JAM
| 分野 | 音楽工学、通信工学、民俗(保存食) |
|---|---|
| 主な用法 | 信号の「詰まり」状態/即興音楽の呼称/保存食の比喩 |
| 成立時期(仮説) | 1960年代後半の多拠点発生 |
| 関連組織 | 国立音響計測研究所(NARI)、郵政協働研究会(PJR) |
| 代表的指標 | JAM指数(Jammedness Index) |
| 用語の類義 | 混濁、飽和、ロック、ブレンド |
JAM(じゃむ)は、音楽・通信・工学・料理など複数分野で用いられるとされる略語および共通概念である。語の出自は明確ではないが、ある時期に同名の技術報告が同時多発的に流通したことが起源とされている[1]。
概要[編集]
は、同一の文字列が異なる領域でほぼ同時期に定着した結果、一般語としても専門語としても運用されている概念である。特に工学領域では、信号処理における「詰まり(詰まった状態)」を比喩的に指す語として扱われることが多いとされる。
音楽領域では、即興の音の衝突が「濃度」や「密度」を生み、その結果として聴取者が“混ざり具合”を体感できる状態をと呼んだ例が報告されている。一方で民俗・食の分野では、保存の失敗を「詰まる」と表現することで、家事技術の記述にも同語が紛れ込んだという見方がある。
このようには、定義が一つに収束していない点が特徴であるが、その分だけ研究者や現場技術者の間で“語の取り合い”が生じやすかったとされる。のちに分類体系としてのが提案され、曖昧さは数学的に“たまたま”整えられたとされる[2]。
用語の定義と解釈[編集]
工学でのは、データや音が同時に増幅・再送・反射されることで系が飽和し、結果として位相や周波数の整合性が崩れる状態として説明されることが多い。ここで重要なのは、詰まりが「故障」とは限らず、意図的に起こすと“望ましい混ざり”が得られる場合がある点である。
音楽でのは、作曲と演奏の境界が溶け、参加者が同じ小節に異なるテンポ規律を持ち込んだ状態を指すとされる。とくに、会場の天井高さと反射時間が近似的に揃ったとき、衝突が心地よく“結晶化”する現象が報告されたという。
また食の比喩としてのは、果実のペクチンが凝集して“塊”ができる工程に対応づけられ、鍋の温度管理が段階的に語られる。とはいえ、起点となる語義がどの分野で先に固定されたかは議論が残っている[3]。
歴史[編集]
起源:同名の報告書が地図上で衝突した日[編集]
という語が“ひとつの物語”として語られ始めたのは、1968年の春にの小規模ラボで同時多発の投稿が行われたことがきっかけとされる。郵送された原稿が誤って同一の配送箱番号(箱番号JA-17)に混入し、編集部で一度だけ束ねられたため、タイトルの頭字語が結果的に統一された、という説がある[4]。
当時、の渡辺精一郎らは「音の“詰まり”はノイズではなく相互作用の特徴量である」と主張していた。ほぼ同じ頃、のMargaret A. Thornton(当時の肩書は通信系技術顧問)が、再送制御の飽和を“JAM状態”と呼び、会議記録に残したとされる。この二つが編集部で同じページ見出しとして並び、語感が良かったために一般化したという。
なお、最初の公的使用例は、横浜市内の印刷所で作られた小冊子『Signal Jam Glossary』に記載された“Jam, i.e., Jamming by accumulation”であるとされるが、原本の所在は一部が紛失したとされる[5]。ただし、紛失が“後日改ざんの余地”を生んだため、今日では反対意見も強い。
発展:JAM指数の制定と、誤差設計の勝負[編集]
1973年、研究者たちはを定量化するため、(Jammedness Index)を提案した。計算式は一般に「混濁の面積」を分母にしており、現場では「測れないものが測れるふりをする公式」として揶揄された。指数は、周波数応答の自己相関ピーク数を分子とし、会場容積(m³)を分母に置くことで、音楽の即興現場にも適用しやすい設計だとされた。
さらに、指数を安定化するために“わざと”入力の揺らぎを足す手法が広がった。具体的には、参照信号に対し±0.7 dBの微小スイープを付与し、参加者が聞き分けられない程度の差を“JAM濃度”に換算したという。この値が0.7 dBに固定された経緯は、当時の実験装置が内部校正で0.5 dB刻みしか出せず、最終的に0.7 dBに丸められたことが理由だとされる[6]。
一方で郵便回線の研究では、再送制御の改修により、JAM状態が減るはずなのに“増えた”という逆転現象が報告された。原因は、改修が原因ではなく、周辺の基地局設備の更新が同時に走っており、結果として同じ日に“混ざり”が最適化されたからだとされる。この種の同時要因の記録は、当時の庁舎地下の保管庫で見つかった台帳に由来するとされ、台帳は今も閲覧制限の対象になっている[7]。
社会的影響:渋滞が文化になった[編集]
という語は、技術用語の域を超えて、都市生活の経験へ翻訳されていった。特にで行われた“音の路地実験”では、信号待ちの時間を利用して即興セッションを成立させ、交通の“詰まり”をリズムとして再構成する試みが行われたとされる。
同実験の評価指標は参加者の主観とされていたが、のちにが流用され、「拍の衝突が心地よいかどうか」を算出する仕組みが組み込まれた。結果、195件の観測セッションのうち、上位12件が“社会的に許容されるJAM”として選ばれたと報告されている。ただし、選抜基準には「担当審査員が笑った回数」が含まれていたとの証言があり、学術としての一貫性が揺らいだとされる[8]。
また食の分野では、保存食の失敗が続いた地域で「煮詰まりすぎ=JAM」と呼び、家庭内の会話として定着した。ここでの“塊”は技術者の言う“飽和”と比喩的に重なり、語の多義性が固定された。多義性は便利である一方、誤解も増やしたとして批判も出た。
JAMの実例(研究・現場・逸話)[編集]
は定義が広いため、同じ現象でも語られ方が異なる。ここでは、文献に残りやすい形での“実例”をまとめる。
たとえば通信分野では、1979年にの夜間回線で発生した高密度再送が“交通渋滞に似た音”として可視化され、技術者が即興で旋律を乗せたという。記録では、試験回線の回線符号化率は「毎秒1,024サイクル」に固定され、その結果としてJAM指数が一時的に3.14付近で安定したとされる[9]。
音楽現場では、名目上の“無調整”でも、マイクの位相ズレが0.003秒単位で積み上がり、それがJAMの“甘さ”につながったと報告された。この議論は、現場のエンジニアが「甘さは測れるけど、なぜ甘いかは測れない」と述べたことで有名になった。
食の逸話としては、保存ジャム(果実の煮詰め)を焦がした家庭で、翌日になっても味が“詰まった香り”のままだったことが「JAMの第二相」と呼ばれたという。第二相は科学的説明が乏しい一方、記述の臨場感が強いため、後年の民俗編に編入されたとされる[10]。
批判と論争[編集]
最大の論争は、があまりに多義的である点に向けられた。工学研究者は、音楽と通信の用法を同一語で語ることが誤差の混線を招くと指摘した。一方、音響の実験者は「同じ人間が聞いたなら同じ現象として扱うべき」と反論したとされる[11]。
また、の妥当性にも疑問が投げかけられた。指数の決定に“誤差”が含まれていること自体は合理的だが、初期の提案者が「誤差は“採用のための装飾”である」と冗談めかして述べた記録が一部で引用され、研究倫理としての問題が議論された。
さらに、1970年代後半に出版された『The Urban Jam Method』のある版では、数式の係数が印刷ミスで置換されていたにもかかわらず、その誤りが“うまく当たった”ために正しい係数として扱われた例が知られている。結果として、当時の追試が成立しないまま流通したという[12]。この種の“偶然の勝利”が、語の神話化を加速させたとする見方がある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『相互作用としての“詰まり”』国立音響計測研究所紀要, 1971.
- ^ M. A. Thornton『Repetition Saturation and Field Naming』郵政協働研究会報告, Vol.12, No.4, 1972.
- ^ 小野田真弓『即興の位相誤差と聴取者適応』日本音響学会誌, 第28巻第2号, pp.41-58, 1975.
- ^ 佐伯隆司『Jammedness Indexの設計思想』通信工学年報, Vol.9, No.1, pp.1-17, 1973.
- ^ 『Signal Jam Glossary』横浜印刷協同組合, 1969.
- ^ A. L. Granger『Urban Acoustics and Congestion Metaphors』Journal of Applied Acoustics, Vol.33, No.6, pp.902-931, 1981.
- ^ 山下芽衣子『家庭内保存技術の語彙変換:ジャムと“JAM”』生活科学研究, 第5巻第3号, pp.77-96, 1987.
- ^ Carter, R.『The Urban Jam Method』Fenton Press, 1978.
- ^ 田辺哲也『誤差を含む係数の社会的受容』測定学研究, Vol.21, No.2, pp.120-145, 1983.
- ^ 【要出典】『JAM指数の原型資料と再解釈』東北工業史料編纂, 第1巻第1号, pp.1-9, 1992.
外部リンク
- JAMアーカイブ(音と通信の交差)
- Jammedness Index 計算レシピ集
- 横浜印刷協同組合 所蔵資料案内
- 渋滞リズム 実験記録サイト
- 保存食語彙マッピング・プロジェクト