異世界転生したら魔族の美少女になっていた件について、俺は断固として受け入れ難い
| 著者 | 霧島 直哉 |
|---|---|
| イラスト | 千代田ミヅキ |
| 出版社 | 白鐘文庫 |
| レーベル | 白鐘ファンタジア |
| 刊行期間 | 2016年4月 - 2019年11月 |
| 巻数 | 全8巻 |
| ジャンル | 異世界転生、性転換、魔族政治、自己否定コメディ |
| 主な舞台 | アルヴェリア王国、黒曜魔境、東京・神保町 |
| 連載媒体 | 小説投稿サイト『ノベル・ゲート』 |
『異世界転生したら魔族の美少女になっていた件について、俺は断固として受け入れ難い』は、のインターネット同人界隈から発生した作品である。自己同一性の崩壊と再構成を、異世界転生譚の形式で処理する「受け入れ拒否系」作品の代表格として知られている[1]。
概要[編集]
本作は、主人公がに転生した結果、のとして目覚めるという設定を採るである。通常の転生作品が「新しい身体を受け入れ、第二の人生を楽しむ」方向に進むのに対し、本作は「受け入れ難い」という感情を最後まで主題化した点に特色がある。
原型はにの同人即売会で配布された短編冊子『魂の再インストールに失敗しました』にあるとされ、当初は5,000字程度の掌編であった。後にの編集者・がこれを発掘し、口論の末に「拒否し続ける主人公はむしろ新しい」と判断して書籍化が進められたとされる[2]。
成立の経緯[編集]
作者のは、もともとの通信制高校で国語を教えていた人物とされ、放課後に生徒向けに作成していた「文体訓練用の妄想プリント」が母体になったという。彼は頃からものの投稿作に対し、「誰も身体変化そのものの心理的反発を正面から書いていない」と周囲に漏らしていたらしい。
編集部は、当初は一般的なハーレム路線への改稿を求めたが、霧島は「主人公が一切ノる気にならないことこそ商品性である」と主張し、最終的に“受け入れ拒否”を売りにする方針が採用された。なお、初版帯には「変身したくない勇者、爆誕」という煽り文がつけられ、書店員からは「帯だけで返品が出そう」と評されたという[3]。
題名の長文化[編集]
題名は第3巻刊行時に現在の形へ整理されたが、それ以前は『魔族の娘にされたが納得がいかない件』など、やや短い案が複数存在した。最終的には、SNS上での引用性を優先し、読了前に内容の核心が伝わる長大な題名に統一された。
には、の老舗書店で開かれたトークイベントで、司会者がタイトルを最後まで読み切れず沈黙する事故が発生した。このとき店内にいた関係者が録音しており、以後「長い題名の朗読に耐えるイベント」として業界内で語り草になったとされる。
あらすじ[編集]
主人公のは、事故死の直後にの辺境で目覚める。しかし彼の意識は、戦闘特化の女性「ユリシア・ヴェルグレイヴ」の肉体へと転写されており、しかも外見は銀髪紅眼の「極端に出来のよい美少女」になっていた。
悠斗は、自分の声が妙に艶やかに聞こえること、歩くたびに周囲が道を譲ること、そして鏡を見るたびに「理不尽な完成度」を突きつけられることに激しく反発する。彼はこれを「神による劣悪な仕様変更」と断定し、以後、魔族社会の儀礼・貴族制・婚姻制度のいずれにも徹底して適応しない。
一方で、魔族側はユリシアを“王家の秘宝”として扱い始め、の評議会では彼女を婚約候補として囲い込もうとする動きまで生じる。物語は、悠斗が「断固として受け入れない」姿勢を維持したまま、逆に魔族政治の均衡を壊していく過程を描く。第6巻では、彼が人間社会への帰還手段を探すうちに、元の肉体がすでにの火葬場で戸籍処理済みであったことが判明し、作品は一気に厭世的な色調を帯びた[4]。
主要な展開[編集]
初期はコメディ色が強く、悠斗が魔族の礼服を着せられるたびに「似合いすぎる」と周囲に言われて憤怒する場面が定番である。中盤では、彼の拒否反応が逆に「王家のカリスマ」だと誤読され、黒曜魔境の若年層の間で“拒絶こそ美徳”という奇妙な流行が生まれた。
終盤では、悠斗が自らの性別・種族・記憶のいずれも固定的に扱えないことを受け入れるのではなく、「受け入れられないまま生きる権利」を獲得する方向へ進む。ただし最終巻のラストでは、彼が新しい制服を前にして一瞬だけ黙り込む描写があり、読者の間で「この人、結局ちょっと慣れているのではないか」と論争になった。
登場人物[編集]
は、本作の主人公である。外見はの貴族令嬢だが、内面は頑固な元男子高校生であり、作中では一人称の揺れが激しい。
は、宮廷付きの魔術師で、ユリシアの身体変化を「霊子整形」と呼んで研究する。彼女はしばしば理知的に見えるが、実際には半年に一度はユリシアの髪色を変えようとして失敗している。
は対魔族強硬派の騎士で、ユリシアを警戒しながらも、何度も彼女に助けられることで妙な敬意を抱くようになる。なお、作者によれば彼だけが第4巻の途中で急にパンを食べる描写を増やされたらしく、ファンの間では「パンの人」として知られている。
は黒曜魔境の若き公爵で、ユリシアを政治利用しようとするが、彼女の徹底した拒否に逆に興味を持つ。第7巻では、彼女との会談がの中華街を模した異界都市で行われ、観光客向けの龍灯がすべて消える演出があった。
脇役と準レギュラー[編集]
の院長は、ユリシアの「受け入れ難い」感情を懺悔ではなく職能として評価した珍しい人物である。彼の発言「納得できないまま礼拝する者は強い」は、作品外でも引用された。
また、の古書店店主をモデルにしたと言われるは、第2巻で一度だけ登場し、異世界に転生したのではなく「異世界の棚卸しに巻き込まれた」と語る。読者の間では、この人物の方が主人公よりも世界観を理解していると評されている。
制作背景[編集]
霧島直哉は、後半の隆盛期に活動を始めたとされる。彼の初期作品は、いずれも“転生後に便利な能力を得ることへの違和感”を題材としており、本作はその集大成と見なされている。
千代田ミヅキの装画は、魔族美少女の完成度を意図的に高くしつつ、瞳の奥に疲労感を残すという独特の方向で話題になった。担当編集のは、口絵段階で「可愛いのに不機嫌そう」という矛盾を押し出したことで、女性読者層の獲得に成功したと回想している。
また、書籍版では転生時の説明文が異様に長く、1巻冒頭の三分の一近くが「身体が変わった事実を理解するまで」の描写に費やされている。これは編集部が「主人公が納得してしまうと作品が終わる」と判断し、あえてテンポを落としたためであるとされる。
執筆メモの流出[編集]
に一部の制作メモがSNSへ流出し、主人公候補として『灰色の中年男性』『喋る猫』『転生先の会計係』などの案があったことが判明した。特に「会計係案」は、異世界の税制を拒否する話として面白いと編集長が推していたが、霧島が「それでは転生ではなく確定申告である」として却下したという。
この一件以後、読者は本作の会議シーンに異様な説得力を感じるようになったとも言われる。
評価と影響[編集]
本作は、作品における「快適さ」への疑義を前面化した点で評価された。特に、読者アンケートでは「主人公が全然うれしそうでないのがよい」「初めて自分の違和感を代弁された気がした」といった感想が多く寄せられたとされる。
一方で、業界関係者の中には、同作が“転生テンプレート”を解体しながらも、結局は美少女化という売りやすい記号に依存していると批判する声もあった。これに対し霧島は、インタビューで「売れる箱の中でしか壊せないものがある」と答えたとされる[5]。
影響としては、以降に「受け入れ拒否系」「納得しない系」と呼ばれる派生作品が増え、内でも似た題材の企画が一時的に7本立ち上がった。なお、そのうち4本は主人公が最初の章で職場復帰してしまい、編集部により没となったという。
社会的反響[編集]
の周辺企画で本作の構造分析が行われた際、講演者が「これは異世界転生ではなく、身分証明書の問題である」と発言し、聴衆の半分が頷いたと伝えられている。
また、の一部書店では、タイトルの長さに合わせた“折り返しPOP”が導入され、棚差しの紙幅が足りなくなった。これにより、店員が毎回2枚に分けて掲示する運用が生まれたという。
批判と論争[編集]
批判の中心は、主人公の拒否感情があまりに強固であるため、物語の自由度を狭めているという点にあった。とりわけ一部の読者からは、「第2巻以降、何をしても“受け入れ難い”で回収できるため、逆に便利すぎる」との指摘がなされた。
また、魔族社会の描写に関して、の行政区分が妙に現代的であることから、作者がの資料を下敷きにしたのではないかという疑惑も出た。ただし霧島はこれを否定し、「むしろ総務省が魔王城を参考にした可能性がある」と述べたとされ、要出典のまま話題になった。
第5巻発売時には、主人公の身体的特徴をめぐって「美少女化の度合いが高すぎる」とする苦情が寄せられたが、編集部は「魔族の貴族令嬢なので仕様である」と回答した。なお、同巻のあとがきには、作者が“服飾設定のためにで4時間往復した”という記述があり、真偽は確定していない。
検閲騒動[編集]
、一部の海外版配信プラットフォームでタイトルが長すぎるとして自動短縮され、『Demon Girl Re:Refusal』へ改題された。この短縮版は検索性が悪く、原題を知る日本語圏読者からは「拒否の意味が消えている」と不評だった。
その後、ファン有志がの日本文化展で原題を巨大横断幕に印字し、展示室の避難導線を塞ぎかけたため、係員に注意される出来事が起きた。
書誌情報[編集]
書籍版はより全8巻で刊行された。各巻の副題はすべて「〜したくない」で終わる統一形式を採り、巻が進むほど拒否の対象が抽象化していく構成である。
第1巻は2016年4月、第8巻は2019年11月に刊行され、累計発行部数は2021年時点で約47万部とされる。なお、この数字には電子版の無料試し読み分が含まれるかどうかで編集部と営業部の間に3か月の論争があった。
文庫版のカバー袖には、毎巻異なる“受け入れ難いものリスト”が掲載されており、読者アンケートでは「袖だけで元が取れる」とする意見も多かった。
各巻の特徴[編集]
第1巻は設定説明、第2巻は宮廷入り、第3巻は婚約騒動、第4巻は軍政編、第5巻は学園潜入、第6巻は帰還不能の判明、第7巻は異界都市編、第8巻は自己認識の再編である。
また、通常版とは別に・・の3系統で特典短編が用意され、そのうち紀伊國屋特典だけは「主人公が最後まで納得しない歌」を収録したことで、店頭で不必要に評判になった。
脚注[編集]
[1] 白鐘文庫編集部編『受け入れ拒否系ライトノベル史概論』白鐘文庫、2020年。 [2] 相沢慎一「異世界転生における拒否感情の市場価値」『ライトノベル研究』Vol.14, 第2号, pp. 41-58. [3] 霧島直哉『魂の再インストールに失敗しました』私家版、2014年。 [4] 佐伯由香「転生作品における戸籍問題の表象」『現代娯楽文化評論』第8巻第1号, pp. 11-29. [5] 霧島直哉・聞き手: 石黒玲子「売れる箱の中で壊すということ」『文芸潮流』Vol.22, 第4号, pp. 77-85. [6] 千代田ミヅキ『銀髪と疲労感のデザインノート』アトリエ白鐘、2018年. [7] 高見沢拓也「魔族社会の行政的リアリズム」『異界政治学年報』第3巻第2号, pp. 90-104. [8] Marjorie A. Flint, "The Aesthetics of Reluctant Reincarnation," Journal of Speculative Narrative, Vol. 11, No. 3, pp. 201-223. [9] 中野裕也『タイトルが長いほど棚に載るか』神保町書房、2021年. [10] Eleanor W. Pike, "Refusal as Plot Engine in Late 2010s Light Novels," East Asian Popular Fiction Review, Vol. 7, No. 1, pp. 5-19.