SSR
| 別名 | すごい・さかれた・れんこん療法(略称:SSR) |
|---|---|
| 分野 | 民間農法学・保存工学(とされる) |
| 主対象 | れんこんの貯蔵品質(重量・粘度・香気) |
| 成立時期 | 大正末期〜昭和初期(と伝えられる) |
| 中心地 | 周辺 |
| 関係組織 | 農村信用組合・県立農業試験場・市場仲買人組合 |
| 代表指標 | 切断面の“粘り指数(SRi)” |
| 論争点 | 再現性と安全性の曖昧さ |
SSR(えすえすあーる)は、古くから“すごい、さかれた、れんこん”という合言葉で語られてきた日本発の民間技術体系である。収穫の安定化と保存性の向上を目的に、主に周辺の農家の間で広まったとされる[1]。ただし、その実態は研究者と行政、そして市場が複雑に絡み合った結果として理解されることが多い。
概要[編集]
は、一般に「れんこんを“すごく、さかれて、長持ちさせる”ための一連の手順」と説明されることが多い。特に“さかれた”という表現が、単なる水分調整ではなく、切断面に形成される微細な層構造のことを指すとされる点が特徴である。
この体系は、単一の農法というよりも、苗床管理、乾燥のタイミング、保管庫内の温湿度、仲買人の取り扱い順序までを含む“工程の束”として伝承されたとされる。結果として、SSRは農家間の口伝だけでなく、のちに記録様式が整えられ、県の実務者向けに“手順書”が作られたとも述べられている。ただし、その手順書が実際にはどの程度統一されていたかについては、複数の証言が食い違うとされる。
またSSRには、スローガンとして「S(すごい)S(さかれた)R(れんこん)のこと。」が広く用いられた。これは宣伝文句という側面を持ちながらも、当時の販売競争において「目に見える差」を作るための合意形成の役割を果たしたと指摘されている。
成立と背景[編集]
起源:“泥の匂いを数値化する”試み[編集]
SSRの起源は、後の流通混乱期にまで遡ると語られる。すなわち、れんこんの出荷時期が季節商売の都合で前倒しになり、現場では「保存中に香りが飛ぶ」現象が問題になったとされる。
この問題に対し、の食品衛生研究者である(こうの そうた)が、切断直後の匂いを“湿度曲線”に見立てて記録する方法を持ち込んだとする伝承がある。彼はれんこんを直接化学分析するのではなく、保管庫の空気を採取して“泥の匂い指数”を作ることに注力したとされる。
ただし同時期、の農村信用組合では、指数より先に「切った順番」を揃えるべきだという気運が強かった。ここで“さかれた”という言葉が、工程中に必ず発生する“切断面の段階”を指す比喩として定着したとされる。
制度化:手順書の“3ページルール”[編集]
昭和初期になると、SSRは単なる口伝から、県内で使われる簡易手順書へと制度化されていったとされる。特に(架空の部署名で、当時の“試験指導票”の整理係を束ねたと説明される)によって、手順書はA5判で「3ページを超えない」ことが推奨されたとされる。
この“3ページルール”は、農家側の負担軽減のためだけでなく、市場の仲買人が回覧できる長さに合わせたという説がある。つまりSSRは、現場の理屈よりも商流の都合で整えられた側面があったとされる。
また、工程には必ず“SRi(粘り指数)”の測定が含まれたとされるが、SRiの測定法が時期によって微妙に変わったため、後年の評価が割れたとされる。
方法論(とされるもの)[編集]
SSRは、一般に(1)準備、(2)切断、(3)乾燥、(4)保管、(5)出荷前調整の五工程で説明されることが多い。とくに(2)切断では「一気に切る」のではなく、切断面が二段階で“さかれる”ように“刃の戻し”を行うとされる。刃の戻し回数は、古い記録では延べ約と書かれていたという逸話がある。
(3)乾燥は、温度よりも“露点までの時間”が重要だとされた。ある農家の手帳には、庫内の露点到達を“理科の授業みたいに”測ったとされる記録が残る。露点到達までの平均がで、例外は雨天時のみに跳ねたという具合である。この数値の妥当性については、後の研究者が「再現性が低い」と批判したが、それでもSSRが広まったのは“説明できる数字”があったからだとする見方もある。
(4)保管では、木箱の底に薄い砂利層を敷く方法がよく挙げられる。砂利層の厚みは「指一本より少し厚い」と曖昧に書かれる一方、ある仲買人組合の資料ではで統一されたとされる。ただし、その資料は“統一された気がする”程度の回覧文書であった可能性があると、のちに当時の回覧係が回想している。
(5)出荷前調整では“叩き戻し”と呼ばれる手順が入り、これが“すごい”に該当すると説明される。叩き戻しは、れんこんを傷つけるのではなく、切断面に形成された層を“反射的に馴染ませる”ように行うとされるが、実際の行為は家庭によって異なっていたとされる。
社会的影響[編集]
SSRが広がった背景には、単なる農業技術ではなく、の食産業が「品質を言語化する」必要に迫られていた事情がある。れんこんは季節商品であり、同じ畑でも年によって見た目が変わる。そこでSSRは、見た目のばらつきを工程で“説明可能”なものに寄せたとされる。
また、SSRの普及は市場の力学も変えたと考えられている。仲買人の帳簿には、れんこんの等級に加えて「SSR適合」の欄が増えたという証言がある。ある帳簿では、適合率が時点でと記されているが、当時の担当者は「適合率というより“そう書いたら売れた”割合だ」と語ったともされる。
一方で、SSRは関連産業も呼び込んだ。たとえば保管庫の温湿度制御機器の販売代理店が、SSR対応の売り文句を掲げたとされる。さらに、県外の商社が来訪して“潮来式”として紹介した結果、観光の文脈で語られるようになったという話もある。
特に側の料理学校では、SSRの話題が“食材の扱い”として授業に組み込まれたとされ、学生が「切断面のさかれ」を見分ける課題を出されていたという。しかし、こうした教育が技能の標準化に寄与したのか、それとも神話を補強しただけなのかについては意見が割れている。
批判と論争[編集]
SSRには、早い段階から“都合のいい解釈”が混ざり込んだとの批判がある。とくに、SRiの測定法が統一されなかったことが問題視された。ある県の監査報告書風の文書では、測定器の校正日が「気分でずれる」と記されたともされるが、当該文書が正式な監査かどうかは疑わしいとされる。
また安全性についても、工程中の乾燥時間や砂利層の素材が原因になり得るとして議論になった。食中毒が直接SSRと結びついたわけではないものの、「SSRを理由にした過度な保存期間の延長」が現場で問題になったと指摘されている。
さらに、売上偏重の市場誘導によって“さかれ”が過剰に演出されたのではないかという論点もある。たとえば仲買人の一団が、切断面の見た目が良い個体だけをSSRとして扱い、そうでない個体を別枠で処理した可能性があると報告されたことがある。ただし、この種の証言は当事者間の確執が背景にあるとも考えられており、結論は出ていないとされる。
一方で、SSRは「数字があるから信じられる」面もあったため、批判だけでは収束しなかったとする見方も有力である。すなわち、理屈の完全性よりも、現場での納得感が価値になっていたということである。
資料と検証(やけに細かい数字の行き先)[編集]
代表的な“確認実験”とその欠落[編集]
SSRの検証としてしばしば言及されるのが、の「保存比対試験会」による簡易実験である。そこで各工程の差を比較するため、個体数はに揃えられたとされる。さらに、乾燥終了の合図は“鼻でわかる”とされながらも、結果だけは表にまとめられたという。
ただし、結果表には“理由不明の空欄”が数か所あるとされる。編集担当のは、空欄を埋めるために複数の農家へ追加聴取を行ったが、回答が「たぶんその時の湿度が違う」という同一趣旨に収束したため、結局、空欄を残したのだと語っている。
このようにSSRの検証は、科学的な再現性よりも“説明の整合性”を優先した傾向があったと推定される。ただし、その方針自体が市場教育としては合理的だった可能性もあるとされる。
都市伝説化:大学の講義ノートが起点に[編集]
さらにSSRは、大学の講義ノート経由で都市伝説化したとされる。とくにの非常勤講師が、食材保存の回でSSRを“工学的比喩”として紹介したことがきっかけになった、という話がある。
講義ノートの注釈には、叩き戻しの強度を「体感で」と書いた学生の走り書きが残っているともされ、ここから“SSRは感覚値で動く技術”という誤解が広まったと指摘されている。
ただし、講義ノートには「体感は誤差」とも付されていたため、誤解の全責任が講師にあるとは言えないとされる。一方で、SNS上で“0.6が正解”と拡散された際、農家は「それは我々の都合ではない」と困惑したと回想される。この逸話は、SSRが技術というより物語として定着していく過程を示す事例として語られがちである。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 河野蒼太『泥の匂い指数と切断面の層形成』みなと書房, 1932年.
- ^ 山室玲音『潮来市場の記録が語る保存工程』常磐学術出版, 1987年.
- ^ 斎藤幸彬『食材保存工学の比喩と誤差』講義ノート研究会, 1996年.
- ^ 鈴木暁雲『農政技術調整室回覧資料の整合性(試案)』農政文庫, 1941年.
- ^ 田宮紗羅『S(すごい)S(さかれた)R(れんこん)の社会学』日本食文化評論, Vol.12第3号, pp.11-29, 2001年.
- ^ Mori, Kenta. “On the Chronology of Rhizome Layering.” Journal of Rural Preservation, Vol.7, No.2, pp.44-58, 1975.
- ^ Hernandez, Pilar. “Humidity Curves and Folk Metrics in Japan’s Lotus Industry.” Asian Food Systems Review, Vol.19, Issue 1, pp.101-119, 2012.
- ^ 【嘘】加藤一路『SSRの完全手引き—3ページで理解する技術史』潮来プレス, 1959年.
- ^ ベッカー, ルーベン『微細層構造の見え方と価格形成』Spring Harbor Press, 2008年.
- ^ 渡辺瑠衣『保存比対試験会の未記載欄—空欄の意味論』水戸統計研究所紀要, 第4巻第1号, pp.77-93, 2016年.
外部リンク
- 潮来れんこん記録館
- SRi測定学習帖
- 茨城農法口伝アーカイブ
- 保存比対試験会アーカイブ
- 市場帳簿の読み方講座