六甲特別競技車両
| 用途 | 山岳周回競技・特別区間走行 |
|---|---|
| 管轄 | 六甲競技車両審査連絡会 |
| 主な開催地 | 東麓特別路・西麓集会所周辺 |
| 区分 | A〜Dの4カテゴリ |
| 識別方式 | 車体側面の「R-斜格子」刻印 |
| 最低装備 | 二重冷却・制動温度記録器 |
| 登録基準 | 年1回の現車適合審査 |
| 運用開始とされる時期 | 40年代後半 |
(ろっこうとくべつきょうぎしゃりょう)は、の周辺で実施される競技会向けに仕様が指定された車両群である。登録制度と整備要件が一体化して運用される点が特徴とされている[1]。
概要[編集]
六甲特別競技車両は、山岳地形に適した加減速性能と制動の熱マネジメントを中心に、競技会の安全と公平性を両立させるために設計された「特別仕様車両」とされる。特にの湿潤な季節と落石対策を想定した要件が多く、単なる速さよりも「終盤の挙動の再現性」が評価軸として扱われてきたと説明される。
制度上はが登録と適合審査を所掌するとされ、車体側面の刻印(通称「R-斜格子」)と、制動温度記録器の自己診断結果が提出書類に組み込まれている。なお、登録車両には整備記録簿が義務化され、整備士の署名欄が運転席側の見える位置に配置される点が、一般車両とは異なる特徴として挙げられている[2]。
名称と定義[編集]
名称の「六甲」は開催地の伝統的呼称から来たとされる。一方で「特別競技車両」は、通常の競技車両が満たす最低条件に対して、(1)制動温度の記録、(2)冷却系の冗長化、(3)車体下部の飛散抑制、(4)夜間視認性の統一、の4点を追加で要求する制度を指すと整理されている。
ただし定義は時期により微修正が繰り返されており、初期の要件では「下部飛散抑制」の代わりに「登板開始時の燃料蒸発量の上限」が採用されていたとも言及される。この蒸発量は、当時の審査会が会場建屋の空調技術者と共同で、温度計算の誤差が最小となる条件を選んだ結果であるとされるが、一次資料の所在は研究者間で一致していないとされる(要出典)。
また「車両群」と表現されることから、車種そのものは限定されない。実務的には、骨格の材質と熱容量の設計思想が近い車両が集められ、結果として同じような見た目(箱形の冷却ダクトと、赤い補助ブレーキキャップ)に収束していったと記述されることが多い。
歴史[編集]
前史:六甲山の「減速文化」[編集]
六甲特別競技車両が生まれる契機として、1960年代の「山岳試走の事故統計」が挙げられることが多い。ところが当時の統計は、単に衝突や転倒を数えるだけでなく、「ブレーキの戻りが遅い車両」だけを抜き出して集計した変則表であったとされる。集計担当はに所在したとされる技術事務所の若手職員・で、彼は“止まれないのではなく、止まった後に戻るまでが事故になる”という仮説を持っていたと伝えられる[3]。
この仮説を競技に持ち込むため、試走会では路面勾配と濡れの指数を、当時の気象観測手法に合わせて「濡れ指数Q=(降雨量×霧化係数)/走行速度」としてスコア化した。極端に細かい式として知られたが、結果として審査員が“今年の六甲はどの車が終盤に負けるか”を説明できるようになったとされる。ただし、このQが実測と計算の間で揺れていたことも後年の証言で指摘され、制度の確立に向けた摩擦として語られる[4]。
制度化:R-斜格子と制動温度記録器[編集]
制度化の中心となったのは、と、電子計測器メーカーの共同研究である。要点は、制動温度を“本人の体感”ではなく“機械が言い切る”ところに置かれた。そこで開発された装置が、制動温度記録器(通称「TB-72」)である。TB-72は、ブレーキキャリパ近傍の熱電対を二系統化し、さらに自己診断として「初期段階での零点ドリフト±0.3℃」を毎走の冒頭で確認するとされる。
刻印(R-斜格子)は、登録車両の改造履歴を写真判定するために作られたとも、単なる目印であったとも説明される。前者では、刻印の線幅が0.8mm刻みで設計されており、改造でズレれば写真の照合で弾けるとされた。一方後者では、照合よりも“見た目の統一で士気が上がる”という体育会的な動機があったと主張する声もある[5]。
なお、A〜Dカテゴリ分けは「冷却余裕率」をもとに決められたとされる。冷却余裕率は、想定周回(7周)を走った後の冷却系温度上昇を、計算上の許容上限で割って求める。制度上は小数点第2位まで提出が求められ、提出用紙には“計算が合わない場合は直前整備の記録から遡って説明すること”といった条文があったと記録されている。
現代化:夜間視認性と「回収走行」[編集]
近年の更新では、夜間視認性の要件が強化される。六甲山は夕方の霧が出やすいことで知られ、競技会の運営側は「白さではなく戻りの速さ」を重視したと説明される。具体的には反射材の残光特性を“3.2秒以内に70%まで減衰しないこと”のように定義したとされ、ここが最も細かい部分として語られることが多い。
また、競技車両の運用は“走る”だけでなく“回収する”にも重点が置かれた。路肩に飛散した微細物(路面粉塵)を回収するため、走行後の点検で「集塵フィルタの重量増加が+12.4g以内」であることが求められたとされる。整備チームはこの値が競技会の安全評価に直結すると考え、作業の手順書を独自に作り込んだ。結果として、競技会の外にまで技術文書文化が波及したと記述されることがある。
ただし、この“回収走行”が増えたことで、競技会が本来の速度競技から逸脱しているという批判も出た。とりわけ、Aカテゴリで「走行後30分の保管温度を24±1℃に維持」という規定が追加された回は、参加者のあいだで“競技というより保管の試験”と揶揄されたとも言われる。
仕組みと運用[編集]
六甲特別競技車両は、A〜Dカテゴリに応じて冷却・制動・視認性の要求が変わるとされる。共通要件としては、二重冷却(主系統と緊急系統)と、制動温度記録器による走行ログの提出が挙げられる。審査ではログの“最大値”よりも“立ち上がり速度(dT/dt)”を重視する傾向があり、短時間で極端に温度を上げる走りは不利になると説明される。
運用面では、登録車両は年1回の現車適合審査を受ける。適合審査当日は、車両がコース進入前に行う点検の“開始から完了までの時間”も記録されるとされる。この時間は、過去に整備士の手順がバラつき、同じ車両でもブレーキの初期条件が変わったことが原因になったとされる[6]。そのため、手順書には工具の並べ方まで指定があり、六角レンチは左から2番目に置く、というような細則があると紹介されることもある。
さらに、審査会の当日運営には「六甲路面管理ユニット」が協力するとされる。このユニットはの道路管理部署と連携し、競技当日の路面の乾湿を“グリーン(乾)/イエロー(微湿)/レッド(湿潤)”の3色で報告する。車両側は色に応じて制動の介入タイミングを調整することが許可され、結果として同じ仕様でも走りの解釈が変わったとされる。
六甲特別競技車両のカテゴリ(A〜D)[編集]
Aカテゴリは「熱余裕優先」とされ、制動温度記録器の閾値が最も緩い代わりに、冷却系の応答時間が厳密に管理されるとされる。Bカテゴリは「減衰形状優先」で、dT/dtの滑らかさが評価軸になりやすい。Cカテゴリは“路面粉塵対策”が目立ち、集塵フィルタや下部飛散抑制の要件が細くなる。Dカテゴリは“夜間安全優先”で、反射材の残光特性や、灯火の配置の自由度が小さいとされる。
ただし公式には、カテゴリは“戦力の序列”ではないと明記されることが多い。一方で参加者の間では、実際の競技ではAが予選向け、Dが総合向け、という半ば俗説が広まったとされる。特にある年、Dカテゴリの車両だけが霧の強い区間で安定したため、翌年にはDを“霧の盾”と呼ぶ人まで現れたとされる。なお、その“盾”という比喩がどの資料から出たのかは、編集者によって記述が揺れる点がある(要出典)。
批判と論争[編集]
六甲特別競技車両には、制度が複雑化しすぎたという批判がある。具体的には、ログ提出に伴う書類作成が負担になり、特に中小チームでは“走るより書く”状態が常態化したと指摘される。さらに制動温度記録器の校正手順が細かいことから、校正要員の確保が競技力そのものを左右してしまうとの見方もある。
一方で擁護側は、安全のための合理性を強調する。制動温度を客観化したことで、運転手の熟練度による“事故の見落とし”が減ったという。加えて、記録器TB-72の二系統化は、単一センサの故障時にログを無効化する設計になっており、誤判定が起きにくいとされる[7]。
また、夜間視認性要件が過度に進んだ結果、灯火の個性が削がれるという文化的批判も出た。実際、過去にDカテゴリの車両デザインが“同じ顔に見える”と評された写真が拡散し、六甲特別競技車両が「規定に勝つ競技」になっているという論調がしばらく続いたとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 六甲競技車両審査連絡会「六甲特別競技車両の登録要領(改訂第3版)」六甲競技車両審査連絡会, 1971.
- ^ 渡辺精一郎「山岳走行における制動“戻り遅れ”の仮説」『日本自動車運動学会誌』第18巻第2号, 1969, pp. 33-41.
- ^ R. T. Caldwell, “Thermal Logging for Brake Consistency in Inclined Circuits,” Vol. 12, No. 4, Journal of Track Dynamics, 1974, pp. 201-219.
- ^ 田中理恵「R-斜格子刻印の照合手法と写真判定」『計測技術年報』第9巻第1号, 1982, pp. 10-24.
- ^ K. Nakamura and J. S. Miller, “Red/Yellow/Green Surface Classification for Racing Operations,” Vol. 5, Issue 2, International Journal of Road Metrology, 1989, pp. 77-95.
- ^ 六甲路面管理ユニット「競技当日路面色報告の運用実態」『道路管理研究報告』第41号, 1996, pp. 55-63.
- ^ 藤堂康太「TB-72制動温度記録器の自己診断仕様と誤差評価」『計測器システム』Vol. 3, 第2巻第1号, 2003, pp. 1-18.
- ^ International Federation of Alpine Motoring, “Guidelines for Night Visibility in Mountain Competitions,” IFAM Technical Bulletin, 2011, pp. 12-30.
- ^ 中村昭彦「競技制度の過剰複雑化が参加者に与える影響」『スポーツ政策研究』第27巻第3号, 2018, pp. 99-113.
- ^ 佐伯美咲「六甲特別競技車両—現場に残る“細則”の系譜」『自動車文化史叢書』第6巻, 電子書籍出版局, 2021, pp. 201-213.
外部リンク
- 六甲特別競技車両アーカイブ
- TB-72校正手順書ライブラリ
- 六甲路面色報告ダッシュボード(非公式)
- R-斜格子フォトギャラリー
- 六甲競技車両審査連絡会公式運用メモ