『KAMABOKO』
| タイトル | KAMABOKO |
|---|---|
| ジャンル | 近未来漁業アクション、群像劇 |
| 作者 | 黒崎蓮司 |
| 出版社 | 海鳴社 |
| 掲載誌 | 月刊グレイ・ノーチラス |
| レーベル | ノーチラス・コミックス |
| 連載期間 | 2009年6月 - 2016年11月 |
| 巻数 | 全18巻 |
| 話数 | 全143話 |
『KAMABOKO』(かまぼこ)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『KAMABOKO』は、沖の架空海域を舞台に、漁業権と海底通信網をめぐる争いを描いた近未来作品である。作中では、半透明の魚肉加工体「カマボコ素片」が軍事・医療・祝祭の各分野に転用される設定が採られている[1]。
の中盤には、奇妙に精密な漁具描写と、毎話ごとに変わる板状の演出が話題となり、累計発行部数780万部を突破したとされる。のちに、舞台化、実写CM展開まで行われ、いわゆる「海洋職人漫画」の代表例として言及されることが多い[2]。
制作背景[編集]
作者のは、もともといわき市の水産加工会社で意匠補助を務めていた人物とされる。彼がに見学した老朽化した冷凍庫の監視記録から、温度変化で板材がわずかに反る現象に着想を得たことが、本作誕生の契機になったという[3]。
連載前の企画名は『仮称・魚板戦線』であったが、編集部の会議において「語感が弱い」とされ、東南アジアの港湾都市で用いられる古語風発音を採った『KAMABOKO』へ改題された。なお、当時の担当編集・は「板の文化を世界史に接続する必要がある」と語ったとされるが、実際の発言記録は確認されていない[要出典]。
作品の最大の特徴は、各章の終わりに必ず「板面図」が挿入される構成であり、これが読者の間で「次回予告より情報量が多い」と評された。また、は発売初期、漁協向け販促として全国47か所の市場に試読冊子を配布したとされ、これが一般層への浸透に大きく寄与した。
あらすじ[編集]
白渦編[編集]
物語は、沖の小島で板職人見習いの少年・が、海底から引き上げられた謎の「鳴板」を発見するところから始まる。鳴板は潮位と連動して低周波を発し、島の漁船21隻が一斉に帰港不能になる事件を引き起こす[4]。
カイは島唯一の加工場で働く寡黙な女性・と協力し、鳴板を狙う民間軍事会社の追跡を退ける。この章で初めて「板は海を制御する媒体である」という作中神話が提示され、以後の全編にわたる世界観の核となる。
深海回廊編[編集]
カイたちは、海底送電網「」の保守区画に潜入し、かつて帝国海軍が建設したとされるの存在を知る。そこでは、蒸気時代の錆と現代の光ファイバーが混在しており、通路の壁に貼られた魚肉標本のラベルが、すべて逆さまに印字されているという不穏な意匠が印象的である。
この編では、敵役のが「板とは海の記憶を固定する結晶である」と主張し、毎夜3,000枚の板を配列して潮流を再計算する場面が描かれる。読者人気投票では、この異様な計算シーンだけで三沢の得票率が一時18%に達したとされる。
祝板戦争編[編集]
終盤では、白渦灘一帯で開催される年一度のをめぐり、各自治体・漁協・企業が「最も美しく削られた板」を競う国家的行事へと発展する。ここでカイは、板を武器としてではなく、海面上の通信暗号として用いる新技術「祝板プロトコル」を完成させる。
最終決戦では、祭りの花火1500発が一斉に反射し、海上に巨大な板面紋章を描く演出が行われた。単行本18巻の帯には「この夏、海は四角くなる」と記され、読者の間で半ば定型句として流行した。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、16歳の板職人見習いである。無口だが観察眼に優れ、潮の匂いだけで魚種を言い当てる特技を持つ。連載初期は脇役扱いであったが、第23話の「板返し」の場面が反響を呼び、以後は事実上の中心人物となった。
は加工場の技術責任者で、船舶免許と板圧整形の資格を併せ持つ。作中では最も現実的な人物であるが、なぜか第9巻から毎回異なる種類の手袋を着用しており、ファンの間では「手袋の数だけ裏設定がある」と語られる。
は敵対組織の研究主任で、元の外部顧問とされる。異常な板愛好家であり、板を「圧縮された海」とみなして崇拝する姿勢が、作品全体に不穏な詩情を与えている。
用語・世界観[編集]
作中でいう「カマボコ」とは、単なる食品ではなく、魚肉を六層構造に圧縮して生成される準工業素材である。これにより、通信遮断膜、船体補修材、儀礼用の旗印など多用途に転用できるとされる。
また、「板面」とは情報を保持する薄層媒体を指し、の沿岸では、板面に刻まれた波形が天候と漁獲高を同時に示すと信じられている。作中ではがこれを正式採用した年がとされるが、実際には架空の省庁体系であるため整合性には議論がある。
さらに「返板現象」という用語があり、これは冷却工程中に板が自発的に反転する現象を指す。第11巻の解説ページでは、返板率が「月齢15日で最大14.7%」と記載され、理科的な体裁を保ちながらも妙に生々しい数値が並ぶことで知られる。
書誌情報[編集]
本作はよりレーベルで刊行された。単行本は全18巻で、うち第7巻と第12巻は通常版に加えて「潮騒装丁版」が同時発売され、表紙の角度によって板目が違って見える特殊印刷が施された。
各巻末には作者による「板工学メモ」が収録され、漁港の潮位表と物語の展開が対応している体裁を取る。とくに第14巻の付録「白渦灘沿岸索引」は、地図だけで24ページを占める異例の構成であった[5]。
なお、編集部の回想によれば、最終巻発売日に全国書店で板状しおりの配布キャンペーンが実施され、配布数は正確に86万枚と記録されている。
メディア展開[編集]
には制作によるテレビアニメ化が発表され、深夜帯にもかかわらず平均視聴率4.8%を記録したとされる。特に第8話「潮の裏で板を削る」は、放送後に関連用語が一時的に検索上位を独占した。
その後、の港湾倉庫を利用した没入型展示『KAMABOKO回廊展』が開催され、来場者数は17日間で9万2,000人に達した。展示内では実際に温度管理された「鳴板」レプリカを叩く体験コーナーが人気を集めた。
また、名義のキャラクター菓子、携帯型波形計測器、板面柄の作業着などがメディアミックス商品として展開され、社会現象となったと評される。なお、タイアップ先の一部で「板を食べるのか、飾るのか」という混乱が生じたとの報告がある[要出典]。
反響・評価[編集]
批評家の間では、労働と儀礼、流通と信仰を同一平面に置いた点が高く評価された。『海洋文化研究年報』は、本作を「21世紀の加工業叙事詩」と呼び、からまでの地方産業史に奇妙な接続を生んだと論じている[6]。
一方で、作品後半に登場する「板が国家の記憶媒体である」という設定については、説明が過剰であるとの批判もあった。とくに第131話の見開き3ページを丸ごと用いた潮目の相関図は、読者の半数以上が「美しいが何を言っているのか分からない」と回答したという。
しかし、こうした過剰さこそが本作の魅力であるとする声も根強く、の再評価ブームでは、若年層を中心に「板を読む」という言い回しがネット上で流行した。結果として、地方の水産高校で副教材に採用された事例もあったとされる。
脚注[編集]
[1] 連載開始時の誌面クレジットによる。
[2] 『月刊グレイ・ノーチラス』12月号特集、海鳴社社内資料。
[3] 黒崎蓮司『制作ノート KAMABOKO初期稿』海鳴社企画室、2011年。
[4] 白渦島観光協会『島内異変記録集 第4版』、pp. 18-21。
[5] ノーチラス・コミックス編集部『KAMABOKO完全書誌台帳』、Vol. 3、pp. 112-119。
[6] 佐伯洋一「板文化と近未来労働表象」『海洋文化研究年報』第12巻第2号、pp. 41-58。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 黒崎蓮司『KAMABOKO 企画原案集』海鳴社企画室, 2012.
- ^ 佐伯洋一「板文化と近未来労働表象」『海洋文化研究年報』第12巻第2号, pp. 41-58.
- ^ 平賀菜摘「魚肉素材の儀礼化について」『現代民俗学ジャーナル』Vol. 8, No. 4, pp. 77-96.
- ^ D. Thornton, "Laminate Seas and Civic Memory in KAMABOKO," Journal of Imaginary Media Studies, Vol. 5, No. 1, pp. 12-39.
- ^ 海鳴社編集部『KAMABOKO完全書誌台帳』Vol. 3, pp. 112-119.
- ^ 岩瀬義人『港湾省史とその周辺』白潮出版, 2018.
- ^ A. M. Keller, "The Reverse Board Phenomenon," Nautilus Quarterly Review, Vol. 17, No. 2, pp. 201-214.
- ^ 桐生真一「改題会議メモと語感の政治」『編集工学通信』第21巻第6号, pp. 3-15.
- ^ 三浦由紀『潮騒装丁の設計思想』ノーチラス出版局, 2017.
- ^ M. A. R. Finch, "When the Fish Paste Turns Sideways," Proceedings of the Coastal Myth Conference, Vol. 2, pp. 88-104.
外部リンク
- 海鳴社アーカイブセンター
- KAMABOKO公式年表倉庫
- 白渦灘ロケーションガイド
- ノーチラス・アニメーション作品資料室
- 板面文化研究会データベース