白い帽子のおじさんが乗るクラウン
白い帽子のおじさんが乗るクラウン(しろいぼうしのおじさんがのるくらうん)は、の都市伝説の一種である[1]。夜道で目撃されたとされる黒塗りのに、白い帽子のおじさんが乗り込むという怪談であり、不気味なほど「同じ手順で」語り継がれている[2]。
概要[編集]
本怪談は、深夜に特定の交差点付近で目撃されたとされる「白い帽子のおじさん」とを結びつける都市伝説である[1]。
噂では、車種名が必ずだとされ、さらに「白い帽子」は前面が白く、つばがわずかに曲がっているとされる[3]。目撃談では、車体は不自然なほど静かで、追跡しようとするとルームミラーの角度だけが変わる、といった伝承が語られている[4]。
全国に広まった理由として、「学校の帰り道」「コンビニの駐輪場」「深夜バスの乗り場」など生活導線に紐づいた形で流布したことが挙げられる[5]。一方で、地域により正体の解釈が割れており、「妖怪」「お化け」「人為的な罠」とも言われている[2]。
歴史[編集]
起源(最初の“目撃談”が生まれた経緯)[編集]
起源は、ごろの地方紙の「読者投稿欄」にあるとされる。投稿には「白い帽子のおじさんが乗るクラウンを見た」とだけ書かれ、日時として「23時17分」「信号が青から黄に変わる瞬間」といった細部が記されていたとされる[6]。
この投稿は、後にの市民サークル「夜間観測友の会」が保管していたと噂され、会員の誰かが2001年に掲示板へ転載したことで、噂が全国に広まったとされる[7]。なお、当時は車の型番まで特定できたはずだとする言い伝えもあり、「グレードはロイヤルサルーン」「ナンバーの下3桁は“417”」と記憶する人物まで現れたとされる[8]。
ただし、出典の所在は曖昧であり、編集者の間では“投稿欄の切り抜きが本物かどうか”が議論になったとされる[9]。それでも物語としての完成度が高く、都市伝説としての起源の核になっていったと考えられている[1]。
流布の経緯(マスメディアが増幅した経路)[編集]
流布の第二段階は、に放送された深夜バラエティ番組『恐怖の路肩』の特集であるとされる。番組では、目撃談を“統計”の形で扱い、「夜道の遭遇報告は月曜に多い」などの数字が示されたとされる[10]。
この統計は「全国18都道府県から寄せられた計2,317件の投稿を分析した」と紹介されたが、実際に元データを辿れないとして疑義が出たとされる[11]。一方で視聴者は、白い帽子の描写との固定に強い印象を受けたといい、これが“テンプレ化”を促したとされる[12]。
さらに上では、「23時17分」「右手で鍵穴を3回なでる」「追いかけると2車線目に移動する」という、噂の“手順”だけを切り出した投稿が増え、伝承が“再現可能な怪談”として定着したとされる[3]。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
伝承では、白い帽子のおじさんは60代後半から70代前半の体格だとされる。とくに「顔は見えにくいが、目だけが白く反射する」と言い伝えられている[4]。
目撃談では、出没するのは路地ではなく幹線道路の側道で、の看板が視界に入る場所が多いとされる[13]。噂の要点は、車が止まるときに“エンジン音が一瞬だけ遅れて聞こえる”という不気味さである[2]。
また、「おじさんは手を振らない」「窓を開けない」とされ、その代わりにだけが点滅すると言われている[5]。怖がるほど情報が増える、とする恐怖譚の作法に近く、聞き手が質問するほど話者の記憶が具体化されるという語り口で伝えられる[12]。
正体については諸説がある。「地域の古い信号工事の記録者」「亡くなったバス運転手」「町内の“安全当番”だった人が化けたもの」などと語られ、妖怪やお化けとされることもある[9]。ただし、いずれの説でも“白い帽子”と“”の固定は崩れないとされる[1]。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
派生バリエーションとして、帽子の色が「白」「白に近い生成り」「雪で汚れた白」の三段階で語られることがある[14]。生成りの場合は“遅刻した生徒が乗り込む”という学校の怪談へ接続され、雪で汚れた白の場合は“線路近くで増える”とされる[15]。
車の挙動にもバリエーションがある。よく知られた型では「追いかけると右折するが、実際には交差点の手前で存在しなくなる」とされる[3]。別の地域では、「バックミラーに映るのはおじさんではなく帽子だけ」と言われ、正体の解釈が“残留物”へ寄るとされる[16]。
さらに、クラウンの色にも派生があり、黒塗り以外にの目撃談が挙げられることがある。この場合は“誰かを迎えに来た”という話に寄り、恐怖の性質が「交通事故の予兆」へ変化するとされる[10]。
なお、嘘の真顔ポイントとして、噂の語り手がやけに細かい数字を添える習慣がある。「信号待ちが32秒」「目が合うまでに12歩」「次の角を曲がると、町名が一字だけ変わっている」などの細部は、信憑性を増す手法として機能しているとされる[6]。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法は地域で差があるが、共通しているのは「追跡しない」「運転手側(おじさん側)に目線を固定しない」という注意である[2]。
代表的な方法として、「出会ったらスマートフォンのライトを一度だけ点け、すぐに消す」とされる。これは“車内灯の点滅と同期させない”ための手順と説明される[13]。また、別の手順では「横断歩道を渡る前に一回だけ深呼吸し、息を吐き切ってから歩く」とされ、呼吸の間を“合図のズレ”に変換する、という理屈付けがされている[17]。
学校の怪談としては、「白い帽子のおじさんが見えたら、校門のチャイムが鳴るまで門をくぐってはならない」と言われる。噂の語り手は、チャイムの時間を「18時05分」に固定しがちであり、この数字が儀式化を進めたとされる[15]。
一方で、危険な対処法として「車のナンバーを覚えようとする」が挙げられる。記憶しようとすると逆にナンバーが“伸びるように見える”とされ、結果として思い出せなくなるという怪奇譚になりやすい[4]。
社会的影響[編集]
本都市伝説は、交通安全啓発や防犯講話の題材としても利用されたとされる。特にの広報資料に“深夜の不審車両に関する一般的助言”として触れたのではないか、という憶測がある[11]。
また、学生の間では「帰り道は明るい道だけ」「夜は一人でコンビニに行かない」などの行動規範に変換され、噂が実生活の注意喚起として機能したとも言われている[5]。
ただし、恐怖が先行すると逆にパニックを生むことがある。実際に「白い帽子を被った高齢者が現れた」という通報がの複数署で相次いだ、という噂もあり、誤認が社会コストになったと指摘する声もある[18]。
結果として、噂は“注意喚起の仮面をかぶった恐怖”として、マスメディアとネットの双方に定着したとされる[10]。都市伝説が現実の行動を変える例としてしばしば引き合いに出されるが、そのメカニズムは未解明であるとされる[12]。
文化・メディアでの扱い[編集]
文化面では、怪談読み上げ動画やラジオ企画で頻繁に取り上げられ、「白い帽子」「」「23時17分」という要素が“定番フレーズ”として拡散したとされる[19]。
小説では、の架空都市「みなと平(へい)」を舞台に、おじさんが“迎え”ではなく“検問”として描かれることがある。ここでは、車を見た人は翌日に学校へ遅れるように運ばれる、とされ、学校の怪談へ接続される[15]。
漫画では、目撃者が撮影しようとすると画面が白く飛び、「クラウンのグリルだけが綺麗に写る」といった演出が多い。なお、この演出が“恐怖の質感”を強めたとして、編集者の回顧談が語られることがある[20]。
一方で批評的には、「テンプレが固定されすぎており、観察の自由度が奪われている」との指摘もある。ただし、都市伝説がテンプレを必要とするのは“語りの再現性”が求められるからだ、とする擁護もあり、結論は出ていない[12]。
脚注[編集]
参考文献[編集]
※実在性を装うため、引用形式は学術誌・一般書の体裁を模している。
[1] 鈴木昌吾「深夜の“固定モチーフ”が生む都市伝説—クラウン型怪談の語り構造」『日本怪奇民俗学研究』第12巻第2号, pp. 41-63, 2008. [2] 田中真理子『夜道の噂と交通安全の心理学』新潮学術文庫, 2012. [3] 山本浩史「目撃談の再現可能性と手順化—“23時17分”の社会言語学」『情報社会研究』Vol. 9, No. 1, pp. 105-129, 2014. [4] 渡辺精一郎「不気味さの視覚トリガー—白い帽子の反射特性に関する考察」『感覚文化論叢』第5巻第4号, pp. 11-28, 2009. [5] 佐藤礼子「学校の怪談としての都市伝説—帰路儀礼とチャイム時刻」『教育人類学年報』第18巻第1号, pp. 77-96, 2016. [6] “夜間観測友の会”資料編集委員会『読者投稿欄に残された怪談集(未刊行)』夜間観測友の会, 2003. [7] 渡辺精一郎『掲示板怪談の成立史』角川ネット叢書, 2007. [8] 平野久志「ナンバー記憶の錯誤モデル—417が再生される理由」『交通認知の実証』第3巻第2号, pp. 203-219, 2010. [9] 中村和代「都市伝説の“出典”問題—切り抜きは誰のものか」『民俗資料批評』Vol. 21, No. 3, pp. 55-81, 2011. [10] 小林健司「深夜バラエティが噂を増幅する条件—恐怖の路肩の分析」『放送研究』第27巻第1号, pp. 1-24, 2007. [11] 警察庁広報部『不審車両への一般的助言(抜粋)』警察庁資料, 2018. [12] Margaret A. Thornton「Template Fear and Recitation Economies in Japanese Urban Legends」『Journal of Folkloric Media』Vol. 14, No. 2, pp. 210-242, 2019. [13] 高橋由紀『コンビニ灯が見せる“境界”』講談社, 2015. [14] 井上恭平「帽子の色と意味のスライド—生成り・汚れ・白」『色彩民俗学』第9巻第2号, pp. 88-104, 2013. [15] 田崎里沙『遅刻する怪談—夕方五時の学校儀礼』医学書院(架空), 2004. [16] Peter K. O’Brien「Mirror Loss in Vehicle Hauntings: A Comparative Note」『Comparative Spectral Studies』Vol. 6, No. 1, pp. 1-17, 2016. [17] 小嶋亜由「呼吸による同期回避という語りの技法」『臨床民俗学』第2巻第3号, pp. 130-149, 2017. [18] 佐伯和也「通報の連鎖と誤認—都市伝説が起こす地域コスト」『公衆心理学評論』Vol. 5, No. 4, pp. 300-328, 2020. [19] 片桐直樹「読み上げ動画における恐怖のリフレイン」『ネット怪談の文体学』翔泳社, 2021. [20] 吉村優「“クラウンのグリルだけ写る”演出の系譜」『漫画表現と怪奇』第1巻第1号, pp. 9-33, 2018.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 鈴木昌吾『深夜の“固定モチーフ”が生む都市伝説—クラウン型怪談の語り構造』日本怪奇民俗学研究, 2008.
- ^ 田中真理子『夜道の噂と交通安全の心理学』新潮学術文庫, 2012.
- ^ 山本浩史『目撃談の再現可能性と手順化—“23時17分”の社会言語学』情報社会研究, 2014.
- ^ 渡辺精一郎『不気味さの視覚トリガー—白い帽子の反射特性に関する考察』感覚文化論叢, 2009.
- ^ 佐藤礼子『学校の怪談としての都市伝説—帰路儀礼とチャイム時刻』教育人類学年報, 2016.
- ^ 小林健司『深夜バラエティが噂を増幅する条件—恐怖の路肩の分析』放送研究, 2007.
- ^ Margaret A. Thornton『Template Fear and Recitation Economies in Japanese Urban Legends』Journal of Folkloric Media, 2019.
- ^ 警察庁広報部『不審車両への一般的助言(抜粋)』警察庁資料, 2018.
- ^ 高橋由紀『コンビニ灯が見せる“境界”』講談社, 2015.
- ^ 井上恭平『帽子の色と意味のスライド—生成り・汚れ・白』色彩民俗学, 2013.
外部リンク
- 夜間掲示板アーカイブ
- 都市伝説語りの録音庫
- 深夜観測友の会(非公式)
- 怪談手順データベース
- 民俗メディア検証室