レズ芸
| 分野 | 大衆芸能・パフォーマンス研究(仮) |
|---|---|
| 関連語 | 所作方言・舞台口調・二重語彙 |
| 流通媒体 | 下町寄席・同人誌・深夜ラジオ |
| 成立時期(推定) | 昭和後期〜平成初期 |
| 拠点とされる地名 | 大塚界隈、十三、中洲 |
| 論争の焦点 | 表現の分類と当事者性の扱い |
| 研究上の扱い | 用語史として断片的に整理される |
(れずげい)は、で一時期に用いられたとされる、演芸的な表現様式の総称である。主に舞台上の所作や言葉遣いを中心に構成されるとされ、言説の出自は曖昧である[1]。
概要[編集]
は、観客に“伝わるはずの合図”を、あえて曖昧な身体動作と語りの反復で組み上げるパフォーマンス様式として語られてきたとされる[1]。
用語の定義は固定されておらず、同じ公演記録でも「芸の分類名」として扱われる場合と、「噂としてのラベル」に留まる場合がある。なお、その判定基準は「観客が笑ったかどうか」ではなく、舞台上で使われる“間(ま)”の秒数や、言葉の置き換え回数で推定されたという証言が複数残っている[2]。
具体的には、(1) 手拍子の位置が一般的な寄席と逆になる、(2) 返事の声色が語尾で変調される、(3) 照明の色温度が客席側から見てわずかに赤寄りに調整される、などの特徴が挙げられる[3]。このため、当時は美術・音響の技術スタッフまで巻き込みながら語られることが多かったとされる。
一方で、用語の使用には倫理的な難点もあったとされ、後年の研究では「分類のために作られた呼称が、当事者へもラベルとして流通した」点が問題視されたとの指摘がある[4]。
歴史[編集]
起源:下町の“合図台帳”説[編集]
レズ芸の起源については、58年頃に文京区の小劇場「紅白楽館」で作成されたとされる“合図台帳”に遡るという説がある[5]。台帳は、寄席の手伝いが書き留めた走り書きの集積で、客の視線が一度だけ逸れるタイミング(平均0.7秒)を表す印が多数含まれていたとされる[6]。
台帳には「相手の返答が遅れるとき、こちらは“笑い”を先に出さず、“肯定語”だけを一拍前に置け」といった注意書きがあり、これを読んだ当時の音響技師が、マイクの指向性を0.8度単位で詰め直したという話がある[7]。ただし、台帳そのものは現存せず、残っているのは写し(写しの写しを含む)だけであるとされる。
この説では、レズ芸という言葉は台帳の“合図”を逆引きするための符号として後から名付けられたとされる。編集者のが、当時の新聞の見出しを「レズ芸」と誤読したことが普及のきっかけになった、という“文献由来の誤差”まで語られている[8]。
発展:テレビ・深夜ラジオ同時多発期[編集]
次の段階は、初期に深夜ラジオ番組「夜更けの寄席研究会」(架空)で、匿名の投稿が毎週のように読まれた時期とされる[9]。投稿者は自分のことを「芸の統計係」と名乗り、各回の放送で“所作の一致率”をパーセンテージで報告したとされる。
統計の記録によれば、放送回ごとの一致率は平均61.4%で、特に“語尾変調”が入る回だけが72.9%と高かったという[10]。この数字は、実在する放送局の番組表から復元されたように見えるが、後年の検証では「番組表の数字と投稿者の計算方法が一致しない」ため、研究者の間で“手計算の儀式”と呼ばれたことがあるという。
また、大阪市十三のライブハウス「十三旋律館」では、照明担当が“赤寄り”の色温度を毎回わずかにずらす方式を提案し、舞台上の合図が客席側から見えやすくなったと語られる[11]。さらに、中洲の喫茶「波間文庫」で、同人誌編集と所作講習が結びつき、レズ芸は“学習可能な手順”として語られる方向に進んだとされる。
制度化と揺り戻し:分類の政治学[編集]
10年前後には、文化系の研究会が「芸の分類」を目的に、レズ芸を含む複数の“所作方言”を整理しようとした。そこで作られた暫定分類表では、手の高さが胸(基準点)から上がる角度が15度刻みで記載され、誤差があると「別系統の芸」とみなされたとされる[12]。
この制度化が招いた揺り戻しとしては、当事者や支援者が「分類の枠が、当事者の自己呼称を上から固定してしまう」との懸念を示した点が挙げられる[4]。一方で、分類表を作った側は「“誤認”を減らすための工学的整理だ」と主張し、対立が書簡集として残ったとされる。
ただし、その書簡の作成年月が12年と11年のどちらにも印刷されており、資料の扱いは不統一である。こうしたズレが、レズ芸という語の周縁性(周辺にだけ残り、中心には定着しにくい性格)を強めたと解釈されている。
批判と論争[編集]
レズ芸は、当事者を含むコミュニティで「理解のための記号」として使われた可能性がある一方、外部の観客やメディアが“消費できる説明”として切り出してしまった点が批判されたとされる[4]。
特に、用語の定義が「笑いの成立」や「間の秒数」という外形だけに寄り過ぎたことが、表現の背景にある意思決定や関係性を見落とす、とする指摘がある。なお、研究者のは「芸の秒数は“誰が得するか”の指標にもなる」と述べたと引用されるが、該当箇所には出典が明示されていない[13]。
他方で擁護の立場からは、レズ芸は本来“誤解を誘うための演出”であり、外部者が勝手に固定した語義こそが問題なのだ、という主張もある。実際、ある公開講座では、講師が「レズ芸はあなたの理解を待たない。まずあなたが3回確認してから来い」と言ったと伝えられている[14]。
このように、レズ芸は一枚岩ではなく、“説明される芸”と“説明しない芸”の境界で揺れてきた、とされる。結果として、用語史としては魅力的だが、現場の実践としては当事者ごとの差が大きいと理解されがちになった。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 早川倫太郎『夜の寄席研究と合図台帳』紅白楽館出版, 2001.
- ^ 中村カオリ『間(ま)と声色の統計』音響書房, 2003.
- ^ Dr. Margaret A. Thornton『Ambiguous Gestures in Urban Comedy』Journal of Performance Semantics, Vol.12 No.4, 1998.
- ^ 田村瑞希『下町パフォーマンスの編集史』文芸学論叢出版社, 第6巻第2号, 2005.
- ^ Sofia Benítez『Stage Lighting as Social Signal』International Review of Audio-Visual Culture, Vol.9 No.1, pp.33-58, 2010.
- ^ 佐藤康平『所作方言の分類暫定表とその誤差』大阪音楽技術研究会紀要, 第3巻第7号, pp.101-119, 2007.
- ^ 【要出典的扱い】石田玲『レズ芸の用語史:誤読と再記述』学苑社, 2008.
- ^ Kenjiro Hayashida『Late-Night Broadcasting and Audience Synchrony』Tokyo Broadcasting Studies, Vol.15, pp.77-92, 2012.
- ^ 澤田真琴『色温度の演出論:赤寄りの3手順』視覚演出工学叢書, 2014.
- ^ Dr. Aileen Park『When Labels Become Choreography』The Journal of Minoritized Arts, Vol.6 No.9, pp.1-20, 2016.
外部リンク
- 紅白楽館アーカイブ
- 合図台帳デジタル復元プロジェクト
- 夜更けの寄席研究会資料室
- 十三旋律館の照明ログ
- 波間文庫 同人誌索引