国産肉団子
国産肉団子(こくさんにくだんご)とは、の都市伝説の一種[1]。主としての総菜売り場やの給食室で目撃されたとされる、原料不明の「国産」の札を付けた不気味な肉団子に関する噂である[1]。
概要[編集]
は、店頭で「国産」と表示されているにもかかわらず、実際にはどこの肉を使っているのか誰も確認できないという不安から生まれた都市伝説である。とくに後半から初頭にかけて、の売り場、学校の給食、地域の祭礼の炊き出しなどにまつわる目撃談が増えたとされている[1]。
伝承では、丸く整えられた肉団子の表面に妙に均一な照りがあり、袋の裏面だけが異様に高温であった、あるいは箸で割ると内部に小さなのような模様が現れた、などの怪奇譚が語られる。もっとも、こうした証言の多くはや地域紙の投書欄を通じて増幅されたもので、噂が噂を呼んで全国に広まった典型例とされる[2]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源はごろの沿岸部にあるとされる。地元の冷凍食品工場で、の認証印を模した「国産」のラベルが大量に流通したことがあり、これを見た近隣住民が「国産の肉団子は、どこかで一括して作られているのではないか」と噂し始めたという[3]。この時期、の展示会で試食された肉団子が、非常にやわらかく、噛むと音がしないとして話題になったことも、後年の伝承を補強したとされる。
一方で、内の老舗総菜店で「国産」の札だけが毎朝少しずつ移動していたという目撃談も残る。店主は当初、風で飛んだだけだと説明したが、閉店後に棚の前で小さな団子状の影が跳ねたという証言が出てからは、怪談めいた色彩を帯びるようになった[要出典]。
流布の経緯[編集]
からにかけて、の情報番組やが「安全な食べ物」を特集するたびに、国産肉団子の話は半ば冗談、半ば警告として繰り返し引用された。とくにの読者欄に掲載された「うちの子だけ肉団子を見つめて泣く」という投稿が決定打となり、学校給食の現場へ波及したとされる。
にはの中学校で、配膳室から「国産」の札が付いた肉団子が消えたという噂が広まり、学年集会が開かれる騒ぎになった。このとき、生徒の一人が「団子の数が毎回ぴったりで、1個だけ必ず欠ける」と証言し、以後、噂はのように「数が合わないのが正体の手がかり」として語られるようになった。
噂に見る人物像[編集]
伝承の中心に置かれる人物像は、白衣を着た、深夜に総菜を補充する、そして団子を「国産」とだけ記す謎の仕入れ担当者である。いずれも顔ははっきりせず、名札の文字だけが妙に鮮明で、苗字がやであったという話が多い[4]。
また、目撃談では、この人物像はしばしば「団子を裏返すと無言になる」「質問すると温度計を持ち出す」「冷凍庫の前だけ異常に丁寧に掃除している」といった奇妙な行動で描写される。これにより、国産肉団子は単なる食品の噂ではなく、流通の不透明さを擬人化した的存在として受容されたのである。
伝承の内容[編集]
もっとも広く知られる型では、夜7時すぎにの総菜売り場で肉団子を買うと、帰宅後に袋の底から同じ形の団子がもう1個増えているという。増えた1個は食べても味がしないが、次の日の弁当箱には確実に入っているとされ、これが「翌日の予定を先取りする食べ物」として恐れられた[5]。
別の伝承では、電子レンジで温めると「国産」の文字だけが先に浮かび上がり、団子本体は3秒遅れて追随する。これを見た者は一時的に状態となり、箸を持ったままの照明を消し、二度と同じ商品を買わなくなるという。さらに、噂の一部では、団子を半分に割ると中から小さな「」の地図が出てくるとされ、地図の縁が少しずつ縮むため、食べ終えるころにはの輪郭だけが残ると語られる。
委細と派生[編集]
学校給食型[編集]
学校給食型では、の底に肉団子が張り付いており、最後の1個だけが教師に回される。教師がためしに食べると、その日ので「食材の産地を尋ねるな」とだけ言うようになったという。この型は、の一種としても扱われることがある。
高速道路SA型[編集]
型では、深夜の自動販売機の横に「国産肉団子あります」と書かれた手書きの貼り紙が現れる。購入しても商品が出てこないが、返却口にだけ温かい団子が1個落ちているため、旅行者の間で不気味さが増したとされる。なお、の某SAで目撃されたという話が有名である。
祭礼炊き出し型[編集]
の炊き出しで配られる型では、肉団子の数だけ町内会の会議が長引くとされる。とくにの直前に鍋を開けると、湯気の中に小さな赤い印章が見えたという証言があり、これが「正体は役所の試作品である」という説を生んだ。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法としては、袋の「国産」の文字をに3回なぞると、団子がただの惣菜に戻るという。別の地方では、団子にをかける前に「産地を言え」と唱えると消えるとされ、実際には笑い話として子どもたちの間に流行した[6]。
ただし、もっとも有名な方法は、購入時にレジで「これは本当に国産ですか」と聞かず、代わりにを1本余分に買うことである。これにより、団子は「疑われていない」と判断して夜中に動かなくなるという。いかにも非科学的であるが、地域によっては今も語り継がれている。
社会的影響[編集]
の食品表示への関心の高まりのなかで、国産肉団子は「見えない産地」への不信を象徴する存在となった。実際には、への問い合わせ件数が増えたわけではないが、学校やPTAの集まりでは「団子のように丸めて隠すな」という比喩として用いられたという[7]。
また、が安全性を大きく取り上げるたび、国産肉団子の伝承は一種の警句として再生産された。地方紙の投書欄には「うちの孫が国産と書かれたものを怖がる」といった話が掲載され、結果として、表示ラベルを妙に大きくする売り場が一部で出現したともいわれる。
文化・メディアでの扱い[編集]
放送の深夜番組『食べもの編』で取り上げられた際、再現映像の肉団子が異様にテカテカしていたことから、かえって噂が補強されたとされる。さらに半ばには、携帯電話向けの短編怪談サイトで「国産肉団子メール」が流行し、件名に「今夜の団子に注意」と書かれた連鎖投稿が相次いだ[8]。
の世界でも、この伝承はしばしば料理ホラーとして消費されてきた。とくにの即売会で出回った小冊子『国産肉団子の作り方』は、実際のレシピが一切載っておらず、代わりに「3分煮込むと人格が柔らかくなる」と記されていたことで知られる。
脚注[編集]
[1] 国産肉団子研究会『都市伝説の食卓』第3巻第2号、2008年、pp. 41-58。 [2] 佐伯朋子「総菜売り場における噂の伝播」『民俗情報学紀要』Vol. 12, No. 1, 2011, pp. 7-23。 [3] 渡辺精一郎「冷凍食品工場のラベル騒動」『食品流通史研究』第18号、1994年、pp. 112-119。 [4] Margaret A. Thornton, "The Ballad of the Domestic Meatball," Journal of Urban Folklore, Vol. 9, No. 4, 2002, pp. 201-219. [5] 山本千鶴『給食室の夜と丸いもの』青空出版、1998年、pp. 66-74。 [6] 小林亮介「子ども文化における『言えば消える』系呪法」『現代怪異論叢』第5巻第1号、2005年、pp. 88-95。 [7] 田宮由紀『表示と不安の社会史』北斗社、2014年、pp. 155-162。 [8] E. H. Collins, "Chain Mails and Cutlet Spirits," Media Myth Studies Review, Vol. 21, No. 2, 2007, pp. 34-49。
参考文献[編集]
中村健吾『食品都市伝説大全』黎明書房、2010年。
高橋久美子『台所の怪談と近代日本』新潮社、2016年。
Martin Feld, Domestic Myths of Convenience Foods, Eastgate Press, 2009.
佐々木理絵『総菜売り場の民俗誌』平凡社、2003年。
Paul R. Emerson, "Meat, Labels, and Fear in Postwar Japan," Culinary Anthropology Quarterly, Vol. 14, No. 3, 2012, pp. 77-101.
鈴木恵『国産という名の不安』講談社現代新書、2021年。
Haruko Nishimura, "When Meatballs Move," Food & Folklore, Vol. 6, No. 1, 2001, pp. 12-29.
『噂の食卓年報 1990』日本怪異資料センター、1991年。
木下真一『学校給食と怪談の戦後史』岩波書店、2018年。
L. V. Morrow, "A Curious Case of the Japanese Meat Ball," Review of Modern Legends, Vol. 8, No. 2, 1997, pp. 130-146.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 国産肉団子研究会『都市伝説の食卓』第3巻第2号、2008年、pp. 41-58.
- ^ 佐伯朋子「総菜売り場における噂の伝播」『民俗情報学紀要』Vol. 12, No. 1, 2011, pp. 7-23.
- ^ 渡辺精一郎「冷凍食品工場のラベル騒動」『食品流通史研究』第18号、1994年、pp. 112-119.
- ^ Margaret A. Thornton, "The Ballad of the Domestic Meatball," Journal of Urban Folklore, Vol. 9, No. 4, 2002, pp. 201-219.
- ^ 山本千鶴『給食室の夜と丸いもの』青空出版、1998年、pp. 66-74.
- ^ 小林亮介「子ども文化における『言えば消える』系呪法」『現代怪異論叢』第5巻第1号、2005年、pp. 88-95.
- ^ 田宮由紀『表示と不安の社会史』北斗社、2014年、pp. 155-162.
- ^ E. H. Collins, "Chain Mails and Cutlet Spirits," Media Myth Studies Review, Vol. 21, No. 2, 2007, pp. 34-49.
- ^ 中村健吾『食品都市伝説大全』黎明書房、2010年.
- ^ 高橋久美子『台所の怪談と近代日本』新潮社、2016年.
- ^ Haruko Nishimura, "When Meatballs Move," Food & Folklore, Vol. 6, No. 1, 2001, pp. 12-29.
外部リンク
- 日本怪異資料センター
- 総菜都市伝説アーカイブ
- 食卓の怪談研究会
- 民俗情報学ラボ
- 深夜ワイドショー資料館