あかさたなっとう
| 分類 | 大豆発酵食品(粘質発酵) |
|---|---|
| 主原料 | 国産大豆(等級A〜C) |
| 発酵管理 | 温度・色度・糸引き率の三点連動 |
| 起源とされる地域 | 周縁の農家慣行 |
| 代表的な区分 | あか(赤味)/さ(酸味)/た(粘度) |
| 制度上の扱い | 衛生検査の記録様式が存在するとされる |
| 関連する指標 | 色度(a*)・pH・糸引き指数 |
あかさたなっとう(あかさたなっとう)は、で発達したとされる「色階(あか・さ・た)で熟成を読み解く」形式の発酵食品である。家庭由来の民間法から始まり、のちに行政と結びついて「管理できる伝統」として制度化されたとされる[1]。
概要[編集]
は、粘りの強さだけでなく、発酵中の色調変化を手がかりに「いつ食べるべきか」を推定するための呼称である。特に、赤味の立ち上がり()、酸味の到達()、粘度の安定化()を段階として読み取り、最後にとして提供されるとされる。
語の由来には諸説があり、色の頭文字を並べたという説のほか、村の年寄りが口伝した農暦の並び(赤・佐・田)に由来するとする説もある。また、この呼称が「地域の農協文化」ではなく「記録の文化」に寄っている点が特徴とされ、発酵容器に貼られた簡易カードが普及の鍵だったと指摘されている。
なお、実際に家庭で行われる場合は、専門家向けの計測器を使わずとも、色見本板と温度計、そして「糸引きの腕前」を合わせ技にすることが多いとされる。一方で、近年はのような指標に寄せる動きもあり、「味見の職人芸」を数値化しようとする社会的要請が背景にあるとされる。
歴史[編集]
誕生:農暦の発酵“天気図”[編集]
が成立した経緯として、周縁で流行した「発酵天気図」なる農家慣行が挙げられている。農家は、雨量が少ない年に限って熟成が早まる経験則を持ち、そこで色の変化を天候の代替指標として利用したとされる。
記録によれば、最初の簡易カードは大正期にの米問屋が豆の仕入れ台帳に似せて配布したものだとされる。カードは縦11.3cm、横7.6cmで、表面には「が出たら炊飯後○時間、が立ったら再加温、が留まったら開封」といった手順が印刷されていたとされる。ただし、当時の農家が実際にカード寸法を測っていたかは不明であり、後年の聞き書きを根拠にした記述であるとの指摘もある[2]。
また、色を読む際に使われた「赤味板」の材料は、戦中の統制で入手困難になった顔料の代替として、近隣の漁師が錆びた鉄鍋の内側を利用したという逸話が知られている。この話は微妙に非科学的ではあるが、「目で見て判断する」文化が固まった要因として語り継がれてきたとされる。
制度化:衛生課が“口伝”を様式化[編集]
昭和後期に入ると、発酵食品の扱いをめぐる衛生行政が強化され、民間の手順を説明可能な形にする必要が生じた。そこででは、の衛生指導を受けたが、発酵容器の記録様式を試験的に導入したとされる。
当時の試案では、赤味を示す指標としてCIE系のa*値が用いられ、到達タイミングは「a*が+4.2を超えるまで開封しない」と定められたとされる。さらに酸味段階はpH 4.62付近、粘度段階は糸引き指数(引き上げ距離に基づく)が72〜79の範囲に入った時点とされたという[3]。この数値は後に「厳しすぎる」と批判され、翌年度の指導では上限下限を拡張し、結局「pH 4.5〜4.7、糸引き指数は70台中盤」といった“幅”のある運用に落ち着いたと説明されている。
一方で、制度化は“味の多様性”を損ねるのではないかという反発も起きた。とりわけ、伝統的に「季節で色が変わるのがよい」とする家庭ほど、帳票の提出に時間がかかり不満が強かったとされる。この摩擦が、のちの「職人の記録術」と「行政の簡略様式」の折衷を生み、結果としては「管理できる伝統」というブランド語に変換されていったとされる。
再ブーム:メディアが“色階”を脚本化[編集]
平成に入り、料理番組や地域ドキュメンタリーが「色でわかる発酵」を視覚的に扱うようになると、は“食べ頃予測ゲーム”として再解釈された。特定の回では、出演者がスタジオで赤味板を見ながら慎重に口伝を披露したが、実際の会話では「は自己申告でOK」といった、規格化されたはずの運用を崩す発言があったとされる。
このとき、放送局側が参考にしたとされる資料はの公開ガイドラインではなく、民間団体「糸引き文化研究会」の非公開メモだと指摘されている。メモには「糸引き指数は測定より“見た目の糸の太さ”で説明した方が一般に伝わる」と書かれていたという[4]。ただし、当該メモの存在自体は確認されていないとされるため、番組の演出として解釈するべきだという意見もある。
とはいえ、色階という枠組みは視聴者にとってわかりやすく、家庭では「赤→酸→粘」の順番に意識が向くことで、発酵の失敗率が下がったと体感談が増えた。結果としては、単なる食品から“読める発酵”へと再定義されたとされる。
作り方(とされる手順)[編集]
の基本工程は、通常のなっとうに比べて「観察点」が多い点に特徴がある。まず大豆は等級A〜Cの範囲で選ばれ、浸漬時間を「豆が水を抱いた感覚で止める」ことが多いとされるが、記録様式がある地域では浸漬を一律で240分にする運用もあったという。
次に、蒸煮は加熱ムラを抑えるため、天板の向きを変える“回転儀式”が語られている。具体的には、蒸気が安定するまでの間に鍋の位置を9度ずつずらす、といった細かな作法が紹介されたことがある[5]。この手順は科学的根拠が薄い一方、工程を“迷わず実行できる”形にするための儀式として機能したと考えられている。
そして発酵工程では、容器に貼られたカードに基づき、の段階(赤味の立ち上がり)で再加温、の段階(酸味到達)で密閉強化、の段階(粘度の安定)で冷却開始を行うとされる。冷却は急激に行うのではなく、室温から「−3℃ずつ」下げるとされるが、この手順は家庭用冷蔵庫の性能を無視しているとしてツッコミが入ったこともあった。
社会的影響[編集]
は、発酵食品をめぐる知識の伝達に「数値」ではなく「色階」という中間形式を持ち込んだ点で影響があったとされる。行政は記録を求めるが、家庭は計測器を使わない。そのギャップを埋めたのが、a*値やpHといった言葉を、色見本と手順に変換する文化だったと説明される。
また、地域の学校教育にも波及したとされる。たとえばの一部の小学校では、調理実習の評価項目に「の段階での観察発言」「での再加温の説明」「での開封判断」といった“語彙”が入った年があったと語られている。これにより、子どもが味覚だけでなく観察を言語化する訓練を受けたとされる一方、あまりに型にはめた結果として「自分の舌の感覚を話せなくなった」反省も出たという[6]。
さらに、飲食店ではメニュー表に「色階おすすめ」欄が設けられ、注文時に赤味・酸味・粘度のどれを楽しみたいかを聞くスタイルが生まれた。これにより、発酵が苦手な層でも選びやすくなったとされるが、逆に“観察ゲーム化”が進んで食体験より説明が中心になるという批判も併発したとされる。
批判と論争[編集]
最大の論点は、「色階が実際の品質をどれだけ反映するのか」である。支持者は、色は発酵の進行状態を映す指標であり、家庭でも再現可能だと主張する。反対者は、鍋の材質や照明条件によって色が変わるため、カードの運用が誤差を拡大すると指摘する。
また、制度化の過程で導入されたという数値目標についても疑義が出ている。特に、pH 4.62という“ど真ん中”の値があまりに綺麗すぎるため、後から作られた目標に見えるという批判が出たとされる[7]。さらに、糸引き指数を引き上げ距離で計算する手順が、現場で恣意的に運用されていた可能性が指摘され、記録が「作った人の自信の強さ」を示していたのではないかという皮肉も生まれたという。
一方で、批判が完全に否定へ向かっているわけではなく、「色階が人を失敗から遠ざけた」という成果は認められている。問題は、成果が出たからといって“色階が真理である”と固定してしまうことだとまとめられることが多い。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山谷直人『色階発酵の民俗誌:新潟のカード運用』農文社, 1987.
- ^ 田所清香『糸引きの社会学:なぜ測れるはずがないのか』日本食品文化研究所, 1994.
- ^ M. A. Thornton『Fermentation as Visual Literacy: The Color-Step Model』Journal of Household Bioprocessing, Vol.12 No.3, pp.41-58, 2001.
- ^ 鈴木眞一『発酵天気図の成立と誤差要因』東日本衛生学会誌, 第18巻第2号, pp.77-96, 2008.
- ^ 【厚生労働省】『発酵食品の衛生記録様式(試案)』, 1979.
- ^ 黒田志津『学校給食における観察語彙の導入効果』栄養教育研究, Vol.6 No.1, pp.103-120, 2012.
- ^ 佐伯邦夫『地域ブランド化する発酵:管理できる伝統の作法』朝凪学術出版, 2016.
- ^ E. R. Nakamura『Colorimetry at Home: a* Thresholds for Comfort Foods』International Journal of Domestic Science, Vol.9 No.4, pp.201-219, 2018.
- ^ ほか『上越発酵カード綴り(復刻)』上越教育文化財団, 2020.
外部リンク
- 糸引き文化研究会アーカイブ
- 上越発酵カード博物館
- 色度読み取り研修(非公式)
- 発酵観察語彙データベース
- 家庭用a*目安板カタログ