『ヴァルヴレイヴ』
| タイトル | ヴァルヴレイヴ |
|---|---|
| ジャンル | 近未来学園SF、群像劇 |
| 作者 | 霜月 恒一 |
| 出版社 | 双輪社 |
| 掲載誌 | 月刊ブレイドシフト |
| レーベル | ブレイドコミックス・ゼロ |
| 連載期間 | 2009年4月号 - 2017年11月号 |
| 巻数 | 全18巻 |
| 話数 | 全94話 |
『ヴァルヴレイヴ』(ゔぁるゔれいゔ)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『ヴァルヴレイヴ』は、のを舞台に、機械式心臓を埋め込まれた少年少女たちが「鼓動」を媒介として社会の統治構造に抗う姿を描いた漫画作品である。作中では西部に設置された架空の特別自治区域が主な舞台となり、異常に精密な制度設計と、やけに細部の多い学生組織の派閥争いが特徴とされる。
本作は連載開始当初こそ学園ドラマとして受け止められていたが、途中から外郭の実験計画や、沿岸部に眠る旧式エネルギー炉の秘密が明かされ、読者の間では「途中で別作品になったのではないか」との声も多かった。なお、終盤の数話だけ異様にの記述が詳しいことでも知られている[2]。
制作背景[編集]
作者のは、もともと工業高校出身のメカニック描写に定評のある作家で、前作『』で紙面上の配管図を1ページ丸ごと描いたことから注目された人物である。『ヴァルヴレイヴ』の企画は、2007年に編集部が行った「学園SF再活性化会議」において、当時の編集長・が「心臓が増えたら、友情も増えるのではないか」と発言したことに端を発するとされる。
制作段階では、編集部内に「鼓動班」と呼ばれる臨時チームが組まれ、実際にの心拍変動研究施設を取材した記録が残っている。また、主人公陣営の制服デザインは、の私立進学校とのスピーカー配置を参考にしたとされ、作中の校章がやたら送電線っぽいのはこの名残である[3]。
連載初期は掲載順が中位を上下していたが、第17話「鉄の夜に鳴る」掲載後、読者アンケートで一気に1位を獲得した。この回では、まだ説明されていないはずのの図解が3コマだけ先行登場しており、編集部が「読者の理解より勢いを優先した」と回想している。
あらすじ[編集]
学園編[編集]
物語は、転入生のが星見学園区にやって来るところから始まる。彼は入学初日に、校門で配布されているはずのない「生体鍵」を受け取り、学園内の地下設備「第七码の動力廊」を知ることになる。ここで登場するは表向きは風紀委員会に近い組織であるが、実際には区域内の電力配分と住民の睡眠時間まで管理している。
この編の見どころは、学園祭の準備と同時進行で地下炉の暴走が描かれる点にある。なお、作中では生徒会の予算審議が5話連続で続くが、これは作者が「予算の争いこそ戦争である」と主張したためで、単行本化の際に脚注が4倍に増えた。
ヴァルヴ起動編[編集]
久瀬らは、旧式の機械心臓「ヴァルヴ」を起動し、身体能力と引き換えに記憶の一部を消費することを知る。ここで初めて、タイトルの意味が「鼓動を抽出する装置」そのものを指すことが示されるが、後年の資料では「旋回弁を備えた聖遺物の名残」とも解釈されている[4]。
この編では、の廃冷却塔から回収された部品をめぐる争奪戦が描かれ、特に第31話での「一人分の脈拍で区画停電が解除される」展開は、読者の間で伝説視された。もっとも、理屈としてはかなり無理があるため、当時から要出典とする批判もあった。
星見崩壊編[編集]
中盤以降、星見学園区は外部自治体との合併圧力を受け、都市全体が半ば封鎖状態となる。ここでの特別監察官が登場し、学園の地下に眠る「七層炉」が国の実験炉であった事実を暴く。
崩壊編の後半では、作中時間でわずか2日間の出来事に約18話を費やしており、登場人物たちが移動するたびに区画番号が変わることでも有名である。特に、方面の高架下で行われる臨時会議は、背景の落書きにまで意味があるとして考察班を過熱させた。
終幕編[編集]
最終章では、久瀬たちが「脈拍の共有」によって都市制御網を停止させ、星見学園区の制度そのものを解体する。ところが、最後の2ページで物語は突然に飛び、同じ装置の試作品がすでに氷床下で稼働していたことが示唆される。
この結末は賛否を呼び、作者は後年のインタビューで「読者が安心して終わったと思う瞬間を、心臓の一拍で裏切りたかった」と語ったとされる。もっとも、この発言は編集部広報のメモにしか残っておらず、真偽は定かでない。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、無口だが機械整備の速度だけ異常に速い少年である。左胸のヴァルヴは第12巻で更新され、以後は「人の顔を覚えにくい」という副作用を持つ。
は生徒自治局の実務担当で、会計と武術を同時にこなす人物として知られる。彼女は作中で最も多くの領収書を保持しているキャラクターであり、単行本のおまけページでも帳簿をつけ続けている。
は国土再編庁の監察官で、常に折り畳み式の測距棒を持ち歩く。星見学園区の制度を外から観察する立場であるが、のちに自らも脈拍同期の適性を示し、読者から「一番信用できない味方」と呼ばれた。
は地下炉保守班の技師で、登場時は脇役だったが、配線を見ただけで炉心の寿命を言い当てるため準主役級に昇格した。なお、彼女の口癖「振動は嘘をつかない」は、作中で9回も繰り返される。
用語・世界観[編集]
は、心拍と機械駆動を同期させるための円環型補助装置である。名称は古代ラテン語ではなく、の工場地帯で使われていた弁制御用語「valve」を日本語化したものとされるが、作中ではなぜか神殿遺物のように扱われる。
は、学園・住宅・地下発電区画が一体化した特別自治区域で、住民票の代わりに「脈拍登録証」が発行される。人口は作中設定で約8万4,600人とされるが、実際に画面で確認できる住民はその1割にも満たない。
は、旧海軍の観測施設を転用したとされる地熱兼磁気炉で、上層に行くほど静かになり、下層に行くほど会議が増える構造になっている。第6層にはなぜか書店があり、読者の間で「都市の図書館ではなく炉心の付属物」と解釈された。
は、特定の鼓動パターンを認証情報として使う鍵である。第44話で1人だけ心拍数が毎分87から91へ上がったことを理由に扉が開く場面があり、作中のセキュリティ思想の極端さを象徴している。
書誌情報[編集]
単行本はより刊行され、全18巻で完結した。初版帯には「脈が鳴るたび、都市は目を覚ます」という煽り文が付され、3巻以降は帯の文言だけで派閥抗争の進行を示すという妙な販促が行われた。
各巻末には作者自筆の「配線日誌」が収録され、これは当初ラフスケッチ集の予定だったものが、編集部の勧めでほぼ本編と同じ密度になったものである。第11巻には、誤植ではなく設定変更を明示するための正誤表が2ページ付属し、ファンの間で半ばコレクション化した。
累計発行部数は2020年時点で約620万部を突破したとされ、とでも翻訳版が刊行された。もっとも、海外版では「脈拍登録証」の訳語が巻ごとに揺れており、現地読者からは「行政文書が毎巻改訂される漫画」と評された。
メディア展開[編集]
2014年にはテレビアニメ化され、全24話で放送された。アニメ版は原作の地下炉描写をさらに増量し、背景美術に実在のの工業地帯を参考にしたことから、深夜帯にもかかわらず「煙の描写だけで予算が見える」と話題になった。
また、2016年には版『ヴァルヴレイヴ -鼓動の記録-』が上演され、舞台中央に実寸大の回転炉が設置された。公演中に役者が脈拍を測定される演出があり、千秋楽では実測値が高すぎたため安全上の理由で一部の殺陣が短縮されたという。
ゲーム化企画も進行したが、最終的には「心拍入力に個人差がありすぎる」として中止された。代わりに、向けの育成アプリ『ヴァルヴレイヴ Pulse Log』が配信され、ユーザーは毎朝の安静時脈拍を入力してキャラクターの機嫌を管理する仕組みであった。
反響・評価[編集]
本作は、緻密な設定と過剰な情報量によって熱心なファン層を形成し、SNS上では考察画像が日単位で増殖した。特に第52話以降は、毎話の背景看板に異なるアルファベットが隠されているとされ、ファンの検証によって「VREV」という単語が浮かび上がったと主張された。
批評面では、の誌上で「都市の制御を心拍に置き換えたことで、管理社会を身体感覚にまで落とし込んだ」と高く評価された一方、の一部からは「学生が会議ばかりしている」との指摘もあった。もっとも、作中世界では会議こそが最も危険な戦闘行為であるため、この批判は必ずしも的外れではない。
連載終了後も人気は衰えず、毎年4月には内外で「鼓動の日」と呼ばれる非公式ファンイベントが行われている。ただし、主催団体の名簿に実在しない役職が多数並んでいることから、行政側は把握を保留している。
脚注[編集]
[1] 作品設定資料集『月刊ブレイドシフト増刊 ヴァルヴレイヴ公式起動録』双輪社、2018年。 [2] 霜月 恒一「終幕ページの温度差について」『創作工学研究』第12巻第3号、pp. 44-57。 [3] 白川 達也「学園SFにおける心拍管理の有効性」『編集室年報』Vol. 7, pp. 19-22。 [4] 近藤 ミチル「valv語源再考とその誤読」『架空文化論集』第4巻第1号、pp. 88-101。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 霜月 恒一『ヴァルヴレイヴ 設定断層集』双輪社、2017年.
- ^ 白川 達也『学園SF再編の現場から』ブレイド出版、2012年.
- ^ 近藤 ミチル『架空装置としての鼓動と都市』東都評論社、Vol. 18, pp. 61-79.
- ^ 佐伯 望『脈拍登録社会の構造』新世紀文化出版、第5巻第2号、pp. 11-34.
- ^ Harper, Elaine A. “Urban Hearts and Mechanical Keys in Modern Manga.” Journal of Speculative Media, Vol. 9, pp. 120-146.
- ^ 中村 恒一郎『地下炉の美学』双輪社研究室、2019年.
- ^ 藤堂 玲子『アニメ化以前のヴァルヴレイヴ研究』アニメージュ・アーカイブズ、第3巻第4号、pp. 5-18.
- ^ Sakamoto, Y. “The Pulse Interface Problem in Serialized Fiction.” Manga Studies Quarterly, Vol. 22, pp. 201-219.
- ^ 高瀬 由紀『会議が戦争になるとき』架空評論選書、2020年.
- ^ Morita, Ken “Why the Furnace Was in the School Basement.” East Asia Pop Culture Review, Vol. 14, pp. 77-93.
外部リンク
- 双輪社公式作品DB
- 月刊ブレイドシフト作品案内
- ヴァルヴレイヴ研究会アーカイブ
- 星見学園区考察まとめ委員会
- 鼓動の日実行委員会