岡山県北における連続汚物放置事件
| 名称 | 岡山県北における連続汚物放置事件 |
|---|---|
| 正式名称 | 岡山県北部広域不法汚物遺置事案 |
| 日付 | 2007年4月18日 - 2007年6月2日 |
| 時間 | 主に早朝から未明 |
| 場所 | 岡山県真庭市、津山市、美作市 |
| 緯度度/経度度 | 35.0度 / 133.8度 |
| 概要 | 県北一帯の公園、農道、寺社境内に汚物が反復して放置された事件 |
| 標的 | 歩道、駐車場、バス停、無人の小型公園 |
| 手段/武器 | 携行式容器、新聞紙包み、簡易撒布器 |
| 犯人 | 単独犯とみられる人物(後に“便宜的放置者”と報道) |
| 容疑 | 軽犯罪法違反、器物損壊未遂、公衆衛生条例違反 |
| 動機 | 地域の“静けさ”に対する反抗とされる |
| 死亡/損害 | 死者なし、清掃費約184万円、観光キャンセル27件 |
岡山県北における連続汚物放置事件(おかやまけんぽくにおけるれんぞくおぶつほうちじけん)は、(19年)にのおよび周辺ので発生したである[1]。警察庁による正式名称はとされ、通称では「北部連続うんち置き去り事件」と呼ばれる[1]。
概要[編集]
岡山県北における連続汚物放置事件は、北部を中心に、短期間のうちに同種の汚物が複数箇所へ放置されたとして、とが合同で扱った迷惑犯罪である。県北特有の広い道路網と夜間の人通りの少なさを利用し、犯行はからにかけて断続的に行われたとされる。
事件当時は、単なるいたずらと見る向きもあったが、放置地点の選定に一定の規則性がみられたことから、捜査本部は当初から連続性を疑っていた。なお、後年の市議会答弁では「地域の美観に対する組織的挑発」との表現が用いられた[2]。
背景・経緯[編集]
発端は(19年)未明、落合地区の旧道沿いで、新聞紙に包まれた不審物が見つかったことにある。通報を受けたが確認したところ、中身は汚物であり、近隣の自販機裏にも同様の痕跡があることが判明した。
その後、上旬までにの河川敷駐車場、の寺社参道、境界付近の農道などで合計14件が確認され、ほぼ2〜4日おきに発生した。現場は共通して、街灯が少なく、かつ前夜に地域清掃が行われた直後であったことが多く、地元では「清掃班を狙っている」との憶測も広がった。
犯行動機については、供述調書の一部で「夜の県北に余白をつくりたかった」とされる奇妙な表現が残っている。ただし、この供述の真正性には疑義があるとされ、のちにでも争点の一つとなった。
捜査[編集]
捜査開始[編集]
は、連続発生の傾向を受けて内に特命班を設置し、深夜帯のパトロールを倍増させた。特にの出入口周辺と、県道沿いのコンビニ駐車場が重点監視地点となった。
捜査関係者は、犯人が各現場に滞在した時間は平均3分未満であったと推定している。さらに、複数の現場で靴底に同一の土壌成分が残されていたことから、方面の農道を経由して移動した可能性が指摘された[3]。
遺留品[編集]
遺留品としては、業務用の割り箸3本、内のスーパーのレシート、手書きの時刻表メモ、そして不自然に丁寧に折られたの折り込み広告が回収された。とりわけ広告の裏面に、県北の地名を結ぶ矢印が描かれていたことが捜査上の手掛かりとなった。
また、現場周辺の監視カメラには、フードを深く被った人物が「清掃済み」と思われるエリアを避けて通る姿が映っていたが、画質が粗く、足取りの癖以外に特定要素は得られなかった。捜査本部はこれを“遺留足癖”と称したが、報道後にやや流行語化した。
被害者[編集]
本事件における直接の被害者は、汚物の放置地点を管理していた自治体職員、清掃業者、ならびに現場を利用した通学児童や高齢者である。身体的被害は確認されていないが、精神的苦痛を訴えた住民は少なくなかった。
のバス停では、朝の通勤客8人が足止めされ、うち2人がその日の出勤を断念したとされる。また、の寺社境内では、春祭りの準備中に発覚したため、神職が「今年は清めの回数が例年の3倍になった」と述べたと報じられた。
もっとも、地元紙の投書欄には「被害の深刻さを笑い飛ばす空気があった一方、県北の結束も強まった」とする意見も掲載され、事件は不謹慎な意味で地域の共通体験となった。
刑事裁判[編集]
初公判[編集]
(20年)、で初公判が開かれた。被告人はの元運送補助員で、起訴状ではおよびが主たる罪名とされた。
被告人側は、「犯行」ではなく「儀式的な放置」であり、損壊の故意はなかったと主張したが、検察側は、同一様式の包材使用や、現場ごとの移動記録を根拠に、計画性を強く指摘した。傍聴席では、供述中の「静けさを置いてきた」という表現が物議を醸した。
第一審[編集]
第一審では、として押収された携帯容器の指紋、車両の走行履歴、さらに本人が購入したとされる除菌スプレーの領収書が採用された。一方で、汚物そのものの採取時点が遅れたため、DNA鑑定は補助的証拠にとどまった。
判決は、被告人に対し1年6か月、執行猶予3年とするもので、裁判所は「公共空間への反復的挑発性が強い」としつつも、被害の物的規模が限定的である点を考慮した。なお、量刑理由中に「県北の夜間景観に著しい不安を与えた」とあるのが、後にインターネット上で頻繁に引用された[4]。
最終弁論[編集]
最終弁論では、弁護側が「被告は社会的孤立の中で、過剰に秩序化された地域環境への歪んだ抗議を行ったにすぎない」と述べたのに対し、検察側は「公共の秩序を踏みつける反社会的な反復行為である」と批判した。
は岡山支部で審理されたが、結果的に第一審が維持された。事件は、死刑や無期刑が論じられる類型ではなかったものの、メディアが過剰に煽ったため、世論上はやや重罪のように扱われた。
影響・事件後[編集]
事件後、とでは、夜間の公園巡回を強化するため、地域ボランティアとが共同で「清浄パトロール」を開始した。公衆トイレの鍵管理が見直され、県北の一部では便座清掃の回数が1日2回から4回へ増やされた。
一方で、観光面では「ここまで話題になるなら見に来る」という逆風の宣伝効果も生じ、地元の道の駅では事件後3か月でトイレットペーパーの売上が前年比17%増となった。これは県の広報資料にも記載されたが、因果関係の厳密な分析は行われていない。
さらに、教育現場では「見つけたら触らない、近づかない、すぐ通報する」という標語が児童向け安全教本に採用された。半ば冗談のような事件であったにもかかわらず、地域衛生と通報体制の教材として長く使われた点は注目に値する。
評価[編集]
専門家の間では、本事件はにおける広域連携捜査の試金石になったと評価されている。とりわけ、複数署にまたがる軽微犯罪を一つの連続事案として扱う運用は、その後の迷惑行為対策に影響を与えたとされる。
他方で、地元の一部住民からは「騒ぎすぎた結果、犯人が半ば伝説化した」との批判もある。実際、頃には、現場を模した落書きが県北の観光地で相次ぎ、事件は半ば怪談のように語られた。
なお、の地域社会研究ゼミが行った聞き取りでは、回答者37人中26人が「今でも県北の夜道で思い出す」と答えたが、調査方法の詳細は公表されていない[要出典]。
関連事件・類似事件[編集]
類似事件としては、沿岸で発生したとされる「連続マヨネーズ塗布事件」、中部の「無人駅ベンチ黒ずみ事件」、およびで話題になった「深夜パンくず撒布事件」が挙げられる。いずれも公共空間を不衛生に見せる点で共通しており、いわば“感覚型犯罪”の一群に分類される。
また、県北の事件は、犯人が特定の地形を好んで選ぶという点で、の廃線跡マーキング事案とも比較される。もっとも、こちらは実際にはまったく別系統の軽犯罪であり、比較の妥当性には議論がある。
関連作品[編集]
事件を題材にしたノンフィクション風書籍として、『県北の夜と白い包み――岡山連続汚物放置事件の記録』、2011年がある。映画化企画も一時期進んだが、最終的には「映像で再現すると品位が保てない」として中止された。
テレビ番組では、の特番『県北ミステリー追跡 置かれたものは何だったのか』が放送され、再現VTRの小道具が過剰に精巧だったことでむしろ話題となった。また、地域情報番組では、事件後の清掃ボランティアが紹介され、犯行の痕跡よりも草刈りの技術が注目された。
ほかに、地元FM局の深夜番組『北の静寂と3分間』では、事件を象徴する鈍い足音のSEが長く使われた。これは後年、視聴者から「公共放送でやるには妙に生々しい」と指摘された。
脚注[編集]
1. ^ 岡山県警察本部『平成19年県北広域迷惑事案報告書』内部資料, 2008年. 2. ^ 真庭市議会会議録第42号, 2007年6月. 3. ^ 田辺修一「県北農道における土壌付着パターンの分析」『岡山地域治安研究』Vol. 8, No. 2, pp. 41-58, 2009年. 4. ^ 岡山地方裁判所 平成20年(わ)第31号 判決要旨, 2008年. 5. ^ なお、被告人が「毎回ちがう紙を使った」と述べた部分は、後の記録整理で削除されている。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田辺修一『県北農道における土壌付着パターンの分析』岡山地域治安研究 Vol. 8, No. 2, pp. 41-58, 2009年.
- ^ 岡本里奈『地方都市における連続迷惑行為の社会学』ミネルヴァ書房, 2012年.
- ^ 岡山県警察本部『平成19年県北広域迷惑事案報告書』内部資料, 2008年.
- ^ H. Sato and M. Thornton, “Serial Public-Nuisance Placement in Rural Japan,” Journal of Applied Civic Safety, Vol. 14, No. 1, pp. 112-129, 2010.
- ^ 吉岡千尋『県北の夜と白い包み――岡山連続汚物放置事件の記録』彩流社, 2011年.
- ^ 三宅久美子『清掃と秩序のあいだ』有斐閣, 2013年.
- ^ 岡山地方裁判所 編『平成20年(わ)第31号事件記録集』岡山法律文化社, 2009年.
- ^ “The Geography of Minor Offences in Western Honshu,” East Asian Crime Studies, Vol. 6, No. 3, pp. 7-19, 2011.
- ^ 平井誠一『バス停と農道の犯罪地理学』山陽出版, 2014年.
- ^ 『夜間景観と不安の社会史』第2版、港区社会文化研究会, 2015年.
- ^ 西園寺由紀『置かれたものの政治学』中央評論社, 2016年.
外部リンク
- 岡山県北事件アーカイブ
- 県北防犯史デジタルライブラリ
- 美作広域清掃連絡協議会資料室
- 夜間景観と公共秩序研究センター
- 岡山地方裁判所判例便覧