南山大学
南山大学(なんざんだいがく)とは、周辺の学生のあいだで語られているの都市伝説の一種であり、学校の怪談の一種でもある[1]。正門の向こう側に「もう一つの南山」があるとされるが、その正体は現在も目撃談が絶えないという話である[2]。
概要[編集]
にまつわる都市伝説は、同大学のキャンパスが築かれた丘陵地の地形と、後期に急増した学生文化が結びついて生まれたとされる怪談である。とりわけ、内の私立大学に共通する「閉じた坂道」「見晴らしのよさ」「夜の静けさ」が、噂の発酵を促したとされている[3]。
この伝承は、学内の掲示板、下宿の聞き書き、そして末の携帯電話メールを通じて全国に広まった。特に「正門をくぐると時刻表から外れる」「図書館の最上階でだけ別の講義が開かれる」といった目撃談が多く、都市伝説としては比較的知名度が高い部類に入る[4]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は頃、旧キャンパスの造成工事の際に発見されたとされる「白い階段」にあるという説が有力である。この階段は実際には排水施設の点検路であったとみられるが、学生のあいだでは「午前0時ちょうどに使うと、ひとつ上の学年に進める」などの言い伝えが生じた[5]。
また、当時のの教育方針と、地元の受験熱が奇妙に重なったことで、「真面目な学校ほど怪談が育つ」という半ば俗信めいた理解が形成されたとされる。これがのちに固有の霊的イメージを強めた。
流布の経緯[編集]
に入ると、サークル合宿や学園祭の打ち上げで「南山の坂で最後のバスを逃した者は、別のキャンパスに連れていかれる」という噂が定着した。これは実際にはの終バス時刻の記憶違いが元だとされるが、あまりに語り口が具体的であったため、半ば事実として受け止められた[6]。
前後には、匿名掲示板で「N山の4号館には、学籍番号が奇数の学生だけを呼ぶ自動ドアがある」とする書き込みが拡散し、写真付きの再投稿が相次いだ。なお、この自動ドアは実在しないが、当時の学生証の磁気不良をめぐる愚痴が、怪奇譚へと転化したものと考えられている。
噂に見る人物像[編集]
伝承に現れる「南山の管理人」は、灰色の作業服を着た中年男性として描かれることが多い。彼は夜間の、、を無言で巡回し、忘れ物をした学生にだけ古い時間割を渡すとされる。学生側の証言では、彼の名を口にすると講義棟の照明が一列だけ消えるという[7]。
一方で、女子学生の間では「白いローファーの先輩」が語られることがある。これは現役学生か幽霊か判別がつかない人物像で、試験前になるとの坂道の途中に目撃されたという話が多い。彼女に道を尋ねると、必ず最短経路ではなく「単位を落としにくい方」を教えるとされ、不気味でありながら妙に実用的である。
伝承の内容[編集]
この都市伝説の中心は、「南山には二層構造の学園がある」という主張である。地上のキャンパスは通常の学問施設だが、地下には「未登録の第二講義棟」が存在し、ここでは出席簿がでなくの進度で記録されるという。受講すると妙に授業が早く終わるが、代わりに履修登録の記憶が薄れるとも言われている[8]。
また、「学内で赤い傘を拾うと、翌週のレポートが一枚増える」という話もある。これは恐怖と実務的被害が同居する点で珍しく、都市伝説研究者のは、こうした“罰が具体的すぎる怪談”が以降の学生怪談を特徴づけると指摘している。
委細と派生[編集]
坂道派[編集]
もっとも知られる派生は「坂道派」であり、夜に正門から校舎へ向かうと、同じ坂を3回上ることになるという。目撃談では、2回目の坂だけ自販機の配置が微妙に違って見え、3回目には通り過ぎたはずの方面の灯りが近づくとされる。これを見た学生の中には、実際に遅刻を回避した者もいたという話がある[9]。
図書館派[編集]
派では、閉館間際の自習席でページをめくると、自分の名前が書かれた返却期限票が挟まっているという。期限は必ず「翌日」となっており、返し忘れると翌朝のコピー機がすべて先に謝ってくる、とまで語られる。これは不気味であると同時に、大学図書館の規律を強化する効果を持った。
チャペル派[編集]
を中心とする伝承では、深夜に鐘の音が三回鳴ると、次の試験問題の一問目が必ず「自分とは何か」になるという。宗教的荘厳さと学業不安が混ざり合った派生であり、学生の一部はこれを「最も人間的な怪談」と呼んだ。
噂にみる対処法[編集]
南山の怪談に対する対処法としては、坂を上る前にレシートを一枚折って財布に入れておくとよい、という言い伝えがある。これは「帰り道を記録しておくことで、別の南山へ連れ去られない」という説明がなされるが、実際には単なる気休めであるとされる[10]。
また、図書館で異音を聞いた場合は、机の上にを伏せておくとよいとも言われる。学生証が身分を示すだけでなく、怪異に対する「在籍の証明」になるというのが伝承上の理屈である。なお、これを真に受けて学生証を10枚持ち歩く者が現れたという要出典の話もある。
社会的影響[編集]
この都市伝説は、受験生向け雑誌や地域の大学案内にまで断片的に引用され、結果としての「静かで少し神秘的な校風」を補強した。オープンキャンパスでは、説明員が「怪談は事実ではない」と前置きしつつ、坂道の途中で写真を撮ると背景が白く飛びやすいことを逆手に取った案内を行うようになった[11]。
また、周辺の下宿業者や書店にとっても、この噂は一定の宣伝効果をもったとされる。とくに深夜営業のでは「南山の管理人は入店しない」という貼り紙が一時的に流行し、学生のあいだでパニックと笑いを同時に誘発した。
文化・メディアでの扱い[編集]
以降、この伝承は短編ホラー動画や学生演劇の題材としてたびたび用いられた。とりわけ『坂を三度のぼるとき』と題された自主映画は、のミニシアターで深夜上映され、客席の半分が在学生だったという記録が残る[12]。
また、地域情報サイトでは「大学の都市伝説特集」の一角として紹介され、コメント欄には「うちのゼミでも聞いた」「管理人を見たら単位が落ちた」などの書き込みが相次いだ。こうした二次創作的な増殖は、噂がマスメディア化する過程の典型例とされる。
脚注[編集]
[1] 伝承研究会『校門をくぐるとき』第3巻第2号、pp. 41-58。
[2] 近藤真理子「学生怪談における二重キャンパス仮説」『名古屋都市伝説紀要』Vol. 12, pp. 9-27。
[3] 佐伯健一『坂と怪談の社会史』新風社、2004年。
[4] 山下久美『掲示板文化と学園の噂』東海出版、2001年。
[5] 渡辺精一郎「造成地における霊的階段の発生」『中部民俗学報』第18号、pp. 112-130。
[6] 名古屋市交通史資料室『終バスと学生心理』資料集第7集、1999年。
[7] Margaret A. Thornton, "Custodians of the Twilight Campus," Journal of Urban Folklore, Vol. 22, No. 4, pp. 201-219.
[8] 小松原理恵『履修登録と怪異の相関』青林堂、2008年。
[9] 中野司「坂道の反復と遅刻回避神話」『学校怪談研究』第9号、pp. 77-93。
[10] 田所恵子『お守りとレシートの民俗学』白鷺書房、2011年。
[11] Nanzan Open Campus Review 編集部「不安を売る大学案内」『教育広報月報』Vol. 31, No. 8, pp. 14-16。
[12] 片桐修『ミニシアターと学生伝説の結節点』港北評論社、2019年。
参考文献[編集]
Stephen R. Holloway, "Hilltop Universities and Their Ghosts," Folklore Quarterly, Vol. 14, No. 1, pp. 33-49.
久世あかね『都市伝説としての大学』河出不思議文庫、2007年。
Yuki Matsudaira, "The Second Campus Myth in Japanese Private Universities," Asian Journal of Cultural Studies, Vol. 8, No. 2, pp. 88-104.
佐藤広明『名古屋の怪談地図』中京文芸社、2015年。
Emily J. Carter, "Staircases, Students, and Superstition," University of Leeds Press, 2012.
森川澄子『チャペルの音と履修の闇』北斗館、2016年。
A. K. Beaumont, "Urban Legends of Catholic Campuses," Review of Modern Myth, Vol. 19, pp. 155-173.
西園寺みどり『学生証を伏せる夜』三月書房、2020年。
中村一郎「キャンパス怪談の伝播様式」『民俗情報学』第24巻第3号、pp. 5-26。
Haruto Shibata, "The Administrator Who Walks Backwards," Proceedings of the International Society for Impossible Heritage, Vol. 2, pp. 61-70.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 伝承研究会『校門をくぐるとき』第3巻第2号, pp. 41-58.
- ^ 近藤真理子「学生怪談における二重キャンパス仮説」『名古屋都市伝説紀要』Vol. 12, pp. 9-27.
- ^ 佐伯健一『坂と怪談の社会史』新風社, 2004年.
- ^ 山下久美『掲示板文化と学園の噂』東海出版, 2001年.
- ^ 渡辺精一郎「造成地における霊的階段の発生」『中部民俗学報』第18号, pp. 112-130.
- ^ 名古屋市交通史資料室『終バスと学生心理』資料集第7集, 1999年.
- ^ Margaret A. Thornton, "Custodians of the Twilight Campus," Journal of Urban Folklore, Vol. 22, No. 4, pp. 201-219.
- ^ 小松原理恵『履修登録と怪異の相関』青林堂, 2008年.
- ^ 中野司「坂道の反復と遅刻回避神話」『学校怪談研究』第9号, pp. 77-93.
- ^ 田所恵子『お守りとレシートの民俗学』白鷺書房, 2011年.
外部リンク
- 中部都市伝説アーカイブ
- 学生怪談収集委員会
- 名古屋坂道伝承研究所
- 東海オカルト資料館
- キャンパス怪異年報