実は現存する日本の法律
| 正式名称 | 実は現存する日本の法律 |
|---|---|
| 分類 | 休眠法・準休眠法・幽霊条項 |
| 所管 | 法務省 法令保全局 |
| 初出 | 1949年頃とされる |
| 主な管轄 | 国会、各省庁、地方自治体 |
| 関連文書 | 法令整理台帳、附則追補票 |
| 通称 | 現存法、残留法 |
| 影響 | 行政実務、法令検索、議事録文化 |
実は現存する日本の法律は、において条文が有効であるにもかかわらず、の内部分類では「実務上の存在感が極端に低い法」として扱われる一群の法律である[1]。一般には後期の法制整理に由来するとされるが、成立の経緯にはの地下法規委員会が関与したという説がある[2]。
概要[編集]
実は現存する日本の法律とは、法典上は削除されておらず、かつ現行法検索にも掲載されるものの、施行通知や運用基準が長年にわたり更新されていない法律群を指す俗称である。条文は有効であるため違法ではないが、運用が極端に限定されるため、法律研究者の間では「生きているが歩かない法」とも呼ばれている。
この概念は、の法体系再編に際して、旧来の規定を完全に廃止すると官庁間の確認作業が増えすぎることから、いったん『残すだけ残す』方針が採られた結果として生まれたとされる。ただし、当時の会議録には明確な記述が少なく、後年で発見された付箋付きの複写原稿を根拠にする説が有力である[3]。
成立の経緯[編集]
法令整理室と“保留条項”[編集]
起源はに内で設置されたとされる臨時の法令整理室に求められる。ここで問題となったのは、占領期に急増した勅令・省令・府令の扱いであり、全部を洗い直すと一年で終わらないことが判明したため、条文の末尾に保留符号を付して一時的に温存する方式が採用された。これが後に「現存するが使われない法律」の原型になったという。
当時の担当者としては、法制官僚の、書記官の、および連絡係のが知られている。とくに三浦は、附則の余白に“この法、いつか誰かが怒る”と走り書きしたことで有名であり、その紙片が後に政策史資料として重視された[4]。
1960年代の再発見[編集]
の法令データ再点検で、千代田区の旧庁舎地下から未整理の法令綴じが42箱見つかり、その中に現在も効力を持つ条文が多数残っていたとされる。この出来事を契機に、各省は『死文化していないが運用しない法』の棚卸しを始めた。
もっとも、同年の記者会見で当時の係長が「実際には三箱しかなかった」と発言したため、42箱という数字には異論もある。ただし、法令実務家のあいだでは、箱数よりも“見つかったのが地下だった”という点の方が重要であるとされている。
制度上の特徴[編集]
実は現存する日本の法律の特徴は、廃止されていないことよりも、改正されていないのに検索で引っかかる点にある。法令番号が古いまま残り、附則だけが妙に厚くなっていくため、条文を読むと本体よりも「改正経過」が長いという現象が起こる。
また、これらの法律はしばしばの通知やの事務連絡で事実上の運用停止に近い状態となるが、停止とは明言されない。この曖昧さが、法学部のゼミでは格好の題材となり、提出物の末尾に「なお本件は休眠法ではない」と書くと加点されるという、半ば都市伝説めいた慣行も存在する[要出典]。
分類上は、完全休眠型、半休眠型、そして年に一度だけ誰かが参照する“儀礼型”に分けられる。とりわけ儀礼型は、の議事録や災害訓練の手順書に突然現れるため、行政職員からは「法令のツチノコ」と呼ばれている。
社会的影響[編集]
役所の書棚文化[編集]
この法律群の存在は、役所における書棚文化を異様に発達させた。各課には『現存法の所在一覧』が配備され、担当者は年度末に1冊ずつ背表紙を確認する儀式を行う。あるの庁舎では、この作業を3年続けた結果、棚の下から昭和期の製本見本が17冊出てきたとされる。
そのため、法令の実効性よりも保管実績が重視される傾向が生まれ、若手職員のあいだでは「条文は生き物ではなく、まず台帳である」と教えられるようになった。
市民への意外な波及[編集]
市民生活への直接の影響は少ないが、相続、印鑑、河川敷利用、祭礼の火気使用など、極めて限定的な場面で突然姿を見せることがある。あるの町内会では、毎年の盆踊りで使用するやぐらの高さをこの法律に照らして測ることが慣例化しており、実測値は『7尺3寸か、それに準じる程度』とする独自基準が残されている。
また、法律が現存しているという事実自体が、行政の慎重さを象徴するものとして引用されることが多い。政治評論では、これを「廃止できない国の優柔不断」と見る向きと、「残しておく技術の成熟」と見る向きが拮抗している。
代表的な事例[編集]
代表例として挙げられるのは、通称『旧物資記録保存法』と『臨時道路幅員調整法』である。前者は倉庫の帳簿保全を目的としたとされるが、実際にはの大雪で帳簿室が埋まり、改正のタイミングを失ったことから温存されたと伝えられる。後者は、道路幅の調整を定めるにもかかわらず、条文中に“場合により”が11回も出現し、どの幅も完全には否定していない。
さらに、の一部でのみ参照される『寒冷地臨時印章承認令』は、冬季に印章が凍結して押印不能になるという理由で設けられたが、実際には担当者がコタツから出たくなかったためという証言もある。こうした事例が積み重なり、現存法は「運用のための法律」ではなく「運用しないために残る法律」という逆説的性格を帯びるに至った。
批判と論争[編集]
批判の中心は、現存しているだけで改廃の判断を遅らせる点にある。法学者のは『法の生存確認が目的化したとき、条文は書庫の装飾になる』と論じ、これに対して実務家側は『装飾でも、いざという時に役に立つ』と反論した。
一方で、現存法の擁護論には、戦後復興期の行政資源が限られていたことを考慮すべきだという見方がある。ただし、擁護論の末尾にしばしば「なお、実際に使われた例は少ない」と付記されるため、結局のところ誰も自信を持っていない点が特徴である。
には、ある検証番組が「本当に現存しているのか」を調べるため、全国47都道府県の法令担当課に問い合わせを行ったが、回答のうち9件が『確認中』、4件が『担当不在』、1件が『まず趣旨をご教示ください』であったとされる。もっとも、この調査結果は番組側の集計ミスを含む可能性がある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『戦後法令残置論』中央法規出版, 1958.
- ^ 三浦きぬ『附則余白の研究』日本行政評論社, 1965.
- ^ Margaret A. Thornton, “Dormant Statutes in Postwar Japan,” Journal of Asiatic Legal Studies, Vol. 12, No. 3, pp. 201-229, 1972.
- ^ 佐伯真理子『現存法の行政的運命』有斐閣, 1984.
- ^ H. J. Thornton, “The Underground Committee and the Persistence of Legal Fragments,” Legal History Quarterly, Vol. 8, No. 1, pp. 41-68, 1976.
- ^ 法令保全局編『法令整理台帳 第4巻第2号』内閣印刷局, 1971.
- ^ 小泉達也『日本の休眠法とその周辺』東京大学出版会, 1991.
- ^ 『官報保存と現存法の境界』法制史研究, 第23巻第4号, pp. 77-96, 2003.
- ^ Eleanor S. Whitcomb, “When Laws Survive Their Usefulness,” Pacific Law Review, Vol. 19, No. 2, pp. 88-110, 1999.
- ^ 山岸一郎『法の生存確認手続き入門』勁草書房, 2016.
外部リンク
- 法令保全アーカイブ
- 日本休眠法研究会
- 現存条文索引室
- 地下法規資料館
- 官報異文データベース