股間住生物
| 分類 | 衣服内共生微小生物群 |
|---|---|
| 学名 | Genitalis convivens complex |
| 命名者 | 佐伯 恒一郎 |
| 記載年 | 1934年 |
| 主な生息域 | 下腹部、帯電した下着繊維、乾燥した更衣室 |
| 代表的研究機関 | 東京帝国大学衛生学教室、国立衣類生態研究所 |
| 保護状況 | 一部自治体で観察配慮種 |
| 通称 | 股間菌、腰下生物 |
| 初の公的調査 | 1948年 |
股間住生物(こかんじゅうせいぶつ、英: Genital-Dwelling Organisms)は、主として人類の衣服内温帯域に定着し、長期にわたり個体間で共生・移動するとされる微小生物群の総称である。20世紀前半の周辺で研究が始まったとされ、後にの衛生分類にも一時的に記載された[1]。
概要[編集]
股間住生物は、人体の体表微生物のうち、下着の縫い目や腰回りの繊維環境に依存して生活史を完結させるものを指すとされる。名称は「股間」と「住生物」を合成したもので、単なる寄生ではなく、居住性をもった準定住型の生態を示す概念として整理された。
この概念は、初期の都市衛生学と繊維工学の接点から生まれたとされる。とりわけの紡績工場地帯で、労働者の下着の交換頻度と微生物相の偏りを調べた際、特定の菌叢が「居つく」現象が観察されたことが発端であった[2]。
定義と分類[編集]
古典的な分類では、股間住生物は「常在型」「季節型」「移動型」の3群に分けられた。常在型は1か月以上同一個体に留まるもの、季節型は梅雨期にのみ顕著になるもの、移動型は銭湯や共同浴場を介して短時間で広域に拡散するものとされた。
なお、1940年代の資料には、股間住生物を「文化的に扱うべき半家畜的微生物」と呼ぶ記述があり、戦後の研究者の間でも長く議論された。もっとも、この区分は採取法の偏りによるものではないかとの指摘もある[3]。
起源[編集]
衛生学からの独立[編集]
股間住生物研究の原点は、に衛生学教室で行われた「腰部滞留菌調査」にあるとされる。助手だった佐伯 恒一郎は、下着のゴム跡に沿って菌落が環状に形成される現象を見出し、これを「生活圏の縮図」と記した。後年の回想録では、彼は測定中に定規を落とし、それを拾い上げた際に研究テーマを思いついたと述べている。
一方で、民間療法家のがの温泉宿で行っていた「腰巻き乾燥法」が先行例だったとする説もあり、学界ではいまなお完全には決着していない。いずれにせよ、の論文『股間部居住微生物の一考察』によって概念は定着した[4]。
命名の経緯[編集]
「住生物」という語は、当初はの民俗学者・三浦春次が提唱した「住みつく生き物」の略語だったが、佐伯がこれを衛生学へ流用したことで現在の意味を持つようになった。命名に際しては、あまりに露骨であるとしての査読で一度差し戻されたという。
しかし、佐伯は「股間を避けて生態を語るのは学問ではない」と反論し、最終的には『人体における局所生息圏』という婉曲表現を添えることで掲載にこぎつけた。この妥協案が、のちに学術用語の妙な上品さを生む一因になったとされる。
研究史[編集]
戦前の拡大[編集]
後半になると、股間住生物はの公衆浴場、の船員宿舎、さらにはの寒冷地駐屯地にまで研究対象が拡大した。特に船員宿舎では、同一ハンガーに掛けた作業着を介して菌相が一晩で入れ替わる事例が報告され、研究者を驚かせた。
当時の記録によれば、最長で17日間同一個体に留まった株が確認され、記録保持株は「K-17系」と呼ばれた。もっとも、この数字は観察ノートの余白に鉛筆で書かれたものが後に採用されたもので、信頼性には議論がある。
戦後の制度化[編集]
、は感染症対策の一環として「局所生態微生物暫定台帳」を設け、その中に股間住生物を準掲載した。これにより、学校検診や工場健診での簡易観察法が全国に広まり、からまで同一形式の採取紙が配布された。
この時期には、の西岡澄子らが、綿・絹・化学繊維で住みやすさが異なることを定量化し、「綿は定住、ナイロンは避難、ウールは再婚」と表現した。学会では好評であったが、教育委員会の一部からは「比喩が過剰である」として注意を受けたという。
現代の再評価[編集]
以降、股間住生物は衛生学よりも文化人類学や素材科学の文脈で再評価された。とくにの下着メーカー数社が協力した共同研究では、縫製タグの位置が生息密度に影響することが示され、タグを左腰後方にずらした試作品が市場に投入された。
2021年にはがオンライン開催され、講演者の一人が「股間住生物は、人間が最も個人的な場所に最も組織的な社会を作る例である」と発言し、海外メディアでも小さく取り上げられた。なお、同学会の抄録集には「パンツ・バイオーム」という英語表現が初めて採録された。
社会的影響[編集]
股間住生物の概念は、単なる衛生管理を超えて、衣類設計や労働環境、さらには婚礼文化にまで影響を及ぼしたとされる。特に40年代の工場地帯では、作業服の替え時を判断する指標として用いられ、労働組合の掲示板に「菌相の連続性を断たない程度に洗濯せよ」と書かれた例が残る[5]。
また、銭湯文化との関係も深い。の老舗銭湯では、脱衣所の木札に「本日は移動型が多め」といった独自の混雑案内が掲示されたと伝えられる。これが常連客の会話を生み、結果として地域の衛生知識を支える市民教養の一部になったという。
一方で、1980年代には「股間住生物の過度な可視化は羞恥心を損なう」とする保守的な批判もあった。これに対し研究者側は、観察対象を笑いの対象ではなく居住環境として扱うべきだと主張し、図版の線をやけに上品な植物図調で統一した。
批判と論争[編集]
最大の論争は、股間住生物が本当に独立した生物群であるのか、それとも単に人間の衣服管理習慣に付随する比喩的概念なのか、という点にある。とくにの『局所生態誌』第7巻第2号に掲載された反証論文では、採取器具のアルコール濃度が高すぎたために「生息数」が実質的に変動しただけではないかと指摘された。
また、の一部研究班が発表した「股間住生物には社会階層がある」とする報告は、個体識別の方法がボタンホールの擦れ具合だったことから強い批判を受けた。にもかかわらず、この報告は一般向けに分かりやすかったため、図書館の児童書コーナーで長く閲覧上位にあったという。
さらに、と注記されたまま放置されている説として、「夏の甲子園で応援席の湿度が上がると股間住生物が一斉に移住する」というものがある。真偽は不明だが、各校の応援団OBが妙に真剣に語るため、半ば民俗知として定着している。
一覧[編集]
古典的記載株[編集]
(1936年)- 最初に長期定住が確認された系統である。佐伯のノートには「午後三時、やや自信あり」とだけ書かれている。
(1938年)- 船員宿舎由来の移動型で、塩分に強いとされた。横浜の乾物問屋が誤って培養箱を煎餅棚に置き、香ばしさが増したという逸話がある。
(1941年)- 梅雨期にだけ増殖する季節型として知られる。京都の旧家で屏風裏から採取され、以後「屏風の裏の哲学」と呼ばれた。
(1949年)- 戦後の公衆浴場で多数見つかった株である。石鹸水に弱いが、湯上がりの脱衣所の木の匂いを好むとされた。
現代の著名株[編集]
(1978年)- ナイロン繊維との相性が極端に悪く、1時間で隣の個体へ移る性質がある。試験中に研究員の靴下へ誤侵入したことから「越境株」と呼ばれた。
(1986年)- タグの縫い目に沿って環状コロニーを作ることで知られる。東京都内の学生寮で発見され、寮母が「洗濯物の整理がやたら楽になる」と賞賛した。
(1994年)- 夏季だけ香気を発する珍しい株で、商業的価値が議論された。結果的に香料メーカーが採用を試みたが、倫理委員会で保留となった。
(2003年)- スポーツウェア内で高頻度に検出される株である。マラソン大会の完走証より先に採取票が配られた年があり、参加者の記憶に強く残った。
地域変異株[編集]
(1957年)- 厚手の下着を好み、暖房の効いた更衣室で急に活動を始める。札幌の大学病院で「冬だけ元気な生物」として話題になった。
(1968年)- 乾燥に強く、海風のある環境で安定するとされる。今治のタオル工場が協力した試験では、柔軟剤の種類で定着率が7.4%変動した。
(1989年)- 夜間の蒸散に反応する特殊株である。那覇の市場近くで採取された個体群は、昼間にほぼ消失し、夕方に再び増えるため「日没後の住民」と呼ばれた。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯 恒一郎『股間部居住微生物の一考察』東京衛生学会誌 第12巻第3号, 1934, pp. 41-67.
- ^ 西岡 澄子『繊維と局所生態圏』国立衣類生態研究所報告 第4巻第1号, 1951, pp. 5-29.
- ^ 松浦 恒一『戦後公衆浴場における微小生物の移動』衛生文化研究 第8巻第2号, 1956, pp. 88-104.
- ^ Margaret H. Ellison, "Domestic Habitat Theory in Urban Microfauna," Journal of Applied Hygienics, Vol. 19, No. 4, 1967, pp. 233-251.
- ^ 三浦 春次『住みつく生き物考』民俗と衛生 第3巻第1号, 1931, pp. 12-26.
- ^ 田所 俊介『下着縫製部位と菌叢の環状化』繊維衛生学雑誌 第15巻第2号, 1979, pp. 101-119.
- ^ Robert J. Penfold, "On the Social Stratification of Underwear Biomes," The Quarterly Review of Misplaced Biology, Vol. 2, No. 1, 1988, pp. 14-33.
- ^ 厚生省衛生局『局所生態微生物暫定台帳』官報附録, 1948, pp. 3-18.
- ^ 国際微小共生学会編『2021年大会抄録集 パンツ・バイオーム特集』東京分冊, 2021, pp. 77-91.
- ^ 小林 由美『衣服内温帯域の民俗学』新潮社, 2004, pp. 201-228.
外部リンク
- 国立衣類生態研究所デジタルアーカイブ
- 局所生態誌オンライン
- 股間住生物資料室
- 日本繊維微生物学会
- パンツ・バイオーム国際委員会