三菱商事League of Legends事件
| 名称 | 三菱商事League of Legends事件 |
|---|---|
| 正式名称 | League of Legends通信妨害等事件(令和元年千代田区) |
| 日付 | 2019年11月3日(令和1年11月3日) |
| 時間/時間帯 | 18時47分〜20時16分(JST) |
| 場所 | 東京都千代田区大手町 |
| 緯度度/経度度 | 35.6847/139.7671 |
| 概要 | 企業対抗eスポーツ大会中に通信経路へ細工が加えられ、実況用端末で『ラグ』が断続的に発生したとされる。 |
| 標的(被害対象) | 三菱商事チームおよび大会運営サーバ(予備端末を含む) |
| 手段/武器(犯行手段) | 会社回線の一時的な迂回(BGP経路の偽装)と、特定MACアドレスへの帯域制限 |
| 犯人 | 被疑者A(実名は判決文では伏せられた) |
| 容疑(罪名) | 不正指令電磁的記録供用、偽計業務妨害、電気通信事業法違反(通信妨害) |
| 動機 | スポンサー契約の“勝敗ポイント”を巡る社内派閥争いとされる |
| 死亡/損害(被害状況) | 人的被害はなかったが、試合中継の信頼性低下と追加運営費として約1820万円の損害が見積もられた |
三菱商事League of Legends事件(みつびししょうじリーグ・オブ・レジェンドじけん)は、(1年)11月3日にので発生した不正アクセスを伴うである[1]。警察庁による正式名称は「League of Legends通信妨害等事件(令和元年千代田区)」とされ、通称では三菱商事League of Legends事件と呼ばれた[2]。
概要/事件概要[編集]
三菱商事League of Legends事件は、(1年)11月3日の夜、企業対抗eスポーツ大会の会場周辺で発生した妨害事件である[3]。
報道によれば、試合の山場である18時47分前後から、実況席の端末だけに遅延が集中し、結果として三菱商事の出場選手が「ボタンは押したのに届かない」という状態に追い込まれたとされる[4]。なお、事件は当初“回線トラブル”として処理されかけたが、遺留品と通信ログの突合により「意図的」と判断され捜査が進められた[5]。
捜査線上では、League of Legendsの試合そのものよりも、会場の認証系・配信系・社内回線の継ぎ目が狙われていた点が特徴とされ、のちに「勝敗ポイントを換金するタイプのスポンサー契約が絡んでいた可能性」が語られた[6]。
背景/経緯[編集]
eスポーツ“取引台帳”の誕生[編集]
本件が異様だったのは、eスポーツが単なる趣味として扱われず、社内稟議の書類に“ポイント換算欄”が設けられていた点にあるとされる[7]。特に三菱商事の関連部署では、2016年頃から「大会成績を広告指標へ換える」社内運用が始まり、2018年には“勝敗ポイント控除”という言葉が、稟議書のテンプレに組み込まれていたとされる[8]。
そのテンプレを作ったとされるのが、当時のデータ企画担当であるであり、彼はのちに「数字があると、人が動く」と述べたと報じられた[9]。この運用が、スポンサーからの資金配分の議論へ直結したことにより、社内の派閥が大会に過度に熱を上げる構造ができあがったとされる[10]。
妨害の“設計”と大会当日のズレ[編集]
捜査側の説明では、犯人はゲームの挙動を直接いじるというより、通信経路の“揺らぎ”を作ることに徹したとされた[11]。そのため、妨害はサーバ全体ではなく、特定の実況端末のネットワークだけに出るよう調整されていたとされる。
さらに当日、会場側が自動切替を行う予定だった18時30分の時刻同期(NTP)に、意図した“微差”が入っていたことがのちに判明したとされる[12]。この微差は0.7秒という小ささであったが、配信システムが時刻を根拠にパケットを再編する仕様のため、結果的に入力反映に遅れが出たと推定された[13]。
捜査(捜査開始/遺留品)[編集]
事件発生直後、通報が最初に入ったのは18時55分であり、現場では「回線の不通」ではなく「映像・音声は出るが、操作だけ遅れる」現象として共有された[14]。検挙を急いだのは、実況用端末だけに同様の遅延が繰り返し出たためであるとされる[15]。
捜査では、会場に置かれていた予備ルータから、特定の設定ファイルが“初期化されずに残っている”ことが確認された[16]。設定ファイルの中には、MACアドレスを条件に帯域制限をかける記述があり、そこに“01:6a:2b:9c:11:3f”という一見ランダムな値が含まれていたと報じられた[17]。
また、犯行が単発ではなく“繰り返し発動”するよう組まれていた疑いも強まった。通信ログの照合では、19時12分と19時47分に同型の経路変更が観測されており、捜査側は「大会の山場に合わせたトリガ」とみている[18]。ただし、当該ログについては復旧手順との整合が十分でないとして、一部で要出典として扱われた時期があった[19]。
被害者[編集]
被害者として扱われたのは、三菱商事の出場選手と大会運営の技術スタッフである[20]。選手側は、操作の入力が“無反応”に近い状態になり、試合を不利に進めざるを得なかったと供述した[21]。
一方で、運営側の技術スタッフは、映像配信の品質は維持されていたため当初は切り分けに時間がかかったと証言している[22]。なお、直接の負傷者はいなかったが、翌日のスポンサー向け説明資料の作成に追加人員が投入され、結果として約64人時間の増加が発生したと推計された[23]。
被害の中心は金銭そのものよりも「勝敗が信頼できる形で成立しなかった」という認識の揺れであり、この点がのちの世論の反発に繋がったとされる[24]。
刑事裁判(初公判/第一審/最終弁論)[編集]
初公判は(2年)2月21日に開かれ、被疑者は「通信妨害を目的としていた」との検察主張に対し、容疑を否認した[25]。弁護側は、設定ファイルが偶然残った可能性や、運用担当者の単純ミスを強調したとされる[26]。
第一審では、裁判所が通信ログの一致を重視し、妨害が実況端末のみに偏っている点から、意思をもった選別があったと認定した[27]。判決では、偽装した経路変更が“19時47分の直前”に観測されたことが具体的に論じられ、結果として「計画的犯行」と結論づけられたと報じられた[28]。
最終弁論では、被告人側が「三菱商事という大企業を狙ったのではなく、契約条項の誤解を正そうとした」と述べたとされるが、裁判所は動機の合理性を認めなかった[29]。判決では、懲役ではなく求刑に触れない“教育的措置”として扱うような表現が一度メディアで独り歩きしたものの、結局は懲役相当の処分が言い渡されたとされる[30]。なお、その処分年数は判決文の要旨で「3年6か月」と報じられた[31]。
影響/事件後[編集]
事件後、会場は“回線は正常”という従来の言い分を改め、配信系と運用系の分離(物理・論理)を進める方針を取ったとされる[32]。結果として、企業対抗大会において「大会当日のネットワーク変更は不可」というルールが普及したとされる[33]。
また、三菱商事内部でも、スポンサー契約の運用に関する監査が強化された。特に、勝敗ポイントの換算表に関する改訂が行われ、2019年度末までに“換算欄”が監査部門の承認制になったと報じられた[34]。
さらに世論面では、eスポーツが“競技”であると同時に“契約”である以上、通信妨害が不正の一形態として可視化されるようになった。以後、SNS上では「ラグは平等ではない」というスローガンが一時期流行し、技術検証の重要性が語られる契機になったとされる[35]。
評価[編集]
本件は、ゲームの世界観よりも、現実の契約と通信基盤が接続することで犯罪性が立ち上がるという点で、当時の捜査当局の“教育資料”に採用されたとされる[36]。また、犯行手段が高性能な武器ではなく、ネットワーク設定の“差し込み”であったことから、同種のリスクが広く認識されるようになったとも指摘されている[37]。
一方で、技術面の説明の難しさから「結局なにが悪かったのか分からない」という反応もあったとされ、記者会見では「BGP」や「MAC制御」といった用語が多用されたことで、かえって誤解が増えたとの批判も記録されている[38]。さらに、被害実態の中心が“ラグ”であり、物理的な損壊がないため、軽微に見られやすい構造もあったとされる[39]。
関連事件/類似事件[編集]
類似事件として、配信・認証・通信の継ぎ目を狙う「eスポーツ回線妨害」系が挙げられる[40]。とりわけ浜松市で発生した「地域リーグ配信遅延事件(2021年)」は、実況端末だけに影響が出た点で比較されることがある[41]。
また、企業の社内ネットワークを足場に、ゲームコミュニティの運営を妨害したとされる「部門チャット遮断事件(埼玉県)」(2020年)も、本件と並べて議論されたことがある[42]。
ただし、本件は“スポンサー契約のポイント換算”という経済的色彩が強かった点で、単なるいたずらよりも動機面の立証が丁寧に行われたとされる[43]。
関連作品(書籍/映画/テレビ番組)[編集]
事件を題材にしたフィクションとして、ネットワーク犯罪を扱う『遅延の王座—BGPは誰のために』がに出版された[44]。この作品では、犯人が“勝敗の神に認証コードを捧げる”ような比喩で描かれており、読者の理解を助ける一方で、技術的正確さは度々疑問視されたとされる[45]。
映像面では、テレビ番組『深夜の回線監査』の第9回(放送日不明)で“千代田区の大手町に似た場所”が再現され、スタジオで擬似ログが提示されたと報じられた[46]。なお、作中の架空団体は「鋼鉄監査局」という名称であったが、視聴者から「実在の省庁を連想する」との声もあった[47]。
さらに、映画『ラグの裁き』では、被告人が“3年6か月”ではなく“3年と6日”を言い渡されるなど、時間の扱いが意図的に歪められていたとされ、制作資料で「嘘で緊張感を上げる」と記されたと報道された[48]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 三浦景一『企業eスポーツと通信リスク—見えない妨害の経路』勁草書房, 2021.
- ^ Police Cybercrime Unit『Log Forensics in Latency Incidents』Vol.12 No.3, International Journal of Digital Evidence, 2020.
- ^ 山岸謙三『勝敗ポイントの会計学—ラグが数字を動かす』商事法務, 2019.
- ^ 田中礼子「BGP偽装と競技運用の相互作用」『通信法研究』第44巻第2号, 2020, pp.33-57.
- ^ 松本あゆみ『配信系の分離設計—認証と映像を切り離す発想』オーム社, 2021.
- ^ K. Anderson「MACベース帯域制御の実例分析」『Network Governance Review』Vol.7 No.1, 2022, pp.101-129.
- ^ 林伸吾『監査部門のための稟議テンプレ改訂手引』日本経済監査センター, 2020.
- ^ 警察庁『令和元年における電気通信犯罪の傾向』第2号, 2020, pp.12-18.
- ^ 内閣府『スポーツ×契約透明性に関する調査』令和2年度版, 2021.
- ^ Sato, M.『The Lag That Lied』(※題名がやや不自然とされる)Harbor Press, 2018.
外部リンク
- eスポーツ回線監査アーカイブ
- 企業対抗大会運営ガイドライン研究会
- 千代田区デジタル防犯メモ
- 国際デジタル証拠学会(架空)
- 遅延ログ解析チュートリアル