機動戦士ガンダム外伝 起動せんしランダム
| タイトル | 機動戦士ガンダム外伝 起動せんしランダム |
|---|---|
| ジャンル | コメディSF(試作機整備奮闘) |
| 作者 | 矢継 井戸太郎 |
| 出版社 | 暁月出版 |
| 掲載誌 | 月刊ゆる工学タイムズ |
| レーベル | せんし整備文庫 |
| 連載期間 | 2012年[刈月]〜2019年[霜扇](全96回) |
| 巻数 | 全12巻 |
| 話数 | 全96話(短編含む) |
『機動戦士ガンダム外伝 起動せんしランダム』(きどうせんしランダム)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『機動戦士ガンダム外伝 起動せんしランダム』は、宇宙世紀を舞台に、試作機が“起動するたびに挙動が変わる”という工学的トラブルを、整備兵たちが現場の知恵で乗り切っていくコメディとして描かれる漫画である。物語の中心には、整備班の記録班・部品班・言い訳班が存在し、毎回の不具合を「偶然の確率」で説明しようとする姿勢が特徴とされる[1]。
本作は、作中で「起動せんし(ランダム起動型試作機)」と呼ばれる試作機郡が、同じ手順で整備しても毎回わずかに動作が変わる現象に悩まされる設定を採用している。にもかかわらず、整備兵が笑いながら原因を“たぶん別の場所”に押し込めていく展開が読者に受け、累計発行部数はに達したとされる[2]。なお、数値の算定に関しては「小型判の再編集分を含むか否か」で編集部内に意見が割れたと報じられた[3]。
制作背景[編集]
作者のは、工学系の同人誌を経由して商業デビューした人物として知られている。特に、部品のロット管理や工具の在庫表の“妙な説得力”に惹かれ、宇宙世紀の整備現場を「ギャグの舞台」として再解釈したとされる[4]。
企画書が編集部に初提出された際、タイトル案は『機動戦士外伝 起動不能ランダム』であったが、面白さは増すものの視聴者(読者)の期待を裏切る危険があるとして修正されたとされる[5]。このとき、編集担当のが「“起動せんし”の語感だけは残して」と求め、最終的に現在のタイトルへ落ち着いたという[5]。
さらに、本作は技術監修にの元スタッフが関与したといわれる。監修者は“現場用語の誤差”をわざと残すことに肯定的であり、作中の整備手順が細かすぎるほど細かい一方、肝心の結論だけが曖昧に終わる構成が評価されたとされる[6]。
なお、作中に登場する架空艦艇の採用は、実在の港湾施設名(周辺)を連想させる形で描かれているため、当時ネット上で「地名を置換したのでは」との推測が広がった。編集部は「資料の癖が似ただけ」と釈明したとされる[7]。
あらすじ[編集]
本作は章立てで展開され、各編は“整備作業”を中心に据えることでコメディの反復構造を作っている。以下では主要な編ごとの要点を示す。
フェルミナ整備巡洋艦に配属された新人整備兵は、受領した試作機を規定手順で起動させるが、コクピット内の表示だけが先に点灯し、動力が追従しない事象に遭遇する[8]。整備班は「点灯=起動」とする書類の穴を見つけ、規定逸脱を“事実として成立するギリギリ”まで折り曲げて乗り切ろうとする。
部品倉庫で同一型番のはずのコネクタが3種類の色に分かれていたことが判明する。そこで整備班は、色によって起動の挙動が変わる“部品くじ”を考案するが、実は発注書の印字がとで誤読されていたことが後に明かされる[9]。この回は、失敗の原因が“人間の読み”に回収されることで笑いが成立したと評される。
ベテラン整備兵は、機体の不安定さを「ランダムのせいだ」と片付ける癖がある。だが、監査官が来訪し、「ランダムという言葉は免罪符ではない」と詰める。整備班は言い訳を“データ化”して反撃しようとし、結果として、言い訳のログが機体の挙動予測に役立ってしまう[10]。
あるドックでだけ起動機が妙に上品な動きをするという噂が広がり、整備班はドック床材の摩擦係数を測ろうとする。しかし測定器の校正が1日ずれており、誤差を“演出”として扱う方向へ転ぶ[11]。この編では、整備の手順がそのまま舞台進行表になり、読者に「整備が芝居している」感覚を与えたとされる。
登場人物[編集]
レン・サビキは、機械が壊れるたびに“壊れた理由を探す”より先に“壊れた理由が書類にどう書けるか”を考える青年である。新人ながら、起動失敗の記録を短い詩のようにまとめる癖があり、後に社内報で引用された[12]。
ドアノ・バーネルは、工具の扱いが雑に見えて実は繊細な整備をしている人物である。本人は「乱数で直す」と豪語するが、実際には手癖ではなく工具の個体差を見ていると推測されている[13]。
監査官カルマ・フィルビーは厳格な人物として登場するが、笑えるくらい字面の整った注意書きを好む。彼女は「誤差をゼロにするより、誤差が読める状態にする」と述べ、整備班の“言い訳のデータ化”を承認したとされる[14]。
また、作中のマスコット的存在として、通信端末が擬人化されたような語りをする。ピコムはほぼ無能なはずだが、なぜか毎回“最後の1手”だけは当ててくるため、読者に不気味さと安心感の両方を与えたとされる[15]。
用語・世界観[編集]
本作の中心概念は、試作機が起動ごとに挙動を変える現象を指すである。作中では「乱数」「確率」「作業者の癖」といった複数の説明が並立し、どれが正しいかを確定させないことでコメディ性が維持されている[16]。
また、整備記録用語としてが登場する。ログは単なる記録ではなく、語彙の選び方によって監査の厳しさが変わるという設定が採用されており、整備班は“表現の辞書”を作っていくことになる[17]。
さらに、作中には「宇宙世紀の正史」では説明されない裏側の組織としてが置かれる。局の目的は機体の衛生ではなく、部品の“由来”を追跡して改造を隠すことにあるとされるが、描写は一貫してやわらかい。ほか、架空の港湾を想起させるが舞台になり、地名の雰囲気だけは実在の海軍都市と似せてあると指摘されている[18]。
なお、起動センサーの呼称は、作中で何度も別名にされる。編集部によれば「同じ部品を別の呼び名で誤認する人間の会話を再現した」ことが理由であり、読者の笑いは“認識のズレ”に由来するとされる[19]。
書誌情報[編集]
本作はのレーベルから刊行された。単行本は全12巻で、各巻には短編コラム「工具が泣いた日(4ページ)」が付属する構成であった[20]。
連載期間は2012年[刈月]から2019年[霜扇]までとされ、雑誌掲載は月刊であったが、体感上は隔月のような間隔が生じる時期があった。これは作者が“試作機の挙動”をモデル化するため、ネームに2週間だけ実作業のログを取り込んだことによるとされる[21]。
巻数・話数は次の通りである。第1巻から第6巻までは第1〜第3整備編中心、第7巻から第10巻で第4整備編と関連外伝が増え、最終巻は「ランダムの語をどう書くか」という監査官向けの回収回で締めくくられている[22]。
メディア展開[編集]
テレビアニメ化は、原作の“整備手順が説明口調で進む”点が評価されて実現したとされる。制作は架空のスタジオで、2017年に全26話が放送された[23]。
アニメでは、起動せんしランダムの表現として、画面右上に「起動確率(推定)」が常時表示される演出が採用された。数値は各回ごとにからの範囲で揺れ、脚本会議では「高すぎると都合が良い」として上限が抑えられたという[24]。
また、メディアミックスとして、連動玩具、ファンブック、そしてドラマCD「監査官の丁寧な嘘」が企画された。とくにドラマCDでは、レンが“悪いことを書かない”言い換えを探す台詞回しが話題となり、聴取者の間で「監査官の声がやけに落ち着く」という感想が多かったとされる[25]。
反響・評価[編集]
読者の反響としては、試作機の挙動がランダムであるにもかかわらず、整備班がそれを“手順と書類で殴り倒す”構図が癖になったという声が多い。評論では、本作が宇宙世紀のシリアスさを直接崩さず、周辺の細部で笑いを成立させている点が評価された[26]。
一方で、評価の内訳には揺れがある。整備コメディとしてのテンポは支持されるが、用語が多く読者を選ぶという指摘もあったとされる。編集部は「読者が“用語辞書を作りたくなる”ようにした」と回答したが、要望掲示板には「M-3の正体は早く出してほしい」という投稿が大量に集まった[27]。
なお、作中の「宇宙世紀の整備倫理」をめぐる議論も起きた。連結部品衛生局の存在が“責任の所在”を曖昧にするための装置ではないかと批判されたのである。この点について、監査官カルマが最後に行う独白が“許しの言葉”として受け取られたか“逃げの言葉”として受け取られたかで評価が割れたとされる[28]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 白州 眞鍋「『起動せんしランダム』編集方針と“語彙の監査”」『月刊ゆる工学タイムズ』第34巻第2号、暁月出版, 2013年, pp. 12-19.
- ^ 矢継 井戸太郎「整備の間(ま)とコメディ確率」『作画手順研究』Vol.7, せんし学会出版, 2014年, pp. 41-58.
- ^ 森下 ユイ「試作機の不安定性を物語にする方法—ランダム起動の演出論」『アニメ脚本季報』第11巻第1号, 北星社, 2016年, pp. 77-93.
- ^ カルマ・フィルビー(インタビュー記録)「監査官が評価した“丁寧な嘘”」『整備ログの詩学』暁月出版, 2017年, pp. 5-22.
- ^ 東宙アニメ制作社制作部「テレビアニメ版の数値演出—起動確率(推定)の設計」『映像表現工学』Vol.3, 東宙メディア, 2017年, pp. 110-121.
- ^ 田鶴川 俊「リングハーバー第3整備域の“それっぽさ”」『架空地理学通信』第2号, 地図屋出版社, 2018年, pp. 33-39.
- ^ 『機動戦士ガンダム外伝 起動せんしランダム』公式ガイドブック暁月出版, 2018年, pp. 1-256.
- ^ M. A. Thornton「Probability in Maintenance Narratives: A Nontechnical Overview」『Journal of Improvised Engineering』Vol.12 No.4, 2019, pp. 201-219.
- ^ K. Yamazaki「Editor’s Margins: Why the Mislabel Becomes the Joke」『Comedic Serialization Studies』第5巻第2号, 2020年, pp. 9-26.
- ^ (書誌情報の一部が要検証とされる文献)“せんし整備文庫12巻の体裁規格”『書店棚研究』第1巻第1号, 棚角出版社, 2016年, pp. 1-8.
外部リンク
- 起動せんしランダム 公式アーカイブ
- 月刊ゆる工学タイムズ 連載データベース
- 整備ログの詩学 特設ページ
- ピコム通信モジュール 互換表
- 東宙アニメ制作社 アニメ資料室