都市伝説
| 分類 | 口承文化、情報社会、民俗心理 |
|---|---|
| 成立 | 1968年頃 |
| 発祥地 | 東京都千代田区霞が関周辺 |
| 提唱者 | 西園寺 速水、M・J・カーヴァー |
| 主な媒体 | 新聞、電話、学校掲示板、深夜ラジオ |
| 代表的研究機関 | 国立都市伝説研究所 |
| 主要現象 | 尾ひれの再帰増幅、証言の多重化 |
| 影響 | 観光、放送規制、若者文化 |
都市伝説(としでんせつ、英: Urban Legend)は、で反復的に流通する未確認の出来事や人物像を、口承・掲示・報道の断片を通じて増殖させる社会現象である。一般には後期ので体系化された情報流通の一形態として知られている[1]。
概要[編集]
都市伝説は、実在の都市空間において「誰かが見た」「知人の知人が体験した」とされる出来事が、出典不明のまま共有される現象である。特徴として、もっともらしい地名、実在組織、細部の数字が添えられ、話の真偽よりも伝達速度が重視される傾向がある。
初期の都市伝説は、後半ので、急速な高度経済成長に伴う人口移動と、深夜放送の普及を背景に発生したとされる。とくにの官庁街周辺で配布された匿名の小冊子『夜間通報録』が、後の定型句「三人目の証言」を確立したとする説が有力である[2]。
歴史[編集]
黎明期[編集]
黎明期の都市伝説は、学校内での噂話と、駅売店の夕刊記事が混線して生じたとされる。とくにの東口で配布されたチラシ『迷子情報のしおり』は、実際には防災訓練の案内であったが、末尾の注意書きが「人が消える場所の一覧」と誤読され、以後の怪談定番地として定着した。
また、当時の広報係に勤務していた西園寺 速水は、情報の拡散経路を「駅—学校—家庭—ラジオ局」の四段階に分類し、これをに『都市循環仮説』として発表した。なお、彼の原稿には「噂は週末にだけ増殖する」とあるが、どの観測記録に基づくかは不明である[3]。
拡大期[編集]
後半からにかけて、都市伝説は雑誌文化と結びつき、写真週刊誌、深夜番組、学園祭パンフレットを媒介に爆発的に拡大した。特にの出版会館で毎月開催されていた「未確認談話会」では、編集者が「もっと短く、もっと怖く、しかし実在の企業名を一つ入れる」ことを推奨したため、現在の都市伝説の文体が固まったとされる。
この時期には、が「証言の濃度」を測定するため、首都圏の中学生412名に対し、同一の怪談を三通りの語尾で提示する実験を行った。結果、語尾を「らしい」にすると真実認定率が17.8%上昇し、「という」の場合は逆に6.4%低下したという[4]。
デジタル化以後[編集]
以降、都市伝説はインターネット掲示板へ移行し、投稿者の匿名性によって「体験者の近接性」がさらに誇張されるようになった。とりわけので発生したとされる「改札に現れる白い名刺の男」は、当初は3件の目撃談しかなかったが、48時間後には27件、2週間後には146件に膨れ上がり、うち9割が引用文の誤記であったと報告されている。
一方で、SNS時代の都市伝説は、画像加工や短文動画の普及によって「証拠が先に流通する」という逆転現象を示すようになった。これにより、内の学校では「怪談はまず写真から疑うべきである」とする独自の情報教育が導入されたが、写真を疑いすぎて集合写真を撮れなくなる児童が増えたため、翌年度に廃止されたという[5]。
代表的な都市伝説[編集]
### 関東圏の定番
口笛橋の女(1974年) - の旧水道橋に現れるとされる女性像で、口笛を吹くと通行者の影が1分遅れて動くという。もともとは橋梁点検の警告標識を見間違えた工員の証言が発端であったが、のちに「遅れた影を見た者は必ず一度だけ引き返す」という追加設定が加えられた。
三階の給湯室(1978年) - のオフィスビルで、午前3時だけ開くという給湯室の話である。実際には清掃員の休憩室であったが、夜勤者が7回連続で同じマグカップを見たことから、器具が自己複製するという珍しい都市伝説へ発展した。
赤い改札票(1982年) - の前身組織に近い駅務資料を引用して広まった話で、赤い切符を受け取ると次の駅で降りられなくなるとされる。鉄道ファンの間では「降車不能の呪符」と呼ばれたが、実際には自動改札導入前の試験札であったとされる。
井戸のカセットテープ(1985年) - の埋立地にあった古井戸から、再生すると1回だけ未来の交通情報が流れるというもの。再生可能回数が「1回だけ」であるため、最初の報告者以外は誰も内容を確認できず、結果としてもっとも編集しやすい都市伝説の一つとなった。
### 学校・若年層系
消える体操服(1989年) - 体育倉庫に入れた体操服が、翌朝には必ず左袖だけ残るという話である。全国の小学校で流行したが、実際には洗濯表示タグの誤読が原因で、保護者会が「左袖を食べる洗濯機がある」と誤解したことから定着した。
午後四時の放送室(1992年) - の中学校で、午後四時ちょうどに流れる謎の校内放送が、卒業生の将来進路を三択に分けるという。放送担当教諭が毎回同じ時刻にアナウンス練習をしていたためだが、なぜか「進路が分かれる」との評判だけが残った。
七段目のロッカー(1996年) - 7段目のロッカーにだけ自分の名前が書かれているという話で、の私立校から広がった。実際には名簿更新時の印字ズレであったが、当時の生徒会が「ズレた名前は本人の代名詞である」と説明したため、怪異として強化された。
### 企業・都市空間系
地下鉄13番出口の広告(2001年) - の駅構内で、存在しない13番出口にだけ出る広告があるという伝説である。広告内容は見た者の悩みに応じて変わるとされるが、目撃証言の大半は終電後の清掃時間帯に集中している。
丸の内の空室電話(2004年) - の高層ビルで、空室からかかってくる内線番号が「0」を含まない場合、必ず会議が延期になるという。総務部門では実在の番号体系と矛盾しないため確認が難しく、会議室不足を説明する便利な物語として流通した。
屋上の自販機コイン(2008年) - 屋上の自動販売機に100円玉を入れると、1枚だけ旧500円玉が返ってくるという。硬貨の時代差が大きすぎるため信憑性は低いが、のオフィス街で「経理担当者だけが見た」とされる証言が多く、経費精算の失敗談と結びついている。
閉店後の試食台(2013年) - の地下食品売場で、閉店後にだけ現れる試食台の話である。試食すると翌日必ず同じ商品を買いたくなるとされるが、実際には売場担当者が深夜に配置換えしたワゴンを客が見間違えたものと考えられている。
青信号の遅延車(2017年) - 青信号になっても一台だけ動き出さない車があり、運転者は必ず「まだ行けない」とつぶやくという。交通安全講習の標語が元になったとされるが、都内での目撃地が、、とばらけており、むしろ都市伝説の地理的拡散を示す好例とされる。
社会的影響[編集]
都市伝説は、単なる怪談としてではなく、都市生活における不安の受け皿として機能してきた。特定の建物、駅、学校、企業が話題にされることで、場所の記憶が強化され、場合によっては観光資源化することもあった。
また、には旧庁舎で「噂の強度」と来庁者数の相関を調べる展示が行われ、平日午後の来庁者が通常比で12%増加したとされる。ただし、展示の最終日に「本日よりすべての噂は休館」と掲示したところ、逆に周辺の飲食店売上が伸びたため、都市伝説には経済波及効果があると結論づけられた。
一方で、都市伝説の一部は、学校現場や自治体広報において誤情報対策の教材として扱われた。とくには、2016年度に「話の面白さと真偽の分離」をテーマにした副読本を配布したが、配布初日に「この冊子そのものが都市伝説ではないか」と生徒から疑義が出て、教師が説明に30分を要したという。
批判と論争[編集]
都市伝説研究は長らく民俗学の一分野として扱われてきたが、証拠性の低さから批判も多い。特に、国立都市伝説研究所が提示した「夜間の電話は噂を27%増幅させる」という統計については、再現実験の条件が不明確であるとして、の付記が学会誌で相次いだ。
また、都市伝説を意図的に作成する「創作噂業者」の存在が1980年代から指摘されており、出版社、広告代理店、イベント会社の間で半ば公然の技術として共有されていたという。これに対し一部の研究者は、都市伝説とは「嘘」ではなく「共同体が必要とした仮の真実」であると擁護している。
なお、代以降は、検証の容易さが向上したことで伝説の寿命は短くなったが、逆に「否定されたはずの話が、否定されたこと自体を材料に再生産される」という現象が観測されている。これを研究者の間では、半ば冗談として「反証後増殖型都市伝説」と呼ぶ。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 西園寺速水『都市循環仮説ノート』国立都市伝説研究所紀要, 1974, pp. 11-39.
- ^ M. J. Carver, “Transmission Density in Late-Night Rumors,” Journal of Urban Folklore, Vol. 8, No. 2, 1976, pp. 44-63.
- ^ 渡辺精一郎『駅前噂学入門』青燈社, 1981, pp. 88-121.
- ^ Harold P. Kline, “The Third-Party Witness Effect,” Annals of Contemporary Myth, Vol. 12, No. 4, 1984, pp. 201-229.
- ^ 『夜間通報録』東京都公文資料室複写版, 1969.
- ^ 佐伯美佐子「学校伝承における語尾変化と真実認定」『民俗と記号』第14巻第1号, 1991, pp. 5-28.
- ^ Elaine J. Morton, “Exit 13 and the Architecture of Doubt,” Urban Studies Review, Vol. 19, No. 1, 2005, pp. 77-96.
- ^ 国立都市伝説研究所編『噂の強度計測報告書 1987-1989』霞が関出版部, 1990, pp. 13-52.
- ^ 高橋真央『反証後増殖型都市伝説の研究』新都社, 2018, pp. 9-41.
- ^ L. B. Fenwick, “When the Vending Machine Tells the Truth,” Proceedings of Metro Mythology, Vol. 3, No. 3, 2012, pp. 155-168.
- ^ 宮本玲子『白い名刺の男とその周辺』港湾文化研究会, 2001, pp. 66-93.
外部リンク
- 国立都市伝説研究所アーカイブ
- 東京噂地図データベース
- 深夜放送と伝承の会
- 霞が関口承資料館
- 都市循環仮説オンライン年表