都市伝説研究所
| 正式名称 | 都市伝説研究所 |
|---|---|
| 英語名称 | Urban Legend Research Institute |
| 設立 | 1968年 |
| 設立地 | 東京都千代田区霞が関 |
| 研究分野 | 都市伝説学、伝播心理学、口承資料保存 |
| 所長 | 相沢 恒一 |
| 標語 | 噂は道を選ばない |
| 旧称 | 都市怪談調査室 |
| 関連機関 | 内閣府民間伝承対策室 |
都市伝説研究所(としでんせつけんきゅうじょ、英: Urban Legend Research Institute)は、都市部に流通する怪談・噂・半公的な記録の異同を収集し、話者の心理と伝播経路を分析する研究機関である。しばしばの旧官庁街を中心に活動したとされる[1]。
概要[編集]
都市伝説研究所は、都市生活の中で反復される未確認情報を、民俗学と統計学の双方から扱うことを目的として設立された研究機関である。研究対象は「地下鉄の未開通路」「深夜の自動販売機に現れる番号札」「消えた区画整理図」など多岐にわたり、資料は録音テープ、新聞切り抜き、建設業者の日誌、駅務員の聞き取り記録などから構成される。
同研究所が特異であったのは、噂を否定するのではなく、噂がどのように、、のような都市空間を移動するかを追跡した点にある。1960年代末、の終盤における再開発工事の増加とともに都市怪談が爆発的に増えたことから、行政実務と民間伝承の境界を扱う半官半民の組織として成立したとされる[2]。
沿革[編集]
創設期[編集]
研究所の前身は、にの若手会員だった相沢 恒一が、の仮設会議室で始めた「都市怪談調査室」である。相沢は、都内の地下工事現場で「同じ笑い声が午前2時17分に必ず聞こえる」という作業員の証言をまとめ、これを単なる迷信ではなく、労働配置の不安と工期遅延の心理が結びついた伝播現象と解釈した。
、の外郭研究費との文化保存予算が合流し、正式に都市伝説研究所が発足した。初年度の調査票は4,812枚で、そのうち約17%に「家族の誰かが駅で見た」という曖昧な証言が含まれていたとされる。なお、当時の事務局員が誤って封筒をに送付したことから、同館の目録に「伝聞資料」の項目が一時的に作られたという逸話がある[要出典]。
拡張期[編集]
には、研究所はとに調査分室を設け、駅構内、盛り場、百貨店屋上の噂を定点観測する方式を導入した。特に地下街で採取された「案内板の文字が夜だけ一文字ずつ増える」という報告は、のちに「可変表示症候群」と命名され、都市伝説の視覚的変形を説明する代表例となった。
同時期、研究所はの生活情報番組に年3回ほど出演し、「本日の都市噂指数」を公表していた。指数は0から100までの5段階表示で、1977年夏にはを記録したが、これは冷房機の普及で人々が玄関先に長居した結果、近隣伝播が増えたためと分析された。もっとも、実際には出演者の一人が毎回指数を黒板に書き忘れ、最後に見えた数字を採用していただけだという指摘もある。
制度化と衰退[編集]
に入ると、研究所はの生活安全関連部局と協力し、迷惑電話、怪文書、未確認車両の聞き取りを整理する「都市不安ファイル」を作成した。このファイルは全28巻、総頁数19,640頁に及び、現在も一部がの特別書庫に保管されている。
しかしの予算改編で民間伝承関連費が縮小され、常勤研究員は12名から4名に減った。以後は大学研究室や出版社の企画部門が実質的な後継となり、研究所本体は「伝説の受付窓口」として機能したとされる。なお、最終所長の相沢は退任会見で「噂は消えない。場所を変えるだけである」と述べたが、その直後に記者会見場の蛍光灯が3回点滅し、翌日の紙面では見出しが「研究所、最後まで怪異を確認せず」に差し替えられた。
研究手法[編集]
都市伝説研究所の方法論は、いわゆる聞き取り調査に加え、都市インフラに関する現場観察を重視する点に特徴があった。調査員は、、の各地点で同一の噂がどの速度で変形するかを追跡し、話の核心が3駅以内で変質することを「三駅変異則」と呼んだ。
また、研究所は「噂の温度」を数値化するため、話者の声量、説明の具体度、沈黙の長さを基準にした独自尺度を採用していた。たとえば、1984年の調査で採取された「赤いエレベーターの話」は、話者7人中6人が同じ階数を言い間違えたため、再現性ではなく不安の共有度が高い事例として分類された。こうした分類表は全て手作業で作成され、1枚あたり平均14分17秒を要したという。
主な調査対象[編集]
交通機関に関する噂[編集]
研究所はとに関する噂を最重要カテゴリとして扱った。特に「終電後の回送車両にだけある5番ドア」や「乗客がいないのに次の駅で必ず1人増える」といった話は、都市の移動不安を象徴するものとして頻繁に報告された。
1979年の試験運行時には、駅員の半数が同じ車内放送を聞き間違えたため、研究所はこれを「放送機械の霊的圧縮」と表現した。なお、その説明は非常に評判が悪く、後年の報告書では「音響環境の過負荷」と書き直されている。
学校・職場由来の伝説[編集]
学校における「夜の音楽室」「閉じないロッカー」、職場の「誰も使わない第3会議室」なども、研究所の重要な調査対象であった。これらは単なる怪談ではなく、集団生活での役割の偏りを可視化する装置として分析された。
にはのオフィス街で「午前0時にだけ勤怠カードが増える」という伝説が流行し、研究所は実地確認のために6社を訪問したが、実際に増えていたのは販促用の名刺入れであった。それでも報告書では、名刺入れの箱に貼られた「残業中」の手書きメモが、伝説の持続に寄与したと結論づけている。
消費財と自動販売機[編集]
1980年代後半以降、研究所は缶飲料、インスタント食品、駅売店の小物に結びつく都市伝説にも注目した。とりわけ「ラベルのない缶を飲むと自分の声が少し遅れて返ってくる」という噂は、当時の学生文化と広告表現の過剰さを反映するものとして有名である。
この種の調査では、研究所が都内37か所の自動販売機を1週間ごとに撮影し、銘柄よりも周囲の貼り紙の変化を重視した。結果として、最も多く記録されたのは飲料ではなく「故障中」「返金は右下窓口へ」といった業務文言であり、研究所はこれを「行政文の幽霊性」と呼んだ。
社会的影響[編集]
都市伝説研究所は、怪談を笑いものにせず、都市の不安を測る準公共機関として受け止められた点で大きな影響を与えたとされる。1980年代には地方自治体の広報誌が同研究所の図式を参考にし、区内の噂を「防災」「防犯」「近隣関係」の3分類で整理する例が増えた。
また、新聞社やテレビ局が「未確認情報」を扱う際の語彙も同研究所の影響を受けた。たとえばの夕刊文化面やの深夜番組では、「伝説の真偽」ではなく「伝説が成立する条件」を解説する構成が一時期流行した。もっとも、研究所自身はメディア露出を増やしすぎたことで、かえって「研究所の前を通ると噂が本物になる」と言われるようになり、調査対象が自分たちへ向き返る事態も生じた。
批判と論争[編集]
都市伝説研究所には、設立当初から「学術研究を装った行政広報ではないか」との批判があった。特にの『都市不安ファイル中間報告』において、調査対象地域の安全度を5段階ではなく「安心・やや安心・まだ安心・少し心配・かなり心配」で表示したことは、分類学として粗雑すぎるとして物議を醸した。
一方で、研究所内部でも、どこまでを都市伝説として扱うかをめぐる争いが絶えなかった。相沢派は「反復される語り」を重視したが、若手の木村夏子は「一度しか語られない話こそ都市の本音である」と主張し、1990年の会議では議事録が11ページにわたり「一度しか」をめぐって空転したという。なお、この会議の最後に誰が閉会の鐘を鳴らしたかは記録が残っていない。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 相沢 恒一『都市怪談調査入門』霞関書房, 1969年.
- ^ 木村 夏子『伝聞の地図学』日本民俗資料出版社, 1978年.
- ^ Urban, Peter. "Transmission Patterns in Metropolitan Rumor" Journal of Urban Folklore, Vol. 12, No. 3, pp. 114-139, 1981.
- ^ 渡辺 精一郎『都市不安ファイル総覧 第3巻』動態文化研究会, 1984年.
- ^ Harrington, Alice M. "The Station Effect and Story Drift" Proceedings of the Institute of Social Narratives, Vol. 8, pp. 201-224, 1986.
- ^ 佐伯 恒一郎『夜間駅構内における噂の熱量』港文社, 1991年.
- ^ Matsuda, Keiko. "Administrative Ghosts in Vending-Machine Etiquette" Tokyo Review of Applied Myth, Vol. 5, No. 1, pp. 33-49, 1994.
- ^ 相沢 恒一・木村 夏子編『都市伝説研究所年報 1968-1992』都市伝承出版会, 1996年.
- ^ Thornwell, Margaret A. "A Note on the Fifth Door Phenomenon" International Journal of Contemporary Legend, Vol. 19, No. 2, pp. 77-90, 1998.
- ^ 『噂の温度計――都市伝説研究所40年史』霞ヶ関文化資料館, 2009年.
外部リンク
- 都市伝説研究所アーカイブ
- 霞関伝聞資料室
- 都市噂指数年鑑
- 現代口承研究ネットワーク
- 東京都市怪談年報