本当です嘘です
| 名称 | 本当です嘘です |
|---|---|
| 読み | ほんとうですうそです |
| 英語 | Truth-and-Lie Protocol |
| 初出 | 1984年ごろ |
| 提唱者 | 井沢 兼次郎 |
| 主な用途 | 会議、謝罪文、観光案内、深夜ラジオ |
| 中心地 | 東京都千代田区・大阪市北区 |
| 別名 | 真偽往復法 |
本当です嘘です(ほんとうですうそです、英: Truth-and-Lie Protocol)は、発話の真正性を一時的に揺らがせるために用いられる日本発の対話形式である。しばしば末期の編集会議文化から生まれたとされ、のちにの広報実務へ逆輸入された[1]。
概要[編集]
本当です嘘ですとは、文頭で事実らしい断定を置いたのち、直後にそれを自ら否定し、相手に判断の保留を強いる話法である。話者は真実の供述者でも虚言者でもなく、両者の役割を同時に演じる点に特徴がある。
この形式は、の企業広報と同人誌編集の境界地帯で自然発生したとされる。特にの貸会議室で行われていた月例会において、訂正文を先に書く習慣が誤って一般化したことが起源とされる[2]。なお、初期の文献では「真反対宣言」「反証先置き法」とも呼ばれていた。
歴史[編集]
成立以前の前史[編集]
前史として、期の新聞校正では誤報防止のために「未確定」「伝聞」といった保留語が多用されていた。この慣行が、の広告代理店において過剰に洗練され、断言と撤回を一文内で処理する技法へ転化したとされる。
また、に吹田市で開かれた「日本応答学会」準備会では、質問に対し最初に肯定、次に否定することで会場の沈黙を取る手法が記録されている。これは現存する最古の類例とされるが、議事録の末尾がコーヒーの染みで欠落しているため、要出典のまま引用されることが多い。
普及期[編集]
、広報コンサルタントの井沢兼次郎が『月刊ことばの設計』誌上で「本当です嘘です式応答」を提唱したことで、業界用語として定着したとされる。井沢はの喫茶店で、顧客からの難問に即答できず、思わず「本当です、嘘です」と言い切ってしまったことを契機に理論化したと回想している[3]。
にはのローカル番組『まちかど今昔帳』で、商店街の由来を語る際にこの形式が多用され、視聴者アンケートでは「聞いたあとに少しだけ安心する」との回答が42.8%を占めた。これにより、説明責任とユーモアを両立する話法として、行政の記者会見や観光パンフレットにも採用が広がった。
定着と変質[編集]
以降は、インターネット掲示板と携帯メール文化の影響を受け、冒頭の「本当です」が省略される一方、「嘘です」のみが強調される短縮形が増加した。これにより、本来の往復性が失われ、単なる自己否定のギャグとして消費される例が増えた。
一方で、の老舗旅館では、宿帳への記入時にあえて「本当です嘘です」と添えることで、宿泊客の個人情報に関する過剰な真面目さを和らげる慣習が続いている。旅館組合の内部調査では、同表現の使用後はクレームの長文化率が17%低下したとされるが、調査票の設計が独特であったため、信頼性については異論もある。
用法[編集]
本形式は、謝罪、冗談、注釈、観光説明、商品説明の五領域で主に用いられる。では責任の所在をぼかしつつ誠意を見せる効果があり、では伝承と史実を一息で往復させるために有効とされる。
特にでは、ハガキ職人の間で「ネタの最後に本当です嘘ですを付すと採用率が上がる」という経験則が広まり、1998年頃には投稿欄の約1割がこの終止法で埋まったと記録されている。なお、編集部は掲載可否の判断基準を明言していないため、実際の比率は不明である。
社会的影響[編集]
本当です嘘ですは、情報の真偽を即断しない態度を一般化した点で、メディア論にも影響を与えたとされる。の一部講義では、学生に対しこの表現を含む要約文を作らせる演習があり、真実と虚構の境界を意識させる教材として扱われた。
ただし、にの地域FMで放送された防災特番において、この形式が避難情報の冗談と誤認された事例があり、以後は災害情報との併用が自粛されている。批評家のなかには「情報の柔らかさを演出する一方で、責任の所在を曖昧にする」と指摘する者もいる。
批判と論争[編集]
この表現は、しばしば知的遊戯として称賛される一方、詭弁の温床であるとの批判も根強い。特にの『言語倫理季報』では、匿名論文が「本当です嘘ですは日本語版の安全弁に過ぎない」と述べ、編集委員会が掲載可否を巡って二度会合した。
また、の市民講座で行われた討論では、講師が「本当です嘘です」を連発した結果、受講生の3名がメモを取り損ねたとして苦情を申し立てた。主催者は、講師の熱意は評価できるが、講義録においては通常の接続詞を併用すべきであるとし、以後の使用基準を細かく定めた。
主な研究者と提唱者[編集]
井沢兼次郎のほか、言語社会学者の、放送作家の、編集者のが発展に寄与したとされる。高見沢はのゼミで「否定を先に置くことで、聞き手は逆に内容を記憶しやすい」とする実験を行い、参加者48名中31名が1週間後も一文を正確に再現したと報告した[4]。
村上は深夜番組『夜の反証室』でこの形式を常用し、斎藤は同人誌の奥付に「本当です嘘です校閲」を導入した。いずれも、後年の若年層が単純なギャグとして模倣したことで、原義がやや薄まったとされる。
派生形[編集]
派生形としては、「本当です、たぶん嘘です」「嘘です、でも本当です」「本当でしたが今は嘘です」などが確認されている。なかでも「本当です、たぶん嘘です」は、1980年代の証券業界で使われたとされ、会計説明会の最後に添えると株主の表情が穏やかになるという。
また、では観光土産の説明札に「本当です嘘です」と印字する製法があり、琉球王国由来とされる文様の説明に真偽の混線を意図的に残す工夫がなされている。制作現場では、印刷後にわざと一箇所だけ金色の箔をずらすという奇妙な手作業が加えられる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 井沢兼次郎『対話の反証学入門』ことば工房出版, 1986年, pp. 14-39.
- ^ 高見沢礼子「否定先置き表現の記憶保持効果」『東京言語社会学紀要』Vol. 12, No. 3, 1994, pp. 201-228.
- ^ 村上迅『夜の放送と冗談の制度』北斗社, 1999年, pp. 88-113.
- ^ 斎藤了一「奥付における真偽往復法の実務」『編集技術研究』第8巻第2号, 2001年, pp. 55-67.
- ^ Margaret L. Henson, "Truth-Adjacent Speech Acts in Urban Japan," Journal of Applied Pragmatics, Vol. 7, No. 1, 2006, pp. 33-49.
- ^ 渡辺精一郎『広報文における自己否定の美学』南港書林, 1992年, pp. 120-146.
- ^ 小林多聞「神保町貸会議室文化と断定回避」『都市文化評論』第15巻第4号, 1988年, pp. 9-31.
- ^ Arthur P. Bellingham, "A Brief History of False Confirmation," Studies in Communication Folklore, Vol. 4, No. 2, 2011, pp. 77-95.
- ^ 『月刊ことばの設計』編集部『本当です嘘です特集号』第3巻第11号, 1984年, pp. 2-19.
- ^ 言語倫理季報編集委員会『否定と責任のあいだ』倫理社, 1998年, pp. 66-70.
- ^ 中条あやめ「観光パンフレットにおける真偽混交表現」『観光情報学会誌』Vol. 9, No. 4, 2016, pp. 144-159.
外部リンク
- 日本真偽往復学会
- 都市対話表現アーカイブ
- 広報文体研究所
- 神保町言語資料館
- 夜の放送文化センター