消しゴムの防弾性
| 名称 | 消しゴムの防弾性 |
|---|---|
| 分野 | 文房具工学、材料防衛学 |
| 起源 | 1949年ごろの学校備品試験 |
| 提唱者 | 三輪田栄之助らとされる |
| 代表規格 | JES-ER-12(旧) |
| 主な用途 | 窓際配置、机上防護、儀礼的抑止 |
| 問題点 | 硬度の上昇と消字性能の低下 |
| 関連機関 | 東京文具技術協会、関東学校備品審議会 |
消しゴムの防弾性(けしごむのぼうだんせい)は、が飛翔体の衝撃をどの程度吸収・偏向できるかを示す概念である。主にとの境界領域で論じられ、戦後の学校備品規格に端を発したとされる[1]。
概要[編集]
消しゴムの防弾性とは、消しゴムが受ける衝撃をどれだけ減衰し、内部亀裂を生じさせずに形状を保てるかを指す、半ば工学的な指標である。一般には未満の簡易測定で語られることが多いが、学校や官庁の机上配置では、実際の防護性能よりも「飛来物に対する心理的な安心感」が重視されてきたとされる。
この概念は、単なる文房具の性質ではなく、の統治下にあったの小学校で、窓ガラスの破損対策として机上の消しゴムを縁に並べた事例に由来するという説が有力である。のちにの備品係がこれを半公的に観察し、消字性能と防弾性の兼ね合いを検討したことから、独自の研究領域として成立したとされる[2]。
歴史[編集]
戦後復興期の「机上防壁」[編集]
最初期の記録は、夏に内の旧制小学校跡で作成された「机上危険物応急配列報告」に見えるとされる。報告書では、当時普及していたではなく、角型の黒消しゴムが「最も安定した遮蔽物」とされたが、理由は単に重くて滑りにくかったためである。
この時期、という技師が、石炭粉を混ぜた試作消しゴムを試験し、鉛筆の字を消しながら小石の跳弾も弱めるとして注目を集めた。もっとも、同僚の記録では「教室の床に黒い粉が大量に残るため、むしろ危険である」と記されており、当初から評価は割れていた。
高度成長期と規格化[編集]
にはが、消しゴムの防弾性を測るための簡易試験として、竹製の弾道台から重さ12gの鋼球を落下させる方法を採用した。落下後のへこみ深さが3mm以下であれば「A級防弾」、5mm以下であれば「B級実用」とされたが、実際には鉛筆の消去時に芯が黒く伸びるという副作用が増えるだけであった。
この規格はとして一部の官公庁学校備品に準用されたが、同規格の脚注には「防護効果は窓外の風速に左右される」との奇妙な但し書きがある。後年の研究者は、これは当時の試験室がの古い木造校舎を転用しており、強風で試験球がしばしば逸れたためだと推定している。
家庭用高硬度消しゴムの流行[編集]
後半には、学習塾の増加にともなって、家庭でも机上防護を兼ねた「高硬度消しゴム」が流行した。特にの文具問屋街では、角をわざと立てた消しゴムを「机守り」と称して販売する店が現れ、1箱24個入りが月平均で約8,600箱売れたとされる。
ただし、硬度を上げすぎた製品は消字に失敗し、逆に紙面をこすって穴を空ける事故が多発した。『』には、ある中学校で答案用紙の端に消しゴムを積み上げすぎた結果、採点者がそれを「防塁」と誤認したという逸話が掲載されている。
測定法[編集]
消しゴムの防弾性は、通常「静荷重耐性」「跳弾減衰率」「消字損耗比」の三要素で評価される。もっとも正式な測定では、の旧倉庫を改装した試験室で、直径9.1mmの鉛球を毎秒14.6m相当で模擬照射し、消しゴムがどの程度の割れ方を示すかを観察する方法が採られてきた。
試験結果は、表面の粉化が10%未満なら「柔防」、20%未満なら「準防」、30%以上でなお形状を維持すれば「儀礼防弾」とされる。なお、粉化率が高いほど現場職員の評価が上がる傾向があるという逆説があり、これは「よく消える消しゴムほど、非常時には壊れにくいはずだ」という直観に基づくものと説明されている[3]。
社会的影響[編集]
この概念が社会に与えた影響は、想像以上に広い。には各社が「防弾指数」をパッケージに記載し始め、学校購買部では消しゴムの色よりも角の摩耗率が選定基準となった。特に内の進学校では、入試シーズンになると防弾性の高い消しゴムが品切れとなり、保護者がの問屋街まで買い出しに行く現象があった。
また、自治体の防災訓練において、紙製ヘルメットと消しゴムを組み合わせた「机上避難セット」が配布された例もある。のある区では、職員が避難時にまず消しゴムを胸ポケットへ入れることが推奨され、これは「軽量かつ常時携帯できる防護資材」として一定の評価を受けた。ただし、実際には汗で消しゴムが変形するため、夏季訓練ではほとんど役に立たなかったと記録されている。
批判と論争[編集]
消しゴムの防弾性をめぐっては、以降、の一部研究者から「消字性能と防護性能を同一軸で論じるのは無理がある」との批判が出された。とりわけ、工学部の匿名報告書では、同じ消しゴムを100回以上落下させる試験は、材料特性ではなく机の反発係数を測っているに過ぎないと指摘された。
一方で、学校現場からは「防弾性の議論は生徒の私語を減らす効果があった」と評価する声も根強い。ある校長は、消しゴムの角を気にして机に座るだけで姿勢が整うため、学級運営上きわめて有益であると述べたが、その記録は学年主任の欄外に赤字で「要出典」と書き込まれている。
現在の位置づけ[編集]
に入ると、実用的な防護資材としての地位はほぼ失われたが、消しゴムの防弾性は愛好家と材料工学史研究者の間で再評価されている。特にの公開講座では、消しゴムの硬さと衝撃吸収の関係が「机上の安全文化」の象徴として紹介されることがある。
現在では、スマート文具ケースの緩衝材や、展示会での「触れる安全性」演出に応用されているとされる。もっとも、実際に防弾目的で使用したという事例はほとんど確認されておらず、専門家の間でも「存在したのは規格ではなく、規格を信じたい時代精神だった」とまとめられることが多い。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 三輪田栄之助『消字材の衝撃緩和に関する試験報告』東京文具技術協会紀要, 第3巻第2号, 1951, pp. 14-29.
- ^ 佐伯真一郎『学校備品における儀礼的防護の成立』日本教育史研究, Vol. 12, No. 4, 1964, pp. 201-219.
- ^ Margaret A. Thornton, "Elasticity and Erasure: A Postwar Stationery Study", Journal of Applied Material Folklore, Vol. 8, No. 1, 1972, pp. 33-58.
- ^ 西園寺修『防弾指数と消字効率の相関』材料文化論集, 第9巻第1号, 1980, pp. 77-93.
- ^ H. K. Bell, "Desk-Side Ballistics in Urban Schools", Bulletin of Educational Safety, Vol. 15, No. 3, 1984, pp. 110-126.
- ^ 高宮玲子『机上危険物の配置と学級統制』関東学校備品審議会報, 第21号, 1987, pp. 5-18.
- ^ 田辺久志『消しゴムの硬度上昇が紙面に及ぼす心理的影響』日本文具学会誌, 第18巻第6号, 1992, pp. 401-417.
- ^ Eleanor P. Smith, "On the So-Called Ballistic Quality of Kneaded Erasers", Stationery and Society Review, Vol. 4, No. 2, 1997, pp. 9-22.
- ^ 黒川辰雄『防弾性評価における机の反発係数』東京工業文具大学紀要, 第11巻第1号, 2004, pp. 61-79.
- ^ 井上みどり『文具と防災のあいだ』現代生活文化研究, 第7巻第5号, 2016, pp. 144-160.
外部リンク
- 東京文具技術協会アーカイブ
- 関東学校備品審議会資料室
- 机上防壁研究センター
- 日本消字防護学会
- レトロ文具史ラボ