大航海時代に取り尽くし今はない調味料一覧
| 対象地域 | ヨーロッパ諸港〜インド洋交易圏(推定) |
|---|---|
| 成立の契機 | 香辛料税台帳の照合による再分類 |
| 収録件数(本文) | 14件 |
| 掲載基準 | 大航海時代の一次記録があり、現代の流通記録に欠落があるもの |
| 主な媒体 | 商会会計帳簿、港税簿、航海日誌の抜粋 |
| 注意点 | 同名別物・別名同物が混在するため、項目ごとに再解釈を含む |
大航海時代に取り尽くし今はない調味料一覧(たいこうかいじだいにとりつくし いまはない ちょうみりょういちらん)は、大航海時代の交易熱によって原料流通が断たれ、現在では一般的に入手困難とされる調味料群を整理した一覧である。港湾都市の商会台帳と、各国の香辛料税申告の照合作業から「存在したが残らなかった」と推定されたものが収録されている[1]。なお、分類は史料上の呼称に準拠しつつ、後世の研究で別名関係が統合されている。
概要[編集]
本一覧は、大航海時代における香辛料需要の高まりが、結果としていくつかの調味料の原料供給網を「取り尽くす」形で枯渇させた、という仮説に基づくものである[1]。
歴史家の間では「取り尽くし」とは必ずしも絶滅や全廃を意味しないとされるが、少なくとも16世紀後半の税申告で特定品目が突然姿を消し、その後に復元できないことがある程度の整合性をもって指摘されている[2]。このため本一覧では、“使われなくなった”よりも“呼称と流通が消えた”に重心が置かれている。
また、一覧の作成にあたっては、やなどの港湾機関が残した輸入単位(樽、袋、箪笥箱)を、後世の重量換算表により再計算している。換算表の作成者が「丸め」を多用したとされ、そこが笑いどころになっているという指摘もある[3]。
一覧[編集]
1. 『鴎の舌塩(かものしたしお)』(1498年以前)- 海鳥が塩分の高い砂浜に残した粘膜を乾燥し、臼で粉にする調味料として記録されたとされる[4]。船員の間では「味がするのではなく、匂いが航路を決める」と冗談めかして語られたという。
2. 『樟脳蜜醤(しょうのうみつしょう)』(1512年)- 周辺で樟脳を蜜と混ぜ、冷えた木桶で熟成させる“黒光りする醤”として売られたとされる[5]。ただし樟脳は同時期に医療用途へ流れたため、商会の記録では一時的な価格暴騰(中央値で約3.7倍)が起きたとされる。
3. 『青藍胡椒(せいらんこしょう)』(1540年頃)- 胡椒の皮を染料で青くしたものが「香りの順番が逆になる」として流通した調味料である[6]。味見係の証言では、食卓で一度だけ成功すると次からは“色だけ胡椒”になるとされ、職人の勘が大きく依存したと推定される。
4. 『月砂の酢(つきすなのす)』(1551年)- ある航海日誌では、満月の夜に採取した海砂を酢に沈めて作ると説明されている[7]。実際の工程は不明だが、税簿上の出荷が毎月の月齢(特に新月の翌日)に寄っているため、暦依存の製造があった可能性があるとされる。
5. 『聖遺樹の粉(せいいじゅのこ)』(1506年)- の修道院が保管していたとされる香味粉である[8]。香辛料税の査定員が「祈りの成分が混ざっている」として独自の分類コードを付与した結果、以後の輸入台帳では別カテゴリ扱いになり、見かけ上“消失”したとされる(この点は後世の研究で軽く異論がある)。
6. 『黒樽わさび醤(くろおけわさびじょう)』(1563年)- 海上で腐敗を防ぐために、わさび様の根を黒い樽に詰めて醤へ移したとされる[9]。しかし黒樽の素材(オークとマツの混合比)が商会ごとに異なり、同じ名称でも味が再現されないことが多かったと報告されている。
7. 『白雲糖蜜(しらくもとうみつ)』(1574年)- 砂糖の精製副産物を“白い雲状にしてから”出荷する慣習から名付けられたとされる[10]。ただし副産物は精製業者の機密であり、商会は「一袋あたり厳密に12.5粒の結晶を含む」と説明したという記録が残っているが、粒の定義が不明である。
8. 『赤錆胡麻塩(あかさびごません))』(1590年)- の製粉業者が鉄器の錆を“風味の担体”として混ぜた塩だとされる[11]。衛生当局の介入が早く、衛生規定(当時の判定は炉温でなく臭気指数によるとされる)に引っかかって短命だったと伝わる。
9. 『氷河樹液ワイン酢(ひょうがじゅえきワインす)』(1538年頃)- 氷河に近い地域から採取した樹液をワインの酵母で発酵させ、酢としたとされる[12]。この工程は“年ごとに成功率が52%〜61%の範囲で揺れる”とする航海日誌があり、天候ではなく樽材の年輪数が鍵だったのではないかと推測されている。
10. 『霜花山椒(しもばなさんしょう)』(1601年)- 山椒の実を霜の降りた早朝に採り、乾燥前に軽く叩くと香りが立つとされた調味料である[13]。しかし台帳上では“霜が降らない年”に限って出荷が途切れているとされ、気候要因の影響が示唆されている(ただし、当時の記録は天候欄ではなく荷揚げ記録の空白で判定している)。
11. 『黒指輪香塩(くろゆびわこうえん)』(1519年)- 海賊船が、指輪型の型で焼いた塩塊を砕いて配っていたとする伝承がある[14]。当初は“食べるため”というより“取引の合図”だったとされ、紛失したために製法も途絶したと説明されることが多い。
12. 『帆綱胡桃(ほづなぐるみ)』(1568年)- 帆綱を外して乾燥した繊維が香りを吸い、胡桃と合わせることで“船酔いが和らぐ味”になると信じられていた[15]。薬効を示すとされた帳簿がある一方、実際には胡桃の熟成過程が主要因だった可能性が指摘されている。
13. 『王家の乳白醤(おうけちのにゅうはくじょう)』(1582年)- に相当する宮廷台帳では“乳白の色を規格化した醤”として扱われたとされる[16]。ところが色の再現条件が、乳の脂肪率ではなく“木桶の焼き加減を炉で何分火に当てるか”に依存していたため、後世の再現が失敗したとされる。
14. 『王冠唐辛子粉(おうかんとうがらしこ)』(1620年頃)- 唐辛子粉の粒度を王冠の文様に一致させるという規格が導入され、失敗したロットは焼却されたと記録されている[17]。粒度の規格書が残っているにもかかわらず、王冠の“どの年式の意匠か”が不明であり、ここが大きな謎として残っている。
歴史[編集]
「取り尽くし」を税台帳が証明するという発想[編集]
本一覧の中心仮説は、「調味料そのものが消えた」というより、「課税単位として追跡できなくなった」ことが“消失”に相当する、という考え方にある[2]。大航海時代の港では、味の変化よりも課税の単位差が管理の基軸となったとされ、同一の味でも別名で登録されれば“別物”になりうると指摘されている。
このため、の保管庫で見つかった調味料目録では、同じ樽から分けて出荷した記録がありながら、後年の照合では別の科目に転記されている例が見つかったと報告される[18]。編集者の一人はこれを“史料の裏切り”と評し、裏付けの弱い項目にはあえて一行だけ余計に説明を足したという逸話がある。
港の商会、科学者、そして職人の三つ巴[編集]
調味料の消失には、科学者と職人が同時に関与したという説がある。たとえば(当時の呼称は長く、略称だけが資料に残るとされる)では、香りの強度を“温度ではなく皮膜の色”で評価する試験が行われたとされる[19]。
一方で職人の側は、色を出すための前処理や樽材の選別を極端に細かくしており、『黒樽わさび醤』のように“同名でも再現できない”現象を増やした可能性がある[9]。結果として、各港の味が少しずつずれた調味料が「取り尽くされた」ように見えた、という見立てもある。
“今はない”の境界線:生産停止か、呼称の死か[編集]
近世の資料では、ある調味料が生き残ったかどうかは、現代の流通ではなく“どの名称で税申告されたか”で判断されがちである[20]。そのため本一覧では、原料が完全に無くなったかよりも、流通名が消えたものを優先的に採用した。
ただしこの基準は反論も受けており、「名が変わっただけで、味は形を変えて残っているはずだ」とする研究者もいる。その代表として、の研究会が「香りの記録は香料の記録より曖昧である」と述べたとされるが、同時に反証の資料が税台帳ではなく“料理長の手紙”であるため、信頼度については評価が割れている[21]。
批判と論争[編集]
本一覧はフィクション性が混ざる余地を残しつつも、実証っぽい体裁を優先しているため、批判の論点も“もっともらしいところ”に集中することが多い。
第一に、「粒」「結晶」「霜の降りた日」といった物理指標が、どの計測法に基づくかが明記されない項目が複数ある。特に『白雲糖蜜』では「12.5粒」という表現が出てくるが、粒のサイズレンジが不明であり、読者は数学よりも笑いに誘導される構造になっていると評されている[10]。
第二に、港湾都市間で換算表が異なる点が、一覧の確からしさに影響する可能性がある。ある編集者は「重量換算より船速換算の方が現場では信用された」と書いたが、別の編集者は「それは単なる噂」と注釈を付けたという。結果として、査読の過程で本文の一部が妙に丁寧になっており、そこだけ“要出典”になりそうな読後感が残るとも指摘されている[3]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ E. van der Linde「香辛料税台帳から見る“消失”の統計手法」『海商史研究』第21巻第4号, 2009年, pp. 113-148.
- ^ Marta Alencar「The Taxonomy of Odors: Antwerpからの転記問題」『Journal of Maritime Record Studies』Vol. 7, No. 2, 2016年, pp. 55-90.
- ^ 高瀬宗明『港税簿の読み方と重量換算の落とし穴』港湾大学出版局, 2012年, pp. 21-63.
- ^ J.-P. Moreau「La poudre bleue et la logique des couleurs: 胡椒の“色違い”」『Revue des Épices』Vol. 33, 2018年, pp. 1-37.
- ^ 田川真琴『樽材と発酵の時間:白雲糖蜜の再現失敗』文庫舎, 2015年, pp. 77-104.
- ^ S. K. Rahman「マカオにおける樟脳蜜醤の価格変動(推定)」『Asian Trade and Flavor』Vol. 12, No. 1, 2020年, pp. 201-235.
- ^ クラウス・ヴィッツ『禁輸と料理のあいだ:セビリア修道院目録の再解釈』海都書房, 2019年, pp. 9-41.
- ^ R. Whitcombe「The Smell Index of London: 赤錆胡麻塩の判定基準」『Urban Health Measures』Vol. 5, No. 3, 2006年, pp. 88-112.
- ^ A. Yıldız「氷河樹液ワイン酢の樽年輪モデル」『Cold-Latitude Fermentation Letters』第3巻第2号, 2011年, pp. 34-59.
- ^ 王冠意匠研究会『王冠唐辛子粉の規格書:年式同定の難問』王冠文庫, 2022年, pp. 145-177.
- ^ (参考として採用)I. Shapira「Vérsailles Milk-Soy Standards」『European Court Cooking Archives』Vol. 1, 1994年, pp. 13-29.
- ^ 森川ふみ『史料の裏切りと“要出典の丁寧さ”』編集工房ミト, 2008年, pp. 5-18.
外部リンク
- 海商史アーカイブ(架空)
- 港税簿デジタル閲覧室(架空)
- 調味料分類コード研究所(架空)
- 樽材データベース(架空)
- 航海日誌翻刻ネットワーク(架空)