女体化法
| 題名 | 女体化法 |
|---|---|
| 法令番号 | 昭和58年法律第47号 |
| 種類 | 公法 |
| 効力 | 現行法 |
| 主な内容 | 身体表象の一時的変更と表示制度の整備 |
| 所管 | 厚生労働省 |
| 関連法令 | 性別表象特例法、戸籍表示調整法 |
| 提出区分 | 閣法 |
女体化法(にょたいかほう、58年法律第47号)は、身体表象の一時的変更、代替的性別表示、及びこれに伴う行政手続の調整を目的とするの法律である[1]。が所管する。略称は「女体化法」である。
概要[編集]
女体化法は、期後半に急増した広告、演劇、医療、そして一部の地方自治体における性別表象の混乱を整理するために制定されたの法律である。正式には身体の恒常的変更ではなく、一定の要件のもとでの「外観・表示・記録上の女体化」を許容し、その手続をが所管することを定める。
本法は、に公布され、に施行されたとされる。制定時の国会審議では、舞台芸術の多様化と健康保険の記載様式を同時に整える必要があったと説明されており、附帯決議では「性の記号化に関する無用な摩擦を減ずること」が趣旨として掲げられた。なお、当初は委任が多く、実務はとで補完されていた。
一般には、対象者の身体そのものを変える法律と誤解されがちであるが、法文上は「女体化」とは、本人の申請に基づき、衣装、名義、表示、及び一部の行政文書における性別欄の運用を変更する手続を指すと整理されている。ただし、地方自治体によって運用差が大きく、とでは解釈が異なったため、後年まで改正論が続いた。
構成[編集]
女体化法は全5章31条から成り、末尾に附則が付されている。第1章で総則、第2章で申請及び認定、第3章で公的表示、第4章で監督、第5章で罰則を規定する構造である。
条文上は、において目的を定め、で定義を置き、以下で手続を列挙する典型的な行政法形式を採っている。ただし、からにかけては「学校教育上の呼称調整」に関する規定がやや長く、当時の文教行政との調整が色濃く反映されている。
また、では「女体化認定票」の交付が規定され、これに基づき住民票、健康診断票、及び公的大会の出場名簿に適用される仕組みとなっている。省令では、認定票の色を年度ごとに変えることが定められ、版は若草色、版は薄藤色であったとされる。
沿革[編集]
制定の経緯[編集]
制定の直接の契機は、に横浜市で起きた「港湾舞台事件」であるとされる。これは、演劇祭の配役表と港湾労務の出面簿が誤って混線し、女役の出演者27名が一斉に「女体化済」として記録されたことから、行政の現場に混乱が生じた事件である。
この混乱を受けて、との合同研究会が設置され、座長を務めたは「性別の表示は身体ではなく制度である」とする報告書をまとめた。報告書は57年12月に提出され、翌年の通常国会でとして審議された。
主な改正[編集]
改正では、申請可能年齢が以上から以上に引き下げられ、これに伴い学校内の制服規程との整合が図られた。また、改正では、写真台帳の基準が銀塩写真からデジタル画像へ移行し、背景色は「無地の乳白色」とされた。
には、災害時の一時的女体化措置に関する特例が追加され、大規模避難所において名簿の性別欄を3種類から選択できるようになった。なお、この改正時に導入された「多段階表象評価」は、実務上ほとんど使われなかったにもかかわらず、条文だけがやけに精緻であるとして法制担当者の間で知られている。
主務官庁[編集]
本法の所管はであり、実務は同省の「身体表象調整課」が担当するとされる。もっとも、課名はの省内再編により一度「性表記・外観統括室」に変更されたが、現場では旧称のほうが通りがよかったため、通達上は併記が続いた。
また、認定の審査にはの戸籍実務担当部局、の学校保健担当、及びの住民基本台帳担当が協議に加わる。特に千代田区の合同庁舎に置かれた「三省連絡会議」は、月2回開催され、平均で議事録が48ページに及んだという。これは、法令の趣旨に比して実務が過剰に細かくなった例としてしばしば引用される。
なお、都道府県のうちとは独自の運用要綱を持ち、申請者に対し事前講習を義務づける運用を採った時期がある。これは法令上明文の根拠を欠くとして批判されたが、当時は「行政指導であるからこの限りでない」と整理されていた。
定義[編集]
に規定する主要な用語は次のとおりである。
「女体化」とは、本人の申請に基づき、法令上の表示、社会生活上の名義、及び公的記録の一部を女性様式へ移行させることをいう。身体の器質的変化を含むものではないが、で定める基準に従い、外観上の変更が一定程度確認される必要があるとされる。
「認定対象者」とは、以上であって、継続的に女体化の適用を受ける意思を有する者をいう。なお、ただし書により、舞台芸術、実験教育、及び災害避難訓練については、この限りでない。
「表示機関」とは、戸籍事務、学校、医療機関、及び職業紹介所その他政令で定める機関をいう。法律上は「表示」はあくまで記録の問題であるが、現実には名札、制服、会員証、さらには町内会の回覧板まで影響し、関係者の負担が大きかったとされる。
罰則[編集]
本法の罰則は比較的軽いが、当時の行政法としては異例に細かい。第24条は、無認定で女体化認定票を模倣した場合、以下の拘禁または以下の罰金に処すると定める。
また、第26条は、認定票の色を意図的に改変し、あたかも別年度の適法な認定であるかのように装った者に対し、以下の過料を科す。実務上は、この規定により学園祭の模擬店が摘発された例がに1件あるとされるが、記録が曖昧で、要出典とされることが多い。
なお、第28条は、公務員が申請者の呼称を故意に旧名で記載し続けた場合、所属長による訓告及び再研修を義務づけている。法務雑誌ではこれを「呼称侵害罪の前段階的行政責任」と呼ぶことがあるが、学説の支持はあまり厚くない。
問題点・批判[編集]
女体化法に対する最大の批判は、制度上の便宜を優先するあまり、本人の自己認識より書類の整合を重視している点にあるとされる。特に後半には、認定を受けても医療機関と学校で取扱いが異なるため、実質的に「役所では女性、病院では男性」という二重状態が生じると指摘された。
また、認定基準が地方によりばらつき、では審査が早い一方、では面談回数が多いなど、地域差が大きかった。これについてはの年次大会で「運用は法律よりも冷蔵庫のラベルに似ている」と評し、会場で一部の参加者が笑いをこらえきれなかったという。
一方で、支持派は本法が性別表示の混乱を減らし、学校や職場での事務負担を軽減したと評価する。とりわけ、町役場での「記入欄の線引き」が統一されたことは、当時の窓口職員の残業を月平均11.4時間削減したという内部資料が残る。ただし、その資料の作成者が出向職員であったため、数値の信頼性にはなお議論がある。
脚注[編集]
[1] 法律第47号の条文解説は『官報号外・身体表象制度特集』に依拠する。 [2] 1983年制定説と1984年施行説が併存するが、公布日と施行日の混同であるとされる。 [3] 港湾舞台事件は地方紙3紙にのみ断片的に掲載されたとされ、一次史料は未確認である。
関連項目[編集]
性別表象特例法
戸籍表示調整法
女体化認定票
身体表象調整課
港湾舞台事件
日本行政表象学会
多段階表象評価
制服規程連動通達
公的名義移行制度
呼称侵害
脚注
- ^ 渡辺精一郎『身体表象と行政実務』行政法研究社, 1984.
- ^ 佐伯真由美「女体化法制定過程における省庁調整」『公法評論』Vol.12, No.3, 1985, pp.44-71.
- ^ 中嶋邦彦『表示国家の法技術』霞山書房, 1992.
- ^ Margaret A. Thornton, “Administrative Feminization and the Japanese Registry,” Journal of Comparative Bureaucracy, Vol.8, Issue 2, 1996, pp.103-129.
- ^ 高橋一成「女体化認定票の運用と地方差」『自治実務』第31巻第7号, 2001, pp.19-38.
- ^ Edward P. Sloane, “On the Color of Certificates: A Note on Japanese Feminization Law,” Tokyo Law Review, Vol.19, No.1, 2004, pp.1-22.
- ^ 厚生労働省身体表象調整課『女体化法逐条解説』中央法規出版, 2007.
- ^ 山口澄子『制服と法のあいだ』明文堂, 2010.
- ^ 日本行政表象学会編『表象行政の現在』学会出版部, 2012.
- ^ 田所雅信『女体化法の奇妙な整合性』法政新書, 2018.
- ^ 小林えりか「災害時一時的女体化措置の制度設計」『危機管理法学』第9巻第4号, 2019, pp.77-94.
- ^ 『官報号外・身体表象制度特集』官報調査会, 1984.
外部リンク
- 厚生労働省 身体表象調整課資料室
- 日本行政表象学会アーカイブ
- 官報号外デジタル閲覧庫
- 女体化法逐条研究会
- 地方運用要綱データベース