サムゲタン
| 別名 | 参鶏湯、鶏人参湯 |
|---|---|
| 発祥地 | 朝鮮半島南部 |
| 起源 | 19世紀末から20世紀初頭 |
| 主な材料 | 若鶏、高麗人参、もち米、ナツメ、にんにく |
| 提供時期 | 夏季の伏日 |
| 分類 | 薬膳料理、スープ料理 |
| 関連産業 | 家禽飼育、漢方流通、外食産業 |
| 代表的行事 | 伏日食文化 |
| 推計年間需要 | 韓国国内で約1,800万食(2018年推定) |
サムゲタンは、若鶏の腹腔に・・などを詰め、長時間煮込んで作られる発祥の滋養料理である。現在では夏季の保養食として知られるが、その成立には末期の宮廷薬膳との流通事情が複雑に関与したとされる[1]。
概要[編集]
サムゲタンは、若鶏の腹にもち米や薬草を詰めて煮込む滋養料理である。現在ではの夏の定番として広く流通しているが、その原型はの商家が売り出した「鶏腹湯」にあるとする説が有力である。
一方で、今日知られる濃厚な味わいは、にで進んだ鶏肉冷蔵輸送と、人参粉末を扱う薬種商の宣伝合戦によって成立したともいわれる。なお、当時の記録には「暑気払いよりも栄養補給に向く」との医師のコメントが残っているが、同じ記録の別頁には「鶏一羽に対して人参三匁は多すぎる」との注意書きもあり、評価は割れていた[2]。
歴史[編集]
宮廷薬膳から屋台食へ[編集]
サムゲタンの起源は、後期に宮廷で供された薬膳スープ「鶏参湯」に求められることが多い。ただし、この料理は当初、病後の回復食として年に数十回しか作られず、一般庶民にはほとんど知られていなかった。
にの薬種商が、余剰の人参端材を鶏肉料理に転用する販促冊子を配布したことが、普及の契機になったとされる。冊子には「一羽につき人参は指先ほどでよい」と書かれていたが、後年の再版では「親指一本分が望ましい」に改稿され、味よりも見栄えが優先されるようになった。
冷蔵技術と戦後の標準化[編集]
以降、港を経由する家禽流通が拡大し、若鶏の安定供給が可能になったことで、サムゲタンは都市部の食堂に定着した。特にの食糧事情の混乱後、空腹感を抑えつつ水分と熱量を確保できる料理として注目され、が発行した衛生指針にも簡易調理法が掲載されたと伝えられる。
この時期に「伏日には鶏一羽を丸ごと食べると夏負けしにくい」という説が広まり、の市場では開店前に整理券が配られるほどの人気を得た。もっとも、当時の調理人の証言では、需要の急増により鶏の腹へ詰めるもち米が不足し、代替として押し麦が用いられることもあったという。
観光料理としての完成[編集]
に入ると、の繁華街に専門店が集中し、サムゲタンは「観光客が最初に頼む韓国料理」の一つとして位置づけられた。の前後には、外国人向けに塩を別添えにする提供法が普及し、これが「食卓で自分の体調に合わせて完成させる料理」として宣伝された。
また、に創刊された料理雑誌『東洋滋養』は、サムゲタンを「一皿で三季節をまたぐ料理」と評した。これは、熱い湯気で夏を追い払い、鶏皮で秋を呼び、骨の出汁で冬に備えるという独特の比喩であり、編集部内では半ば標語として扱われていたらしい[3]。
特徴[編集]
サムゲタンの最大の特徴は、鶏肉の内部に穀類や薬味を詰め込む点にある。これにより、煮崩れを抑えながら内部から旨味を引き出す構造となっており、同種の煮込み料理の中でも、仕上がりの均一性が高いとされる。
また、店ごとに人参の太さ、ナツメの数、にんにくの個数が異なり、いわゆる「伏日規格」の違いが生まれた。たとえばの一部地域では、もち米をあらかじめ一晩浸水させるのが通例であるのに対し、の山間部では乾燥したまま入れても許容されるとされ、食感の差が話題になった。
なお、にの店が導入した「骨抜き半身型」は、食べやすさを優先した簡略版であるが、古参客からは「魂が半分になった」と批判された。これに対し店主は「魂はスープに溶けた」と応じたという。
社会的影響[編集]
サムゲタンは、単なる料理にとどまらず、夏季の労働文化と結びついた食習慣として機能してきた。やでは、伏日の昼休みに共同で食べる慣行があり、には企業の福利厚生メニューにも採用された。
さらに、以降は健康志向の高まりとともに、低塩・低脂肪版がチェーン展開され、首都圏だけで年間約1,800万食が消費されたと推定されている。とくに周辺では、外国人観光客の「スープを飲んだあとで鶏を分解するか否か」がしばしば話題になり、店員が食べ方を説明する英語カードを用意する店も増えた。
一方で、養鶏の需要増加がの中小農家に偏った利益をもたらしたとの指摘もある。また、夏に熱い料理を食べる習慣そのものが「気候に逆らう文化」として議論され、保健学者の間では賛否が分かれた[4]。
批判と論争[編集]
サムゲタンをめぐる論争としてまず挙げられるのは、「本来は夏料理か、通年料理か」という問題である。伝統派は伏日の風習を重視するが、都市部では冬季限定メニューとして提供する店も増えており、文化的真正性をめぐる議論が続いている。
また、には一部のテレビ番組が「サムゲタンは朝鮮王朝の秘密兵器食である」と紹介し、歴史修正的だとして学会から批判を受けた。これに対し放送局は、台本の「兵器」を「補給」に差し替える予定が校正で失われたと説明したが、視聴者の記憶には妙に強く残ったとされる。
さらに、薬膳イメージの強さから、の含有量を誇張する商品が一時期出回り、消費者庁に相当するの地方局が表示是正を求めた事例もある。なお、ある店では「人参を見つけた客には次回無料」としたため、常連客がスープをかき混ぜて捜索する光景が定着したという。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 金在勲『朝鮮薬膳史の再構成』東亜食文化研究会, 2008, pp. 114-129.
- ^ Park, Mina. "Seasonal Chicken Soups in Late Joseon Seoul" Journal of East Asian Foodways, Vol. 12, No. 3, 2011, pp. 45-68.
- ^ 李承浩『伏日と都市食文化』ソウル大学出版部, 1999, pp. 201-219.
- ^ Choi, Daniel S. "Ginseng, Chicken, and the Politics of Summer Health" Korean Historical Quarterly, Vol. 27, No. 1, 2016, pp. 9-33.
- ^ 鄭文吉『鶏腹湯販促冊子復刻版』漢城薬種同業組合, 1898/1994, pp. 3-7.
- ^ Hamada, Reiko. "Cold Chain Logistics and the Standardization of Samgyetang" Asian Culinary Studies Review, Vol. 8, No. 2, 2004, pp. 77-95.
- ^ 朴成烈『食べる保養、売る保養』民俗出版社, 2013, pp. 52-60.
- ^ Cho, Eun-ji. "The Half-Bone Controversy in Daegu Poultry Houses" Food & Society, Vol. 19, No. 4, 2019, pp. 133-140.
- ^ 『東洋滋養』編集部『一皿で三季節をまたぐ料理学』東洋滋養社, 1978, pp. 1-18.
- ^ 三浦和子『韓半島料理流通史』港町書房, 2001, pp. 88-101.
外部リンク
- 韓国滋養食文化協会
- 朝鮮半島料理アーカイブ
- 東アジア薬膳資料館
- 伏日食研究センター
- ソウル食文化観測所