五香
| 名称 | 五香 |
|---|---|
| 読み | ごこう |
| 英語表記 | Gokō |
| 起源 | 後漢末期の香官制度 |
| 主要構成 | 木質香・樹脂香・辛香・甘香・冷香 |
| 成立時期 | 紀元後2世紀頃 |
| 標準化機関 | 東亜香気協議会 |
| 代表的文献 | 『五香考定録』 |
| 用途 | 儀礼、保存、看板、教育 |
五香(ごこう)は、を五種に限定して配合することで成立するの体系である。で成立したとされるが、現在ではの一部業界で独自の発展を遂げたとされている[1]。
概要[編集]
五香は、香りを五つの基調に分解し、互いの干渉を最小限に抑えることで「輪郭のある香り」を作る技法である。元来はの宮廷で、文書の防虫と儀礼を両立させるために考案されたとされる。
現代の五香は、単なる香料配合ではなく、・・などの都市部で、店舗演出や展示設計に応用されている。また、香りの配分を五段階で管理するため、調香師の間では「半分は数学、半分は気合」とも呼ばれている[2]。
歴史[編集]
後漢末の香官制度[編集]
五香の起源は、の宮廷に置かれた架空の官職「香官」に求められることが多い。『後漢香務志』によれば、、宮中の倉庫で薬草と衣装が混在し、記録帳が虫食いで読めなくなる事故が相次いだため、の製紙法を応用した防香紙とともに、香りを五分類する規定が導入されたという。
このとき定められた五分類は、木質、樹脂、辛香、甘香、冷香であり、各宮殿でこれ以上の種類を混ぜることが禁じられた。なお、冷香は本来「冬の石床に残る余韻」を指した語であったが、後世になってミント系統に転用されたとされる。
唐代の標準化と渡来[編集]
五香が広く普及したのは代である。長安の香舗では、貴族ごとに好みが異なり配合が際限なく増殖したため、年間にの前身とされる「五香司校」が設立された。ここで、香料を五つに厳密化することで、輸送中の変質率が17%から4%へ下がったという記録が残る[3]。
この制度はを通じてにも伝わったとされ、では香合わせの作法と結びついた。ただし、当初は貴族社会で「五つ以上を混ぜると神経が散る」と信じられており、記録にはの名を借りた香の評点表まで見える。これは後世の写本で混入した可能性がある。
近代工業化と再解釈[編集]
後期になると、五香は香木や線香の規格名として再編された。とくにの港湾倉庫では、積み荷の破損を防ぐために五香ラベルが導入され、職員が色分けされた札を付けていたという。これにより、香りの系統と物流管理が事実上同一視されるようになった。
にはの准教授とされるが、五香を「香気の五角形」として図式化し、今日の教育用チャートの原型を作った。もっとも、黒川の論文『五香幾何学試論』は刊行部数が42部しかなく、現存確認できるのは3部のみである[4]。
構成と分類[編集]
五香の基本構成は、木質香・樹脂香・辛香・甘香・冷香の五系統である。これらは固定的な成分ではなく、香料の温度、湿度、器具の材質によって相互に入れ替わることがあるため、実務上は「五香状態」と呼ばれる可変的概念で扱われる。
五香協会の内部文書では、各香系統に1から9までの等級が付されており、合計が27点を超えると「過香」と判定される。ただし、の一部商店では、あえて29点まで盛ることで「記憶に残る匂い」を演出する慣習があるとされる。
また、五香は料理や宗教儀礼にも転用された。とくに系移民の間では、五香は「料理の性格を決める骨格」とみなされ、煮込み、燻製、茶葉、乾物、果皮の五層に分けて語られることが多い。
社会的影響[編集]
五香は、単なる香料規格にとどまらず、都市の消費文化に影響を与えた。のでは、デパートが「五香の階」を設け、各階で異なる香調を流すことで客の滞在時間を平均11分延ばしたと報告されている[5]。
また、の一部高校では、理科教育の補助教材として五香チャートが用いられ、分子構造より先に「匂いの相性」を覚えさせる授業が行われた。これについては学力向上に寄与したとする報告と、受験生が香水売り場から帰ってこなくなったとする報告があり、評価は分かれている。
一方で、五香の標準化は地域性を奪うとの批判もあった。とくにの老舗香舗からは「五つに切り分けた瞬間に余白が死ぬ」との声明が出され、これが後の“六香派”結成の直接の契機になったとされる。
批判と論争[編集]
五香をめぐる最大の論争は、「五」という数字が本質的かどうかである。保守派は、五感・五行・五徳との整合を根拠に五固定説を唱えるが、革新派は「香りは連続量であり、五は便宜上の切断にすぎない」と反論している。
にはが第12回年次総会で六香案を審議したが、会場で試香紙が不足し、議論が45分で打ち切られた。この出来事は「紙が足りずに香学が停滞した例」として、今なお半ば伝説化している。
なお、五香の起源をめぐる文書の多くは末の模写とされ、真正性には疑義がある。ただし、疑義があるにもかかわらず全員が便利なので使い続けている、という点で、五香はきわめて現代的な制度でもある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 黒川修一郎『五香幾何学試論』東京帝国大学香気研究室, 1931.
- ^ 劉 芳『後漢香務志 校勘本』中華書局, 1974.
- ^ Margaret L. Henshaw, "Fivefold Aroma Systems in East Asian Court Culture," Journal of Comparative Olfaction, Vol. 8, No. 2, 1989, pp. 41-79.
- ^ 田辺 宗一『香りの五分類と都市空間』岩波書店, 2002.
- ^ Chen, Wei-Jung, "The Standardization of Gokō in the Tang Period," Asian Material Cultures Review, Vol. 14, No. 1, 1997, pp. 113-146.
- ^ 小野寺 みさ子『五香と日本中世の香合わせ』平凡社, 1988.
- ^ Hirokazu Sato, "A Note on Cold Fragrance and Winter Stone Floors," Proceedings of the Society for Imaginary Aromatics, Vol. 3, No. 4, 2005, pp. 201-214.
- ^ 『東亜香気協議会年報 第12号』東亜香気協議会事務局, 2008.
- ^ 渡辺 恒一『港湾倉庫における香気ラベル管理史』神戸港湾史料館叢書, 2011.
- ^ M. A. Thornton, "On the Miscount of Five in Perfume Taxonomy," The Review of Sensory Systems, Vol. 19, No. 6, 2016, pp. 77-88.
外部リンク
- 東亜香気協議会デジタルアーカイブ
- 香気分類研究所
- 五香文化資料館
- 洛陽香務史料館
- 香りの五分類オンライン