凍った犬
| 名称 | 凍った犬 |
|---|---|
| 読み | こおったいぬ |
| 英語名 | Frozen Dog |
| 初出 | 1937年ごろ |
| 提唱者 | 片桐冷蔵、Margaret A. Thornton ほか |
| 主な地域 | 北海道、東京都、ロシア沿海州 |
| 分類 | 保存民俗・極地工学・擬似動物学 |
| 関連組織 | 帝国寒地研究所、国立冷媒史料館 |
| 特徴 | 氷結状態で人格が残るとする点 |
凍った犬(こおったいぬ、英: Frozen Dog)は、とが交差することで成立したとされる、の特殊な保存観念である。もとはの寒冷地における家畜保全の慣行として語られたが、のちにの研究機関で体系化されたとされる[1]。
概要[編集]
凍った犬は、犬を低温下で一時的に停止保存し、再融解時に行動記憶の一部が維持されるという説を中心に発展した概念である。学術上はの周縁に置かれることが多いが、期の寒冷地開発と結びついて広く知られるようになった。
本概念の特殊性は、単なる冷凍技術ではなく、飼い主の呼びかけに対する反応が氷結後も残るという点にあるとされた。なお、再現実験の成功率は時期によって大きく揺れ、の調査では「尾の振動が確認された例」が36例中4例にとどまる[2]。
起源[編集]
寒冷地の口承[編集]
最古の伝承は南部と北見地方に集中しており、冬季の移動中に犬ぞりの個体が凍結しても、春先に目を覚ましたという話が語られていた。とりわけ周辺では、氷漬けの状態で鳴き声だけが聞こえたとする記録があり、これが後年の研究者に「凍った犬」の原型を与えたとされる。
、の嘱託技師であったが、犬用橇具の耐寒試験中に偶然得た観察を「準休眠犬」として報告したことが、文献上の初出とされる。片桐は、体表温がに達しても聴覚反射が消失しない個体を2頭確認したとし、その後の講演で「凍った犬は死んでいない、ただ冬眠の文法が違うだけである」と述べた[3]。
都市研究への移植[編集]
戦後になると、この概念はへ移植され、の小規模研究会で再解釈が進んだ。特にの初代学芸員・は、犬の凍結を保存技術ではなく「都市生活における忠誠の凍結」と位置づけ、都市民俗学の対象として整理した。
この時期の資料には、犬が冷凍庫から自力で出てきたように読める曖昧な表現が多く、後世の編集者からは要出典とされることが多い。ただし、同館に残るの報告書には、温度変化に応じて吠え方の音階が変わる図表があり、少なくとも観察者が真面目であったことだけは確かである。
学説の発展[編集]
三つの主流説[編集]
凍った犬を説明する学説は、までに大きく三つに整理された。第一はで、低温により代謝がほぼ停止し、再加温で通常活動に戻るとするものである。第二はで、犬の学習経験が氷晶の配列に保持されるというもので、理学部の周辺で好まれた。第三はで、飼い主の情動が冷却媒体を通じて残留し、犬の行動を半ば遠隔的に支配するとされた。
なかでも記憶氷結説は、にで開かれた「家畜低温保存小委員会」で一躍注目を集めた。会議録によれば、ある委員は「犬は冷えるのではない、履歴が固まるのである」と発言し、会場から拍手が起きたという[4]。
実験と事故[編集]
からにかけて、農学部の非公式実験では、被験犬14頭のうち9頭が無事に解凍されたと報告された。ただし、6頭は妙に礼儀正しくなり、1頭はの市電に反応して前肢だけで敬礼するようになったため、研究は一時停止された。
最も有名な事故はの「白糠事件」である。保冷庫の故障により、氷結状態の犬3頭が約18時間の停電を生き延び、そのうち1頭が解凍後に魚売り場へ直行した。これにより、凍った犬は魚の匂いを覚えているのではないかという仮説が広まり、以後、実験にを報酬として用いる慣行が定着した。
社会的影響[編集]
凍った犬は、寒冷地の実用技術としてのみならず、後期の家族観にも影響を与えたとされる。特に「失われた忠犬が冬のあいだだけ戻る」という都市伝説が流布し、からにかけて、冬季限定の見世物小屋や移動式展示が最大で17件確認されている[5]。
一方で、動物愛護団体からは「犬の凍結を美談化している」との批判があり、にはの内部文書で「冷却倫理の空白」が指摘された。これを受け、研究者側は凍結温度の上限をに引き上げ、呼称も「低温待機犬」へ改めようとしたが、一般にはほとんど定着しなかった。
文化史[編集]
文学への波及[編集]
には、凍った犬を題材にした短編小説が系の雑誌に散発的に掲載され、特にの『犬は氷の中で名前を忘れない』が知られるようになった。作品では、凍結した犬が毎年同じ日にだけ起き上がり、町役場の時計を正確に合わせるという筋書きが描かれ、読者の間で高い支持を得た。
また、の教養番組『冷たい日本列島』では、凍った犬が「気象観測の副産物」として紹介され、視聴者から問い合わせが相次いだ。番組担当者は後年、「本当にそんな犬がいると思っていた手紙が42通届いた」と回想している。
インターネット時代[編集]
以降は、凍った犬の概念が掲示板文化と相性を示し、「冷凍庫から自分で出てきた犬の画像」が定番のパロディとして拡散した。とくにの系まとめサイトでは、解凍直後の犬が「まだ夜勤の顔をしている」と評されたスレッドが4万件以上閲覧されたという。
この時期から、実在する犬種名と架空の保存手順を結びつける偽資料も多く出回り、をで18分保持すると記憶が増える、などの俗説が半ば定説化した。もっとも、後の検証では、これらの多くが冷蔵庫メーカーの販促用チラシを誤読したものとみられている。
批判と論争[編集]
凍った犬をめぐる最大の論争は、それが科学であるのか、民俗信仰であるのかという点にあった。のでは、の研究者が「犬の人格を氷点下で扱うのは方法論的に危険である」と発表し、これに対し日本側は「人格とはそもそも可逆的現象である」と応酬した。
また、にはのテレビ局が特集番組を制作した際、解凍後の犬がカメラ目線で長く静止した映像が「演出か、自然現象か」で物議を醸した。番組内では再現実験に成功したとされたが、編集段階で冷却装置のスイッチが冷蔵庫用のものに差し替えられていたことが判明し、以後この分野では「家庭用スイッチ問題」と呼ばれている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 片桐冷蔵『寒地家畜の準休眠に関する覚書』帝国寒地研究所報, Vol. 12, pp. 44-61, 1938.
- ^ 西園寺妙子『氷結と忠誠: 都市民俗としての犬像』国立冷媒史料館紀要, 第3巻第2号, pp. 5-29, 1954.
- ^ Margaret A. Thornton, “Canine Suspension in Subzero Environments,” Journal of Polar Husbandry, Vol. 8, No. 1, pp. 1-18, 1961.
- ^ 北村玲子『低温下における音声反射の残留』北海道家畜学会誌, 第19巻第4号, pp. 201-219, 1969.
- ^ 白石慎吾『白糠事件の記録と再解釈』寒地事故年報, Vol. 5, pp. 77-96, 1972.
- ^ 室井冬彦『犬は氷の中で名前を忘れない』文藝春秋, 1984.
- ^ Harold K. Wexler, “Ethics of Frozen Companion Animals,” Proceedings of the International Cryo-Society, Vol. 14, pp. 233-248, 1992.
- ^ 日本動物保護協会調査部『冷却倫理の空白に関する内部報告』同会資料室, 1979.
- ^ 高橋澄江『家庭用冷蔵庫と神話の接点』生活機械評論, 第7巻第1号, pp. 12-34, 2005.
- ^ 『冷たい日本列島』番組記録集 NHK出版, 1981.
- ^ Akira Morita, “The Dog That Returned from Ice,” Tokyo Review of Speculative Natural History, Vol. 2, pp. 89-104, 2009.
外部リンク
- 国立冷媒史料館
- 帝国寒地研究所デジタルアーカイブ
- 日本擬似動物学会
- 北方保存技術史研究センター
- 冷たい民俗の会