/^_^/
| 名称 | /^_^/ |
|---|---|
| 読み | スラッシュ・アンダースコア・スラッシュ |
| 分類 | 顔文字・終端記号 |
| 成立時期 | 1990年代前半 |
| 成立地 | 東京都・秋葉原周辺 |
| 提唱者 | 篠原一紀ほか(諸説あり) |
| 主な用途 | あいさつ、謝罪、軽い照れの表明 |
| 派生 | ^^;、/T_T/、/^o^/ |
/^_^/(スラッシュ・アンダースコア・スラッシュ)は、顔文字の一種としての初期文化で成立したとされる記号列である。前半にの同人誌即売会周辺で広まり、のちに感情の抑制と礼儀を同時に表す符牒として定着した[1]。
概要[編集]
/^_^/は、文字記号のみで作られた簡易な表情表現であり、やにおいて、文末の感情調整として用いられたとされる。特にの中でも、目の記号を「^_^」とし、その両端を斜線で挟むことで、挨拶と謙抑を同時に示す形式として知られている。
この記号列は一見すると単なる装飾であるが、頃の利用者の間では「発言の温度を下げる安全弁」として扱われ、強い断定や攻撃的表現の直後に付されることがあった。なお、後年の調査では、当初は通信機器の誤入力を避けるための終端印として設計されたという説もあるが、裏付けは乏しい[2]。
歴史[編集]
草の根BBS期[編集]
からにかけて、のローカルネットワーク「BayLink-88」と内の個人運営群で、投稿末尾にスラッシュを付す習慣が確認されている。これが「顔」の輪郭として再解釈され、中央にが置かれることで /^_^/ へ収束したというのが通説である。
とりわけのパソコンショップ「東和マイクロ館」地下の利用者会議では、10月の時点で、1日平均47件の挨拶投稿のうち18件がこの形式を含んでいたという記録が残る。ただし、この統計は後年に作成された便覧に依拠しており、要出典とされることが多い[3]。
同人文化への浸透[編集]
頃になると、および周辺の同人サークルが発行する交換日誌やペーパーに /^_^/ が多用されるようになった。これは、印刷コストの都合で多色表現が難しいなか、黒一色でも「にこやかさ」を保持できる記号として重宝されたためである。
の前身である各種展示会場では、サークル間の礼状にこの記号が添えられ、受け手側は「硬すぎないが、軽すぎもしない」絶妙な温度感として評価したとされる。こうした慣用化により、/^_^/ は単なる顔文字を超え、礼儀形式の一部に近い扱いを受けるようになった。
インターネット標準化の試み[編集]
、系の情報文化懇談会で、文字表現の標準化を扱う非公式分科会が設けられ、/^_^/ を「低強度承諾記号」として収録する案が検討された。議事録によれば、当時の委員の一人であるは「記号は顔である前に空気の減圧弁である」と発言したという[4]。
しかし、規格への採用は見送られた。理由としては、斜線が文頭記号と誤認されやすいこと、また縦書き環境で表情が崩れることが挙げられたとされる。一方で、採用見送りがかえって神秘性を高め、結果として私的利用が増えたという逆説的な影響も指摘されている。
表記と構造[編集]
/^_^/ の構造は、左右のスラッシュが「囲い」、中央のが「目と頬の緊張」を表すと解釈されることが多い。特に上向きの記号は、笑顔を誇張せずに上品さを保つための視覚的工夫であるとされ、圏の若年層に好まれた。
なお、にの記号研究会が行った比較調査では、/^_^/ を見た被験者のうち64.3%が「謝罪に近い安心感」、22.1%が「軽い照れ」、残り13.6%が「ファイルパスの失敗」と回答したという。この数字はしばしば引用されるが、調査票がわずか19名分しか残っていないため、信頼性には議論がある[5]。
社会的影響[編集]
/^_^/ は、の普及初期において、冷淡に見えがちな短文の緩衝材として機能した。とりわけ職場メールでは、命令文の末尾に添えることで「命じているが、敵意はない」という微妙なニュアンスを作り出し、系の文書慣行にも一部影響を与えたとされる。
また、頃には携帯電話の掲示板で、絵文字よりも軽い自己抑制表現として再評価された。ある通信会社の社内報告では、/^_^/ を導入したスレッドは導入前に比べて荒れ投稿率が17%低下したとされるが、同時期に規制強化も行われていたため、因果関係は明確ではない。
批判と論争[編集]
批判の一つは、/^_^/ が「穏当さ」を装いながら実際には皮肉や婉曲な圧力に用いられることがある点である。特に後半のでは、文末にこれを付すことで内容の強さを隠蔽する用法が拡大し、受け手側に心理的な負担を与えるとの指摘があった。
さらに、の教育現場では、若者が /^_^/ を「親しみ」ではなく「管理された笑顔」として受け取る傾向があるとして、学級通信での使用を控えるよう指導した事例がある。この件については「顔文字の教育的中立性」をめぐる小規模な論争に発展したが、最終的には各校の裁量に委ねられた[6]。
派生形と類似表現[編集]
派生形としては、より砕けた印象を与える、涙を含む、親密さを高めたなどがある。これらは /^_^/ の周辺で成立した「スラッシュ系顔文字群」と総称され、頃には一種の方言として整理された。
一方で、文字文化研究者の間では、/^_^/ の真の後継は顔文字ではなく、既読機能やリアクションボタンであるとの見方も強い。つまり、この記号は「感情を文字で包む時代」の終焉を象徴する標本として扱われつつある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 篠原一紀『記号の温度管理: 1990年代前半の顔文字文化』電波出版, 2004.
- ^ M. Thornton, "Caret Forms in Early Japanese BBS Culture," Journal of Digital Folklore, Vol. 12, No. 3, pp. 41-68, 2011.
- ^ 佐伯由利子『秋葉原記号論序説』中公新書, 2008.
- ^ 渡辺精一郎『日本語端末における感情表現の標準化』情報文化研究所, 1999.
- ^ Kenji Hasegawa, "Emoticon Boundaries and Social Courtesy," Tokyo Internet Studies Review, Vol. 5, No. 1, pp. 9-27, 2002.
- ^ 『郵政省情報文化懇談会議事録 第14回』郵政資料出版部, 1996.
- ^ 森下あや『顔文字の民俗誌』青弓社, 2013.
- ^ Hiro Arai, "The Slash Smile Problem," Proceedings of the 7th International Symposium on Textual Affect, pp. 112-119, 2006.
- ^ 黒田真理子『記号が先か空気が先か』岩波書店, 2010.
- ^ N. Caldwell, "Parsing Happiness with Slashes," The Bulletin of Typographic Anthropology, Vol. 2, No. 4, pp. 77-91, 2015.
外部リンク
- 日本顔文字史料アーカイブ
- 秋葉原デジタル民俗研究会
- 記号文化総合研究センター
- 東亜テキスト感情学会
- スラッシュ表現保存委員会