認知ステイサム療法
| 分野 | 心理療法、認知行動療法(派生) |
|---|---|
| 対象 | 不安、反すう、生活リズムの乱れ等 |
| 創案とされる時期 | 1990年代後半〜2000年代初頭 |
| 実施の場 | クリニック、職場外メンタル支援、研究会 |
| 主要コンセプト | 滞在時間の認知再編(主観時間ログ) |
| 典型的セッション長 | 45〜55分(例外あり) |
| 評価指標 | 主観時間の歪み指数、反すう頻度 |
| 関連概念 | 認知再ラベリング、注意訓練、間欠曝露 |
| 論争点 | 治療効果の再現性、語感起源の妥当性 |
認知ステイサム療法(にんち すていさむ りょうほう)は、認知行動理論を基盤にしつつ、本人が「滞在(stay)」する時間感覚を再調律する心理療法として説明されることがある。主にの民間臨床で用いられたとされ、短時間セッションと主観時間の記録が特徴である[1]。
概要[編集]
認知ステイサム療法は、認知の内容そのものを修正するだけでなく、認知が「どれくらいのあいだ続くと感じるか」という持続感(滞在感)を調整する方法として整理されることがある。とくにと呼ばれる記録用紙に、同じ状況を見ている最中に感じる「長さ」のズレを数値化し、その数値を対話の材料にする点が、民間療法としては特徴的とされた。
成立事情は、心理学領域の実務者が「カウンセリング室の時計が遅れる」と苦情を受けたことに端を発する、という物語で語られることが多い。すなわち、来談者が不安の最中に「時間が伸びる」ように感じる現象が、時計の誤差ではなく認知の癖として現れるのではないか、という仮説が持ち込まれたとされる[2]。この時に導入されたのが、滞在感を再調律する段取りであると説明される。
なお名称の「ステイサム」は、特定人物の姓でも作品名でもなく、と「要約サム(summary sam)」を合成した社内用語から来たとする説がある。ただし語源の説明には揺れがあり、後述する通り、編者間で「本当に要約サムなのか」という疑問が繰り返し発生したともされる。
概要(技法)[編集]
技法は大きく「観測」「再ラベル」「滞在再配置」の三段階で説明されることが多い。まず導入では、来談者に対し一日の中の「嫌な考え」が生じる時間帯を申告させ、次にそれらの時間帯のうち2つだけを選んで、各時間帯について10秒刻みの滞在感を記録させる。記録は合計で最大でまでに制限され、負担を抑える設計であるとされる。
次に再ラベルでは、記録された滞在感が「危険の予兆」と誤認されている可能性があるとして、ラベルを置き換える。具体例として、「時間が伸びた=終わりが来ない」という解釈から、「時間が伸びた=注意が一点に固着している」という解釈へ移す、といった言い換えが行われたと説明される。
最後の滞在再配置は、注意訓練の応用として、同じ刺激でも“自分がどこに留まっているか”を変える練習であるとされる。ここでは、セッション中の沈黙が続いた際に感じる時間を、沈黙カウントではなく呼吸の回数に結びつける方法が用いられたとされる。呼吸は「1分あたり6回」に固定する指導が行われることがあるが、これは研究会の議事録では期の呼吸法資料に由来すると記述されている。
歴史[編集]
起源:時計が遅れる“事件”と主観時間ログ[編集]
認知ステイサム療法が生まれたとされる最初期の資料として、周辺の相談センターに貼られた「相談時間の長さについてのお願い」札が引用されることがある。そこでは、来談者が「待合室の時計が勝手に進まない」と繰り返し訴えたため、スタッフが実測したところ、実際の進みが平均でほど誤差だった、という説明が記録されているとされる[3]。
一方で、誤差が説明できる範囲を超えて“長く感じる人”が固定されていたことから、誤差そのものではなく認知の癖が時間知覚を増幅しているのではないか、という方向へ議論が進んだとされる。そこで臨床家の(当時、の地域研修担当)が、来談者に「同じ長さに感じる」基準を与える代わりに、ズレを“測って見せる”方針を打ち出したとされる。
渡辺は、10秒ごとの滞在感を数字にする紙を試作し、当初は「沈黙が続いたら何点か」という粗い採点を行っていた。しかし点数はばらついたため、段階的に改良が加えられ、最終的にはへ統一されたとされる。ここで“スコア”という単語が口頭で「サム」と聞き違えられ、内部でステイサムという呼び名が広がった、という逸話が残っている。
発展:民間臨床ネットワークと“45分固定”ルール[編集]
2000年頃、療法の実施者たちはの複数施設にまたがる小規模ネットワークを形成した。代表的な場としてが挙げられ、そこで「セッション長は45分が最も学習が起きる」とする発言が採用され、以後、が“暗黙の品質管理”として扱われたとされる。
ただし、実際には参加者の一部が「55分だと滞在感スコアが急に下がる」と報告したともされる。そこで会は妥協案として、初回だけはに設定し、二回目以降は45分へ戻す運用を採ったという。なお、この「初回53分」の数字は、会議の議事次第に書かれていた“昼休みの残り時間”だという説明もあり、真偽は定かでないとされる[4]。
また、海外にも短期間で伝播したとされ、欧州の研究者が「stay-based cognitive calibration」という英訳を試みた結果、論文のタイトルが微妙に間違えられた版が出回ったとする指摘がある。具体的には、(認知的時間知覚研究所)から出された報告書で、姓の一部が誤って “Samus” と表記され、後日、訂正が“出さないまま”終わったとも言われている。
社会への影響:企業メンタルと“注意の残留”概念[編集]
認知ステイサム療法は、企業のメンタルヘルス研修にも転用された。とくに、残業が多い部署で「会議の後に不安が残る」問題が増えた際、主観時間ログが“職務上のリカバリー指標”として採用されたとされる。運用では、会議終了後のだけ、自己記録をつけさせる仕組みが導入され、数値が高い人には個別面談が割り当てられた。
ここで生まれた派生概念としてが挙げられる。注意の残留は、認知が“場に滞在している”状態として定義され、残留が強い人ほど休憩が短いと回復しにくいと説明された。一方で、短期的な改善が出ると「原因が解決された」と誤解される危険が指摘され、施策の継続には、産業医や側の承認が必要だったとされる。
ただし、承認の際に提出された書類には、技法の核心である再ラベルの具体例が“抽象化されすぎている”という苦情が複数出たともされる。結果として、実施者ごとの説明が揺れ、同じ用語でも意味が微妙に変わる現象が生まれたと報告されている。
批判と論争[編集]
批判として最も多いのは、効果測定が主観に依存しすぎる点である。主観時間ログは、同じ人でも当日の体調、睡眠時間、食事量などで揺れるため、治療効果を統計的に分離しにくいとされる。また、反すう頻度の自己申告とセットで用いられることが多く、結果の解釈が後追いになる可能性が指摘されている。
さらに、語源論争も発生した。「ステイサム」という名称は社内用語から生まれたという説明がある一方、別の研究者は「特定の映画音楽の“Stayの部分”を聴いた時にアイデアが降りてきた」とする回想録を提出し、結論が割れたとされる。会議録では、語源が確定しないまま教育資料だけが先行したと記されており、編集方針の違いが混乱を増幅したのではないかと推測されている。
また一部では、企業導入の段階で倫理面が問われた。主観ログが“評価”として使われることで、来談者が数字を良く見せる方向へ学習してしまう可能性があるとされ、匿名性の担保が議論になった。なお、このときの解釈を巡る議論が長引き、結局は「ログは治療目的に限定する」とだけ書かれた簡易条項が採用された、と説明されることがある[5]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『主観時間の再調律:滞在感スコア運用の手引き』日本医療協会, 2004.
- ^ Margaret A. Thornton『Cognitive Calibration of Subjective Duration』Vol.12, No.3, Journal of Applied Time Psychology, 2008.
- ^ 山崎春人『反すうと時間のねじれ:45分固定プロトコルの検討』第6巻第2号, 臨床認知研究, 2006.
- ^ 鈴木由貴『注意の残留と休憩設計:企業導入事例の解析』株式会社メンタルパブリケーション, 2011.
- ^ Dr. Elena Voss『stay-based intervention in anxiety management: a pilot study』Vol.19, No.1, European Review of Cognitive Care, 2013.
- ^ 田中雄介『相談室時計事件の記録:再現実験と誤差要因』医学史資料叢書, 2009.
- ^ Institut für Kognitive Zeitwahrnehmung『報告書 Samus 誤記訂正版』第1版, 2002.
- ^ 佐伯玲奈『滞在再配置:呼吸回数と沈黙評価の相関』第3巻第4号, 行動調整ジャーナル, 2015.
- ^ K. N. Hasegawa『企業メンタルにおける主観指標の扱い』Vol.7, No.9, 日本産業衛生学レビュー, 2017.
- ^ “認知ステイサム療法”編集委員会『解説集:用語の統一と研修カリキュラム(第2版)』らくだ書房, 2010.
外部リンク
- 主観時間ログ研究会
- 東京臨床認知ネットワーク
- 滞在再配置ワークショップ
- 日本企業メンタルヘルスQ&A(社内版)
- 認知的時間知覚アーカイブ