十四つの大罪
| 分野 | 宗教史・説教学・寓話文学 |
|---|---|
| 分類 | 悪徳(徳目の対照表) |
| 起源とされる時期 | 後半(諸説) |
| 主要な伝播経路 | 都市聖職者の読誦書・教区会議 |
| 成立に関与したとされる組織 | (名目上)/ 教区説教者ギルド |
| よく引用される用語 | 『十四章の鏡』など |
| 現代での主な扱い | 文化史研究・風刺芸術の題材 |
(じゅうよっつのおおざい)は、信仰上の徳と対になる悪徳を項目として整理した概念群である。中世の説教実務に由来するとされるが、その成立過程は近世以降に再編集されたとも言われている[1]。
概要[編集]
は、個人の内面に生じる逸脱傾向を種類に分け、説教・告解・教育の場で用いるために編集されたとされる悪徳一覧である。表は「大罪」と呼ばれるが、必ずしも罪名が統一されていたわけではなく、版ごとに項目が入れ替わることが知られている。
とくに注目されるのは、単なる倫理分類にとどまらず、帳簿のように数値化された説明が添えられた点である。各項目には、典礼日の忙しさに相当する「説教負荷係数」や、告解の所要時間を推定する「口述分数」などが併記され、読み手の実務負担を最適化する目的があったと説明されている[2]。なお、この運用思想は後に都市行政にも流用されたとする指摘がある[3]。
歴史[編集]
生まれた経緯:14人目の書記官[編集]
通説では、は「貧しい教区の説教者が、聞き手の集中を保つために項目数を最適化した」ことに端を発するとされる。ところが研究史では、実際には説教のためではなく、監査用の記録様式が原型だったとの見方がある。
、の教区会議において、書記官が不足したために「十四人目の書記官」を臨時雇用したという記録が、後世の脚色を伴って伝わっている。彼は説教原稿を点検するために、罪の説明を『章立て』として固定化しようとしたとされる。そして、説教文が長くなるほど監査が難しくなるため、項目数を「ちょうど会議机の脚の数」に合わせたという逸話が残る。会議机の脚は通常本×卓、つまりだったが、そのうち卓が欠損していたため、最終的にとして編集されたと説明される[4]。
このため、初期の『表』には「座席配置に応じた沈黙の長さ」まで含まれていたとされる。もっとも、これが実在したかは慎重に扱う必要がある、と同時に「やけに細かい一致」が多いことから、何らかの実務的記録が基盤になった可能性はあると推定されている[5]。
拡大と再編集:『十四章の鏡』の普及[編集]
に入ると、は「読誦書(どくじゅしょ)」の付録として拡大したとされる。特定の写本が流行したというより、教区ごとの運用が差分を生み、それが後に一冊の編集物へ統合されたという筋書きで語られることが多い。
統合作業で中心になったのは、当時のと名乗る部署である。局は実務上「監査のための標準語彙」だけを定める建前だったが、実際には罪名の語尾(語感)を揃えることで、説教者間の言い回しを統制したとされる。たとえば「憤り」に相当する項目が、版によって「憤」「怒」「怨」に揺れる問題があり、監査局はそれを減らすため、朗読速度を一律化する指示書を添付したと報告されている[6]。
一方で、都市の聴衆が「数が多いほど悪いのではないか」と早とちりする現象も生じた。そこで再編集では、各項目に『見かけの程度』ではなく『改善可能性』を示す指標が追加され、告解の順番を組み替える実装が行われた。これが「社会にどう影響したか」として、後のやに似た発想が取り込まれた、と解釈されている[7]。
十四項目の構成[編集]
は、版によって語彙の差はあるものの、概ね次のような項目群として説明されることが多い。項目名は短く、説教者が口頭で扱いやすいように整えられたとされる。
また各項目には、目安となる「口述分数」が付される場合があり、たとえば「羨望」は分、「沈黙の誇示」は分と見積もられた写本が紹介されることがある。ここで「沈黙の誇示」の数値がやけに具体的であるため、後世の編者が実際の談話記録から逆算したのではないか、という説が出た。もっとも、これは比喩的説明に過ぎない可能性もあるとされる[8]。
このように、項目は倫理の顔をしていながら、同時に教育工学のような実務的顔を持っていたと評されている。以下では、広く参照される形に寄せた十四項目を掲げる。
一覧:十四つの大罪(代表版)[編集]
(年表記欠落)- 約束の言葉を保存するほど信頼が増す、という誤解を作りやすい悪徳である。とくに「破棄の理由を3行で書け」という規律を守らない場合、告解が遅れると記録されている。
(写本)- 話す側が息継ぎを省略し、聞く側の理解を追い越してしまう罪とされた。監査の席では、声量の測定に回の試行が行われたという脚注があり、声の粒立ちが議論になったとされる[9]。
(版)- 小さな優越感を“氷”のように過信し、大事な場面で割れてしまう悪徳である。寓話では、優越者が最後に数え間違えをする場面が定番化した。
(追補)- 仕事を遅らせる理由を「宇宙の都合」にすり替える類型である。ある教区では、遅延理由の申告を毎回秒で読み上げる練習が義務化され、逆に人心が荒れたという。
(再編集)- 他者の成果を“量り”で測るふりをしながら、実際は秤の錘を隠す罪と説明された。秤は種類あり、片方は本物、もう片方は紙の複製だとされる。
(写本)- 心の傷を支出として扱い、回収可能性だけを見てしまう。都市の商会向け説教では、復讐の算定式が「回収期間は祭日まで」と定められたと記されている。
(版)- 沈黙そのものではなく、沈黙で相手を操作しようとする態度が問題視された。ある写本で、沈黙の長さを分としたのは「誰かが誤って時計を止めた」からだと注記され、後に笑い話として流行した。
(増補)- 史実ではなく、教訓として都合の良い“物語”を事実のように語る悪徳である。編者は、物語の語尾を統一することで発見者の“嘘癖”を矯正しようとしたとされる。
(版)- 神聖な文言を、意味よりも声の長さで集めてしまう罪である。読誦の長さは行につき平均拍とされ、拍数が多い写本ほど「上達」と誤認された。
(改訂)- 労働を避けるだけでなく、避けることを礼儀のように見せるタイプの悪徳である。司教は、敬意の“向き”が間違うと共同体の秩序が崩れると述べた。
(版)- 怒りを慈善に見せ、相手を支援した気分になる罪とされる。寄付を受け取る側の“恐怖”を測定する仕組みが提案され、測定器としてが採用されたと書かれている[10]。
(追記)- 悪意を“正しい言葉”で飾り、責任を薄める悪徳である。名札の色(赤/青)が版により揺れたため、監査局はカラーの統一を求めたとされる。
(流布)- 相手に興味を持たせる努力をせず、退屈を武器にする罪である。市民講話では、退屈時間を分単位でカウントし、講師交代の目安にしたと報告されている。
(決定稿)- 熱狂を“善行”として記録しつつ、裏では別の感情台帳を作る類型である。ある裁判記録に「熱狂は二重帳簿からしか出てこなかった」とあるため、後世では会計官の素養を持つ編者がいたのではないかと推測されている[11]。
批判と論争[編集]
は、倫理を数で扱うことの危うさが指摘され続けた。とくに「説教負荷係数」が導入されて以降、信仰の深まりより“処理の速さ”が優先される兆候が出たとする批判がある。一方で、実務の合理化がなければ写本の配布も告解の運用も破綻していた、という反論も存在した。
また、項目の入れ替わりや語彙統一の強制は、文化の多様性を削ったとの議論を呼んだ。とりわけが語尾の統一を行ったという伝承は、“統制の技術”がいつの間にか倫理の議論を呑み込んだ象徴として扱われることがある。
さらに、熱狂の二重帳簿のような会計的比喩が、当時の都市運営にそのまま移植されたのではないかという疑念が残った。税や登録の運用を宗教の枠で正当化したのではないか、という読解もあるが、資料の残存が限られているため決着はついていない[12]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ オルテン・ベリング『十四章の鏡と都市運用』青雲書房, 2009.
- ^ マルグリット・A・ソーンスン「Fourteen Cardinal Sins in Late Medieval Administration」『Journal of Ecclesiastical Mechanics』Vol.12 No.3, 2014, pp. 77-104.
- ^ 渡辺精一郎『口述分数の史料学』明文堂, 2016.
- ^ Elias K. Hart『Sermon Loads and Silence Politics』Cambridge Forum Press, 2018, Vol.2, pp. 201-233.
- ^ 田中ふみ『読誦書の写本差異:沈黙の誇示を中心に』講談写本研究会, 2021.
- ^ Sigrid M. Voss「帳簿の倫理化:監査局の標準語彙政策」『都市宗教研究』第7巻第1号, 2020, pp. 33-61.
- ^ 王立聖職記録会『ベルゲン教区会議録(架空復元)』王立図書刊行部, 1998.
- ^ C. R. Balthazar『The Double Ledger of Zeal』Oxford Ledger Publications, 2011, pp. 1-29.
- ^ 黒澤歩『香炉で測る怒り:十四つの大罪の小道具学』新泉学院出版, 2017.
- ^ (タイトル異常)『十四つの大罪改造監禁法:統制と言葉の相関』中央矯正学術社, 2022.
外部リンク
- 嘘写本アーカイブ
- 教区会議録デジタル保管所
- 説教負荷係数研究会
- 沈黙の誇示・時間計測図書館
- 聖教監査局メタデータ倉庫