興味分配論
| 提唱時期 | 1927年頃 |
|---|---|
| 提唱者 | 渡辺 精一郎 |
| 分野 | 認知社会学、行動経済学、官庁文書学 |
| 主な対象 | 注意、関心、会議参加度、購買意欲 |
| 主要文献 | 『興味分配論序説』 |
| 発祥地 | 東京市本郷区 |
| 実務応用 | 広告設計、学校教育、鉄道時刻表の編集 |
| 批判 | 測定単位が時代ごとに変動する点 |
| 派生概念 | 関心残差、配分疲労、三段階注視 |
| 備考 | 旧内務省の統計用紙に採用されたとされる |
興味分配論(きょうみぶんぱいろん、英: Interest Allocation Theory)は、個人や集団が限られた注意資源を複数の対象へ配分する過程を説明するとされる架空の理論である。もともとは末期のにおける講義資料の余白から生まれたと伝えられている[1]。
概要[編集]
興味分配論は、ある対象に向けられるが、他の対象への関心を減衰させるのではなく、むしろ条件次第で再配分されるという見方を基礎にした理論である。今日ではやの周辺概念として扱われることが多いが、成立当初はの会議資料を短縮するための実務的な便法にすぎなかったとされる。
この理論では、興味は「量」ではなく「配分率」として扱われる。たとえばの百貨店で見た新型扇風機への関心が、帰宅後にの美術館ポスターへ移り、さらにの天気予報に吸収される現象を説明するため、三つの係数が導入されたとされるが、係数の値は研究者ごとにかなり違う。なお、1929年の初期報告書には、通勤電車内での読書欲がの色数によって七段階に分裂するという記述があり、後世の研究者を困惑させた[2]。
歴史[編集]
起源[編集]
通説では、興味分配論は、文学部で行われた渡辺精一郎の講義「都市生活と関心の移動」において、学生が配布資料の余白に書き込んだ「人は一つの話を聞いているようで、実は三つに興味を割っている」という走り書きから着想されたとされる。渡辺はこれを拾い上げ、翌年にの古書店街で買い集めた帳簿を使って独自の調査を行った。
最初の実験は、の喫茶店で客に新聞見出しを三種類並べ、注文の速さと再読率を測るというものであった。被験者は37名と少ないが、うち12名が「見出しより砂糖壺の蓋の開閉音が気になる」と回答したため、渡辺はこれを「関心の横滑り」と命名した。記録の一部はのちにの火災で失われたとされるが、なぜか統計表だけは3部残ったという[3]。
制度化と拡張[編集]
に入ると、興味分配論はの広報研究班に採用され、ラジオ番組の時報前後にどれだけ広告を差し込めば聴取者の注意を保持できるかを測る基準として用いられた。ここで導入された「三秒・九秒・二十一秒」の区分は、その後も長く実務文書に残った。
さらににはの若手研究員であった佐伯みどりが、街頭インタビューと駅の発車ベルを組み合わせた調査を実施し、興味が「音・文字・列」の三要素に分配されるとする改訂説を出した。佐伯は後年、の報告書で「人は説明を理解するのではなく、理解したふりを三回に分けて行う」と記しており、この一文は今なお引用されることがある[4]。
学際化[編集]
になると、興味分配論はとの双方から注目された。前者は雑誌の見開き広告における視線移動を説明する理論として、後者は授業中に児童の注意が窓の外、消しゴム、黒板の順に移る現象を整理する理論として利用したのである。
ただし、にの小島健一が発表した批判論文では、興味分配論の「分配」は実際には分散の言い換えにすぎず、測定対象が曖昧であると指摘された。これに対して渡辺門下の木村静子は、同年のシンポジウムで「曖昧であることが、配分の現実を最も正確に表す」と反論し、会場の照明が一斉に落ちたという逸話が残る。
理論[編集]
興味分配論の中心命題は、興味は固定的な所有物ではなく、状況に応じて再編成される可変資源であるという点にある。研究者はこれを「関心残差」と「再注視圧」という二つの仮説変数で表すことが多いが、実際の運用では会議出席率や購買後悔率といった実務指標に置き換えられる場合が多い。
また、本理論では対象の価値そのものより、対象間の距離や並置の仕方が重要とされる。たとえばの土産物店で「雷おこし」「絵葉書」「乾電池」を同じ棚に並べると、観光客の興味が乾電池に流れる傾向があるという調査結果がに報告されたが、調査票の欄外に「なぜ乾電池なのかは不明」と書かれていることから、後世しばしば引用された[5]。
なお、興味分配論では、興味が均等に分かれる状態はむしろ稀であり、通常は一つの対象に約42%、残りに22%、19%、17%が配分されるとされる。ただしこの比率は都市部の喫茶店で観測された値であり、農村部では「雑草の種類数」に応じて変動するため、全国平均を出すと逆に誤差が拡大するという。
応用[編集]
広告と販売[編集]
、の架空に近い社内研究会「注意設計委員会」は、新聞広告の余白を3ミリ増やすだけで見出しの記憶再生率が11.4%上がると報告した。これが興味分配論の実務応用の代表例とされ、以後、洗剤、ラジオ、胃腸薬の広告で「一枚に詰め込みすぎない構成」が流行した。
もっとも、当時の担当者の日誌には「商品名より犬の写真に関心が移る」との記述が連続しており、興味分配論は商品訴求よりも犬の採用基準の改善に役立ったとも言われる。
教育[編集]
教育分野では、黒板の左端にだけ重要語を置くと生徒の興味が左に偏るため、以降は板書を三段に分ける方式が一部の進学校で採用された。東京都内のある私立校では、英語の授業で単語カードを机上に9枚置き、どのカードに視線が固定されたかを記録して成績と相関を取ったが、なぜか最も成績が伸びたのは窓際の席であった。
この結果を受け、学校側は「自然光による再配分効果」として処理したが、実際には隣接する工事現場のクレーンに興味が吸われていただけではないかとする指摘がある。
公共政策[編集]
にはの前身にあたる事務局で、住民説明会における資料配布枚数の最適化に興味分配論が用いられた。ここでは、1人あたり4枚を超えると「帰宅後の再検討」に移る割合が急減するという、妙に具体的な基準が作られている。
またの工事説明では、図面の中に赤線を2本入れると反発が増える一方、緑線を1本入れると「安心感が生じる」とされた。ただし、同報告書の注記には「緑は本来、進行中の工事ではなく春の印象を喚起するための装飾である」とあり、政策理論というより色彩心理の応用になっていた節がある。
批判と論争[編集]
興味分配論に対する批判として最も多いのは、測定単位の不安定さである。ある研究では「関心1単位」は新聞1面分とされたが、別の研究では喫茶店の灰皿2個分とされ、さらにの改訂では「話題の持続時間3分」へと変更された。そのため、研究者間で比較可能性がほとんどない。
また、の篠原誠は、興味分配論が実際には「人は飽きやすい」という自明な経験則を精密な図表に包んだだけではないかと批判した。これに対して支持派は「自明であることと定量化できることは同じではない」と応じたが、その日の討論会の記録を見ると、半数の参加者が配布菓子に興味を移していたことがわかる。
さらに、一部の論者は、興味分配論が企業の販促や学校の統制に利用されたことで、本来の「自由な関心の流れ」を損なったと主張している。一方で、に発表された追跡調査では、理論を知らないまま同じ行動をしている人の割合が68%に達したため、理論の倫理的責任を問う議論はやや空転した。
影響[編集]
興味分配論の影響は学術よりもむしろ日常語に残ったとされる。たとえば「今日は興味が三つに割れている」「その案件は配分が重い」といった表現は、以降の会社員の会話に定着したとされる。
また、やでは、紙面の片隅に置く小さなコラムを「残差枠」と呼ぶ慣習が一部で生まれ、短いが妙に読まれる欄が増えた。これは興味分配論の成功例として引用されることがあるが、実際にはレイアウト担当者が単に余白を埋めたかっただけだという証言もある。
なお、後半には、スマートフォンの通知設計においても再発見された。通知音を3種類以上に増やすと、利用者がメッセージ本文ではなく音色の比較に興味を移すため、逆に開封率が下がるという現象が報告され、これが「現代版配分疲労」と呼ばれた。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『興味分配論序説』東洋思想社, 1931年.
- ^ 佐伯みどり「都市生活における関心移動の測定」『放送文化研究』Vol. 12, No. 4, 1954, pp. 33-58.
- ^ 小島健一「分配と分散のあいだ」『社会認知学報』第8巻第2号, 1973, pp. 11-29.
- ^ 木村静子『関心残差の理論』丸山書房, 1976年.
- ^ Harold P. Whitman, “Interest Allocation in Public Space,” Journal of Applied Attention Studies, Vol. 5, No. 1, 1962, pp. 101-126.
- ^ M. A. Thornton, “A Note on Three-Stage Watching,” The Kyoto Review of Social Measures, Vol. 9, No. 3, 1971, pp. 77-93.
- ^ 中村節子「広告余白と視線の再配分」『広告科学』第21巻第7号, 1968, pp. 5-19.
- ^ Richard D. Ellery, The Grammar of Interest Distribution, Cambridge Public Press, 1984.
- ^ 篠原誠「配分理論批判の再検討」『行動と制度』第14巻第1号, 1982, pp. 44-61.
- ^ 渡辺精一郎・佐伯みどり編『興味分配論の現在と未来』日本関心学会出版局, 1992年.
- ^ L. F. Mercer, “Why People Prefer Gray Pamphlets,” Urban Cognition Quarterly, Vol. 3, No. 2, 1958, pp. 9-14.
外部リンク
- 日本興味分配論学会
- 関心移動研究センター
- 本郷アーカイブス
- 注意設計資料館
- 配分心理年鑑