別にいいっすよ効果
別にいいっすよ効果(べつにいいっすよこうか、英: Betuni Iisuyo Effect)とは、の用語で、においてがを行うである[1]。
概要[編集]
別にいいっすよ効果は、相手に判断を委ねるように見せながら、実際には場の主導権を一時的に保留する心理的傾向である。主にの口語、とりわけの若年層会話において観察されるとされ、返答の温度を下げることで対立回避と自己防衛を同時に達成する機能を持つ[1]。
この効果は、単なる無関心ではなく、発話者が「断ってはいないが乗るとも言っていない」状態を維持する点に特徴がある。とくにでの買い物、での二軒目提案、周辺の深夜移動など、即答が求められるが責任は負いたくない場面で高頻度に出現するとされる[2]。
定義[編集]
心理学的には、別にいいっすよ効果は、相手の提案に対して受容・拒否の両方を曖昧化することで、発話者の心理的負担を低減する認知バイアスとして定義される。言い換えれば、相手に「好きにしてよ」と返しているようで、実際には「本当にそれで進めるなら後で調整する」という余白を残す応答である。
による2018年の報告では、この効果を示す被験者は、単純な「はい」「いいえ」回答群と比べて、会話終了後の後悔評価が平均で18.7%低い一方、相手の満足度は11.2%低下したとされる[3]。ただし、この数値は録音環境がの海浜型会議室であったことから、潮騒による気分変動の影響を受けた可能性が指摘されている。
由来・命名[編集]
由来については諸説あるが、最も有力とされるのは、にの深夜ラジオ番組で使われた「別にいいっすよ」という応答が、聴取者の間で「断りのようで断りでない」表現として定着したという説である。番組内で作家のが、空腹時の打ち合わせでこの返答を多用したことから、制作スタッフの間で「牧野式保留返答」と呼ばれたのが始まりとされる。
その後、にの若手研究会で、言語形式ではなく判断回避の心理作用として再命名され、「別にいいっすよ効果」という名称が提案された。命名にあたっては、より学術的な「選択回避性受容反応」も候補に挙がったが、参加者の3分の2が「論文タイトルが硬すぎる」として退けたとされる[4]。
メカニズム[編集]
別にいいっすよ効果の発生には、少なくとも三つの段階があるとされる。第一に、発話者は相手の提案を一応受け入れる姿勢を示し、会話の摩擦を下げる。第二に、同意の確定を避けることで、後続の選択責任を相手側へ分散させる。第三に、相手が強行した場合には「まあ、別にいいっすよ」と再確認することで、自己の不満を遅延的に表明する。
のらが行った音声反応時間実験では、この効果を示した被験者は、沈黙から返答までの平均時間が0.83秒と短いのに対し、真意の確定までに要した内的推論は平均4.6分相当であることが示唆された[5]。また、語尾の「っす」が持つ軽量感により、拒否の硬度が27%低下するという結果も報告されているが、分析者の一人が元サークル長であったため、統計の一部に気合いが入りすぎているとの指摘がある。
実験[編集]
最も知られている実験は、にで実施された「三択飲料実験」である。被験者84名に対し、同じ提案を「どうしますか」「どっちでも」「別にいいっすよ」の三条件で提示したところ、「別にいいっすよ」群は選択後の自己一致感が最も高い一方、提案者側の理解度は最も低かった[6]。
また、別実験では、内のファストフード店風実験室において、店員役が「ポテトをLにしますか」と尋ねる場面を再現した。すると、被験者の62%が「別にいいっすよ」と回答した後に、視線をメニューの最下段へ逸らし、実際にはMサイズを望んでいたことが判明した。この現象は、口頭上の受容と内的保留が同時に発生する典型例として、心理言語学の教科書に引用されている[7]。
なお、の追試では、提案がの豪雨による帰宅困難と結びつくと効果が増強されることが示されたが、被験者の一部が実験終了後に本当に帰宅できなかったため、倫理委員会から軽い注意を受けた。
応用[編集]
応用分野としては、まずが挙げられる。飲食店や販売現場では、客が「別にいいっすよ」と発話することで、店員に対し「今は決めたくないが、急かされても困る」というシグナルを送るため、熟練の接客者はこれを聞いた時点で確認質問を1回減らす傾向がある。
また、では、会議で意見を求められた際にこの応答が出ると、当該社員が「反対ではないが責任も負わない」立場にあるとみなされる。とくにのIT企業では、稟議書に対する「別にいいっすよ返答率」が部署ごとに集計され、離職予測の補助指標として利用された事例があるという[8]。
さらに、への応用も報告されている。デートの行き先を決める場面でこの効果が働くと、表面上は相手への配慮として機能するが、実際には「どこでもいい」というより「自分で決めるのは面倒だが、外れると文句は言いたい」という複雑な期待が含まれるため、関係初期には誤解の温床となる。
批判[編集]
批判としては、別にいいっすよ効果は実在の認知バイアスというより、単なる口語表現の社会学的ラベルにすぎないという見方がある。とりわけの研究者からは、「それは効果ではなく、会話を丸く収めるための普通の曖昧表現である」とする反論が強い[9]。
また、定義が広すぎるため、無関心・遠慮・皮肉・眠気・空腹のいずれでも説明できてしまう点も問題視されている。実際、の調査では、被験者の14%が「別にいいっすよ」を発話した直後に「いや、別にいいっすよ、ほんとに」と二度繰り返しており、これは効果の純度を高めるどころか、むしろ事態を複雑化させると指摘された[10]。
それでもなお支持があるのは、この表現が日本語会話における責任回避と気遣いの両立を、最も短い音節数で実現しているからである。要するに、短いのにややこしいのである。
脚注[編集]
[1] 牧野勇一『会話を保留する日本語の研究』新潮会話叢書, 2019年, pp. 41-58.
[2] 西園寺玲子・佐伯達也「夜間移動場面における曖昧受容発話」『対人認知心理学紀要』Vol. 14, No. 2, 2020年, pp. 103-119.
[3] 東京臨床会話研究所 編『保留返答の計量分析』東京臨床会話研究所出版部, 2018年, pp. 77-81.
[4] 国立対話行動学会『若手研究会報告書2011』第3巻第1号, 2012年, pp. 12-19.
[5] 西園寺玲子, 山岡健一「語尾軽量化と責任回避の相関」『京都大学心理言語学レビュー』Vol. 22, No. 1, 2017年, pp. 5-24.
[6] 田辺裕二『三択飲料実験の社会心理学』東京工業会話大学出版会, 2016年, pp. 88-96.
[7] 斎藤みどり「ファストフード注文場面における保留応答」『大阪対話研究』第9巻第4号, 2021年, pp. 201-214.
[8] 港区職場行動調査会『返答様式と部署満足度の関連』港区産業政策資料, 2022年, pp. 33-39.
[9] 中川哲也『曖昧表現の誤用と濫用』関西大学出版部, 2020年, pp. 140-146.
[10] 小林真帆「繰り返し保留発話の会話的帰結」『名古屋言語行動学報』Vol. 7, No. 3, 2023年, pp. 55-67.
関連項目[編集]
保留応答
責任分散
対人回避
会話の温度差
語尾軽量化
曖昧同意
受動的受容
二重否定的配慮
深夜ラジオ文化
注文決定疲労
脚注
- ^ 牧野勇一『会話を保留する日本語の研究』新潮会話叢書, 2019年, pp. 41-58.
- ^ 西園寺玲子・佐伯達也「夜間移動場面における曖昧受容発話」『対人認知心理学紀要』Vol. 14, No. 2, 2020年, pp. 103-119.
- ^ 東京臨床会話研究所 編『保留返答の計量分析』東京臨床会話研究所出版部, 2018年, pp. 77-81.
- ^ 国立対話行動学会『若手研究会報告書2011』第3巻第1号, 2012年, pp. 12-19.
- ^ 西園寺玲子, 山岡健一「語尾軽量化と責任回避の相関」『京都大学心理言語学レビュー』Vol. 22, No. 1, 2017年, pp. 5-24.
- ^ 田辺裕二『三択飲料実験の社会心理学』東京工業会話大学出版会, 2016年, pp. 88-96.
- ^ 斎藤みどり「ファストフード注文場面における保留応答」『大阪対話研究』第9巻第4号, 2021年, pp. 201-214.
- ^ 港区職場行動調査会『返答様式と部署満足度の関連』港区産業政策資料, 2022年, pp. 33-39.
- ^ 中川哲也『曖昧表現の誤用と濫用』関西大学出版部, 2020年, pp. 140-146.
- ^ 小林真帆「繰り返し保留発話の会話的帰結」『名古屋言語行動学報』Vol. 7, No. 3, 2023年, pp. 55-67.
外部リンク
- 日本保留応答学会
- 東京臨床会話研究所
- 対話行動アーカイブ
- 曖昧表現データベース
- 関東語尾研究センター