異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件
| 名称 | 巣立ち抑止連盟(すだちよくしれんめい) |
|---|---|
| 略称 | SSB(Suidachi Suppression Bureau) |
| 設立/設立地 | ベルゲン旧港(架空) |
| 解散 | 解散したとされるが、実態は不明 |
| 種類 | 秘密結社 |
| 目的 | 帰還者(巣立ち)を“統計的に”発生させないこと |
| 本部 | 東京都千代田区・霞が関地下郵送区画(架空) |
| 会員数 | 公称 72名、実測 13名とされる |
| リーダー | “白砂の記帳係”と呼ばれる人物(実名不明) |
異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件(いせかいでこじいんをひらいたけど、なぜかだれひとりすだとうとしないけん、英: Case of the Orphanage in Another World Where No One Leaves)とは、を目的とする陰謀が語られている架空の陰謀論である[1]。とくに「異世界の孤児院」から出ない現象は、地上側の“管理装置”による隠蔽と偽情報(フェイク)であると主張される[2]。
概要[編集]
この陰謀論は、異世界で孤児院を開いた語り手が「誰一人として巣立とうとしない」事実に遭遇する物語を、現実社会の管理装置と結びつけて解釈するものである[3]。
信者は、孤児院の子どもが進学・就職・養子縁組・冒険者登録などあらゆる“旅立ち”の選択肢を拒み続ける点に注目し、単なる呪いではなくとの仕組みが働いていると主張する[1]。とくに「巣立ちの瞬間だけ“時間差”が発生し、記録が書き換わる」という主張が中心である[4]。
また、語り手が孤児院の運営に勤しむほど、子どもたちの意思が“やわらかく消されていく”ように見える点が、プロパガンダの手口に近いとして論じられる[5]。そのため本件は、インターネット上で「異世界クラス転移の皮をかぶった偽情報キャンペーン」として拡散されたともされる[6]。
背景[編集]
陰謀論の背景には、異世界ファンタジーが「選択できない状況」を魅力として消費してきたという観点が置かれている[7]。信者は、物語上の設定(魔王、転移、加護)に見えるものが、実は“現実の制度”を寓話的に隠したものだと主張する[8]。
とりわけ、孤児院という制度は「保護と管理が同居する場所」とされるため、そこで生じる停滞は“社会の停滞”に転用されやすいという。陰謀論者は、孤児院に子どもが集まること自体よりも、巣立ちの統計が異常に揺れないこと(季節で波が出ないこと)を重視するとされる[9]。
さらに、語り手が異世界に到達した手段が「転移陣」や「階段状の門」など、幾何学的な比喩で描かれる点が、秘密結社が使う“導線設計”の象徴だと解釈されている[10]。否定されることも多いが、反論よりも先に“奇妙な雰囲気”が共有され、フェイクが真相のように定着したと指摘されている[11]。
起源/歴史[編集]
起源[編集]
この陰謀論の起源は、異世界ものの二次創作がSNSへ流通し始めた時期(2017年〜2019年とする説がある)に置かれることが多い[12]。具体的には、当時の投稿者が「孤児院の卒園率が“月次0.0%”である」と表現したことが誤読を生み、のちに“巣立ち抑止装置”という解釈へ発展したと主張される[13]。
また、陰謀論者の一派は、ある匿名アーカイブ(後述のSSBと関連づけられる)に、孤児院の帳簿らしきテキストが保存されていたと語る。その帳簿には、子どもごとの「巣立ち意欲指数」が毎日同じ値(例:指数 41.0 ± 0.0)で推移していたという“細かすぎる数値”が書かれていたとされる[14]。この「誤差がゼロ」という記述が、科学的に不自然であるとして、かえって根拠(捏造でない証拠)と見なされたとも指摘される[15]。
拡散/各国への拡散[編集]
拡散のきっかけは、2021年頃に各国言語へ翻訳された“巣立ちしない孤児院”のコラージュ画像(架空の資料写真風)だとされる[16]。英語圏では「the no-exit orphanage narrative」と呼ばれ、欧州では「Bergen Gate Memorandum」として、門の比喩が強調される傾向があったと述べられている[17]。
日本では、の地下施設の“郵送区画”を示すような図解が添えられ、官僚的組織に接続されて語られることが多かった[18]。一方で、アメリカでは「護送(custody)」という言葉が濃くなり、孤児院=監禁の寓意として拡大したとされる[19]。
ただし、真相は不明であり、否定の指摘も存在する。とはいえ、フェイク動画が“検証不能な動画形式(編集痕がないと主張される)”で拡散され、信者が増えたという経緯が語られている[20]。
主張[編集]
本陰謀論の主な主張は、孤児院の子どもが巣立たないのは、個人の意思ではなくされた状態に置かれているからだ、というものである[1]。
第一に、巣立ちの申請が“提出前に自己検閲される”仕組みがあるとされる。具体例として、卒業証書の発行は「発行日」ではなく「発行を取りやめた日」で記録されるため、帳簿上は毎月更新され続けるのに、物理的な紙が発生しないと主張される[21]。
第二に、子どもたちの会話には一定の定型句が混入するという指摘がある。「明日なら考える」「外は危ない」といった語彙が、同じ順序で繰り返されるというのが根拠だとされる[22]。ただし、これは捏造だとする反論もある。
第三に、語り手(保護者役)が“運営に没頭すればするほど、巣立ちが遠のく”因果があるとする説がある。これは秘密結社がプロパガンダの受け皿として物語を成立させることで、視聴者の関心を固定するためだ、と説明される[23]。
批判・反論/検証[編集]
批判として、そもそも異世界孤児院という語りはフィクションであり、現実の制度や統計に結びつけること自体が飛躍だと指摘されている[24]。また、数値が細かすぎること(例:41.0 ± 0.0のような表現)は、統計的に通常あり得ないため、フェイクや偽書の可能性が高いと反論されることがある[25]。
一方で信者は、否定されることを逆利用する。「科学的に不自然な値ほど“意図的な改ざん”の証拠になる」と主張する[15]。さらに、検証のための“原文”が公開されないことが、かえって隠蔽の証拠になるとも述べられているが、これは循環論法だと評価されている[26]。
検証の試みとして、翻訳された複数言語版で「巣立ち拒否の定型句」が一致するか比較されたという話がある。しかし、この比較が“比較表のスクリーンショットのみ”で示され、根拠(証拠)の出典が欠けるため、デマとされる傾向も強い[27]。
社会的影響/拡散[編集]
本件の陰謀論は、現実の福祉制度や教育制度の議論に接続されることで、ネット上の対立を増幅させたとされる[28]。とくに「保護が支配に変わる」という比喩が強いため、制度批判が陰謀へ滑り込む“プロパガンダの導線”として機能したと指摘されている[29]。
また、異世界転移ものが「安全な寓話」から「危険な啓発装置」へと見られるようになり、作品の読解が政治運動の材料になることがあったと報告されている[30]。日本では、匿名掲示板のミームとして「巣立ちする勇気=解放ではなく証明の作業である」という短文が流行し、さまざまな文脈に転用された[31]。
拡散の中心は、架空の秘密結社名や“帳簿のような表現”である。実在の公式資料を引用する体裁を真似た偽書が作られることもあり、フェイクニュースとして問題化したという経緯が語られている[32]。
関連人物[編集]
陰謀論の語りでは、いくつかの人物像が繰り返し登場する。まず「孤児院の管理者」を名乗る投稿者は、子どもが巣立たない描写を“運営KPI”として分類したとされる[33]。次に、英語圏のまとめ役とされる“E. Harroway”は、SSBの略称が付いた画像テンプレを配布した人物として挙げられる[34]。
さらに、日本側では「白砂の記帳係」と呼ばれる人物が象徴的に扱われる。彼/彼女はリーダーとされるが、実名は出ておらず、反論や検証が進むほど“隠蔽”の説明に吸収されるという特徴がある[1]。
このように、登場人物は現実の個人を指すのではなく、主張を補強する役割(信者の物語形成)として機能している、と考える研究者もいる[35]。
関連作品(映画/ゲーム/書籍)[編集]
本件と関連づけて語られやすい作品として、映像作品では『の向こうに誰も出てこない』(架空、2022年公開とする説がある)が挙げられる[36]。この作品は、主人公が孤児院運営の会計をつけるほど出口の記憶が薄れる構成であり、陰謀論の因果と酷似しているとして引用される。
ゲームでは『Orphanage Null-Exit』(架空、システム要素として“卒園フラグ”が永続的に偽になる)と呼ばれるタイトルが、ネットミームとして広まったとされる[37]。
書籍では、架空の評論『巣立ち抑止装置の文化史』(第3巻まで刊行されたという噂がある)が流通し、偽書と疑われながらも参照され続けたという指摘がなされている[38]。なお、これらの作品の多くは真偽が取り沙汰されるため、デマと偽情報の境界が曖昧になっていると批判される[32]。
脚注[編集]
参考文献[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山根真琴『孤児院という装置:出口を消す物語の統計』亜細亜幻想出版社, 2021.
- ^ E. Harroway「the no-exit orphanage narrative and audience compliance」Journal of Meme Archaeology, Vol. 5, No. 2, pp. 33-58.
- ^ 田中啓介『帳簿のない卒業:フェイク検証の技法』青灯書房, 2020.
- ^ M. Calder「Bergen Gate Memorandum: a comparative reading」Nordic Fiction Studies, 第11巻第1号, pp. 101-124.
- ^ 佐伯礼子『支配されるケア:プロパガンダとしての保護』市民科学社, 2019.
- ^ 王 志澄『階段状の門と導線設計』東方理論叢書, 2018.
- ^ 小路祐希『白砂の記帳係は誰か—消える出典の系譜』虚構史研究所, 2023.
- ^ L. Navarro「Conspiracy in transposition narratives」International Review of Pseudoscience, Vol. 9, No. 4, pp. 200-223.
- ^ Bergen Archive 編『自治体と異世界の往復記録(第三版)』Bergen Archive Press, 2016.
- ^ K. Osei「Null-Exit Flag Behavior in Popular Games」Proceedings of the Semiotic Controller, Vol. 2, No. 7, pp. 77-92.
外部リンク
- 巣立ち抑止連盟公式風アーカイブ
- 出口の物語図解倉庫
- 白砂の記帳係メモリー
- 時間差改ざんチェッカー
- 福祉ミーム翻訳集