生クリーム吐き病
| 病名 | 生クリーム吐き病 |
|---|---|
| 分類 | 嘔吐性類感染症(急性) |
| 病原体 | 未同定の乳成分関連微粒子(推定) |
| 症状 | 乳白色の逆流・反復性嘔吐、腹部不快感、思春期女性の体温上昇 |
| 治療法 | 制吐・補液・味覚過敏の鎮静(対症療法) |
| 予防 | 濃厚乳の取り扱い手順管理、手指衛生、発症者隔離 |
| ICD-10 | (便宜上)K00.0 |
生クリーム吐き病(よみ、英: Fresh Cream Vomiting Disease)とは、に起因するのである[1]。
概要[編集]
生クリーム吐き病は、が体内に取り込まれることで発症すると考えられているである[2]。特徴的なのは、嘔吐内容が乳白色に近い色調を呈し、しばしば「生クリームのような粘度感」を本人が訴える点である。
本疾患は主に思春期の女性に多いとされ、同一学校・同一部活動・同一行事で連鎖するように報告されている[3]。そのため、食品アレルギーや胃腸炎と混同されることがあるが、発症様式は“口に入れた直後”よりも“雰囲気の共有”に連動することが多いと指摘されている。
また、患者の多くは発症前日にを強く嗅いだ経験を持ち、発症後には「味覚がクリーミーになる」と表現する場合がある。なお、この表現は診断の補助所見として扱われることがある[4]。
症状[編集]
生クリーム吐き病に罹患すると、急性期に反復性の嘔吐を呈し、嘔吐は短時間に複数回起こるとされる。嘔吐は開始後おおむねの間隔で反復しやすく、当人は「胃の中で泡が立つ感覚」を訴えることが多い[5]。
症状としては、乳白色の逆流または嘔吐に加え、腹部不快感、口腔内の粘つき、軽度の脱水を呈する。患者が同時にを呈する例も報告されており、発症後に体温が最大上昇するケースが一定割合で観察されたとする報告がある[6]。
行動面では、思春期女性において味覚過敏が前景化し、甘いものの匂いに過剰反応する。さらに、集団内で同じ症状表現(例:「吐く直前にふわっとする」)が共有されるように見えることがあるため、精神身体的因子も関与すると考えられている[7]。
重症化すると水分摂取が困難となり、補液が必要となることがある。ただし、呼吸器症状は原則として前面に出にくいとされる。これは、が主に消化管領域へ親和性を示すためと推定されている[8]。
疫学[編集]
疫学的には、国内の報告例の多くがおよびに集中しているとされ、これは乳製品の流通量よりも「味と匂いの記憶が集団行動で増幅される」状況と関連づけて解釈されている[9]。
年齢分布では、罹患の中心がの範囲にあるとされる。特に初発はが多いと推定され、初診までの時間は平均とされる[10]。性別では女性が大半を占め、報告比は女性:男性でとするデータが示されている。
季節性は明確で、夏季に増加する傾向がある。原因としては、暑熱による消化管バリア低下と、冷やした乳製品の嗅覚刺激が重なるためとする仮説が挙げられている[11]。さらに、学校行事(文化祭・合唱コンクール・部活動の差し入れ)の前後で発症が増えるとされ、同一行事内での発症者数は平均と報告されたことがある。
なお、家庭内発症も少数ながら報告されており、その場合は「同じ冷蔵庫の前で長時間待機した」などの生活要因が指摘されている。ただし、伝播の実態は確定していないとされる[12]。
歴史/語源[編集]
命名の経緯[編集]
生クリーム吐き病という名称は、の公立病院で記録された一連の事例が契機になったとされる。1997年、内の学園祭後に複数の患者が来院し、嘔吐内容が「白く、クリーミーに見えた」とする看護記録が残ったことが起点である[13]。
当時の臨床カンファレンスでは、一般的な胃腸炎と異なり「“食べた後”より“行事の空気”で始まった」点が強調され、語感のわかりやすさから仮称としてが採用された。その後、類似報告が、にも広がったことで、仮称が半ば正式名称として固定された経緯がある。
一方で、初期の論文では診断名が統一されておらず、やなど複数の表現が並立していたとされる。これは編集者の方針差によるものである、と当時の内記録に記されている[14]。
語源と誤解を生むポイント[編集]
語源は「生クリームのような色調・粘度感を呈する嘔吐」という臨床記述に由来する。したがって本来は食品の種類を意味しないとされるが、名称のインパクトゆえに「生クリームを食べた人だけがかかる病」と誤解されやすい。
この誤解は、の学童集団での聞き取り調査において「生クリームそのものの摂取が必須ではなかった」ことが後に判明したことで、徐々に解消されていったとされる[15]。ただし、報道では依然として“生クリームが原因”という見出しが多く、診療現場では説明の負担が増えたという。
また、語源の“吐き”は症状の中心を指すが、実際には逆流・吐き気・脱水が同時に問題となる。結果として、一般の理解が症状一点(嘔吐のみ)に偏りやすい点が批判対象となった[16]。
予防[編集]
生クリーム吐き病の予防は、確定的な病原体が未同定であるため、現場では実務的な管理として組み立てられている。具体的には、の標準化と、手指衛生の徹底が推奨される[17]。
学校現場では、差し入れやケータリングの受け渡し時に「受け取った人が同じ匂い袋を共有しない」よう指導が出ることがある。この指導が始まった経緯として、同じ袋から甘い香りが拡散し“空気の共有”が増幅されるという観察があったとされる[18]。
また、発症疑い例が出た場合は、原則として保健室内での時間同席を避け、個別の観察と換気を優先する取り扱いが提唱されている。隔離の目安は症状開始からとする運用が多いが、これには“症状が落ち着いても匂い記憶が残る”という教育的配慮が含まれると指摘されている[19]。
家庭では、冷蔵庫付近の滞在時間を短縮し、乳製品の開封後はすぐに密閉することが推奨される。なお、栄養学的には生乳摂取の全面否定ではなく、むしろ管理された摂取が望ましいとされる[20]。
検査[編集]
生クリーム吐き病の診断は主に臨床所見に基づき、問診と経過観察が中心となる。医療機関では、嘔吐内容の色調、臭気、発症までの時間、同一集団での同時発症の有無を確認する[21]。
補助検査として、脱水評価のための電解質測定が行われることがある。軽度の低カリウム血症を呈する例があり、これが吐き気の増悪と関連する可能性があるとされる[22]。また、炎症反応が目立たないことが多いため、感染性胃腸炎との差別化の手がかりとされている。
鑑別の目的で胃酸関連の評価や簡易内視鏡が選択されることもあるが、侵襲性の観点からルーチンではない。なお、未同定病原体の検出法は確立されておらず、検査の体系化は試行段階とされる[23]。
近年では、患者の衣類や周囲物品から採取した微粒子の“乳白色散乱スペクトル”を計測する試みが報告されている。検査精度の主張はあるものの、再現性については異論もある[24]。
治療[編集]
生クリーム吐き病に対する治療は、病原体への直接治療が確立していないため、対症療法が中心である。標準的には制吐薬の投与と補液が行われ、患者が水分摂取を再開できる状態を目標とする[25]。
嘔吐が反復する急性期には、静脈補液を用い、脱水と低血圧リスクを是正する。報告では、補液開始までの時間が平均早いほど症状持続が短縮するとするデータがあるが、因果関係は不確実とされる[26]。
また、味覚過敏や不安が強い場合には、鎮静的な支持療法が組み合わされる。ここで用いられる概念としてが現場で語られることがある。具体的には、嗅覚刺激の弱い環境を整え、同じ匂いの提示を避ける運用であり、一定の効果があると考えられている[27]。
予後は概ね良好で、通常は数日以内に症状が落ち着くとされる。ただし、再燃が報告されるケースもあり、再発時には“前回と同じ行事の再現”がトリガーになりうると指摘される[28]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐藤真理子「生クリーム吐き病における急性嘔吐パターンの検討」『日本臨床保健学会誌』Vol.12 No.3, pp.115-132, 2001年。
- ^ Margaret A. Thornton「Creamy Emesis Syndromes: A Pseudo-Communicable Model」『Journal of Adolescent Psychogastroenterology』Vol.8 No.1, pp.1-18, 2004年。
- ^ 中村和也「思春期女性における微熱と嘔吐の相関—生クリーム吐き病症例群より」『東海地方医学報告』第5巻第2号, pp.44-59, 2003年。
- ^ 林田啓太「乳成分関連微粒子の散乱スペクトル推定—検査法の試み」『微粒子臨床分析年報』Vol.3 No.4, pp.201-219, 2009年。
- ^ O’Donnell Patrick「Environmental Olfactory Contagion in School Outbreaks」『International Review of School Health』Vol.19 No.2, pp.77-95, 2012年。
- ^ 石川菜月「匂い記憶遮断に基づく支持療法の運用報告」『臨床支持ケア研究』第7巻第1号, pp.10-26, 2016年。
- ^ 田端義則「隔離期間の設定根拠と患者行動の観察—生クリーム吐き病」『保健管理学研究』Vol.25 No.6, pp.301-319, 2018年。
- ^ 清水玲子「生クリーム吐き病の疫学:12〜18歳ピークの仮説」『日本小児保健学紀要』第41巻第3号, pp.233-248, 2020年。
- ^ American Academy of Gastro-Olfactology『Practical Guidelines for Emesis-Related Syndromes』(ガイドライン), 2019年(pp.不明)。
- ^ 鈴木慎一「胃腸炎との鑑別における記述的診断の価値」『診断学通信』Vol.6 No.9, pp.88-101, 1999年(タイトルが一部誤記されている可能性がある)。
外部リンク
- 嘔吐性類感染症データベース
- 学校保健・集団事象対応マニュアル
- 嗅覚刺激と心理生理研究センター
- 臨床保健相談Q&A(架空版)
- 思春期症候群の記録フォーラム