響け!バリトンホルン
| タイトル | 『響け!バリトンホルン』 |
|---|---|
| ジャンル | 青春吹奏楽×競技ホルン |
| 作者 | 雨宮 ソラ |
| 出版社 | 潮鳴出版社 |
| 掲載誌 | 月刊ブラス・コミック |
| レーベル | 旋律少年レーベル |
| 連載期間 | 2013年9月号〜2021年6月号 |
| 巻数 | 全19巻 |
| 話数 | 全187話 |
『響け!バリトンホルン』(ひびけ!ばりとんほるん)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『響け!バリトンホルン』は、吹奏楽部の少年少女がの音色を武器に、地区大会から全国へと駆け上がっていく青春競技漫画である。作品では「低音こそ正義」という価値観が繰り返し打ち出され、主人公の成長は“音程”だけでなく“言葉の強さ”にも結び付けて描かれた。
連載開始当初は楽器の描写があまりに精密であるとされ、読者の間では「この漫画、楽器メーカーの設計資料の匂いがする」とまで言われた。のちに累計発行部数はを突破し、学校の部活動における“バリトンホルン志望”が短期間で増えるなど、社会現象となった[1]。
制作背景[編集]
作者のは、インタビューで「音が鳴る前に、人格が整う感じ」を初稿のテーマとして語っている。実際、初期構想では主人公はトランペット志望だったが、担当編集が「高音は簡単に“気持ちいい”。難しいのは、低音が言葉を飲み込むところ」と提案し、方向性がへと切り替えられたとされる[2]。
制作の鍵として、作品は“音の距離”を物理量で表す独自設定を採用した。作中では、音が届く範囲を「到達半径」と呼び、舞台裏の通路幅から計算している。雨宮は取材に協力した地域の工房により、「マウスピースの内径はが最も“説得力”を持つ」という“謎の伝承”を聞いたと記している[3]。
一方で、作者自身は伝承の真偽に触れず、わずかにズレた数値を敢えて混ぜたとも言われる。たとえば作中の中盤で、バリトンホルンの響きを左右する“第三倍音”がになると説明される場面があるが、計算の前提が現実の物理と噛み合わないとして、後年ファンから「嘘の詩学」と呼ばれた。
あらすじ[編集]
第1編:低音の約束編[編集]
主人公のは、名門でもない地方の中学で吹奏楽部に入部する。だが彼は、音が鳴るたびに“声が足りない”と言われ、マウスピースを握りしめる手が震える。その結果、部内の指導者は、レオに「音を出す前に、腹の奥で“約束”を言え」と課すようになる。
レオは試合前、ホルンの管体を磨く作業を数えることで集中を作り、音の到達半径を“教室の縦寸法”に合わせる。すると地区予選で、彼の音が後方席の部員の呼吸を揃え、最終的に“息の合図”として勝利へつながる展開が描かれる。
第2編:金色の管路(かんろ)編[編集]
地区大会を終えたレオたちは、全国出場を目指す合宿へ参加する。合宿地として選ばれるのはの架空施設で、ここでは楽器の手入れ法が競技上の“儀式”として扱われている。
この編で登場するのが、作中でもっとも有名な敵対概念である。管路が“金色に見える”ほど鳴っている状態は、音が乱流にならず、低音が言葉として届くと説明される。しかし現実には見えないため、作中では主人公側が照明角度を偽って“金色に見える証拠”を作り、ライバル校の審査員を攪乱する。ここで読者は「勝つための音作りが、勝つための演出に転ぶのでは」と揺さぶられる[4]。
なお、合宿の最終夜にレオが管を磨いた回数はとされ、作者が“手の感覚”を計測し直したという設定が付く。過剰な数字が功を奏し、読者はなぜか数学問題集のように楽しんだとされる。
第3編:全日本バリトン協奏祭編[編集]
レオたちが出場する大会は、全国規模の。大会運営では、バリトンホルンの音を“審査音”と“演奏音”に分け、会場の反響板を条件に応じて移動させるという。主人公は、反響板の位置を“地図の等高線”のように暗記して戦略化する。
この編では、ライバル校のエースが登場する。ミオは音を“正確”に寄せるが、その正確さが逆に“感情の揺れ”を切断してしまうと描写される。対するレオは、音程のわずかな揺れを敢えて残し、観客の鼓動に合わせる手法でスコアを逆転させる。
クライマックスでは、レオの到達半径が会場の円形ホール半径を上回るとされるが、根拠が作中で曖昧であるため「実測じゃないのに確信している」として、読者の笑いを誘った。
第4編:サードボイス・ラプソディ編[編集]
最終盤、レオは“低音”ではなく“低音の中に潜む言葉”を扱う段階へ進む。この編で重要となるのが、音の重なりから生まれるとされる擬似的な声である。作者によれば、サードボイスとは「二人の息がぶつかって、第三の決意になる状態」であり、個人技ではなく“群れの意思”で成立するという。
しかし一方で、この編は急に超常的な比喩が増える。たとえばレオがリハ中に聞こえた“まだ鳴っていない音”を、審査員が復唱する場面がある。合理性から外れて見えるものの、作中ではそうした逸脱が“勝負の物語を完成させるスイッチ”として用いられた。
終幕では、レオは全国優勝よりも先に、自分の音を“指揮棒”として仲間へ渡すことを選ぶとされ、観客の拍手が遅れて響く演出で物語は閉じられる。
登場人物[編集]
は、低音を恐れていた少年である。努力を“回数”に変換する癖があり、最後には音を数えるのをやめ、代わりに“聴いている人の呼吸”を基準にするようになると描かれた。
は、部の顧問兼コーチである。彼女は熱血ではなく、言葉を少なくする指導方針で知られ、その沈黙が部員の集中を強制的に作るとされる。ファンの間では「サチの沈黙だけで楽譜が読める」と評された[5]。
は、白城学園のエース。正確さを武器に勝つが、レオの“揺れ”によってその正確さが“意味を失う”瞬間を経験する。終盤、ミオがレオの方針を一度だけ借りる場面があり、そこが名シーンとして扱われた。
ほか、合宿で配られる“音の栄養表”を配布する、審査員の前でだけ低音が甘くなると噂されるなど、端役にも手触りのある設定が与えられた。
用語・世界観[編集]
本作の中心用語であるは、単なる楽器ではなく“競技用の言語”として扱われている。作中では、音が届く速度や減衰係数まで語られる場面があるが、数式は作者の比喩でありながら、読者には妙に納得感があるように編集されている。
は音が観客へ届く領域を表す概念である。レオの練習はしばしば教室の寸法を測ることから始まり、主人公が巻尺を持つ姿が名物となった[6]。
は、音が“乱れない”状態を描写する言い回しである。作中では視覚効果として扱われるため、実技回では照明演出が発生し、観客席がざわめいたとされる。
または音色の奥から生まれる“第三の決意”として説明され、合奏中にだけ発生する現象とされる。作中の描写には科学的説明が少ない一方で、審査員の台詞が具体的であるため、読者は半信半疑のまま没入していく。
書誌情報[編集]
『響け!バリトンホルン』はにおいて、2013年9月号から2021年6月号まで連載された。単行本はから刊行され、全19巻構成とされる。
巻数ごとの特徴は、各巻の冒頭ページに“音の誓い”と称する一文が置かれる点にあった。たとえば第7巻では、レオが鏡の前で「低音は逃げない」と宣言し、それが大会のテーマとして回収される。巻末には“練習回数換算表”が掲載されることがあり、ファンはそれをインスタントな作戦メモとして使ったとされる[7]。
累計発行部数は連載終了までにを突破し、特別版として“楽器別練習章”を追加した増補版が店頭で再度売り切れた。なお、増補版の増刷日はと記録されている。
メディア展開[編集]
テレビアニメ化は、連載終盤の反響を受けてに発表された。アニメは全24話で、原作の第2編から第4編までを重点的に再構成し、作中の“到達半径”の演出をデジタル処理で可視化する試みが行われた[8]。
制作体制としては、架空の制作会社が担当したとされる。放送局はの深夜帯を中心に組まれ、スポンサーには楽器関連の企業が名を連ねたと報じられた。もっとも、第11話のみ“音の測定バラエティ”風の体裁が混入し、視聴者が「吹奏楽が急に科学番組になった」と笑ったとされる。
その後、メディアミックスとして舞台化も企画された。舞台ではを実際の舞台照明で再現しようとしたが、技術的に再現しきれず、結果として演出家が“金色は心の中で見るもの”として説明するメタ演技へ変更された。
反響・評価[編集]
作品は、競技吹奏楽というニッチな関心を“スポーツ観戦”の文法で再編した点が評価され、社会現象となった。学生の間ではの体験教室が増え、ある自治体では年度内の体験申込が前年より増えたと報告された[9]。
一方で批評家からは、音の描写が過度に美化されているとの指摘もあった。「音程は努力で改善するが、“約束”が物理を動かすかのような語り口は誇張である」とする声があった。ただし読者投票では、それこそが作品の“救い”であるとされ、評価が割れる結果となった。
またファン文化として、作中に登場する練習回数や到達半径を真似する“誓いチャレンジ”が流行した。投稿における到達半径の推定値がやけに揃っていることから、一部では「ただのテンプレ計算では」との疑念も呈されたが、作者は「揃うことも合奏の才能である」とコメントしたとされる[10]。この言葉が“嘘が許される言葉”として広がり、作品の空気が定着した。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 雨宮 ソラ「『響け!バリトンホルン』制作ノート:低音は言葉になる」『月刊ブラス・コミック』第27巻第3号, 潮鳴出版社, 2015年, pp.112-119.
- ^ 小倉 サチ「沈黙の指導法:部内で“約束”を統一する試み」『学校音楽研究』Vol.41, 日本学習協会, 2016年, pp.45-58.
- ^ 田辺 ルミ子「到達半径の物語化と受容:コミック表現の数値設計」『メディア表現ジャーナル』第9巻第1号, 叙情社, 2018年, pp.21-33.
- ^ R. Nakamura, K. Caldwell「Quantifying Narrative Resonance in Youth Band Manga」『Journal of Creative Serialization』Vol.12, No.2, 2019, pp.77-95.
- ^ 岸本 ユウ「『金色の管路』の照明演出:誤差が生む説得力」『舞台技術評論』第6巻第4号, 観響出版, 2020年, pp.160-171.
- ^ 橋爪 康太「全日本バリトン協奏祭の架空運営モデル分析」『体育とメディアの交差』第3巻第2号, 文脈印刷, 2020年, pp.98-109.
- ^ 雨宮 ソラ「サードボイスは合奏の記憶である」『作家インタビュー集:旋律の裏側』潮鳴出版社, 2021年, pp.204-213.
- ^ M. Thornton「Rhetoric of Sound in Illustrated Competitions」『International Review of Manga Studies』Vol.7, No.1, 2022, pp.1-18.
- ^ 潮鳴出版社編集部『月刊ブラス・コミック 連載作品年表(第1〜50期)』潮鳴出版社, 2023年, pp.300-312.
- ^ 佐伯 まどか『低音神話の社会学:漫画が部活を変える瞬間』潮鳴大学出版会, 2024年, pp.12-29.
外部リンク
- 響け!バリトンホルン 公式ファンアーカイブ
- 潮鳴出版社 旋律少年レーベル
- 全日本バリトン協奏祭(広報サイト風)
- 響真スタジオ アニメ情報
- 月刊ブラス・コミック 付録データベース