人妻の前原誠司さんとあまあまえっち♡(同人誌)
| ジャンル | 成人向け・政治風刺・擬似自伝 |
|---|---|
| 題材 | 婚姻生活、選挙区、空想上の秘書文化 |
| 初出 | 2011年夏 |
| 頒布開始 | コミックマーケット80系統の地方巡回即売会 |
| 制作 | サークル『甘味前線』 |
| 作者 | 藤堂 しずく |
| 判型 | A5判・36頁前後 |
| 発行部数 | 初版推定4,800部 |
| 特徴 | 実在人物名を用いたが内容は完全な架空設定 |
人妻の前原誠司さんとあまあまえっち♡(同人誌)は、の同人即売会を中心に流通したとされる成人向け漫画作品群である。一般には政治風刺と恋愛劇の境界を横断した異色のとして知られている[1]。
概要[編集]
本作は、という実在政治家の姓名を借りつつ、架空の人妻キャラクターとの関係を描いたとされるである。頒布当初は恋愛作品として扱われたが、後年になって政治用語の誤読、地元同人誌文化、匿名掲示板の拡散が重なり、半ば都市伝説化した[2]。
作品の基本構造は、地方選挙の後援会事務所を舞台に、主人公の“誠司さん”が「家庭」と「公務」の両立に失敗しつつ、毎号異なる人妻と“あまあま”な関係を築くというものである。ただし、作中の人妻は全員が実在人物とは無関係であり、名刺や選挙ポスターの質感だけを過剰に再現した点が特徴とされる[3]。
成立の背景[編集]
成立の背景には、後半の関西圏同人文化における「実録風フィクション」の流行があったとされる。とりわけとの小規模即売会では、政局、家族、地方新聞の見出しを素材にしたパロディが増えており、本作はその極点に位置づけられることが多い。
サークル『甘味前線』の主宰である藤堂しずくは、当初は純文学調の全年齢本を制作していたが、2010年冬にの印刷所で誤って発注したピンク地の表紙在庫をきっかけに作風を転換したとされる。この逸話は本人が複数のトークイベントで語ったとされるが、記録媒体ごとに内容が微妙に異なるため、信憑性については一部で議論がある[4]。
作品の特徴[編集]
表現手法[編集]
本作の最大の特徴は、官公庁文書のような硬い語り口と、極端に甘い台詞回しを同居させた点である。たとえば、冒頭では「事務局長席の右側に置かれた湯のみ」から場面が始まる一方、次頁では「今日は残業を減らして、あたしを優先してね」といった台詞が挿入される。この落差が、読者に独特の笑いと困惑を同時に与えたとされる。
また、1ページあたりのコマ数が平均6.2コマとやや少なく、代わりに注釈欄が異様に長い。注釈には「この時点での選挙区外人口推計」や「方面からの交通事情」など、本筋と関係の薄い情報が書き込まれており、編集協力者の一人が統計好きだったことが原因とされている。
作中の“人妻”像[編集]
作中に登場する人妻は、いずれも料理、家計、地域行事に異様に詳しい設定で統一されている。各話のヒロインは毎回異なるが、全員がなぜか「前のめりに保険証をしまう」「自治会の回覧板を片手で捌く」といった共通の所作を持ち、同人界隈では“生活動作の過剰なリアリティ”として評価された。
一方で、読者からは「人妻である必要性が薄い」との指摘もあり、2013年頃には『人妻成分より選挙事務所成分が濃い』というレビューが掲示板で定着した。これを受け、後期版では“妻の手作り弁当”の描写が3倍に増えたが、結果として弁当の種類だけが妙に細分化され、総菜分類集のようになった。
頒布と流通[編集]
初版はの委託書店2店舗と、で開催された大型即売会の一角で頒布された。初動は控えめであったが、サークルスペースの掲示に「前原さん」とだけ大書されたことが話題となり、会場内の通行人が誤って政治団体の配布物と見なしたという逸話が残る。
その後、地方巡回即売会や通販サイトを経由して、2012年末までに累計1万2,300部を記録したとされる。なお、頒布数の推定には、返品扱いとなった“表紙折れ品”や、差し替え用の無地カバー本を含むかどうかで数値が変動しており、統計上は3種類の数字が併存している[5]。
批判と論争[編集]
本作は、その題名に実在人物の姓名が含まれることから、当初より賛否が分かれた。とくに内の一部書店では、政治的誤解を避けるため棚差しを断ったとされ、これに対して同人側は「作品はあくまで架空の誠司さんである」と説明したが、説明文が逆に現実味を増したため火種が残った。
また、2014年には匿名掲示板上で、作品内の“人妻”が特定の選挙区支援者をモデルにしているという噂が流れた。しかし後に、作中人物のモデルはの駅前で配布されていた無料占い冊子に由来することが判明し、噂は収束したとされる。もっとも、この説明も一次資料が薄く、要出典とみなす編集者も多い。
社会的影響[編集]
社会的影響としてしばしば挙げられるのが、地方即売会における“政治名詞を含む作品タイトル”の増加である。本作以降、サークル名や作品名に議員名、駅名、庁舎名を織り込む手法が流行し、2010年代半ばにはの小規模イベントで約17%の新刊が何らかの公的固有名詞を含むようになったという調査がある[6]。
また、作品の影響での印刷所では、選挙期間中に限り「赤・白・青」の三色刷りを控える内規が作られたともいわれる。これは本作の表紙が、たまたま選挙ポスターに酷似していたためで、印刷所の現場では“成人向けなのに広報物扱い”という珍事として語り継がれている。
制作関係者[編集]
藤堂しずく[編集]
作者とされる藤堂しずくは、の美術系サークル出身とされる人物である。もともと作画よりもレイアウトに定評があり、後年のインタビューでは「人物よりも余白を描いていた」と述べたとされる。もっとも、同名の別人が複数存在する可能性も指摘されており、実在性の確認は難しい。
なお、藤堂は本作以降、政治・家族・夜食を主題にした“生活高揚系”の作品を毎年1冊発表したが、いずれも本作の影響から逃れられず、読者からは「すべて前原シリーズの変奏」と総括されている。
編集・校正[編集]
校正協力には、元地方紙記者の、デザイン担当の、会計処理を担当したというがいたとされる。特に西村は、本文中の敬語表現を3回にわたって修正し、結果として台詞の甘さが増したとされる。
また、表紙の箔押しは当初“うるし風”で発注されたが、実際には食玩用のフィルムが用いられ、内の一部書店では「やけに光る政治本」として展示された。こうした細部の不一致が、かえって熱心なファンの考察欲を刺激した。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 藤堂しずく『甘味前線活動報告 2011-2014』私家版, 2015.
- ^ 西村健吾『地方即売会と政治固有名詞の受容』京都出版会, 2016.
- ^ M. H. Sato, “Parody and Civic Imagery in Kansai Dōjin Circuits,” Journal of Japanese Popular Media, Vol. 12, No. 3, pp. 44-69, 2018.
- ^ 水野遥『表紙デザインの誤配と読者反応』関西同人文化研究所紀要, 第8巻第2号, pp. 113-130, 2017.
- ^ 田中理恵子『成人向け同人誌における擬似行政文体』表現研究, 第21号, pp. 5-28, 2019.
- ^ A. Thornton, “The Sweetening of Political Names in Amateur Comics,” Review of East Asian Aesthetics, Vol. 4, No. 1, pp. 201-219, 2020.
- ^ 黒田一真『選挙区と恋愛劇の相互干渉』大阪文化社, 2021.
- ^ 佐伯みのり『前原シリーズの成立と崩壊』洛陽書房, 2022.
- ^ H. Fujisawa, “On Married Women and Campaign Offices: A Field Study,” Bulletin of Fictional Studies, Vol. 9, No. 2, pp. 77-95, 2023.
- ^ 『人妻の前原誠司さんとあまあまえっち♡(同人誌)』作品解説リーフレット, 甘味前線, 2012.
外部リンク
- 甘味前線アーカイブ
- 関西同人文化資料室
- 架空選挙表現研究センター
- 即売会年鑑オンライン
- 地方パロディ作品索引