一乗澪(V:oid)
| タイトル | 一乗澪(V:oid) |
|---|---|
| ジャンル | サイバー神秘譚、学園アクション、実験的少女漫画 |
| 作者 | 霧島彗 |
| 出版社 | 新星創刊社 |
| 掲載誌 | 月刊コンプレス・ストリーム |
| レーベル | CSコミックス |
| 連載期間 | 2014年4月 - 2020年11月 |
| 巻数 | 全11巻 |
| 話数 | 全78話 |
『一乗澪(V:oid)』(いちじょうみおヴォイド)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『一乗澪(V:oid)』は、の沿岸部に建つ私立を舞台に、音声を失った少女と、空白領域「V:oid」を巡る抗争を描いた作品である。作品内では、情報が欠落する現象を「欠音(けつおん)」と呼び、都市そのものが記憶を食べるように変質していくという設定が採られている。
連載開始時点では学園ものとして紹介されたが、途中からの外郭研究施設やの海底送信塔が登場し、読者のあいだでは「三話ごとにジャンルが変わる漫画」として知られた。また、作中の符号化された台詞回しが若年層の間で流行し、2018年には累計発行部数が420万部を突破したとされる[2]。
制作背景[編集]
作者のは、もともとの同人誌即売会で活動していた作家で、2012年に短編『無音標本』で注目を集めた人物である。本人は後年、「少女漫画の感情曲線に、監視カメラの死角のような不安を混ぜたかった」と語っており、本作の企画書には「第7話で主人公が沈黙に勝つのではなく、沈黙に採用される話」と記されていたという[3]。
連載の準備段階では、編集部がの創刊2号を埋めるために急遽長期連載化を要請した経緯がある。これにより、当初12話予定だった構成は78話規模へと膨張し、特に第3巻以降はの廃通信施設取材、の夜間貨物線調査、さらには「音のない演技」を専門とする演劇研究会への取材が行われたとされる。
なお、作中に登場する「V:oid」の表記は、作者がの古書店で見つけた19世紀末の電信記号表に由来するという説が有力であるが、作者本人はインタビューで「たまたま机の上にあった空白だ」とも述べており、真偽は定かでない。
あらすじ[編集]
欠音編[編集]
は、声を失った翌朝、教室の黒板に自分の名前が誰にも消せない形で残っていることに気づく。そこから彼女は、発話の代わりに他人の記憶の隙間へ入り込む「欠音」を自覚し、同級生のとともに学園内の異変を追うことになる。終盤では、保健室の壁の内側から「0号室」と呼ばれる空間が発見され、物語の方向性が一気に不穏化する。
空白区画編[編集]
学園を抜け出した澪たちは、からへ続く未使用の地下搬送路で、消えた駅名標や録音されない交信記録を回収していく。ここで初めて「V:oid」が単なる空白ではなく、都市の情報を一時的に退避させる容器であることが示唆される。なお、この編ではなぜか自販機だけが異様にしゃべるため、読者の間で「最も説明されないのに納得できる章」と評された。
反転放送編[編集]
の研究員が登場し、欠音を人工的に再生する「逆送」を試みる。これにより、澪の失われた声が都市全域へ拡散し、テレビ、携帯端末、学校放送が同時に彼女の独白を垂れ流す事態となる。物語はここで一度ほぼSFになるが、最終話では突然、学園祭のステージに回帰し、登場人物たちが「聞こえない拍手」の中で和解する構成が採られた。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、表向きは無口な優等生であるが、実際には他者の会話の欠落部分を見抜く異能を持つ。連載後半では、彼女の沈黙が「自己防衛」ではなく「都市に選ばれた記録媒体」であったことが判明し、読者の評価が二分された。
は澪の同級生で、全編を通して最も常識的な人物として描かれるが、なぜか毎回異なる部活の腕章を付けている。公式設定集によれば、これは「学校空間の重複を示す演出」とされるが、単に作画ミスを後付けしたのではないかという指摘もある[4]。
は外郭班の主任研究員で、黒いネクタイを外した場面が一度もない。彼の「会話は記録より遅い」という台詞はシリーズ屈指の名言として知られ、連載中に文房具メーカーのキャッチコピーへ転用された。
用語・世界観[編集]
作中における「V:oid」は、単なる空白や欠損ではなく、情報が失われる直前に生じる緩衝領域とされている。これはの地下通信網、学校放送、海底ケーブル、古いカセットテープなど、記録媒体の境界に発生し、そこへ入った情報は一時的に無音化される。
また、「欠音」は人間の声だけでなく、交通標識、テレビ字幕、郵便番号の一部にまで及ぶ現象であり、シリーズ後半ではの埋立地全体が半日ほど「地図上で存在しない状態」になった。作中ではこれを「都市の呼吸停止」と説明しているが、なぜか翌週には何事もなかったように再開されている。
星陵学園の校舎には、地下に十三番目の階段が存在するとされる。これについては作中で明確な説明がなく、ファンの間では「第9巻以降にだけ見える階段」と呼ばれている。なお、アニメ版ではこの階段が毎回少しずつ長くなっており、作画班の執念がうかがえる。
書誌情報[編集]
単行本はのCSコミックスより刊行された。初版帯には「声をなくした少女が、都市の秘密を聴く」とのみ記され、帯文の異様な簡潔さが逆に話題となった。
第1巻から第4巻までは初版部数が各6万部程度であったが、第5巻の発売時にアニメ化告知が重なり、重版が連続したとされる。第8巻特装版には、作中の「無音ページ」を再現した透明インクのしおりが付属し、書店スタッフが検品に最も苦労した巻として有名である。
また、完全版は全7冊に再編集され、各巻末に作者のメモが付された。そこには「澪は喋らないのではなく、都市が彼女に先に喋ってしまう」といった断片的な記述が残されている。
メディア展開[編集]
2019年には系列にてテレビアニメ化され、全24話で放送された。アニメ版では、欠音表現を可視化するために画面の一部を意図的に白飛びさせる特殊処理が採用され、深夜帯にもかかわらず録画率が高かったとされる。
さらに、2021年には舞台化され、客席の一部に無線イヤホンが配布される実験的な演出が行われた。観客が聞こえる音と聞こえない音を選べる構成で、上演後には「自分だけ別の物語を見ていた気がする」という感想が多数寄せられた。
そのほか、スマートフォン向け音声連動アプリ、朗読劇CD、の地下書店と連携したスタンプラリーなど、メディアミックスは異様に多岐にわたる。なかでも、無音のまま完走すると限定壁紙が解放されるゲーム企画は、操作性より忍耐力が問われるとして一部で伝説化した。
反響・評価[編集]
本作は、思春期の孤立感を都市伝説の形式で描いた点が高く評価され、ではない架空の団体「新世代表現推進委員会」から2019年度の特別賞を受賞したとされる。レビューでは「設定の密度に対して説明が少ない」「なのに理解した気になる」といった感想が多く、批評家のあいだでも賛否が分かれた。
一方で、終盤の急転直下な和解展開については、「収拾ではなく、見えなくなることで解決したように見せた」との指摘がある。また、最終巻のあとがきに「登場人物たちは全員、都市のバックアップである」と書かれていたため、ファンのあいだで数週間ほど解釈戦争が起きた。
社会的影響としては、若年層のあいだで「#欠音」「#Voidで会おう」といったタグが流行したほか、の一部書店では無音で接客する試みが行われた。もっとも、これは2日で終了している。
脚注[編集]
[1] 連載誌および作者情報は、『月刊コンプレス・ストリーム』2014年5月号の創刊告知記事による。
[2] 累計発行部数は、2018年12月時点の広報資料に基づくとされる。
[3] 霧島彗インタビュー「沈黙を描くための沈黙」『文藝架空』第18巻第4号、pp. 44-49。
[4] 設定集『一乗澪(V:oid) COMPLETE FILE』では、キャラクターの腕章差異について「空間の重複表現」と説明されている。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 霧島彗『一乗澪(V:oid) 1』新星創刊社、2014年。
- ^ 佐伯倫太郎「欠音表現の系譜」『現代漫画研究』Vol. 12, No. 3, pp. 88-101, 2017.
- ^ M. Thornton, “Silence as Interface in Contemporary Japanese Comics,” Journal of Visual Narratives, Vol. 9, No. 2, pp. 31-57, 2020.
- ^ 藤堂みどり『学園異界論』青嶺書房、2019年、pp. 112-139.
- ^ 北条一成「V:oid記号論と都市空白」『情報文化学報』第22巻第1号、pp. 5-19, 2018.
- ^ 霧島彗・編集部編『一乗澪(V:oid) COMPLETE FILE』新星創刊社、2021年。
- ^ A. Keller, “Broadcasting the Missing Voice,” Media Theory Quarterly, Vol. 5, No. 4, pp. 201-223, 2021.
- ^ 久世あかね『無音ページの技法』月虹出版、2022年、pp. 17-29.
- ^ 石黒冬馬「少女と空白区画」『架空青年』第31巻第6号、pp. 2-14, 2019.
- ^ 霧島彗『一乗澪(V:oid) 11』新星創刊社、2020年。
外部リンク
- 新星創刊社公式作品ページ
- 月刊コンプレス・ストリーム特設サイト
- 一乗澪(V:oid)アニメ公式アーカイブ
- 欠音研究室データベース
- 深波テレビ 深夜アニメ枠案内