土地神トリップ!
| タイトル | 土地神トリップ! |
|---|---|
| ジャンル | 神域冒険、郷土幻想、青春コメディ |
| 作者 | 青柳透 |
| 出版社 | 翠輪社 |
| 掲載誌 | 月刊ノイズ・フィールド |
| レーベル | ノイズ・フィールド・コミックス |
| 連載期間 | 2018年4月号 - 2023年11月号 |
| 巻数 | 全14巻 |
| 話数 | 全78話 |
『土地神トリップ!』(とちがみとりっぷ)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『土地神トリップ!』は、の山間部にある架空の町・を舞台に、土地神の祠を踏んだことで“地形と記憶がずれる”現象に巻き込まれた高校生たちを描くである。神社の再開発、過疎化、観光振興を下敷きにしつつ、毎話の最後で登場人物の現在地が微妙に変わる構成が特徴とされる。
連載開始当初は地方創生ものとして受け止められていたが、途中からの測量監修に基づく“土地神位相”の設定が過剰に精密化し、読者の間では「地理が読めるバトル漫画」として扱われた。また、地元商工会との連動企画が異様に多く、作中の名物菓子まで実在の商品に見えるよう設計されていたことが、後年の再評価につながった[2]。
制作背景[編集]
作者のは、もともとの郷土史雑誌で風景イラストを担当していた人物で、2016年にとの県境踏査に同行した際、古い道標の配置が「物語として成立しすぎている」と感じたことが着想の端緒であると述べている。単行本3巻の巻末座談会では、神社の境内図を描くためにの境内管理資料を参考にしたが、逆にその資料が“神域の非対称性”の描写を助けたと語られている[3]。
編集部は当初、タイトルを『土地神トリップ』としていたが、作者が「驚きが足りない」として感嘆符を加えるよう要求し、最終的に現在の表記に落ち着いた。なお、連載第2話の段階で背景美術の量が原稿用紙換算で通常の1.8倍に達したため、背景班が独立して“測量係”と呼ばれるようになり、この呼称は編集部内で半ば公用語化したという。
あらすじ[編集]
神代谷編[編集]
の県立神代谷高校に通うは、廃社になりかけたの補修奉仕を手伝う最中、賽銭箱の下から出てきた古い方位盤を拾う。直後、町の道筋が一晩ごとに1.5度ずつずれ、駅前のコンビニが神社の裏手に移動するなどの異変が発生する。
ミオは、土地神を「移動させてしまった」責任を取るため、神社の跡取りである、地図が読めないのに地形だけは見える転校生とともに、町の“重なった古地図”を回収する旅に出る。第一章の最後で、彼らが探していたのは神ではなく、明治期に町域が3回変更された際の未提出測量図であることが判明し、作品の方向性が一気に混線する。
三層街道編[編集]
県道、旧街道、神域の参道が重なるでは、夜になると同じ交差点が三つの時代に分岐する。ここで登場するの住民たちは、同じ家を別の年に建て替えたことになっており、戸籍よりも地籍のほうが強いという奇妙な秩序が示される。
この編では、レンの祖父が「土地神は祀るものではなく、境界を誤魔化すための装置である」と語る回が有名である。単行本化の際、該当ページの注釈だけで16項目に増え、読者アンケートでは「本編より脚注が熱い」と評された。
飛地回廊編[編集]
では、神代谷町の外れに突然現れる“町外の町内会”が描かれる。そこはのに住民票があるのに、実際の生活圏は山梨県側という人物ばかりが集まる不法にして合法な集落であり、作中で最も説明が難しい場所である。
ミオたちは、土地神が生まれる条件として「人が地面に名前をつけ続けた総和」が必要だと知る。最終的に、飛地回廊は観光資源として保護されるが、入口の鳥居だけが地図アプリに表示されないため、以後も毎年2件ほど迷子が出るとされる。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、地理の定期試験では常に平均点付近だが、地図の破れ目だけは直感で見抜く才能を持つ。連載後半では土地の“機嫌”を声色で判別できるようになり、読者の間で「土地会話能力者」と呼ばれた[要出典]。
は御影神社の跡取りで、神職の作法には厳格だが、神前でスマートフォンの測位アプリを起動することをやめられない人物である。彼の持つ木製の下駄は、実はの測量師が使っていた簡易基準器の再利用品とされ、これが終盤の大地座標の復元に関わる。
は無口な転校生で、作中では最も常識人に見えるが、実際には“道の記憶”を継承する家系の末裔である。彼女が地面にチョークで描いた経路図は、気象庁の降雨予報より当たるとされ、町内会の一部では半ば正式な案内板として扱われた。
は町役場の土地台帳係で、行政文書の語尾だけで人を眠らせる特技を持つ。物語後半で味方になるが、初登場時には「神は信じないが地番は信じる」と言い放ち、シリーズ屈指の名台詞として定着した。
用語・世界観[編集]
は、神社に宿る存在というより、一定の区画に対して反復して呼称が与えられた結果、地面そのものが人格化したものと定義される。本作では、土地神は祀られることで強くなるのではなく、住民が「ここは○○だ」と言い続けることで成立すると説明され、都市計画と民俗学の中間のような理屈で整えられている。
は本作独自の現象で、建物や道路が物理的に動くのではなく、同じ場所に複数の“意味”が重なることで人間の認識が迷うことを指す。第6巻で示された定義表によれば、位相ずれは最大で7層まで確認されており、8層目に到達すると町内放送が昔話しか流さなくなるという。
は、神域と生活圏のあいだに立てる木札であるが、本作では一度立てると撤去に自治会総会3回分が必要になる。これにより、土地神トリップの旅は怪異退治であると同時に、極めて面倒な合意形成の記録でもあるとされる。
書誌情報[編集]
単行本はよりレーベルで刊行された。第1巻は9月に発売され、初版部数は3万2,000部であったが、の書店連合による平積み展開が奏功し、2週間で重版が決定したとされる。
第8巻には、作者が現地取材で撮影したの棚田写真をそのまま背景トーンに転写したページがあり、これが「資料性が高すぎる漫画」として話題になった。最終14巻では、巻末に地籍図風の折り込みポスターが付属し、展開すると机の上に置けないほど長くなるため、保管用の筒が別売りされた。
メディア展開[編集]
2021年には制作によりテレビアニメ化され、深夜帯ながら平均視聴率2.1%を記録した。アニメ版は背景が妙に詳細で、作画班が毎話の地形整合に3日を費やしたことから、制作進行が「アニメというより公共測量」とコメントしたという。
また、によるラジオドラマ、によるノベライズ、町おこし用のスタンプラリーが実施され、神代谷町を模したイベント会場には3日間で延べ4万7,000人が来場した。特に、鳥居をくぐるとスマートフォンの地図アプリが勝手に拡大する仕掛けが好評で、自治体が翌年から正式に採用したとの記録がある。
反響・評価[編集]
本作は、連載中盤から地方史の再発見を促す作品として評価され、の地域文化推進会議でも参考資料として言及されたことがある。一方で、地名の扱いがあまりに緻密であったため、実在自治体の地籍整理担当者から「笑えないほど正確」と評されたという。
読者人気投票では、主人公よりも土地神の化身である白い狸「」が常に上位に入り、2019年には4位、2020年には2位、2022年には首位を獲得した。なお、最終回のアンケートでは「神より役場が怖い」という感想が最頻出であり、作品の本質を最もよく表しているとする意見もある。
脚注[編集]
[1] 巻末設定資料では、連載開始前に作者が境の旧道を20回以上踏査したとされる。
[2] ただし、初期の読者アンケートでは“地名が多すぎて不安になる”という意見が18.4%を占めた。
[3] 単行本第3巻の座談会での発言だが、同席した編集者は「だいぶ盛っている」と補足している。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 青木真理『漫画における境界表象の変遷』白霧書房, 2022, pp. 114-139.
- ^ 佐伯悠介『神社と地図のあいだ』翠輪社研究叢書, 2021, Vol. 7, pp. 33-58.
- ^ M. Thornton, “Topological Folklore in Contemporary Japanese Comics,” Journal of Visual Myth, 2023, Vol. 18, No. 2, pp. 201-226.
- ^ 渡瀬一馬『地方創生と怪異の商業化』月虹出版, 2020, pp. 9-41.
- ^ Eleanor Finch, “Survey Lines and Sacred Sites,” The Review of Fictional Geography, 2024, Vol. 11, pp. 77-95.
- ^ 北沢玲子『架空町の設計図』ノイズ・フィールド叢書, 2019, 第2巻第1号, pp. 5-29.
- ^ 田村篤史『土地神トリップ!解剖記録』アニメーション批評, 2023, 第14号, pp. 66-84.
- ^ 青柳透・編集部『土地神トリップ!公式設定集 境界札の章』翠輪社, 2024, pp. 3-112.
- ^ Harold P. Weston, “When Roads Remember,” Cartographic Quarterly, 2022, Vol. 29, No. 4, pp. 140-168.
- ^ 三好由紀『役場と神域の行政学』白山文庫, 2021, pp. 201-219.
外部リンク
- 月刊ノイズ・フィールド公式サイト
- 翠輪社コミックス案内
- 白霧放送アーカイブ
- 神代谷町観光協会特設ページ
- 土地神トリップ!アニメ公式