『**ああねまよ**』
| タイトル | ああねまよ |
|---|---|
| ジャンル | 少年漫画、海洋冒険、奇譚、ファンタジー |
| 作者 | 佐伯真一 |
| 出版社 | 集英社 |
| 掲載誌 | 週刊少年ジャンプ |
| レーベル | ジャンプ・コミックス |
| 開始号 | 1997年12号 |
| 終了号 | 2001年41号 |
| 巻数 | 全18巻 |
| 話数 | 全176話 |
『ああねまよ』(ああねまよ、英: Aahnemayo)は、によるの。『』()において、12号から41号まで連載された[1]。累計発行部数はを突破している[2]。
概要[編集]
『』は、に存在しない「逆潮の島々」を舞台に、記憶を失った少年アネマと、語尾に必ず「よ」を付ける航海士マヨが、海賊団と戦いながら「嘆きの羅針盤」を探す物語である。作品名は作中で頻繁に使われる呼びかけ句「嗚呼、姉魔よ」に由来するとされ、読者の間では連載当時から略称ので親しまれた。
作中では千代田区の古書店で発見されたという架空文書「潮騒記録帳」が設定の核となっており、これがとを混交させた独特の世界観を支えた。少年漫画でありながら、航海技術、潮位計算、失われた言語の復元などが執拗に描かれ、当時の編集部内では「説明量が異様に多い冒険漫画」として扱われていた。
一方で、終盤にかけてはの海底遺跡やの珊瑚礁航路まで話が広がり、単行本の巻末には毎回2ページにわたる「潮位メモ」が掲載された。これは後年、海事系の受験生が暗記用に流用したことで知られている[3]。
制作背景[編集]
連載開始までの経緯[編集]
作者のは、1994年ごろからの新人賞向けに「海とことば」をテーマにした読み切りを複数発表していたが、いずれも「地味だが妙に怖い」と評されていた。特にに投稿された『潮の字は誰が消したか』は、担当編集のが「少年誌らしくないのに、妙に続きが読みたい」と評価し、のちの連載会議で中核案になったとされる。
編集部では当初、明快なバトル路線への改稿が求められたが、佐伯は「海は勝ち負けではなく、覚え違いで沈む」と主張し、これが逆に企画として通ったという。なお、連載タイトルのひらがな表記は、見出しで「読めないが気になる」ことを狙ったもので、当時の編集長が試しに口にした「アアネマヨ?」が最終決定の決め手になったという逸話がある[4]。
連載前の宣伝では、2月にで行われた小規模イベント「ジャンプ春の航海祭」において、実物大の木製コンパスが展示された。来場者数は公称3,200人で、うち約4割が「何の作品かわからないが方位磁針が立派」と答えたとするアンケートが残っている。
作者の着想[編集]
佐伯はインタビューで、幼少期にの港町で聞いた漁師の方言と、図書館で読んだの航海神話が混ざったことが着想源であると語っている。特に「姉」という語が作品中で神格化される構造は、地元の親戚文化と、失われた記憶をめぐる神話の双方から発想されたという。
また、連載第1話の扉絵に描かれた巨大な鯨骨の橋は、作者がの離島で見た実在の潮だまりを誇張したものであり、背景資料の一部にはの公開資料が参照されたとされる。ただし、作品内の「潮を切る帆」は現実には存在せず、単行本第4巻のあとがきで佐伯自身が「現物を探した読者から20通ほど手紙をもらった」と述べている。
この作品は、少年誌における「説明で読ませる漫画」の先駆例として扱われることがあり、のちの海洋ファンタジー作品や地図魔法系作品に少なからぬ影響を与えたと指摘されている。
あらすじ[編集]
序章編(1巻 - 3巻)[編集]
記憶喪失の少年は、の沖合で漂着し、漁村「白波町」の少女に救われる。アネマは自分の名を思い出せないが、潮の満ち引きだけは正確に数えられる特異な能力を持っていた。
2人は、島ごとに時刻がずれる不思議な海域で、海図に書かれていない座標を探す旅に出る。第18話「12時のない港」では、港の時計が午前9時のまま固定される怪現象が起こり、ここで作品の基本ルールである「時間は潮に従う」が示される。
この編の終盤では、マヨが「姉魔の鍵」を所持していることが判明し、物語は一気に神話側へ傾く。
白紙帆船団編(4巻 - 8巻)[編集]
海賊組織が登場し、アネマたちは帆に文字のない巨大船「ゼロ号」に追われる。団長は、海上で記憶を書き換える墨を操る人物として描かれ、初登場時のセリフ「空白こそ航海の完成形である」が人気となった。
この編では、での停泊戦や、の倉庫街を模した迷宮回があり、作画の密度が最も高い時期としてファンの間で知られる。単行本第6巻の「船腹の手形」では、背景の手形が実は編集部の新人全員の手形をスキャンしたものだったと後に明かされ、妙なリアリティを与えた。
また、ここでアネマの右目が「潮目を見る目」として覚醒するが、説明の4ページ後に一度だけ弱体化するため、当時の読者アンケートでは「設定が多すぎる」が恒例の感想欄になった。
逆潮戦争編(9巻 - 14巻)[編集]
物語中盤では、一帯で潮流を人工的に反転させる装置「逆潮輪」が稼働し、諸島国家同士の戦争に発展する。ここでを思わせる制服の沿岸警備隊が登場するが、実際には「海の国際法を司る民間連合」と説明され、少年漫画らしからぬ会議シーンが数話続く。
アネマは敵将と和解と再戦を繰り返し、12巻では1話丸ごと潮位表の読み合わせだけで終わる異色回が掲載された。これが掲載順位を一時的に下げたものの、単行本化で評価が反転し、「理解した瞬間に面白い作品」として再評価される契機となった。
13巻収録の第117話「姉の名を呼ぶ海」では、マヨが実は姉魔の分霊であることが示唆されるが、直後の回で本人がそれを否定するため、読者の考察合戦は長期化した。
終章・姉魔帰港編(15巻 - 18巻)[編集]
最終章では、与那国島付近に存在するという「最後の未記載海域」に到達し、アネマは失われた名を取り戻すため、姉魔の祭壇へ向かう。ここで明らかになる真相は、海に名を付けた最初の人物がアネマ自身であり、彼が未来の自分に呼びかけ続けていたという、少年漫画としてはかなり無茶な構造であった。
最終話は、波の音だけで10ページを使う静かな演出で締めくくられ、ラストの一コマではマヨが新しい地図を折り畳む。連載終了時には9月の同時多発的な台風報道の影響もあり、誌面上で異様に湿度の高い最終回として記憶された。
なお、作者は後年の対談で「終わらせ方だけは最初から決まっていた」と述べているが、編集部資料では最終3話分のネームが3回書き直されていたことが確認されており、真相は定かではない。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、潮位変化を数値として直感的に把握できる。戦闘よりも記録と照合を得意とし、敵の位置を「北東に3.2ノットぶん遅れている」などと表現する癖がある。
はヒロイン兼航海士で、明るい性格の一方、古文書の解読になると人格が変わる。語尾の「よ」は強調ではなく、作中では潮の祈祷句の一部と説明されている。
は白紙帆船団の首領で、医学博士号を持つ海賊という設定である。作者によれば、彼の赤いコートはの古地図店で見た紙焼けの色から着想されたという。
は逆潮戦争編の主要人物で、当初は敵であったが、のちに海図保全局の協力者となる。彼の人気は高く、単行本第11巻の読者人気投票ではアネマを抑えて1位となった[5]。
は島々に伝承を残す老女で、ほぼ毎回違う年齢に見える。設定資料では38歳から94歳まで七通りの年齢があるが、いずれも「正しい」とされている。
用語・世界観[編集]
作品世界では、海域ごとに「潮の戸籍」があり、船は単なる移動手段ではなく記録媒体として扱われる。これにより、帆船の帆には航路記録が縫い込まれ、破損すると過去の寄港地の一部が消失するという独自の設定が成立している。
「姉魔」は姉と魔の合成語ではなく、海を統べる記憶装置の総称であると説明されるが、作中では人物名としても神名としても機能する。第42話では、の潮岬に似た岬で姉魔が3体同時に出現し、読者から「概念が増殖している」と評された。
また、海賊たちは金貨ではなく「濁度券」で報酬を受け取る。これは海水の透明度を数値化した紙片で、1枚で宿一泊、17枚で蒸気船修理が可能とされているが、計算式は巻ごとに微妙に変わるため、ファンの間で最も論争が多い用語となった。
地図に存在しない島を探すため、登場人物たちは「逆潮磁針」を使う。これは北を指さず、最も後悔の強い方向を示すとされるが、最終的にアネマがそれを人の記憶で校正してしまうため、科学と呪術の境界が曖昧なまま終わる。
書誌情報[編集]
単行本はで、3月時点で既刊18巻として完結している。各巻のカバーは海図を模した青白いデザインで統一され、初版発行部数は第1巻が38万部、第9巻以降は平均52万部前後に達したとされる。
ジャンプ・コミックス版のほか、全10巻、設定資料を増補した全12巻が刊行された。完全版では扉ページの余白に作者の走り書きメモが再現され、そこに「潮は右から覚えろ」などの意味不明な指示が残っていたことで話題になった。
なお、海賊編に相当する4〜8巻は重版時に紙質が変更され、潮の湿気を吸いやすいと苦情が出たという。これは編集部が「海っぽさを出したかった」と説明したが、流石に苦しいと受け取られている[6]。
メディア展開[編集]
2003年には系でテレビアニメ化され、全52話が放送された。アニメ版ではが監督、がキャラクターデザインを担当し、原作よりもマヨの表情が豊かになったことで幅広い層に受け入れられた。
劇場版『ああねまよ THE MOVIE 逆潮の休日』はに公開され、公開7週で興行収入14億円を記録した。内容は原作の番外編で、アネマたちがを模した島で一日だけ海賊を休業する話であるが、ラスト15分に急に本編級の海戦が入るため、親子連れがざわついたとされる。
ゲーム化も行われ、用の『ああねまよ 潮路の記憶』は、潮位を読んで進むアドベンチャーゲームとして発売された。さらに携帯向けのパズルゲーム『AAM 海図崩し』、舞台化企画、ラジオドラマなども展開され、典型的なメディアミックス作品として扱われている。
一方で、2004年放送のアニメ第19話は原作にない「空白回」が挿入され、これが「スピンオフなのか総集編なのか不明」と言われた。制作陣はのちに、尺が1話余ったため急遽、波のSEだけで埋めたと証言している。
反響・評価[編集]
連載中から人気は高く、には単行本累計発行部数が1,800万部を突破し、完結後のには2,480万部に到達した。特にアニメ放送期には、港町の書店で第7巻が品切れとなり、全国の一部地域で「潮図ブーム」と呼ばれる模倣的な地図ブームが発生したとされる。
受賞歴としては、少年部門に相当する架空の選考で特別賞を受けたほか、の審査資料において「説明過多だが海を感じさせる」と評価された。なお、この特別賞は本来存在しない部門であるが、後年のファンサイトでは半ば公認の事実として扱われている[7]。
批評家からは、緻密な海洋設定と情緒的な会話劇が高く評価された一方、読者アンケート欄に「地図が難しすぎる」「姉魔の種類が多すぎる」といった苦情も多かった。もっとも、そうした不親切さ自体が中毒性につながり、終了後も「再読すると3回目で面白さがわかる作品」として語り継がれている。
また、2000年代前半のにおいては異例の「海図の読み方講座」が誌面企画として組まれ、これが一部の中学校で地理教材として使用されたという逸話がある。真偽は不明であるが、地方図書館の利用記録に作品名が複数残っていることから、何らかの実害はあったとみられる。
脚注[編集]
外部リンク[編集]
AAM公式海図アーカイブ
週刊少年ジャンプ作品データベース
アニメ『ああねまよ』放送資料室
潮位と物語研究会
Aahnemayo Fan Encyclopedia
脚注
- ^ 佐伯真一『ああねまよ 第1巻』集英社, 1997, pp. 4-189.
- ^ 佐伯真一『ああねまよ 第7巻』集英社, 1999, pp. 3-201.
- ^ 高瀬隆一『ジャンプ編集史 1990年代の海と少年』集英社新書, 2008, pp. 112-146.
- ^ 中村亮介『アニメーション演出と潮位表現』東京アニメ出版, 2006, pp. 51-77.
- ^ M. Thornton, "Charting the Uncharted: Maritime Fantasy in Weekly Comics", Journal of East Asian Popular Media, Vol. 14, No. 2, 2010, pp. 88-109.
- ^ 佐伯真一・海野千代『潮と記憶の少年漫画論』講談社, 2004, pp. 9-58.
- ^ K. Watanabe, "The White Paper Fleet and the Politics of Blankness", Comics Quarterly Review, Vol. 7, No. 1, 2011, pp. 33-60.
- ^ 『週刊少年ジャンプ』編集部『連載会議録 1997年春号』集英社内部資料, 1997, pp. 1-24.
- ^ 高橋千夏『キャラクターデザインの現場 ああねまよの場合』玄光社, 2005, pp. 140-161.
- ^ 山岸理央『海図が読めないまま進む方法』河出書房新社, 2012, pp. 201-219.
- ^ 編集部監修『ああねまよ 完全版設定集 潮の余白』集英社, 2003, pp. 66-97.
外部リンク
- AAM公式サイト
- 集英社作品紹介ページ
- テレビ東京アニメ公式アーカイブ
- ああねまよ潮位研究所
- ジャンプコミックス書誌目録