限界OL霧切ギリ子
| タイトル | 限界OL霧切ギリ子 |
|---|---|
| ジャンル | 社会派ギャグ、オフィスドラマ |
| 作者 | 霧島ユウ |
| 出版社 | 白亜書房 |
| 掲載誌 | 月刊デッドライン |
| レーベル | デッドライン・コミックス |
| 連載期間 | 2014年4月号 - 2021年11月号 |
| 巻数 | 全14巻 |
| 話数 | 全162話 |
『限界OL霧切ギリ子』(げんかいおーえるきりぎりぎりこ)は、のによるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『』は、内の中堅コンサルティング会社「」を舞台に、常に体力・気力・残業時間の三拍子が限界に達している・の奮闘を描く作品である。平成後期のオフィス文化を誇張しつつも、稟議書、会議資料、深夜の自動販売機などの細部を異様に精密に描いたことで知られている[2]。
題名の「ギリ子」は、作者が頃に新宿の深夜喫茶で目撃した、終電寸前に無言でを握りしめる女性社員の筆記メモから着想を得たとされる。ただし、後年のインタビューでは霧切本人のモデルが「社内のコピー機に封じられた都市伝説的事務員」であったとも語られており、起源については複数説がある[3]。
制作背景[編集]
作者のは、前作である短編『』の打ち切り後、編集部から「もっと疲れている人物を描いてほしい」と要望を受け、本作の企画を立ち上げたとされる。特にの年末進行で発生した社内会議の長文化を題材に、1話平均16.8ページという中途半端な尺で構成されたことが、読者の実感と妙に一致したと評された[4]。
制作初期には、主人公を男性にする案や、舞台をの外資系倉庫に変更する案もあったが、最終的には「東京のビル街で、毎日ギリギリのまま定時を逃す」という現在の形に収束した。背景美術においては、の貸会議室やの24時間営業カフェが綿密に描写され、現地取材に基づくとしてファンの間で話題になったが、実際には作者が深夜に撮影したレシートの裏にスケッチをしていたという証言もある。
連載開始時は部数が伸び悩んだが、に単行本第4巻で「午前2時の承認印編」が掲載されると口コミが拡散し、以後は380万部を突破したと公称されている。なお、この数字には社内研修用の配布冊子が含まれるとの指摘があり、要出典のまま半ば定着している。
あらすじ[編集]
新入社員編[編集]
新卒入社3年目のは、毎朝7時40分に会社へ到着するものの、始業までに前日のメールを108通処理する羽目になる。初期エピソードでは、彼女が上司の「ちょっと確認」で8時間拘束され、結果として昼食のを冷蔵庫に2日間置き忘れる事件が描かれ、作品の基調が定まったとされる。
この編では、同期のや総務のが登場し、社内の非公式ルールである「エレベーター内では退勤の話をしてはならない」などの不文律が提示された。特に第11話「資料は呼吸する」では、ギリ子が会議用紙を400部印刷した直後に議題が変更され、彼女が無言で紙束を裁断機に流し込む場面が名場面として知られる。
深夜会議編[編集]
会社が年度末の大型案件に巻き込まれ、ギリ子はの外郭団体との合同会議に連日出席させられる。ここでは、会議室の照明が23時を過ぎると自動的に青白くなるという、ややSF的な設定が導入され、ファンの間で「オフィス伝奇編」とも呼ばれた。
第48話では、ギリ子が議事録作成のために録音した会議音声が、ノイズの多さゆえに「ため息しか残らない」と評され、後にサウンドトラック化までされた。会議室のホワイトボードに残った「再調整」「要検討」「来週で」といった語が、国家レベルの呪文のように扱われる演出が特徴である。
有休消化編[編集]
中盤の山場である本編では、ギリ子が突如として5日間の有給休暇を取得しようとするが、承認フローが7段階存在したため、休暇の前に休暇申請の休暇が必要になる。ここで登場する人事部のは、カレンダーに赤丸を付けるだけで半話を費やす人物として人気を博した。
海辺の温泉旅館に向かったギリ子は、旅先でも業務チャットの通知から逃れられず、最終的に露天風呂の縁でノートPCを畳むという、あまりに象徴的な場面を迎える。この話数は単行本第9巻に収録され、読者アンケートで1位を取ったとされるが、同時に編集部内では「笑えない」とも言われた。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、営業企画部所属のOLである。平均睡眠時間は3.4時間とされ、資料作成の速度だけは異常に速いが、本人は「速くないと生き残れない」と語る。
は同期入社のライバル兼友人で、社内恋愛の噂と同じ速度で昇進する人物として描かれる。常にハンドクリームを塗っているが、実際には乾燥対策ではなく、Excelショートカットの入力ミスを防ぐためだという設定がある。
は、部下の残業時間を「努力」と呼ぶ古典的管理職である。一方で、自分だけは毎週水曜に17時退社するため、読者からは「最終ボスに見せかけた中ボス」と評された。
は人事部の担当者で、労務管理に厳しいが、なぜか給湯室のコーヒーマシンにだけは甘い。彼女が出す「面談案内メール」は、作中で最も恐れられるアイテムの一つである。
用語・世界観[編集]
作中では、退勤直前に発生する不可避の追加業務をと呼ぶ。この語は後に一般企業の若手社員の間で俗語化し、にはSNS上で「#今日もギリ案件」が小規模な流行語となった。
また、締切前夜に社内で発生する特有の静寂はと呼ばれ、誰も帰れないまま時計だけが進む空間として表現される。作中ではこの状態になると、コピー機が妙に高い音を出し始め、蛍光灯が1本だけ点滅する演出が定番化した。
世界観設定としては、霧見総合企画のビルはとの境界に建っているとされるが、作中地図では毎回微妙に場所がずれている。ファンの間では、これは残業によって空間認識が歪む現象だと説明されている。
書誌情報[編集]
単行本はより刊行され、各巻には巻末おまけとして「実録・終電メモ」が収録された。第1巻は11月に発売され、初版部数は1万5000部であったが、書店員の手書きPOPが話題となり、2週間で重版が決定した。
第7巻と第8巻の間には、限定版『』が存在し、表紙のギリ子がネクタイではなく社員証ストラップを握っている。なお、電子版のみ収録の幻の第73.5話「電源が落ちる前に」は、連載末期のデータ破損を逆手に取った演出として語り継がれている。
メディア展開[編集]
にはされ、深夜帯にもかかわらず平均視聴率2.8%を記録したとされる。アニメ版では、会議中の沈黙を表現するために実際のオフィス雑音を収録し、エンディングテーマではキーボード音がパーカッションとして使用された。
そのほか、、舞台化、『ギリ子の残業脱出術』、および実在の駅名に似た仮想路線を走る企画が行われた。中でも風のデザインで展開された「終電注意」キャンペーンは、作品を知らない層にも奇妙な印象を残した。
また、企業タイアップとして、コピー用紙メーカーや栄養ドリンク会社とのが積極的に行われた。特に、作中の栄養ドリンク「ギリッとZ」は、現実の商品名と紛らわしいとして一部で話題になったが、実際には含有成分がコーヒーと気合いのみであった。
反響・評価[編集]
本作は、働き方改革以前の空気を過剰なまでに記録した作品として、との境界を押し広げたと評価されている。特に以降は、リモート会議の普及によって「ギリ子の世界が現実に追いついた」とする読者が増え、社会現象となったと紹介されることがある[5]。
一方で、あまりに実務描写が細かいため、経理部門の読者からは「笑えるが胃が痛い」との声もあった。批評家のは『週刊架空評論』において、本作を「オフィス漫画のふりをした時間管理ホラー」と評している。
人気投票では第3回キャラクター総選挙でギリ子が1位を獲得したが、2位以下が「残業」「差し戻し」「仮押さえ」であったことから、読者の生活状況そのものが支持層を形成していたことが示唆される。
脚注[編集]
[1] 『月刊デッドライン』2014年4月号、白亜書房。
[2] 霧島ユウ「終電前の資料文化について」『架空漫画研究』Vol. 12, No. 3, pp. 44-58, 2018年。
[3] 大橋玲子「限界表現と通勤神話」『東京オフィス文化年報』第7巻第2号, pp. 101-109, 2019年。
[4] 白亜書房編集部編『深夜会議の作法』白亜資料室, 2017年。
[5] 相沢史朗『働く人と笑う人: 現代ギャグ漫画の輪郭』蒼林社, 2021年。
[6] カワサキ・エミリ「The Aesthetics of Overtime in Contemporary Japanese Comics」Journal of Urban Narratives, Vol. 9, No. 1, pp. 12-29, 2020.
[7] 霧島ユウ「コピー機の神性について」『月刊デッドライン』2020年9月号。
[8] 村瀬清一『オフィス怪談としての経済漫画』東都出版, 2022年。
[9] Yamada, R. “Why Deadlines Become Myth,” Office Studies Quarterly, Vol. 5, No. 4, pp. 77-88, 2021.
[10] 佐伯みどり『ギリ子現象と若手労働者の笑い』白亜書房, 2023年.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 霧島ユウ「終電前の資料文化について」『架空漫画研究』Vol. 12, No. 3, pp. 44-58, 2018年.
- ^ 大橋玲子「限界表現と通勤神話」『東京オフィス文化年報』第7巻第2号, pp. 101-109, 2019年.
- ^ 白亜書房編集部編『深夜会議の作法』白亜資料室, 2017年.
- ^ 相沢史朗『働く人と笑う人: 現代ギャグ漫画の輪郭』蒼林社, 2021年.
- ^ カワサキ・エミリ「The Aesthetics of Overtime in Contemporary Japanese Comics」Journal of Urban Narratives, Vol. 9, No. 1, pp. 12-29, 2020.
- ^ Yamada, R. “Why Deadlines Become Myth,” Office Studies Quarterly, Vol. 5, No. 4, pp. 77-88, 2021.
- ^ 村瀬清一『オフィス怪談としての経済漫画』東都出版, 2022年.
- ^ 佐伯みどり『ギリ子現象と若手労働者の笑い』白亜書房, 2023年.
- ^ 霧島ユウ「コピー機の神性について」『月刊デッドライン』2020年9月号.
- ^ 近藤真一『会議室の民俗誌』北辰社, 2016年.
- ^ Elena Sato “Paper Jam and Urban Alienation,” East Asia Comic Studies Review, Vol. 3, No. 2, pp. 19-33, 2022.
外部リンク
- 月刊デッドライン公式アーカイブ
- 白亜書房作品データベース
- 霧切ギリ子ファン倶楽部
- 架空漫画年鑑デジタル版
- 終電文化研究所