2つ目のドア現象
2つ目のドア現象(ふたつめのどあげんしょう、英: Second Door Phenomenon)とは、の用語で、においてが最初に見つけた出口よりも、二つ目に現れた扉を過大評価して選択するである[1]。
概要[編集]
2つ目のドア現象は、およびで扱われる架空の心理効果であり、複数の選択肢が提示された際に、最初に提示された選択肢よりも、後から現れた二番目の選択肢を「本命」とみなす傾向を指す。とくに、、、またはのように、選択のやり直しが難しい状況で強く観察されるとされる[2]。
この現象は、選択肢の品質そのものよりも、順序によって信頼度が変動する点に特徴がある。研究者によれば、1つ目の扉は「既出情報」として過小評価され、2つ目の扉には「比較の余地がある」という印象が付与されるため、実際の合理性とは無関係に選好が生じるという[3]。
定義[編集]
2つ目のドア現象は、提示順序に由来する評価バイアスの一種と定義される。ある選択課題において、主体が最初の候補を確認した直後に第二候補を提示されると、第二候補に対して「まだ発見されていない価値」があると推定しやすくなる傾向がある。
なお、この効果はやと混同されやすいが、2つ目のドア現象では「より新しいものを正解とみなしたい」という、やや儀式的な選好が中心であるとされる。心理実験では、選択肢が3つ以上ある場合でも、被験者の視線が2番目の扉に最も長く留まることが多いと報告されている[4]。
由来・命名[編集]
名称は、の行動科学者が附属の地下廊下観察施設で行った研究に由来するとされる。メルヒオールは、迷路状ので被験者が「最初の出口」を見落とし、二つ目の扉にのみ強い確信を示す現象を記録し、これを「Second Door Bias」と呼んだ[5]。
日本語訳としての「2つ目のドア現象」は、にの編集委員だったによって定着したとされる。佐伯は当初「第二扉偏重症候群」と訳したが、学会誌の組版担当が「偏重症候群」を病名と誤認し、結果的に現在のやや口語的な名称が残ったという逸話がある。もっとも、この経緯には異論もあり、と注記されることがある。
メカニズム[編集]
2つ目のドア現象の説明として最も広く受け入れられているのは、順序効果と注意資源の偏りである。主体は最初の扉を見た時点で比較基準を形成するが、その直後に現れる二つ目の扉は、相対的に「更新された基準」によって評価されるため、過剰な期待が生じる。
また、の働きに関する仮説では、二番目の扉が提示される瞬間に、脳内で「まだ判断を保留できる」という報酬予測が生じるとされる。このとき系の空間記憶が「最初に見た場所は後で戻れる」と誤って記録し、結果として二つ目の扉への接近行動が強化されるという[6]。
一方で、における追跡調査では、被験者の約62.4%が「二つ目の扉には案内図の裏側がある気がした」と回答しており、合理的説明よりも象徴的意味づけが選択を左右する可能性が指摘されている。
実験[編集]
代表的な実験としては、にので行われた「三扉課題」がある。被験者184名に対し、同一の廊下に3枚の扉を提示し、各扉の裏にある報酬を予測させたところ、1枚目を選んだ者は19名、2枚目を選んだ者は117名、3枚目を選んだ者は48名であった[7]。
この実験では、2枚目の扉がわずかに重く作られていたにもかかわらず、被験者の選好はほとんど変化しなかった。研究班は、扉の重量ではなく「二番目であること」自体が選択価値を生むと結論づけた。ただし、廊下の照明がやや青白く、被験者の半数以上が「病院の緊急搬出口のようで落ち着かなかった」と述べたため、刺激統制は不完全であったとも記録されている。
にはのが、扉の前で「1、2、3」と数えると2つ目の扉選好がさらに14%上昇することを示した。ハーバートはこれを「二番目の予告効果」と呼んだが、のちに「数字の2が扉を呼び寄せる」という解釈が広まり、学術的にはやや扱いにくい概念となった[8]。
応用[編集]
2つ目のドア現象は、、、、およびに応用されているとされる。たとえばの一部の公共施設では、受付から見て二番目に現れる案内扉へ自然に人流が集まるよう、照明の色温度を1,000K単位で調整する試みが行われた[9]。
また、のあるショッピングモールでは、売上不振の店舗を意図的に「2つ目のドア」として配置することで、来訪者の滞在時間が平均17.8秒延びたと報告されている。もっとも、これは導線の再設計による効果なのか、単に案内表示が増えただけなのか判然としない。
教育分野では、進路面談で最初に提示した選択肢より二番目の選択肢のほうが「現実的」に見える傾向を利用し、希望校の提示順を調整する手法が知られている。なお、の一部報告書ではこの手法に対し「心理的な押しつけが強い」との指摘もあるが、現場では黙認されることが多いとされる。
批判[編集]
2つ目のドア現象に対しては、その再現性に疑問を呈する研究者も多い。とくにのは、被験者が「二つ目のドア」と聞いただけで期待を抱き、実験条件を理解したとは言いがたいと批判した[10]。
また、現象の説明が過度に物語的であり、実験によっては単なる新奇性効果に過ぎない可能性があるとする見解もある。批判派は、実際には「2つ目」であることよりも、視界に入るタイミング、扉の材質、または前室の空調音のほうが選択を左右していると主張する。
一方で支持派は、批判の多くが「第一の扉を最初に見てしまう者の偏見」によるものであり、まさに2つ目のドア現象そのものが学術界でも発生していると反論している。
脚注[編集]
[1] ここでいう「心理的傾向」は、選択順序に対する評価の偏りを指す。
[2] に限らず、待合室や券売機前でも類似の傾向が報告されている。
[3] K. H. Merchiohl, “Sequential Door Valuation in Restricted Corridors,” Vol. 12, No. 4.
[4] 追試の一部では有意差が認められなかったが、被験者の靴音が大きすぎたためとされる。
[5] Hans E. Merchiohl, 『Door, Choice, and the Second Impression』, Vienna Behavioral Press, 1981.
[6] ただしとの関連については、当時の測定機器の精度が低かった。
[7] 横浜認知行動研究所『三扉課題報告書第7号』, 1993年.
[8] Fiona J. Herbert, “The Prediction of the Second,” Journal of Spatial Preference, Vol. 9, No. 2, pp. 41-58.
[9] 東京都都市設計局『誘導動線と第二提示効果に関する試験運用記録』, 2009年.
[10] Uppsala Center for Choice Behavior, “Critique of Door-Based Heuristics,” Report No. 18-2.
関連項目[編集]
脚注
- ^ Hans E. Merchiohl 『Door, Choice, and the Second Impression』 Vienna Behavioral Press, 1981.
- ^ 佐伯三津夫『第二扉偏重とその周辺』東京心理行動研究叢書, 1985年.
- ^ K. H. Merchiohl, “Sequential Door Valuation in Restricted Corridors,” European Journal of Applied Cognition, Vol. 12, No. 4, pp. 201-219.
- ^ フィオナ・J・ハーバート『二番目の予告効果に関する実験的研究』ロンドン選択科学出版社, 2007年.
- ^ Y. Tanabe and M. Ishikawa, “The Corridor Preference Artifact in Door-Choice Tasks,” Journal of Behavioral Architecture, Vol. 8, No. 1, pp. 33-49.
- ^ 横浜認知行動研究所『三扉課題報告書第7号』, 1993年.
- ^ 大槻玲子『閉鎖空間における順序依存的意思決定』日本認知学会誌, 第21巻第3号, pp. 112-128.
- ^ Fiona J. Herbert, “The Prediction of the Second,” Journal of Spatial Preference, Vol. 9, No. 2, pp. 41-58.
- ^ A. Lindström, “Second Doors and First Doubts,” Scandinavian Review of Experimental Psychology, Vol. 5, No. 6, pp. 77-95.
- ^ 東京都都市設計局『誘導動線と第二提示効果に関する試験運用記録』, 2009年.
- ^ M. R. Calder and S. Ito, “Why the Second Door Feels Safer,” International Review of Cognitive Oddities, Vol. 3, No. 7, pp. 5-26.
外部リンク
- 日本選択心理学会アーカイブ
- ウィーン地下廊下観察資料館
- 横浜認知行動研究所公開報告室
- 国際順序効果データベース
- 東京心理行動研究会誌デジタル版