裏永山基準
| 題名 | 裏永山基準(うらながやまきじゅん) |
|---|---|
| 法令番号 | 61年指針第17号 |
| 種類 | 公法(刑事司法運用指針) |
| 効力 | 現行運用中(とされる) |
| 主な内容 | 死刑判断における無罪側の立証欠缺・合理的疑いの補正基準 |
| 所管 | 法務省訟務局(所管) |
| 関連法令 | 刑事裁判合理化法(架空)ほか |
| 提出区分 | 官庁通達(省令同等の運用とみなされる) |
(うらながやまきじゅん、61年指針第17号)は、において死刑判断を補正しうる「無罪の基準」を定めるとされるである[1]。永山基準が死刑の基準を“決めたクソ前例”と評されるのに対し、本指針は無罪側の判断枠組みを“逆算で固定”したものと説明される[2]。
概要[編集]
は、死刑に関する裁判所の判断過程において、無罪側の基準を“前提条件”として明文化するために制定されたとされる法令である[1]。
本基準は、いわゆるが「死刑の基準を決めたクソ前例」として批判されるのと対になっており、「無罪の基準」を先に固定することで、後続の立証判断や情状評価を歪めにくくするのが趣旨とされる[2]。もっとも、実際には運用の裁量余地が極めて広い点が問題視されている。
なお、当該指針は法律そのものではなく、一定の裁判実務を誘導する形で告示・通達・内部通達に類する文書として施行されたと説明される。条文の形式は法律に準じており、第1条から第12条までで構成される。
構成[編集]
本基準は、第1条(目的)から第4条(対象事件)までを総則として規定し、その後、第5条から第9条までで「無罪の基準」に関する判定要素を定める構造になっている。
さらに第10条(記録化義務)、第11条(適用除外)、第12条(解釈の趣旨)が置かれ、附則として施行期日が定められている。とくに第10条は、判断過程の記録化を義務づける条文として参照されることが多い。
条文上は「〜を定める」とされるが、実務上は政令よりも通達に近い性格として扱われることがあり、結果として法的安定性が争点となることが指摘されている。
沿革(制定の経緯/主な改正)[編集]
制定の経緯[編集]
60年、が一連の死刑事件で判断理由の書式を統一する試行を始めたとされる。その際、内部で参照された「永山基準」の一節が“死刑だけを先に決めるように読める”として、に抗議文が多数寄せられたとされる[3]。
そこで同局は、司法研修所(架空の、千代田区所在)が作成した「判断の逆算テンプレート」を材料に、無罪側の基準だけを逆向きに固定する新たな運用指針を起案したとされる[4]。このとき、起案者の机上には、鉛筆で「裏=反転」というメモが残っていたと証言され、そこから名称が付いたという逸話がある。
特に当初案では「無罪の条件」を数式で表そうとしたが、説明責任の観点から文章化に改められた。その結果、論理の芯は維持されつつも、第6条の“合理的疑い”要素が細かい条件分岐を持つ形で残された。
主な改正[編集]
公布から数年後、施行上の混乱を受けて8年指針改正(改正番号:平成8年指針第3号)が施行された。改正では、第10条の記録化義務に「第7条の判定要素ごとに、証拠番号と照合の時間差を記載する」ことが追加された。
ここでいう時間差とは「証拠提出から“疑いの組み替え”までに要した推定日数」であり、当初は平均3.2日と推計されたが、のちに再推計で3.9日へと“丸め直し”されたとされる。なお、この数値は学術会議で引用されたことがあるが、出典の明確さについては疑義もあるとされる[5]。
さらに21年には「適用除外」の文言が改められ、精神鑑定の手続瑕疵が疑われる場合の扱いが明確化された。ただし、その追加条文は「の趣旨に反しない限り」といった曖昧語を含み、結局どこまでが補正対象かが裁判官ごとに変動するとの批判につながった。
主務官庁[編集]
本基準は、法務省訟務局が所管し、全国の裁判所に対し、適用される運用指針として告示されたものとされる[6]。
所管局は、施行後の運用状況について、四半期ごとに「無罪側判定の記録様式(ひな型)」を添えて通達を発出することができるとされる。ただし、通達が実際の判決に対し拘束力を有するかについては争いがあり、「指針であって法令ではない」という形式論もあると指摘されている。
また、法務省は、最高裁判所事務総局との協議に基づき、必要に応じて省令に準ずる内部文書として整理することができるとされる。ここで「協議」は義務を課すものではない一方、の規定により“参考扱い”の枠を確保するため、事実上の影響が出やすいとされている。
定義(主要な用語定義)[編集]
第2条では、本基準における「無罪の基準」を、合理的疑いが生じた場合に、刑罰を科することが禁止される方向へ判断が誘導されるべき状態として定義する。
第5条では「合理的疑い」を、単なる可能性ではなく、証拠の連鎖が「最長でも7点の系統枝に分岐した時点で、どれか一つの枝が崩れれば足りない」とする、実務向けの基準として具体化している[7]。また「証拠番号」については、物証・供述・鑑定の区分に応じて異なる符号体系が採用されるとされる。
さらに第6条では「補正」とは、永山基準に基づく死刑側評価を、無罪側の要素により相殺する作業をいうとされる。なお、相殺の強度は“証拠の重み”と“手続の時間差”の合算で算定されるとされるが、この算定式は条文本文に明示されておらず、別添の告示資料で示される運用だと説明される。
ただし、第8条の但し書きで「の規定により、裁判所は自らの判断により補正を省略することができる」とされており、結果として“定義”が実質的な裁量の装置として機能しうると批判されている。
罰則[編集]
本基準においては罰則が置かれていないとされるが、第10条(記録化義務)に違反した場合、違反した者は「手続記録の修正命令」の対象となると規定される。
違反した場合の取り扱いは懲役や罰金ではなく、当該事件の記録が再閲覧の対象に回され、の規定により審査部門で追加の説明責任が求められる仕組みになっている。
また、第11条で適用除外が規定されているが、「適用されない」ことよりも「適用除外に該当するか」の判断が争点になりやすいとされる。このため、事実上、記録化義務の強度が実務の緊張を生んだという指摘がある。
問題点・批判[編集]
批判としては、第一に、無罪の基準が“数値的に見える文章”として書かれている点が挙げられる。合理的疑いが7点分岐のように読めることから、単純化された機械的運用が起きるのではないかという懸念が示されている。
第二に、永山基準と相殺するという構造が、結局は死刑側の評価を先に頭に置いてから無罪側の言い訳を後付けする形になりうる、という逆転批判がある。とくに第6条の「補正」の運用が、実際には裁判官の志向性と結びつきやすいとされる。
第三に、改正で追加された「推定日数」の記録が、当事者の立証戦略を歪めるとの指摘がある。推定日数が4日未満なら補正を軽くし、4日以上なら重くする、といった運用メモが出回ったことがあるとされるが、公式には否定され、しかしの規定により“疑義解消のための参照”として扱われたことがあるという。[8] また、要出典になりそうなエピソードとして、ある弁護士団体が「時間差は平均で3.1日だった」と異なる統計を提示したことがあると報じられた。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 灰島律子『裏永山基準の運用史:反転テンプレートの誕生』中央法制研究所, 1992.
- ^ ウラノ・カイ『The Reverse-Reasoning Doctrine in Japanese Capital Cases』法苑出版社, 1998.
- ^ 五明田健『死刑基準と立証欠缺の交差点(Vol.3)』青藍大学出版会, 2004.
- ^ 林岬順『合理的疑いの“分岐数”と記録義務』『刑事手続研究』第22巻第1号, pp.41-63, 2009.
- ^ チャールズ・ベアリー『Standard of Reasonable Doubt as a Computable Narrative』『Comparative Criminal Procedure Review』Vol.15 No.2, pp.201-228, 2011.
- ^ 中瀬藍香『刑事司法運用指針の法的性質:通達は裁判を縛るか』東海法学会, 2013.
- ^ 松枝昌人『永山基準批判の系譜と裏面運用』『訟務年報』第44号, pp.12-37, 2016.
- ^ 小金井信吾『第10条記録化義務の実務(pp.縮尺版)』法曹実務叢書, 2019.
- ^ 法務省訟務局『無罪側判定様式(平成改正版)』官庁資料, 1996.
- ^ 佐多芽衣『裁判官の裁量と“の趣旨”の境界』日本司法協会, 2022.
外部リンク
- 裏永山基準情報センター
- 訟務局ひな型アーカイブ
- 刑事手続タイムライン博物館
- 反転運用研究会サイト
- 無罪側記録フォーマット倉庫