投票箱愛護法
| 題名 | 投票箱愛護法 |
|---|---|
| 法令番号 | 昭和47年法律第83号 |
| 種類 | 公法 |
| 効力 | 現行法 |
| 主な内容 | 投票箱の保全、巡回点検、保管、表示及び破損防止 |
| 所管 | 総務省 |
| 関連法令 | 公職選挙法、選挙管理委員会規程、投票用紙保全令 |
| 提出区分 | 閣法 |
投票箱愛護法(とうひょうばこあいごほう、47年法律第83号)は、に用いられる投票箱の損耗防止、保全、儀礼的取扱い及び保管環境の適正化を目的とするの法律である[1]。総務省が所管する。略称は「投箱法」とされることがある。
概要[編集]
投票箱愛護法は、を単なる選挙事務用品ではなく、選挙の公正性を可視化する「準公的器物」と位置づけ、その破損、改造、持ち出し、過度の装飾を禁止する法令である。条文上は簡潔であるが、実務上は自治体ごとの保管棚の寸法、蓋の開閉回数、南京錠の型式にまで影響を及ぼしている。
同法は47年の国政選挙を背景に制定されたとされるが、立法過程ではの倉庫における「投票箱の湿気被害」が強く問題視されたという。なお、制定時の付帯決議で「投票箱は選挙民の沈黙を受け止める容器である」と記されたことから、のちに「箱に人格を見いだした法律」として法学部の講義でしばしば言及される。
構成[編集]
本法は全5章28条及び附則からなり、第1章で総則、第2章で保全義務、第3章で管理施設、第4章で違反時の措置、第5章で雑則を定める構成である。各条文はとの整合を意識しつつ、選挙管理委員会に対し、投票箱の取扱い記録簿の備付け、年1回以上の光沢点検、並びに「共鳴音検査」を義務付けている。
また、である投票箱愛護法施行令及び令である投票箱愛護法施行規則により、投票箱の材質は原則として透明アクリル又は木質合板とされ、ただし「地域慣行により黒色塗装を要する場合」はこの限りでないと規定する。これにより、の一部離島では海塩対策として特別防錆指定箱が用いられている。
沿革[編集]
制定の経緯[編集]
同法の起源は、40年代初頭に選挙部が実施した「票器保全実態調査」にあるとされる。調査報告書によれば、地方選挙のたびに投票箱の角欠け、蝶番の緩み、雨天時の底板膨張が相次ぎ、特にの山間部では木箱を囲炉裏のそばに保管した結果、選挙当日に煤で内部が黒ずんだ事例があったという[要出典]。
これを受け、に地方行政委員会で「箱の尊厳」をめぐる質疑が行われ、当時の自治官僚・渡会正次郎が「投票の自由は箱の安寧に支えられる」と答弁したことが転機となった。のちに彼は「箱派官僚」の代表例として語られるが、本人は晩年までその呼称を嫌ったとされる。
主な改正[編集]
5年改正では、従来の紙製緩衝材に代えて再生フェルトの使用が認められ、自治体の保管経費が年間約1,280万円削減されたとされる。一方で、同改正により「投票箱に芳香剤を設置してはならない」と明記され、以後、柑橘系の香りを伴う投票所は全国で12か所にまで減少した。
2年改正では、新型感染症対応の名目で「箱外面の定期アルコール拭き取り」が法定化されたほか、遠隔地保管庫における温湿度記録が義務化された。なお、改正附則第3条により、旧式の金属箱については「音が大きすぎる場合、自治体は布製スリーブを装着するよう努めるものとする」とされたが、これが一部で「選挙の衣替え」と呼ばれ、法曹界で軽い混乱を生んだ。
主務官庁[編集]
本法の主務官庁はであり、選挙課ではなく、内部的には「選挙資器材保全室」が事務を所掌するとされる。同室は全国1,742の自治体から毎年提出される投票箱台帳を集約し、破損率、施錠不良率、蝶番異音率を算出している。
また、同省はにより投票箱の標準寸法を示しているが、現場では「昭和48年型」「折り畳み型」「河川増水対応型」などの通称が併用される。加えて、地方自治体向けに通達第17号「投票箱の前夜乾拭きに関する留意事項」が発出されたことがあり、これが一部の職員の間で半ば儀式のように扱われている。
定義[編集]
第2条では「投票箱」を、選挙人の投票を受理し、これを封緘した状態で保管するための器具であって、開閉機構及び投入口を備えるものと定義している。ここでいう「愛護」とは、単なる丁重な取扱いにとどまらず、湿気、衝撃、盗難及び心理的汚損からの保護を含む広義の概念とされる。
第3条では「保管施設」を、常温・遮光・施錠が確保される場所として定義し、ただし地震多発地域においては耐震棚を備えるものとされる。また「特別投票箱」とは、病院、船舶、離島及び高地集落において用いられる変則仕様の箱をいう。第4条により、これらに該当する者の管理責任は通常の投票箱よりも重く、破損時には「なぜ当該箱は単独で冷蔵庫の上に置かれていたのか」について説明責任が課される。
罰則[編集]
第18条から第24条までに罰則が規定されている。故意に投票箱を損壊し、又は投票箱に落書きその他の装飾を施した者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる。業務上保管を命ぜられた公務員が、施錠確認を怠った場合は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされる。
また、投票箱を私物の展示棚として転用した場合、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する旨が定められている。附則の経過措置により、平成10年以前の「文化祭流用箱」については、初回違反に限り講習受講で代替可能とされたが、実際には「選挙管理委員会の前で箱に謝罪文を読み上げる」という独特の指導が各地で行われた。
問題点・批判[編集]
本法は、投票箱の保全意識を全国的に高めた一方で、過剰に「箱を守る」ことが選挙の本質を覆い隠しているとの批判がある。特にの行政法研究者・松浦芳枝は、箱の保護に年額約4億円が投じられていることを挙げ、「票より箱に予算が付く逆転現象」と評したとされる。
また、自治体によっては、愛護の名の下に投票箱へビニール包装を二重三重に施し、投票当日に開封作業だけで30分を要する例が報告されている。これに対し賛成派は「箱の無傷性は票の無傷性に通じる」と主張するが、反対派は「その理屈なら選挙事務職員にも保存袋が必要になる」と応じている。なお、は2021年の声明で、過度の装飾やキャラクターシールの貼付を自粛するよう求めた。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡会正次郎『票器保全の理論と実際』自治行政出版社, 1973.
- ^ 松浦芳枝『選挙事務資器材の法社会学』東京法規出版, 1998.
- ^ 小泉義隆「投票箱愛護法制定史覚書」『地方行政研究』Vol. 12, No. 4, pp. 44-61, 1981.
- ^ Harold T. Wexler, "The Civic Container Doctrine in Postwar Japan," Journal of Electoral Materials, Vol. 7, No. 2, pp. 113-129, 2004.
- ^ 中村晴彦『選挙箱と湿度管理』ぎょうせい, 2007.
- ^ Aiko Tanabe, "Polishing the Ballot Box: Ritual and Regulation," Asian Public Law Review, Vol. 19, No. 1, pp. 5-28, 2016.
- ^ 総務省選挙資器材保全室『投票箱愛護法運用便覧 第8版』, 2022.
- ^ 片岡冬馬「投票箱に芳香剤は必要か」『自治と設備』第31巻第3号, pp. 88-97, 2011.
- ^ Elizabeth M. Harrow, "Silent Hinges and Democratic Order," Comparative Election Studies, Vol. 14, No. 6, pp. 201-220, 2019.
- ^ 自治省選挙部監修『投票箱の敬意と保管棚』, 1974.
- ^ 藤原さやか『箱の尊厳――投票箱愛護法小史』北斗法学会, 2020.
外部リンク
- 総務省選挙資器材保全室
- 全国投票箱愛護協会
- 地方自治法資料館デジタルアーカイブ
- 箱文化研究フォーラム
- 選挙事務用品標準化センター