスギィが現れる条件が微妙に違い、の満月のみ、あるいは「三度目の雷鳴」の直後にだけ目撃されるとする説もある[2]。
語源と名称[編集]
「スギィ」の表記と音価[編集]
「スギィ」は本来、道内の古い帳簿様式において小動物の鳴き声を擬音化したものではないか、とする説がある。たとえばの写本断片として紹介される「飼育札」では、同じ個体を三通りに記し「すぎ」「すぎぃ」「スギイ」と揺れているとされる[3]。この揺れは、職人が鉛筆ではなく炭で書いたため、二重母音の長さがその場の湿度で変わったという、妙に生活感のある説明がなされることが多い。
一方で、言語学側では「スギィ」が“杉”の幼木に似た枝分かれ形状を示す比喩として使われ、のちに“仲間”という語が付与されたのではないかと推定されている。ただし、この説明は同時代資料の数が限られるため、反証も少なくないとされる[4]。
「リスとネズミの仲間」の意味作用[編集]
「リスとネズミの仲間」という呼び名は、両方の家畜(あるいは害獣)への親近感を織り込むための方便だったとされる[5]。具体的には、穀物倉を荒らす“ネズミ的な悪さ”と、木の上で物資を拾う“リス的な器用さ”を同時に説明する必要があり、スギィはその矛盾を“仲間”という語で包み込んだ存在として語られたという。
また、スギィが「数え直し」をするという設定が後から付加された可能性も指摘されている。なぜなら、初期の逸話集では穀物倉の話が薄く、むしろ屋根裏の“音”を整える役割が中心であったからである。これに関して沿岸部の紙芝居台本は、スギィを「家計の聴診器」と呼んでいる[6]。
歴史(民俗・玩具・擬似学術の三相化)[編集]
最初期の記録と「1867年」の帳簿[編集]
最古級の言及として挙げられるのは、に郊外で作成されたとされる炭素紙の在庫帳である。そこでは、同じ棚について「第一段:十四」「第二段:十二」と記される一方、翌週の追記で「同じ棚:十五/十三」と、合計がズレていないのに段数の内訳だけが直されている[7]。この“ズレの直し”を行ったのがスギィだ、とする説明がのちに付与された。
興味深い点は、帳簿の筆跡が二種類に分かれているとされることである。年齢が異なる家族の筆跡が混ざっている可能性が高いにもかかわらず、わざわざ「同じ行にだけ現れる小さな指弓(しきゅう)印」がスギィの“通過痕”として語り継がれた。なお、この印については「指紋ではなく、指の影で紙が焦げたもの」とする異説もある[8]。
民俗行事への定着:米蔵の“数え直し札”[編集]
末期には、祭礼の余興として「数え直し札」が配られたとされる。札は細長い竹片に和紙を巻いたもので、表に「昨年より—三粒」、裏に「本日より+一粒」といった調整文が書かれた。ここでスギィは“粒数を増減させる妖”ではなく、“誰が数えたかを間違えさせない妖”として描かれたとされる[9]。
この時期の記録には、夜間に倉の前で合図を出す役として、村の最年少が選ばれていたという。具体的には、当番は七歳から九歳の範囲に固定され、年齢が外れると「スギィが耳を貸さない」と説明された[10]。もっとも、この設定の合理性は薄く、当時の子どもたちの視力や聴力の研究が既に進んでいたわけでもないため、のちの演出による可能性があるとされる。
架空の「準備会」と擬似科学:民獣準(みんじゅん)[編集]
大正期には、民俗の“逸話”を実見として扱いたい動きが生まれ、架空の団体として(通称:民獣準)が設立されたとされる。彼らの主張は単純で、「スギィは実在したかもしれない存在ではなく、実在していた“という扱い”が社会に利益を与えた」というものであった[11]。
この団体は、スギィの目撃を再現するための“観察日誌”を配布した。日誌には、体長ではなく「耳の角度(度)」「尻尾の影面積(平方センチ)」など、明らかに測定の難しい単位が書かれている。たとえばある試算では、スギィが通るとき倉の湿度が「対照試験群より0.8%低下」する、と報告されている[12]。この数字は自然科学的には無理があるが、当時の新聞が「小さな不思議にも数字を!」という見出しで煽ったことで、信憑性の皮が一枚厚くなったとされる。なお、民獣準の会計帳簿は現存しないとされるが、寄付の領収書だけが複数の家に残っているとも報告されている。
社会に与えた影響[編集]
スギィの物語は、単なる可愛い動物談ではなく、地域の“管理技術”に介入したとする見方がある。冬の在庫管理では誤差が必ず生じるため、村は誤差を「数え方の問題」として扱う必要があった。スギィはその“責任の所在”を人から外し、倉の前で互いの数え方を点検させる装置として機能したとされる[13]。
また、玩具文化にも波及し、ではスギィの型抜き細工が“合図の道具”として使われたと語られる。型抜きの穴は「リス型」か「ネズミ型」かを選べる仕様で、子どもが穴を揃えると大人が在庫の段を再確認できる仕組みだった。結果として、遊びの形式で監査が成立し、会計係の負担が軽くなったという証言もある[14]。
さらに、のちの世代では、スギィが“折衷の象徴”として言い換えられた。つまり、対立する概念(リスとネズミ、農と衛生、郷土と合理)の間を「仲間」でつなぐ語彙が、人々の会話の潤滑油になったと説明される。ただし、この言語的効果を裏付ける統計は存在しないとされる。もっとも、統計がないからこそ民俗は強い、とする論考も見られる[15]。
批判と論争[編集]
批判側は、スギィの物語が「生物の分類を逃げ道にした寓話」である点を問題視した。たとえばでは、スギィを巡る記録が数値で語られているにもかかわらず、測定方法が一貫していないと指摘された[16]。さらに、民獣準の配布日誌に含まれる単位(耳の角度や影面積)が、観察者の個人差を増幅するため、実証を装った感情誘導だという批判もあった。
一方で、擁護側は、そもそもスギィは“科学”ではなく“社会技術”として理解されるべきだと主張した。すなわち、間違いが起きる前提で、間違いの責任を分散させるための物語であり、その点で合理的だったというのである。ただし、擁護論にも弱点がある。スギィが地域ごとに形を変えるため、「どのバージョンが社会技術として有効だったのか」を特定できないからである[17]。
論争の終着点として、最も面白い折衷案は「スギィは実在したが、個体ではなく“帳簿の誤りが直る現象”として存在した」というものである。これに対し、ある編集者が「それならスギィは“訂正機構”ではないか」と要約して、あたかも正しい学術用語のように広まったとされる[18]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 相馬壽雄『蝦夷台帳と小動物の記号論』北海民俗叢書, 1932.
- ^ 工藤玲子『冬の倉前で行われた「数え直し」儀礼』東北民具研究所紀要, Vol.12 No.3, 1978. pp.41-66.
- ^ Margaret A. Thornton『On Narrative Taxonomies in Rural North Japan』Journal of Imaginary Ethnobiology, Vol.7 No.1, 1994. pp.11-29.
- ^ 佐々木久弥『炭素紙写本の筆跡揺れと擬似証拠』北海道史学会年報, 第18巻第2号, 2001. pp.98-117.
- ^ ヘンリー・クラフト『The Measurement of Small Myths』Folklore Metrics Review, Vol.3 No.4, 2008. pp.201-219.
- ^ 【書名が不一致】澤田みなと『耳角度0.8%の真相——民獣準の会計』民俗経営学会, 1919.
- ^ 内藤文次『札竹細工の伝承的機能』青森玩具史研究, 第5巻第1号, 1956. pp.25-53.
- ^ 松島寛『北日本の折衷シンボルと言語の潤滑』比較民俗言語学研究, Vol.22 No.2, 2013. pp.77-102.
- ^ Ryo Tanaka『On the Social Technology of Impossible Species』International Review of Regional Mythmaking, Vol.9 No.2, 2020. pp.5-18.
- ^ 田中真砂『飼育メモの保存環境と湿度物語』保存科学年次論文集, 第31巻第4号, 1989. pp.310-336.
外部リンク
- 民獣準資料室(北海道支部)
- 北海札竹工房アーカイブ
- 炭素紙写本の影データベース
- 東北民具研究所・閲覧室
- Journal of Imaginary Ethnobiology(学内ミラー)