国鉄、ガスタービンエンジン搭載列車
| 概要 | ガスタービンエンジンを主動力に据えた国鉄の試作・限定運用列車 |
|---|---|
| 導入の主な目的 | 高出力化と急勾配区間での牽引力確保 |
| 想定路線 | 方面の長距離・寒冷運用が中心とされた |
| 運用期間 | 40年代後半〜50年代初頭の“短い実験期”とされる |
| 動力形式 | ガスタービンエンジン+(架空の)多段変速機構 |
| 関連機関 | 技術系委員会、の部会、民間の燃料研究所 |
| 評価 | 速度・加速は概ね好評とされる一方、燃費と騒音が課題とされた |
| 特徴的設備 | 吸気フィルタの“雪保持”構造と、火炎制御用の疑似センサ群 |
国鉄、ガスタービンエンジン搭載列車(こくてつ がすたーびんえんじん とうさい れっしゃ)は、日本国有鉄道がガスタービンエンジンを動力とするために試作・運用を試みた列車の総称である。表向きは「高出力・保守性」を理由に導入されたとされるが、実際には寒冷地の“運用学”と燃料事情が複雑に絡んだ企画だった[1]。
概要[編集]
が搭載列車へ踏み出した背景は、戦後復興期の輸送需要だけでは説明しきれないとされる。特に注目されるのは、燃料の調達が年々読みにくくなったことで、出力を“気分”ではなく機械的に安定させる必要が生じたという点である[2]。
本概念は、電気機関車・ディーゼル機関車の延長ではなく、「列車を一種の小型航空機に見立てる」思想として社内で整理された。議事録上は「技術的必然」とされつつも、同時に「雪と煤の両方に勝つ」という現場目標が先に立ったという証言も残っている[3]。
なお、列車名や形式は統一されなかったとされる。そこで本稿では、ガスタービンエンジンを車両の主動力に用い、運転台・補機構成・吸気系統の設計思想が共通する一連の試作群をまとめて扱うこととする[4]。
概要(選定基準と掲載範囲)[編集]
「国鉄、ガスタービンエンジン搭載列車」という呼称が成立したのは、社内の技術報告書が“形式番号の乱立”を生んだためであるとされる。編集者によれば、現場では「とりあえずタービン車」と呼ばれていたものの、後年の資料整理で呼称が逆輸入されたという[5]。
本記事では、(1) 主動力としてガスタービンエンジンを採用した試作、(2) 吸気系統に耐寒・耐雪を前提とした補機設計を含むもの、(3) 少なくとも一度はまたは限定運用の記録が残るもの、のいずれかを満たす車両群を対象としている[6]。
その一方で、燃焼器の交換頻度があまりに高く、運行計画書に“運用不能”扱いの注記がついた個体は、伝説的に語られることはあるが資料上は取り扱いが曖昧である。ここは読者の想像力に委ねる余地として残されたままとされる[7]。
歴史[編集]
起源:雪国航空化計画と“タービン礼賛”の空気[編集]
30年代後半、の一部区間で“遅延の責任は燃料と粉塵にある”という風潮が強まったとされる。そこでの運転研究担当が、列車を固定翼の補給基地に近い存在として捉える「雪国航空化計画」を提案した[8]。理屈は単純で、吸気の制御がうまくいけば加速は安定すると考えられた。
計画は近郊での試験から始まったとされるが、奇妙なことに当初の主題は速度ではなく“吸気の雪占有率”であった。ある報告では、吸気ダクト入口の雪が占有する割合を「0.8%〜1.2%に維持できるか」と数値で論じている。達成できる見込みがあるのは、雪の粒径分布が運行日ごとに変動し、それを制御する“疑似的な熱ふいご”が効くからだと説明された[9]。
ただし、当時の技術委員会の資料には、熱ふいごの設計図が途中で欠落しており、後年に“本来は存在しないはずの追加図面”が見つかったとされる。これが、のちのガスタービン搭載への心理的ハードルを下げた可能性があると指摘されている[10]。
発展:燃料委員会と吸気フィルタの“雪保持”構造[編集]
実装段階では、ガスタービンエンジン自体よりも周辺機器の設計が焦点化した。特に吸気フィルタは「詰まらない」ではなく「詰まりかけても詰まらないふりをする」構造として提案され、入口に“雪保持リング”が配置されたとされる[11]。リングの材質はアルミ合金ではなく、社内コードでと呼ばれた耐熱・吸湿複合材だったという。
ここで関わったとされる組織が、民間の燃料研究所()と、の燃焼部会である。ある座談会録では、燃料の粘度を「24℃で13.6 cP」として合わせ込んだと述べられているが、同じ会合の別発言では「実測はしていない。雰囲気で調整した」とも記録されている[12]。この矛盾は、資料の後半にだけ妙に細かい数値が増えるという編集上のクセにも現れている。
一方、変速機構については“航空機的な考え方”が持ち込まれたとされる。車両用ギアボックスは従来の直結をやめ、疑似的にトルクを平準化する多段機構が搭載されたとされるが、試験運転では変速比が規定値より最大で逸脱する個体が出た。逸脱した個体は逆に乗り心地が良いと評価され、「誤差こそが設計」とまで言われた時期があったとされる[13]。
社会的影響:急行の“騒音政治”と運賃改定の舞台裏[編集]
運用が始まると、まず注目されたのは騒音であった。ガスタービンは高周波成分を含むとされ、沿線住民からは「エンジン音が風より先に来る」といった感想が寄せられたとされる。これが単なる苦情では終わらず、の窓口では“騒音の政治”として扱われたという[14]。
さらに面白いのは、運賃改定が騒音対策費とセットで議論されたという点である。ある内部メモでは、夜間運行の補償を「1往復あたり28円(試算)」と置き、これを運賃に転嫁しない方針が検討されたとされる[15]。ただし、実際に転嫁しなかったのか、あるいは転嫁の証跡が資料から意図的に薄れたのかは、編集者の間でも意見が分かれている。
とはいえ、速度そのものは確かに“上がった”とされる。試運転記録では〜の区間で、最高到達時刻のばらつきが従来比で「-0.42分」と報告された。統計処理の根拠が明示されないまま採用された点が、のちの批判につながったとされる[16]。
設計と運用:架空の細部が生み出すリアリティ[編集]
車両には、吸気フィルタ以外にも“雪を味方にする”工夫が盛り込まれたとされる。運転台には、吸気ダクト温度ではなく「雪保持リングの共鳴周波数」を示すメータが設置されていたとされる。表示はアナログで、目盛りはまで刻まれていたというが、保守担当者の記憶では「針を合わせるだけで、計測していないはず」とも語られている[17]。
運用面では、起動手順が独特だった。発進前に補助燃焼器で“予熱ゼロ点”を作り、燃焼器の点火までの時間を「93秒」と定めたとされる。ところが、ある運転記録では93秒のはずが“ちょうど二度”延びている。延びた理由は、運転士がストップウォッチを止め忘れたのではなく、列車側の制御が“秒読みの体裁”を必要としたからだという説明が付いたとされる[18]。
保守は激しく、タービンの交換周期が問題となった。報告書では「平均交換間隔は」とされる一方で、翌年の追記では「交換間隔の定義が変わったので比較できない」とされている。比較できないという記述自体が、比較が盛り上がったことを示す皮肉として読まれることがある[19]。
批判と論争[編集]
批判は主に燃費と騒音、そして運用の柔軟性の欠如に向けられた。燃費については、出力を安定させるための制御が過剰で、結果として余分な燃料が燃焼されるとされた。ある評価書では、燃費悪化要因を「制御が神経質すぎる」と表現したという[20]。
騒音については、対策の効果が測定しづらいことが問題視された。対策材の効果を評価するために、住民側から提供された“耳の感覚”をデータ化したという噂が流れ、研究倫理の観点から内で議論になったとされる。ただし、実際に倫理委員会が開かれたかは資料が見つかっていない[21]。それでも、のちの大学の研究者が「実測が曖昧でも政治的には前進した」と述べたことで、この噂が半ば真実のように再生産された。
また、歴史叙述にも揺れがある。ある元技術者が「資料は意図的に消された」と証言した一方で、別の編集者は「当時の文書管理が雑だっただけ」と反論している。いずれにせよ、当該試作群がなぜ短期間で終わったのかは完全には説明されていない。説明されないこと自体が、当時の現場文化の一部だったとする見方もある[22]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田中慎吾『雪保持工学の系譜:国鉄試作列車の吸気系』交通出版社, 1982.
- ^ Margaret A. Thornton「Control-Friendly Noise in Railway Gas-Turbine Experiments」『Journal of Railway Power』Vol.12 No.3, 1977, pp.41-66.
- ^ 佐藤明里『燃料事情と運用学:ガスタービン車両をめぐる数字の作法』国土技術叢書, 1986.
- ^ 李成勲「Multi-Stage Transmission Myths in Cold-Start Locomotion」『International Review of Mechanical Myths』第8巻第2号, 1991, pp.101-129.
- ^ 加藤久美子『沿線騒音の政治経済学:夜間運行補償の設計思想』山手書房, 1990.
- ^ 運輸省鉄道局『昭和四十三年度 試運転報告書(抜粋)』運輸省印刷局, 1969.
- ^ 小川雅人『雪国航空化計画の裏面史』北海道工業史料館, 2001.
- ^ 日本機械学会燃焼部会『燃焼器制御の暫定基準と逸脱記録』日本機械学会誌, 第55巻第11号, 1975, pp.233-250.
- ^ 国鉄技術管理課『形式番号に依らない車両分類の試み』『鉄道技術資料』Vol.3 No.1, 1972, pp.1-18.
外部リンク
- 国鉄タービン車両アーカイブ
- 雪国航空化計画の資料室
- 北海道燃料研究所・技術メモ
- 沿線騒音メータ同好会
- 運用学(試験)非公式研究会