日経平均
| 分類 | 株価指数(平均型) |
|---|---|
| 対象市場 | 日本の主要株式市場 |
| 算出機関(通例) | 民間の新聞社系の指数部門 |
| 算出方法(一般説明) | 構成銘柄の株価を一定の規則で平均化する |
| 導入(通説として語られる時期) | 1950年代 |
| 用途 | 投資指標、金融商品、ニュースの速報 |
| 異名(業界用語) | 大勢の顔 |
| 特徴 | 数字の語り口が強く、社会的比喩として定着したとされる |
(にっけいへいきん)は、日本のに上場する銘柄群の「平均」を示すとされるである。1950年代に整備されたと説明されることが多いが、その起源は実は別目的の統計事業にあるとする説が有力である[1]。
概要[編集]
は、株式市場の「温度」をひとつの数に圧縮したものとして広く知られている。実務上は一定の規則に基づいて集計され、報道や金融商品の基礎指標として機能すると説明される[2]。
一方で、指数の成立は「投資家のため」だけではなく、当時の国家的な統計作業や、新聞社の経営判断に深く結び付いて形成されたとされる。とくに、銘柄選定の議論が「国民の購買意欲」を測るための周辺統計と同じ机で行われていたという回想が、後年に繰り返し引用されている[3]。
このため、は数値であるにもかかわらず、社会では比喩としても消費されてきた。たとえば、企業の採用活動や地域の商店街の売上見込みまで「平均の上げ下げ」で説明する言い回しが、昭和末期にしばしば観察されたとされる[4]。
名称と算出の「平均」[編集]
平均の定義が“話芸”になるまで[編集]
指数の「平均」は、数学的な厳密さよりも、現場で説明しやすい語順を優先して設計されたとされる。具体的には、指数部門の初期資料で「読者が朝刊を開いた瞬間に、平均が“上がる/下がる”で理解できることが最重要」と明文化されたという[5]。
そのため算出の細部は、内部では幾度も見直された。指数担当者が「分母の議論は夜にしないと結論が出ない」と語ったという逸話が残っており、実際に切替日の多くが金曜の夕方に集中していたとされる[6]。また、端数処理は当初、手計算を前提に「割り切れない分は“気分係数”で丸める」と冗談交じりに運用された時期があったと報じられている[7]。なお、この運用が数値のブレを生んだとして、後に監査部門が警告を発したとも言及される[8]。
このようにの「平均」は、単なる計算結果というより、情報の伝達様式として進化したと理解されている。
構成銘柄の選定:“景気の顔”方式[編集]
銘柄選定は「市場を代表する企業」という説明がなされがちだが、初期には別の基準があったとする説がある。それは系の統計担当者と、新聞社の指数部門が共同で参照していた「家計支出の代理変数」だったとされる[9]。
ある資料によれば、構成候補のスクリーニングでは、企業の利益よりも「社員食堂の利用者数」「地方工場の休日出勤比率」「輸送契約の平均距離(km)」などの“生活に触れる指標”が優先された時期があるという[10]。もっとも、これらの指標はのちに「投資家が読めない」という理由で廃止されたが、選定会議の議事録には「結局、景気には“顔”が要る」と残っている[11]。
この「顔」概念は、銘柄を入れ替えるたびに読者が納得しやすいよう、説明文の定型にも落とし込まれたとされる。結果として、はニュースの見出しに適した“性格づけされた数字”になっていったと推定される。
歴史[編集]
誕生:統計局の机の隣で始まった[編集]
の原型は、新聞社の編集会議ではなく、の臨時室で育ったとする伝承がある。いわゆる「速報指数」が必要になったのは、1952年の改正で、景気判断の報告様式が“翌朝にそのまま貼れる表”へ統一されたためだと説明される[12]。
当時、新聞社の若手記者(わたなべ せいいちろう)は、景気判断のニュース原稿を作るために、集計作業の速さを競う部署横断の試験に参加したとされる。彼は「平均は速く出せ、理由は後から書け」と指示を受けたという[13]。この試験がきっかけとなり、同じ形式の計算が毎営業日繰り返せる仕組みが整えられたと推定される。
さらに、初期の指数には「事故防止のための安全弁」が付けられていたという。すなわち、計算結果が前日比で±12.7%を超えた場合、翌日の朝刊では“平均”ではなく“再点検後の暫定値”を掲載する規約があったとされる[14]。ここで使われた再点検のチェック項目が、のちに「平均の正当性」の口上に変換されたという話が、資料整理の段階で混線したとも言われている[15]。
拡大:数字が外交になる日[編集]
が社会的影響力を強めたのは、海外の投資家向けに“物語として読める指数”が求められた時期と結び付いている。実際に、ロンドンの商社の分析担当が、指数の読み方を「市場の気分を翻訳する手段」と表現し、社内教材に採用したことが確認されている[16]。
同教材では、数値が上がった日には「採用広告の入稿が増える」、下がった日には「家計の外食回数が減る」という相関を、“平均の語り”で学習する構成になっていたとされる[17]。このような教材が国内の翻訳を通じて広まり、は単なる指標を越えて、景気の説明役として定着したとされる。
ただし、定着の過程で問題も生じた。たとえば、指数の急変が報道されるたびに、企業の広報が「平均に合わせた発表」を仕込むようになったという指摘がある[18]。ある調査では、内の企業のプレスリリースのうち、指数発表の直後に同趣旨の見出しを掲載した比率が年間で約1,940件に達したとされる(2019年時点の推計)[19]。この数字は“平均が外交言語になった証拠”として引用される一方で、「指数に振り回される市場」という批判の材料にもなった。
社会的影響と“あるある”エピソード[編集]
は、投資判断の道具であると同時に、生活者が会話に使う共通語として機能してきた。たとえば地方の商店街では、値動きが悪い日に「今日は平均が曇ってる」と貼り紙を出した例が、の自治体広報で紹介されたとされる[20]。この紹介記事には、貼り紙の文言が「曇り」の比喩に統一され、雨天の曜日と一致しないよう調整されたと書かれている[21]。
また、企業側の行動にも癖が現れたとされる。採用担当の(なかむら よしこ)は、面接の待ち時間に「平均の読み」を受験者に質問する“時事リテラシー面接”を行ったという逸話がある。彼女は「数字に弱い人ほど、物語で立ち直ろうとする」と語ったとされ、評価表には“平均が下がった日でも落ちない姿勢”が項目化された[22]。
なお、最も有名な都市伝説は「の老舗時計店が、毎月の修理金を平均の前月終値に連動させていた」というものである。修理費は一見不安定に見えるが、店側は「平均の動きは人の“時間の節約”意識を示す」と説明していたとされる[23]。ただし、この連動の開始日をめぐっては、1921年説、1956年説、そして「実は平均ではなく新聞の見出しの方だった」という説まで出回っており、真偽は一様ではない[24]。この“揺れ”自体が、という指標を神話化していったとも考えられている。
批判と論争[編集]
への批判は、算出の透明性よりも「数字が決める空気」の側面に向けられることが多い。すなわち、市場参加者が指数を“結果”としてではなく“原因”のように扱い始めると、循環が起きるとされる[25]。
その象徴例として、指数の急落時に「平均が下がったから売る」という説明が増えたとする報告がある。報告書では、の営業資料のうち、指数を理由付けの中心に置くスライドが、1四半期で合計3,214枚作成されたと記されている[26]。この数字は、現場の手作業の痕跡を感じさせるような精度であるため、後年の検証で“作成の総数”として参照されたが、同時に「資料の数と売買の因果は別」との反論も出た[27]。
また、国際比較の観点でも論争が起きた。海外の類似指数と同じ感覚で読めない、とする指摘が繰り返し見られる。とくに、指数の前日比がニュースで消費される速度が速すぎるため、「読み手が数字を理解する前に社会が数字を消費してしまう」との警告がで出されたとされる[28]。ただし、警告にもかかわらず、朝刊の見出しは依然として“平均の一言”でまとめられる傾向が残ったとされる[29]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田中正紀『平均の編集術——「日経平均」誕生期の社内文書』虹文社, 1987.
- ^ 渡辺精一郎『速報指数の夜更かし』中央図書出版, 1961.
- ^ Margaret A. Thornton『Translating Market Mood: The Average as Narrative』Oxford Financial Review, 1974.
- ^ 佐々木広幸『景気判断の様式統一と新聞の集計』統計史研究会, 第12巻第3号, pp. 41-68, 1955.
- ^ Kline, R. & Thornhill, J.『On the Semiotics of Index Movement』Journal of Market Communication, Vol. 8 No. 2, pp. 101-129, 1982.
- ^ 【要出典】中村良子『採用面接における平均の読み』雇用心理叢書, 1999.
- ^ 鈴木春彦『分母の議論は金曜の夕方に』金融監査叢書, pp. 210-233, 2004.
- ^ 国際経済研究会『数字が外交言語になる瞬間』国際経済研究会叢書, 第2巻第1号, pp. 5-39, 2012.
- ^ 【書名が微妙におかしい】小澤玲子『曇りの比喩と値動き:商店街掲示の比較』灯台出版社, 2010.
- ^ 高橋健一『指数が空気を決める——因果と循環の誤読』市場学ジャーナル, Vol. 3 No. 4, pp. 77-96, 2018.
外部リンク
- 日本指数博物館
- 朝刊見出し研究所
- 統計局アーカイブセンター
- 市場の気分ラボ
- プレスリリース動態分析館