『あの頃はよかったッ!おじさんが思い出す正しい上代日本語』
| 著者 | 笠間叢書編集委員会(監修)・「おじさん」名義(実筆者は非公開とされる) |
|---|---|
| 出版社(初出) | おうふう |
| 叢書名 | 笠間叢書 |
| 改版(増補) | 岩波文庫、ちくま文芸文庫、講談社学術文庫、新潮選書、朝日選書 |
| 判型・総頁数 | 四六判・約312〜488頁(版により変動) |
| 主な主題 | 上代日本語の“正しい”想起、韻律感覚、老人語彙の再構成 |
| 想定読者 | 一般読者と学校教員(ただし研究者には賛否が割れる) |
『あの頃はよかったッ!おじさんが思い出す正しい上代日本語』は、の「上代日本語」をめぐる語用論的回想を装った言語学エッセイとして扱われている[1]。刊行の経緯として、版の同趣旨叢書が相次いで移植される形で流通したとされる[2]。ただし、本文は“正しさ”の根拠に関して慎重な留保を要する内容であると指摘されている[3]。
概要[編集]
『あの頃はよかったッ!おじさんが思い出す正しい上代日本語』は、を題材にしつつ、語り手である「おじさん」の郷愁と断定調を前面に出した言語エッセイとして知られている[1]。一見すると古文研究への入門書のように見えるが、実際には「正しい日本語」の基準をめぐる文化装置として読まれることが多い。
成立の背景には、1990年代後半に起きた“正しい古語ブーム”があり、そこに「家庭の言葉の記憶」を研究の前景に据える編集方針が重ねられたとされる[2]。また、改版のたびに章立てが微妙に組み替えられており、特定の語句や韻律の再現率に関する数値が版ごとに調整された形跡が指摘されている[3]。
概要(選定基準と掲載範囲)[編集]
本書が参照するとされる上代日本語の範囲は、一般的な区分よりも意図的に広く設定されているとされる[4]。具体的には、音韻・語彙・敬語の扱いが、以前の「口承層」から、写本の校訂慣行にまで跨っている点が特徴である。
掲載される例文は「おじさんの街歩き」と結び付けられており、の縁起や、地域の方言談義の体裁が混ぜ込まれている。編集委員会は、これを“資料の身体化”と呼び、学校現場での朗読指導に使える形を目標にしたと説明していたとされる[5]。なお、当初の版では脚注の体裁が統一されていなかったため、所蔵機関によって引用箇所がズレやすいとされる[6]。
歴史[編集]
企画の発火:『正しい古語』を商品化した編集技術[編集]
企画は、が周辺の朗読講座の需要を調べた1999年頃に端を発したとされる[7]。このとき関係者は、古語研究が専門書に偏り“音として届かない”問題を感じていた。そこで編集委員会は、語学監修を請け負う代わりに、「音韻を語るおじさん」を作ることにしたと記録される。
具体的には、台本のように「口癖」「間」「ため息の長さ」を採点し、上代日本語の復元作業へ接続する方式が採られたとされる[8]。当時、朗読録音の許容誤差が秒単位で取り決められ、「ため息 0.8秒±0.1秒」「語尾の上げ幅 12度±2度」など、言語学というより舞台照明に近い数値が用いられたという[9]。
叢書横断の拡散:岩波・講談社・朝日で“正しさ”の配合が変わった[編集]
本書は単一出版社で完結せず、、、、、へと順次移植された[2]。移植に際して、用語集の索引項目が増減し、特にの解説の深さが版により異なるとされる。
たとえば版では「正しさ」を学術的枠組みに接続するため、巻末に“正誤判定の手順”が追加されたとされる[10]。一方で版では、判定手順が「読み味」評価に置き換わり、“正しい上代日本語”は最終的に「文化的に再現可能」であることが要件とされた[11]。なお版では、主人公の歩行ルートが地図化され、河畔から方面へ遡る構成が採られたとも報告されている[12]。
社会的影響:学校の国語から、街の喫茶店へ[編集]
本書の波及により、学校の国語授業で“口承訓練”と呼ばれるミニ朗読が導入されたとされる[13]。指導案では、古語の意味だけでなく、声の高さ・息継ぎ・沈黙時間が採点される形が提案され、現場では「おじさんの間が取れたら合格」といった運用が広まったという。
また、言語学会側からは「学習効果はあるが、正しさの基準が曖昧」との指摘が出た。これに対し編集委員会は、基準を“生活に接続された正しさ”へ寄せたことでブームを維持しようとしたと考えられている[14]。この過程で、喫茶店の常連が上代風の言い回しを名札代わりに使う現象まで確認されたとされるが、信頼性は版によって揺れている[15]。
批判と論争[編集]
批判の中心は、本文が“正しい上代日本語”を名乗りながら、根拠となる史料の扱いが一貫していない点にあるとされる[16]。特に、語形の復元が「おじさんの記憶の整合性」へ寄り、写本学や比較言語学の議論から距離を取っていると指摘される。
一部では、編集委員会が音韻復元の精度を“録音再生ソフトの周波数分解能”で担保していたのではないか、との推測も出た。実際に、のある図書館が所蔵する試作データには、0.25kHz刻みでの解析メモが挟まっていたという[17]。ただし、これが本文の根拠と結び付くかは明確ではなく、要出典の状態のまま議論が続いた。
また「おじさん」という語り手の設定について、研究者は“年齢階層による言語感覚の一般化”が過剰だと批判した。読者の側では、逆にこの過剰さが文学的説得力になっていると擁護する声も多い。結果として、本書は“研究書ではなく、正しさへの欲望を言語化した教材”として位置づけ直されるに至ったとされる[18]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 笠間叢書編集委員会『正しさの手順書:『おじさん』版上代日本語の設計』岩波書店, 2001.
- ^ 田中伊織「音韻のための沈黙:再現率から見た朗読教材」『日本語音声学研究』第12巻第3号, pp. 41-66, 2004.
- ^ M. Thornton『Correctness as a Social Device in Ancient-Japanese Retellings』Journal of Historical Linguistic Pedagogy, Vol. 8, No. 2, pp. 101-124, 2006.
- ^ 佐伯真琴「叢書移植に伴う索引の変動と引用ズレ」『書誌学ノート』第27号, pp. 77-93, 2005.
- ^ 菊池勇「上代日本語を“商品”にする編集戦略:間(ま)の採点法」『国語科教育方法学会紀要』第19巻第1号, pp. 12-33, 2008.
- ^ L. Hargrove『Old Japanese, Old Men: The Narrator Calibration Hypothesis』Language & Memory Quarterly, Vol. 14, No. 1, pp. 201-233, 2010.
- ^ おうふう編集部『笠間叢書 目録増補改訂:『正しい上代日本語』の版変遷』おうふう, 2000.
- ^ 海老名礼「縁起文と語彙復元の接続:『寺社ルート』の採録」『日本文化と言語』第5巻第4号, pp. 55-82, 2009.
- ^ (書名が一部誤記されている可能性がある)『あの頃はよかったッ!おじさんが思い出す正しい上代日本語:増補版』講談社, 2003.
- ^ 山下春樹「要出典の効用:学術文庫版で増えた留保文」『出版編集学レビュー』Vol. 3, No. 2, pp. 9-24, 2012.
外部リンク
- 笠間叢書アーカイブ
- 上代朗読ラボ(試作データ公開)
- 言語記憶研究会
- 叢書版変遷ウォッチャー